204.冬直前
そんなこんなで冬備えをしていると、とうとう冬が訪れた。
雪こそ降っていないものの、寒さは一気に勢いを増し、進化していないウンディーネやノームなどは自らの住処の中で眠りについた。
俺は彼女らに挨拶を送り、そしてレースピアの街を回っている。
一応冬備えの最終確認をするためだな。
雪が降る前にやっておきたい。
お供に着いてきてくれているのはシロ。
そのモフモフの身体を俺に寄せ、寒くないようにを気遣ってくれている。
まあアラクネ代表のクトネーに作ってもらった、デュールボアのコートがあるのでそれほど寒さは感じていないのだが、その気遣いが嬉しい。
ありがとう。
「ウォウッ」
気にする必要は無い、とばかりにシロが吠える。
ふむ。
それでもありがとう。
俺は感謝を込めてシロの美しい毛並みを撫でる。
「ウォンッ……」
今度は嬉しそうに鳴き、俺に頭を擦りつけてくるシロ。
グッウルフグッウルフ……。
そうやってじゃれあいながらまずやってきたのは、フェンリルたちの区画。
ここは正直冬備えとかあんまりしていないな。
一応、保存食を運び入れている程度。
何故ならフェンリルたちは多少の雪なら意にも介さないし、たとえ吹雪が吹いていたってシロとリルなら問題ない。
仮に何かあっても屋敷まで来ることくらい簡単にできる。
と、そんなことを考えていると。
「「「ウォウッ!!」」」
ちょうど狩りから帰ってきたのか、シロの子供たちが俺の前にやってくる。
もう冬に入って獲物もほとんどは冬眠しているから、狩りは難しいのではないかと思うんだが、その後ろには数頭がかりで運んできたのであろう二頭鹿の姿があった。
流石だな。
褒めて欲しい褒めて欲しいと体を擦りつけてくるシロの子供たちを順番に撫でながら思う。
こいつらも大きくなったな……。
シロとリルにはまだ見劣りするが、それでも迫るくらいには大きくなっている。
思い切りじゃれつかれたら弾き飛ばされそうだ。
そのあたり分かっているから大丈夫だろうが……。
そんなシロの子供たち第一世代の後ろには、今年もシロたちが産んだ第二世代の子供たち。
控えめにこちらを見ているのでこっちも撫でまわす。
この調子で増えていったらフェンリル用住居が足りなくなるな。
シロの子供たちがさらに子供を作ろうものなら倍々ドン! だ。
春になったら増築するか……。
こっちをちょっと申し訳なさげに見ているシロを最後に撫でまわし、当然私も撫でまわすだろう? とばかりに近寄ってきたリルも撫でまわして、そんなことを考えながら、俺はフェンリル区画の確認を終えた。
その後も冬備えの確認のために俺は街を回っていく。
エルフ区画、ドワーフ区画、ウンディーネ区画、ノーム区画、エトセトラエトセトラ……。
この辺りはもう街での冬越えにも慣れているからな。
特に言うことも無い。
強いて言うなら、コボルト区画は今年子供がたくさん生まれたため、防寒具と食料を多めに用意したことぐらいか。
もし問題が起きたら迷わずに隧音石で連絡して欲しいと言っておいたので、まあ何かあっても大丈夫だろう。
後はケットシーとビープル。
こっちは街での冬越えは初めてなので、気にかけておく。
「ありがとうございます。ですが大丈夫です。これだけ食料や防寒具を頂ければ一年続く冬だって越えられますよ!」
猫耳用のポケットもついているケットシー専用コートを羽織りながら、そう言ってくるケットシー代表ニャジッタ。
その顔はとてもほくほくしている。
それならよかった。
「こっちも大丈夫よ。私たちは冬になったら住処の中で大人しくしているしね」
こっちも問題ないみたいでそう言ってくるビープル代表エイリス。
答えながらも、彼女はなぜか服を取り出したり戻したり、袋に詰めたりしている。
何してるんだ?
「え? もちろん巣ごもりの準備だけど」
……うん。
まあ、俺には分からないビープルの常識なのかな?
とりあえず問題はなさそうだしいいだろう。
そして次。
シロの背に乗ってやってきたのはレースピアの港。
創造神器で走っても良かったんだが、シロが俺を乗せたそうだったので乗ってきた。
流石シロだ、あっという間についた。
満足そうに身体を擦り付けてくるシロとともに、最終確認を行う。
「む、代表殿。問題ないぞ。というかこれほどの食料……冬を三回越しても食べきれぬだろう。なんなら半分ほど返しても……」
「……」コクコクッ……!
そう言って……後ついでにそう首を振ってくるのはアリゲイター代表のスローターとタートラー代表のターヴィー。
まあ、備蓄なんていうのは足りなくなるくらいなら余った方が良いからな。
ガンガン耕作して収穫している事もあって、レースピアは食料には困っていない。
港の者たちがたくさん海産物を獲ってきてくれることもあるしな。
だから遠慮なく受け取ってほしい。
まあ余ったら余ったで冬を超えた後にでも盛大に消費すればいいし。
「む。そう言われるのであれば……承知した」
「分かっ、た……」
うん。
食料は良いとして……寒さは大丈夫か?
港である関係上、海の方から冷たい風がやってくるからな。
これからさらに寒くなってくる。
もし今の時点でも厳しいと感じている様なら、街の臨時住居の方に受け入れも検討するが……。
「そう心配されるな、代表殿。この程度の寒さで音を上げるような者はここには居らん。毛皮の服も貰っているし、問題は全くない」
「そう、だ……」
そう力強く言い切ってくるスロールとターヴィー。
ふむ……ここまで言い切るなら大丈夫か。
俺は最後にもし何か問題が起きれば、遠慮なく言って欲しいと言って次に向かう。
そして最後にやってきたのはマーメイドの所。
早速代表のトゥーナに話を聞く。
「問題? ありませんよぉ! 「お水ぽかぽかくん」を頂けてとっても過ごしやすいですぅ。海都に居た時よりもずっと快適ですよぉ!」
海都とは人魚族たちの暮らす深海の街の事だな。前に聞いた。
「しかも冬の間のご飯もこんなに貰ってぇ……これで冬を越せないのはあり得ないってレベルですよぉ!」
とても上機嫌にそう言ってくるトゥーナ。
そこまでか?
「はいぃ! 「お水ぽかぽかくん」のおかげでお魚を冬の間も泳がせておくことが出来ますからぁ!」
ふむ?
トゥーナによると。
どうやら住居の一室を生簀のような部屋に改造し、そこに暖水宝装具を設置。
そうすることで冬でも新鮮な魚を食べられるようにしたらしい。
「昔は冬といえば海藻をもぐもぐしていましたからねぇ……。もうあんなひもじい冬とはおさらばですよぉ!」
お、おぉ……なるほどそんな使い方が。
確かに海藻だけを食べなきゃならない季節が、いつでも魚を食べられる季節になればテンションが上がるのは当然の事か。
俺だって同じ状況ならテンション上がるだろうしな。
うん。
問題はなさそうでよかった。
「全くありませんよぉ!」
ははは……まあもし何かあったら連絡してくれ。
春になったらまた会おう。
俺はそう言って、トゥーナに一冬の別れを告げた。
「ウォウッ!」
ああ。
ここまで付き合ってくれてありがとう。
俺はこれで終わりか? と言うように鳴いたシロに肯定と感謝を返し、再びシロに乗って港から街に戻る。
今年もしっかり冬への備えが出来て良かった……と考えながら街に戻る。
その道中で。
お……雪が降ってきたな。
パラパラと今年最初の雪が降ってきた。
気温も心なしかさらに下がってきた気がする。
とうとう冬だな。
今年も無事に乗り越えられると良いな。




