203.暖房
はぁ~……。
息を吐いてみるとわずかに白く……白く……なってるか? 正直よく分からない。
だが肌に感じる寒さは徐々に強くなっていて、まさに秋と冬の間、という日。
今日も今日とて俺は街と港の冬備えを進めている。
しっかりやっておかないと、後からあれが足りなかった! とそんな事態に陥ってしまうからな。
陥るのが寒さの和らいでいる日ならまだいいが、猛吹雪で外に出られない日なんかに陥ってしまうと最悪だ。
助けを求めることも難しくなってしまうだろう。
なので可能な限りの備えはやっておく。
「別に猛吹雪でもボクは出歩けるよ?」
と、決意を新たにしている俺にそう声をかけてきたのは、雪妖精のフィノウ。
冬が近づいているからか、気温の下降とは反対にどんどん元気を増している。
夏はことあるごとに溶けていたし、スライムのムイ並みにタレていたが、今はそんな様子は全く無い。
「あれは……忘れて欲しい……! 暑いとどうしても……ああなってしまうというか……」
白い顔を紅に染めながらそう言ってくるフィノウ。
いやまあ俺としては別に構わないが、他にも見た住民いっぱい居るだろうし……口止めなら相当頑張らないといけないと思うぞ。
「くっ……仕方がない。それならここはバシっとした部分を見せることで印象を上書きするしかないね……! 冬の間、ボクの力が必要なトラブル起きないかな……!」
ちょっと不吉だからやめて欲しい。
そういうトラブルが起きないように今頑張ってるんだから。
「ああ……申し訳ない。ちょっと勢い余って。ところで……今代表様は何をしているんだい?」
今? 今は暖房宝装具の試作だな。
そう。
前回港に行ったとき、俺はトゥーナに水温を上げる宝装具……「お水ぽかぽかくん」を渡した。
その時にちょっと思ったのだ。
水温を上げられるのなら気温……室温を上げることのできる暖房宝装具も作れるのでは? と。
そして、今それを試してみているというわけだ。
「へぇ~……。それで今代表様の目の前にあるのが?」
ああ。
試作第一号、「お部屋ぽかぽかくん」だ。
「……何というか……名前可愛いね?」
……まあ、うん。
こういうのは分かりやすい方が良いかと思って。
最初はジュエルヒーターとか名付けようと思ったんだが、「お水ぽかぽかくん」の類似品なのにそんな名前にしたら分かりづらいかと思ってこの名前にした。
まあ、名前なんて何でもいいだろう。
と、いうわけで早速試運転してみる。
フィノウも見ていくか?
「いいのかい? それじゃあお言葉に甘えて」
フィノウはそう言って俺の近くにより、見学の構えを取る。
それを見て俺は「お部屋ぽかぽかくん」に魔石をセットする。
魔石さえ用意すれば魔力の無い者でも使える。宝装具の良い所だな。
そして、魔石がセットされた「お部屋ぽかぽかくん」の中央のルビーが光り輝いたかと思うと……中心部分から一気に暖気を噴出した。
暑っつ!?
突然、部屋が真夏もかくやという熱波に襲われ、俺は反射的にそんな声を漏らす。
宝装具からはいまだに熱がまき散らされ、猛暑日の屋外のような気温になってきた。
俺は急いで宝装具から魔石を取り外す。
すると宝装具の輝きは失われ、熱の噴出は止まった。
むわっとした暑さは残っているが、これ以上暑くなることはない。
いや、にしても……しくじったな。
俺は取り外した魔石を指先で弄びつつ考える。
前回の「お水ぽかぽかくん」は素晴らしい宝装具だったが、マーメイドすべてをカバーする為には数が必要になるくらい、出力自体は控えめだった。
なので俺は今回、一個で屋敷全てを温かくできるような宝装具を目指したんだが……。
なるほど。
普通に出力を上げればこうもなるか。
「お水ぽかぽかくん」は万が一にでもこうならないようにしてあったのか? もしこんな出力だったら下手したら茹でマーメイドの出来上がりになりそうだし……。
と、そんなことを考えながら、そうだフィノウは大丈夫か!? とそっちに目を向けると。
ドロォ……ぷよぷに……。
溶けてムイみたいになったフィノウがそこには居た。
うわあ! 冷却冷却!
「ふぅ……まさか冬なのに溶ける羽目になるとは。こんなこと初め……いや前回の冬も溶けてたかそういえば……」
その後。
屋敷地下の冷室に備蓄していた氷をふんだんに使って、何とかフィノウに形を取り戻させることに成功した。
確かに去年の冬もこういうことやってたな、そう言えば。
さて、とりあえず暖房宝装具の試作一号は失敗だな。
何かには使えるかもしれないが、暖房としては出力が高すぎる。
とりあえず封印。
「それが良いと思うよ。本当に」
まあ、熱量で失敗はしたが、暖気を放出する作り自体は成功していた。
なので後は出力を調整さえすればいい具合になるだろう。
試作第一号の時は、とにかく広範囲を暖かく! としか考えてなかった思考を調整し、常に一定の……人が温かいと感じる熱量を出し続ける宝装具を作ろうと、そう思考しながら試作第二号を作る。
俺の手に握られた創造神器は手際よく新しいルビーを削っていき、そう時間もかかることなく第二号は完成する。
さて、今回は大丈夫なはずだ。
俺は試作第二号に魔石を取り付ける。
そんな俺をフィノウが入り口近くまで退避した状態で見守っている。
そこまで離れなくても今回は大丈夫だ。
「ああ、うん。分かってはいるんだけれど……ほら、念のためね?」
……まあ、さっき失敗したのは事実だしな。
そう考え、俺はそのまま魔石を試作第二号に取り付ける。
すると。
ふわぁ……。
先ほどまでとは違う、柔らかな暖かさが試作第二号からふりまかれる。
さっきのは真夏の熱波って感じだったが、今出ているこれは……春のうららかさって感じだ。
とても心地いい。
俺はヒーターやストーブにそうするように、宝装具に手をかざす。
するとじんわりと手に暖かさが染み入り、それが体中に広がっていく気がした。
うん。
完成だ。
「おお~……確かに暑くはないね」
俺のそんな様子を見てフィノウも宝装具に近づいてきてそう言う。
暑い、ではなく、暖かい、のレベルならばフィノウも基本溶けはしない。
俺と同じように手をかざし、感嘆の声を上げている。
よし。
せいぜいが一部屋か二部屋ほどしか暖められないだろうが暖房が完成した。
流石に冬が来る前に全住民に行き渡らせる……のは流石に無理だが、増産していけば来年か再来年あたりには十分街中に行き渡らせることが出来るだろう。
そうなれば……それこそ冬、吹雪の中でも外を歩けるようなそんな街にすることすら可能かもしれない。
……いやだけどその場合魔石がネックだな。
少数ならいいがそんな規模で動かすとなると……うーん……。
……まあ、そういうことは後で考えればいいか。
今は少ないとはいえ暖房が手に入ったことを喜ぼう。
俺は、手のかざし過ぎで少し手が解けかけ始めているフィノウの手に氷を握らせながらそんなことを思うのだった。
ちなみに。
真夏熱波を出すので一時封印した「お部屋ぽかぽかくん」試作第一号だが、俺がうっかり漏らしたサウナの概念に食いついた住民たちによって再利用されることになった。
公衆浴場の一室が改造されサウナルームと化し、そこに安置されたのだ。
そして住民たちの間でサウナがプチ流行りし、サウナを出た後外の寒気でととのう大自然ととのいが人気になった。
うん。
まあ、ちゃんと色々配慮してやっているみたいだし野暮なことは言わないけど……風邪は引くなよ。




