199.ラーメン
カーンッカーンッカーンッ……!
レースピアの街に鐘の音が響く。
大きな音と聞けば、緊急事態を告げる警告音かと思うだろうが、これはそうではない。
これは時を告げる音だ。
俺が時計を作り上げてしばらくして。
レースピアには時間を告げる鐘が導入された。
導入した場所はレースピアの街を囲むように設置されている見張り塔の上。
ここに置けば街中に鐘を響かせることが出来るからな。
イアン達ハイドワーフに頼んで作ってもらった。
まあ、俺の屋敷から隧音石……トランシーバーみたいな鉱石……を用いて、時間を伝達、鐘を鳴らしてもらう……というプロセスだから、ちょっと誤差は出てしまうが……まあ別に気にするほどでもない。
現代日本じゃあるまいし、数秒の誤差程度切り捨てて良いだろう。
そんなわけで導入した鐘の音だが、住民たちにはおおむね好評だ。
「作業の区切りがつけやすくなった」
「昼食の時間が分かりやすくなった」
「鐘の音がとても綺麗。聞き惚れる」
エトセトラエトセトラ……。
まあ中には時間を告げる事とは関係ない感想もあったけど、鐘の音は確かに綺麗だからな。とても。
さて、そんな時間が音を持ち始めたレースピアで俺が今やっている事は……ラーメン作りだ。
ふぅっ……。
俺は大量の水を汲んだ寸胴鍋を降ろして一息つく。
現在俺は屋敷のキッチンで、寸胴鍋に大量の水を入れて火元まで運んでいた。
当然、これからラーメンのスープを作るためだ。
さて、何で俺がいきなりラーメンを作ろうとしているかというと。
正直あんまり強い理由は無い。
強いて言うなら、秋を迎えたレースピアで食欲の秋を連想したのと……後は豚肉が手に入るようになったことで、豚骨スープとかチャーシューが作れるようになったことに気づいたからか?
まあそんなわけで、ラーメンを作り始めている。
最初に作るのは当然ラーメンの命ともいえるスープ。
俺は大量の水を汲んだ寸胴鍋に、ボロスピッグの尻尾の骨を投入していく。
一瞬他の海鮮系の素材も入れようかという考えが頭をよぎったが、まあ最初だしシンプルでいいだろう。
入れ終わったら火にかけて沸騰したら灰汁を取る。
あとはひたすら煮込んでいく。
そして煮込んでいる間に他のものも作っていく。
麺と具材だ。
まずは麺。
といってもこっちは特に特筆することはない。
もう俺は焼きそば用の麺を結構作ってるからな。
同じ要領で作る。
……今度、そばとかうどんとかそうめんの麺も作ろうか……なんて思いつつ打っていたらすぐに出来上がった。
麺はこれで良し。
次に具材。
具材は当然チャーシューを作る。後煮卵。
大きめの丸太上に切ったボロスピッグの肉を糸で縛り、フライパンで焼き色を付ける。
そうしたら、醤油、砂糖、みりん、料理酒なんかを混ぜた調味液を鍋に注ぎ、そこにボロスピッグの肉をドボン!
ここからじっくりことこと一時間ほど煮込んでいくんだが……ここで大活躍してくれるのが、先日作ったばかりの時計。
これまでだったら砂時計を何度もひっくり返す手間をかけさせられただろうが、今はただ長針が一周するのを目で見るだけで良い。
いやあ時計って便利だな、やっぱり。
そしてチャーシューを煮込んでいる間に煮卵も作る。
こっちは楽だな。
十数分ほど茹でた卵を先ほどチャーシューにも使った調味液にドボン。
後は冷暗所に置いておくだけ。
そしてその後、きっちり一時間煮込んだチャーシューも火から降ろし、粗熱を取って冷暗所へ。
ここまでやったらスープの様子をちょこちょこ見ることを忘れずに、ラーメン作り一日目終了。
ラーメン作り二日目。
やっぱりラーメンって一から作ると手間がかかるな……。
そんなことを思いながら丸一日コトコト煮込んでいたスープを火から降ろす。
いやー、キッチンの一角ずっと占領しててすまなかった。
俺はスープが煮込まれ続けているキッチンで料理をする羽目になっていた家事妖精たちに一言謝っておく。
俺が寝ている間スープを見てくれていた感謝も同時に伝える。
本当にありがとう。
「いえ、当然の事です」
俺の言葉に代表して答えたのは家事妖精たちの代表キール。
「ここはご主人様のお屋敷です。何事もご主人様のなされることが優先されます。そして家事妖精たる我らがご主人様のお手伝いをするのも当然の事です。感謝の必要もございません」
キールはそう言ってくる。
だけど、今回だけじゃなく、いつも助かってるしな。
俺がお礼を言いたいんだ。
本当にありがとう。
「……勿体ないお言葉です」
そう言って、キールだけじゃなく家事妖精たちは揃って一礼してくる。
打合せとかやってる様子無いのによくそんな綺麗に合わせられるな……。
俺がそう思っていると。
「ご主人様、不躾ながら一つよろしいでしょうか?」
頭を上げたキールが俺にそう声をかけて来る。
なんだ?
「ええ、もしよろしければ……なのですが。ご主人様の料理を近くで拝見させていただきたく。家事妖精として、新たな料理を知っておきたいので」
キールは俺にそう続ける。
なるほどな。
もちろん構わない。
俺は二つ返事で了承する。
どうせ後で作り方教えようと思っていたしな。
「ありがとうございます」
家事妖精たちが再び同時に頭を下げる。
そして頭を上げると、全員が俺の傍に近寄ってきた。
あ、全員来るんだ……数人が覚えて後から皆に伝えるとかじゃなく……。
思った以上にギャラリーが増えたが、気を取り直して。
俺はここまでやった作業を家事妖精たちに教えつつ、丸一日煮込んだスープを濾していく。
ザアー、という音を立てて、濾されたスープがもう一つ用意された寸胴鍋に入っていく。
そしてすべてを濾過し終えたその時、俺の目の前には黄金色に輝くスープがあった。
うーん、良い色だ……。
俺はきらきらと輝いているようにすら見えるスープを前にして、ちょっと感動する。
やはり素材が良過ぎるな、これは。
さて。
ここまで出来たら後はもうすぐだ。
俺は煮汁に浸しておいたチャーシューと煮卵を取り出し、それぞれカット。
麺をこの時のために作っておいた持ち手付きのざるで沸騰させたお湯にダイブさせる。
そうして三分ほどグラグラと茹でたら麺を上げ……思い切り振る!
パンッ!
そんな爽快な音とともに湯切りをし、スープを注いだ器に麺を投入。
その上にチャーシューと煮卵を乗せたら……。
レースピアラーメン、完成だ。
「うむ。食べさせるが良い」
完成直後。
いつの間にかキッチンに現れていたリーアがそんなことを言ってくる。
いつ来た?
いや、よく見るとリーアだけじゃないな。
俺の目線の先、キッチンの入り口には隠れようとして隠れきれてない尻尾とか耳とかが見える。
どうやらラーメンの匂いにつられてやってきたらしいな。
……まあこうなることは最初から想像していた。
だからスープ寸胴鍋で作ってたんだしな。
そういうわけで、つい今作り方を覚えてもらった家事妖精にも付き合ってもらってラーメンをガンガン作っていく。
記念すべきラーメンはそのままリーアに渡す。
「美味い! 美味い!」
「はい、これはとても……とても美味しいです!」
「うわ、くせになっちゃいそう……」
「この豚骨スープって言うの凄く美味しいよ~止まらない~!」
ラーメンは大好評。
皆笑顔でちゅるちゅる啜ったり、スープ単独でぐびぐびしている。
俺も自分用に作ったラーメンを味わってみるが……うん、美味い!
濃厚なコクのあるスープに麺が絡んで、そこに味の染みたチャーシューと煮卵を一緒に食べた日には……幸せを直接食べているかのようだ。
素人の俺でもこんなに美味しいラーメンを作れるのは本当に素材の良さのおかげだな。
今度尻尾をくれたボロスピッグを、感謝を込めて綺麗に洗ってあげよう。
そんな感じでラーメンはかなりの支持を集め、レースピアでプチ流行。住民たちはボロスピッグに熱い視線を注ぐようになった。
ボロスピッグが怯えてるからやめてあげてくれ。




