201.イノシシステーキ
「ふぅ……とりあえずはこの辺りで」
お説教が始まって十分ほど。
俺が素直に聞いていたからか、わりとすぐにリネイアも俺を解放してくれた。
うん……ちゃんと反省。
さて、俺がお説教を受けている間にも周りでは作業が進んでいた。
シエルが指揮を執り、連れてこられた者たちが持ってきていた布と木で超巨大な担架のようなものを作り、そこにデュールボアのとアーマンティスを乗せている。
うん? そうやって運ぶのか? 俺としては細かく切って輸送しようと思っていたんだが……。
解放された俺がシエルにそう尋ねると。
「それでもいいんだけどねー。代表様がすっごく綺麗に倒してるでしょ? だから解体も綺麗にやった方が良いと思って。私たちも下手って訳じゃないけど、ルシュたちとかハイラたちに比べると大人と子供だからねー」
……なるほど。
レースピアの街において獲物の解体を担当しているのはコボルトとエルフ。
他の種族も出来ない訳じゃないが、やはり技術という点ではこの二種族がツートップ。
でも言っちゃなんだがそんなに綺麗に解体する必要あるのか?
そんな大勢で丸ごと運ぶ、なんて、そんな手間をかけるほどでもないと思うが。
「ちっちっちっ……あるんだなーそれが」
そうなのか?
曰く。
とてつもなく硬い毛皮を持つデュールボア。
こいつの毛皮はかなり良い素材として使えるらしい。
特に加工もせず纏うだけで生半可な刃物だったら問題なく防ぐ防刃マントになるし、加工できればその防御力はさらに上がる。
本来ならデュールボアはとてつもなく硬く、倒せたとしてもそれまでに毛皮はボロボロになってしまう。
ので、俺が一撃で仕留めたこのデュールボアの毛皮の質は破格。
丸ごと運ぶなんて手間にもならないレベルらしい。
それはアーマンティスも同じ。
その外殻や刃はかなりの素材になる。
ゆえに最も優れた者に解体してもらおうって訳だな。
なるほど……何でアーマンティスまで持ち帰ろうとしているのか分からなかったが、素材にするためだったのか……もしかしたら食べるのかと。
「いやーさすがにこっちを食べはしないかなー」
ゴツゴツトゲトゲとしたアーマンティスの亡骸を見ながらシエルが言う。
まあ流石にそれはそうだよな……。
俺も同意する。
流石にこれは食べられそうもない。
だけど……今こっちはって言ったな。
デュールボアの方は食べられるんだよな?
俺は念のためそう聞く。
イノシシって聞いたから当然のように食べられると思っていたが……。
「まあ一応食べられはするよ? でも……」
「その肉はとてつもなく硬く、食べられたものではない……と聞きますね」
会話に入ってきたリネイアがそう教えてくれる。
そうか……食べられないのか……。
「いえ、ですがこれは激しい戦闘の末に討伐したデュールボアの話ですので」
「そーそーこんな風に素早く倒していたら肉も硬くなってないかもよ?」
デュールボアの方を見ながらそう続ける二人。
ふむ……それじゃあ食べて確かめてみるか。
俺はそう考えて、運ぶのを手伝うことにした。
「いやーにしてもデュールボアとアーマンティス一撃なんて……分かってはいたけど流石だね代表様は。私なら三日三晩戦い抜いて、うわーん攻撃が通らないよーって涙目で敗走するよ」
「三日かけていいならあなたも勝てるでしょう? ですが代表様のお力には同意です。一切の抵抗なく刃が通ったような切り口。素晴らしいですね」
そうして。
途中で応援が駆け付けたことも有り、丸一日ほどでアーマンティスとデュールボアを運び込むことが出来た。
その後、さっそくルシュとハイラたちに頼み、この二体の魔物は綺麗に解体された。
そして。
「おお、なんとこれはアーマンティスの鎌! ありがとうございます代表殿! これは鍛冶欲がぐんぐん湧いてきますぞ!」
「これはデュールボアの毛皮!? いいんですの代表様!? ……ありがとうございます! 必ず期待に応え……見事な代表様の衣服に仕立て上げて見せますわ!」
うん、別に俺のにはしなくていいぞ。
解体された素材は早速住民たちに配られ、特にドワーフたちとアラクネたちが喜んで持って行った。
これで一体何を作ろうかとわくわくした様子だったな。
あの様子を見られただけでも、俺としては手間をかけて丸ごと持って帰ってきただけの手間に見合った。
さて、素材も良いが……やはり俺が一番関心を持っているのは肉だ。デュールボアの。
滅茶苦茶硬いと聞いたが……本当に硬いのか、実際に食べてみよう。
と、いうわけで解体を終えたデュールボアの肉を分けてもらってやってきたのはキッチン。
俺は勝手知ったるその場所でまずは普通にデュールボアの肉を焼いて食べてみる。
ぎゅむ……ぎゅむ……。
うーん。
硬い。
俺の口に伝わるのは硬めのゴムを噛んでいるような感触。
何十回も噛んでたら流石に噛み切れるかな? と、そんなことを思うような感触。
「いやーでもこれ凄く柔らかいよ! 昔ちょっと触ったことあるけど本来はガッチガチだもん!」
「そうですね。あれはもはや肉ではなく鉄でしたから。短時間で仕留めればデュールボアも食べられるのですね」
俺とともにキッチンにやってきていたシエルとリネイアが、むぐむぐとデュールボアの焼き肉を食べながらそう言う。
ふーむ、二人からしたらかなり柔らかいようだが……俺としては硬さのものを柔らかい肉とは呼べない。
なので柔らかくすることにする。
今味わってみた結果、野性味は強いものの……旨味自体はかなりある。
後は柔らかくすれば美味しいお肉になるはずだ。
と、いうわけで。
用意するのは玉ねぎ。
やり方は簡単。
細かくみじん切りにした玉ねぎを、軽く叩いた肉に摺り込んで漬ける。
後は一時間ほど待つだけ。
そうして漬け終わったら、肉から玉ねぎを綺麗に取り除き、肉の両面を約三十秒ほど強く焼く。
それが終わったら焼いた肉を銀のボウルで包んで休ませ……その間に、肉に摺り込んでいた玉ねぎと、新しくみじん切りにした玉ねぎ、そして醤油を肉を焼いたフライパンに投入。
残っている肉汁と絡め、ソースを作り上げる。
それが終わったら、休ませておいた肉にソースをたっぷりかけ……シャリアピンステーキの完成だ。
「やわっ……柔らか~~っ!? 凄い! 簡単に切れる上に舌の上でほどける~~っ!」
「これは……これがあのデュールボアの肉なのですか……?! あのような鉄肉が……こんな……力を入れずとも噛み切れるほどに柔らかく……!」
早速完成したシャリアピンステーキを味わってもらっている二人からは大好評だ。
俺も食べてみるが……うん、柔らかい。
二人の言う通り力を入れなくても簡単に噛み切れるうえに、野性味あふれる強い旨味をソースが見事に御しきっている。
うーん美味い。
何枚でも食べられそうだ。
そしてこのデュールボアのステーキは他の住民にもかなり好評を得て、また街の近くにデュールボアが出現しないかな、といった言説がかなり広まることになった。
巨体だし脅威ではあるからあまり来てほしくはないとは思うが……まあ、確かに美味しいしな。
あともう一つ困ったことがあり……。
ザッザッザッザッザッ……!!
それがこれ。
俺の目の前で地面をざっざっと激しく均しているボロスピッグ。
どうやら……ぽっと出の肉が自分の尻尾より人気になったのが納得いかないらしい。
そんなところにプライド持ってたのかボロスピッグって……。
あー、確かにまあデュールボアの肉も美味しいが、野性味が強く好みが分かれるし……俺はボロスピッグの方が好きだ。
だから機嫌を直さないか……?
そのおかげで俺はそんなよく分からない激励をボロスピッグに送り続けることになった。
お前の方が美味しいって声かけ続けるのって傍から見たらひどい絵面だな。
……あー、ほんと、ほんとにお前の方が好きだから。
だから生きてるデュールボアにあったらけちょんけちょんにしてやる、みたいな目をするな。
逃げろ。




