202.冬備え
どんどん気温が落ちて来ているある日。
レースピアはアーマンティスとデュールボアの接近という出来事以降は特に何事もない日々を過ごしていた。
と、いうわけで。
大分冬も近づいてきたし……今年最後の収穫だ。
「それは二十二番倉庫に。こちらは工房で使うので三十一番倉庫にお願いします」
「あー稲は六……いや多分もう満杯になってるから……七番に持って行って!」
目前に冬が迫っているため、皆頑張ろうと気合を入れて作業している。
特に気合が入っているのは収穫の管理班だな。
今まではもし間違えたとしても、最悪正しい倉庫に後から運びなおせばよかったが、冬の間はそんなことが出来るとも限らない。
それこそ吹雪なんて吹いたら外に出られなくなるからな。
だから決して間違えないように、それでいてこの後の事も考え、収穫物を可能な限り素早く分類して収納してしまおうと、大いに気合が入っているわけだ。
本当に毎度毎度頭が下がる。
俺はほんととりあえず食べるのに困らないだけの作物を用意しよう、としか考えてなかったからな。
しっかり分類して管理して、住民の数から必要な食料はどれくらいかと計算までしてくれる秘書たちにはとても感謝している。
そういうわけで、彼女らの仕事を長引かせないためにも早い所収穫を終わらせてしまおう。
俺はそう考えて創造神器でガンガン作物を刈り取っていく。
秋の出産ラッシュも終わり、この一年順調に増え続けた人口による人手の増加も合わさり、収穫自体は大して時間もかからずに終わった。
まあ、管理班の方の人手はあまり増えていないからそっちはかなり忙しくなっているが……今から俺も手伝うから頑張ろう。
この後もまだまだ忙しいからな。
と、言うわけで今年最後の収穫を終えたら何をするかというと、当然冬備えだ。
去年までもそうだったが、最後の収穫を終えたあたりから急速に気温は落ちていく。
収穫を終えたら急いで備えないと間に合わない。
よってこちらも頑張ってもらう。
管理班にやってもらうのは住民たちへの食糧や防寒具の配給量を計算してもらい、適切な物資を割り振ることだ。
「簡単に言うけど面倒なんだけどー!? 種族によって食べられないものあったりするし、食べる量も違うし、寒さに強い種族も居れば弱い種族も居るし!」
「ですが、これまで積み上げてきた経験が我々にはあります。それを総動員すれば難しくは……」
「今年新しく来た種族たちの経験は積みあがってないじゃーん!」
「……文句を言っていないで働きますよシエル。新しい種族の者たちについては聞き取りを行ってそれから決めればいいでしょう」
「うわーんっ!」
……うん。
やってもらってる俺が言うのもなんだが大変そうだ。
あー……新しく来た者たちについては俺が聞いてくる。
だからリネイアたちは他の種族の計算を進めててくれ。
「よろしいのですか? ありがとうございます」
「ありがとー代表様ー! 愛してるー!」
ああ、俺もだ。
「ふふっ……さらっと俺もって言われちゃったー。役得役得ー」
「……シエル」
「そんな羨ましそうな顔するんだったらリネイアも言えばよかったのにー」
「……そんなことできませんよ」
「あははっ、顔真っ赤ー! かーわいー!」
「……ふぅ。そんなに余裕があるのならあなたの仕事量は倍で構いませんね」
「え? いやちょっ! 冗談じゃーん! ……リネイア? リネイアさん!? リネイア様ー!?」
さて、そんなわけで、今年レースピアにやってきた新しい種族たちに冬の過ごし方を聞きに来た。
まずはレースピアの街に居る種族、ケットシーから。
「冬の過ごし方……ですか? 他の方々と変わらないと思います。屋内にこもって過ごしますので」
俺の問いに答えてくれたのはケットシー代表、ニャジッタ。
ふむ。
ケットシーたちは何か特殊な用意とか必要ないみたいだな。
なら他と同じように、備蓄と防寒具の配給をやっておけばオーケーか。
「はい。ああでも寒さには強いので防寒具はあまり多くなくても大丈夫です!」
そう言ってふんす! と胸を張り耳を立てるニャジッタ。
頼もしい。が……
本当に大丈夫か? この辺りは結構大雪が降ることもあるが……。
そう。
珍しいとはいえ家が軽く埋まるほどの雪すら降ったこともあった。
その雪量に見合うだけの寒波も来ていたしな。
「……やっぱり前言を撤回しても構いませんかにゃ?」
へにゃりと耳を垂らしてそう言うニャジッタ。
もちろんだ。
さて、ケットシーのもとを訪れたので、次は港の方へ行く。
今年来た残りの三種族は基本向こうに居るしな。
ついでに港の方にも何か必要なもの無いか聞いて回ろう。
そういうわけで港にやってきた俺。
足はフリストル。
別に創造神器で走っても良かったんだが、ウズウズした様子でこちらを見てきたので頼んだ。
ずっと待たせるのもなんだし、もしよかったら凍らせた海産物を俺の屋敷に運んでおいて欲しい。
「了解だぜ代表さん!」
冬の間は輸送が滞ることもままあるだろうからな。
本格的な冬になる前に海産物も備蓄しておきたい。
食べるのを我慢すればいいだろうと言われるかもしれないが……人間美味しいものを我慢することなんてそうそう出来ないものだ。
うん。
冬でもお魚は食べたい。正直。
さて、そんなことを考えながら港を回っているが、どこも問題なさそうに見える。
そもそも港は風……最悪台風が来ることも想定して建物を作ってあるからな。
これなら除雪もまあ海に投げれば問題ないだろうし……大丈夫かな。
そう感じながらも、俺はマーメイド、アリゲイター、タートラーの代表たちを見つけ、冬の越し方について話を聞く。
「冬ですかぁ? 越し方といっても特には……。あぁでも今は浅瀬に居るんでしたぁ……うぅん……」
「ああ、冬を越せるか心配してくれているのか? こちらは問題ない。寒いと確かに動きは鈍くなるが……代表殿が作ってくれた住居があれば問題なく越せるだろう」
「こち、らも、だ……」
「ああ、亀人族……タートラーは普段から鈍い代わり……というのもなんだが、寒かろうが暑かろうが活動に支障はきたさない。もっとも大丈夫な種族だろう」
「……!」こくこく……!
ふむ。
トゥーナ、スロール、ターヴィー、それぞれの代表に聞いたが、二種族は全く問題ないみたいだな。
問題はトゥーナ……マーメイドだが、言い淀んでるが何か問題が?
「はい……普段なら寒い時期は深い所に行くんですけどぉ……今はぁ……」
……なるほど?
海の魚は海水温が下がると、水温の下降が緩やかな深海の方へ向かうと聞いたことがある。
マーメイドもそうなのか。
だが今は港の近くの海中に住居を作っているためそれが出来ない、と。
……ふむ。
それならちょうどいいものがある。
「ちょうどいいもの……ですかぁ?」
「うわぁ凄い! 凄いですぅ! とってもあったかぽかぽかですよぉ!」
「姫様、そうおはしゃぎにならず……! お気持ちは分かりますが……!」
と、いうわけで俺が用意したのは宝装具、「お水ぽかぽか君」だ。
……名前に関しては突っ込まないで欲しい。
制作者のハイコボルトがキラキラ笑顔でつけていて、水を差せなかったんだ。
名前は置いておいて……その効果は素晴らしい。
ルビーを用いて作られたこの宝装具は、魔力を用いて一定範囲内の水温を上昇させることが出来る。
トゥーナと彼女の執事、ルフィンのテンションが上がるのもむべなるかな、だ。
うん。
マーメイドの住居全てをカバーするのであれば数十個ほど必要だろうが……まあ、そのくらいなら冬が来るまでには作れるだろう。
最悪俺がフル稼働して用意すればいいしな。
これでマーメイドたちも問題なく冬を過ごせるはずだ。
良かった良かった。




