198.時計完成
ブゥゥゥーーーーーンッ……!
雷魔法を使い水晶に通電してもらってしばらく。
俺は今だに振動を続けている水晶を眺めながら、その振動から一秒を測るため、あれこれ試していた。
まずは指を当て、一秒間に何回振動しているのか調べてみる。
えー……いーち……。
……うん。
数百回か数千回か数万回と思われる。
……人の感覚で測れる訳ないだろこんなもの!
次。
水につけて波紋を生み出させ、それを目視で数える。
触覚じゃ分からなくても視覚なら……。
結果。
分かる訳なかった。
産まれた細かい波紋は融合して大きい波紋になったり、跳ね返ってきた波紋で形が変わったりしてそもそも数えるとかいう異次元じゃなかった。
そんなこんなをしているうちに、震え続けていた水晶はその振動を弱め、ついには止まってしまった。
うぅむ……前途多難。
「……振動が止まってしまったようですね」
水晶を前にしてうーん、と頭を抱えている俺にリネイアが声をかけて来る。
シエルは先ほどの雷魔法で削った神経が回復していないのか、地に座って休んでいるな。
汚れるぞ、服とか翼が。
「その時は代表様が洗ってー……」
そう言って座るどころか地面に横になるシエル。
全く……。
ところでリネイア、どうした?
俺に声をかけた後、顎に指を当てて何事かを考えているリネイアに、俺はそう声をかける。
「ああ……いえ。少し気になったことがありまして」
気になったこと?
「はい。……代表様。少し水晶をお借りして良いでしょうか?」
? それはもちろん構わないが……。
いきなりのリネイアの提案。
どうしたのか、と疑問には思うが別に断る理由もない。
俺は振動を止めている水晶をリネイアに渡す。
「ありがとうございます」
リネイアは俺に礼を言うと、水晶に手を当て、目を閉じ集中する。
すると。
ブゥゥゥーーーーーン……ッ!
なんと。
再び水晶が振動し始めた。
「……やはり」
リネイア、これはどういうことだ?
水晶が再振動を始めた光景に、俺はリネイアに疑問を投げる。
「何と言いますか……先ほど雷魔法を流した時、わずかな違和感があったのです」
違和感?
「はい。感覚的なものでしたので言葉にし辛いのですが……。その違和感を確かめるため、私は水晶に魔力を流してみました。すると……」
水晶が振動した、というわけか……。
「その通りです。……代表様。この結果を見るに、代表様は雷を流して水晶を振動させると言っておりましたが、振動させるだけなら魔力を流すだけで十分かと」
そうみたいだな……。
「え? じゃあさっきあたしが頑張ったの無駄だったってこと?」
寝転がっているシエルが愕然としているが、俺はそれには気づかず目を伏せて思索に入る。
ふむ……魔力を流すだけで良いのか。
これは異世界の水晶だからか? それとも前世には魔力が無かったから判明してなかっただけで水晶はもともとそういう鉱物だったのか? ……こういうのは考えたところで分からないな。前世の水晶なんてもう手に入らないんだし。
ともかくこれで振動させるだけならかなり楽になるな──
そんなことを考えながら、うん、と目を上げると、俺の目には地面をゴロゴロと転がっているシエルの姿が映った。
……シエル? 何してるんだ?
その子供のような姿にすこしあっけにとられつつ俺はシエルの声をかける。
「……なんでもなーい……さっきあれだけ頑張ったのに実はやる必要なかったとか言われてふてくされてるわけじゃなーい……」
ああ……うん。
まあ……雷魔法はかっこよかったから。
その後、ふてくされたシエルの機嫌を取るために、あの手この手で誉め言葉を送りしばらく。
無事、機嫌を直したシエルの姿にほっと一息を吐きつつ、一旦屋敷の中に戻ってきた俺は次の問題に頭を回していた。
リネイアのおかげでとりあえず水晶を振動させ続けることは出来そうだ。
魔力を流すだけで良いなら魔石が使えるしな。
問題は……。
ブゥゥゥーーーーーン……ッ。
そう。
問題はこの滅茶苦茶な振動数を数える方法が無い事。
前世ならそういう機械とか……あるいは、そういう数えるための簡単な機構とかあったかもだが、現物も知識も当然無い。
どうしたものかと俺は頭をひねっている。
カツッ……カツッ……。
そんな俺の耳に硬い物がぶつかるようなそんな音が届く。
この音は俺が水晶を削っている音だな。
考え事をするにあたって手持無沙汰だったので、俺は創造神器で水晶を削ることにした。
手を動かした方が良いアイデアも出て来るか? と、そう考えての事だ。
そんなわけで俺は水晶を削っているんだが、残念ながらこれといったアイデアは出ない。
水晶製の置物がどんどん完成していくだけだ。
「ほーこれは……出すとこに出せばかなりいくよ、これ」
「シエル。代表様の芸術品をそういう目で見るのはやめなさい」
「いやーでも見ちゃうってこれは! それにそういう目で見なくてもすっごくいい品だよコレ。あたし欲しいもん。リネイアもそう思うでしょ?」
「……それは……まあ……。頂けるのであれば賜りたいですが……」
「だよねー!」
机にどんどん並んでいく置物たちにシエルとリネイアがそんな声を漏らす。
いや別に欲しいのなら持って行っても構わないが……。
「え、いいの!? やったーっ!」
「はしゃぎすぎですシエル。ですが良いのですか?」
構わない。
いつも世話になってるしな。
このくらいで返せるとも思ってないが持って行ってくれ。
「わーいっ! じゃああたしこれね!」
「……ありがとうございます、代表様。家宝にいたします」
いやそんなかしこまらなくてもいいが……。
俺は感極まったように胸に水晶の髑髏を抱くリネイアにそう言う。
ていうか本当にそれでいいのか? 水晶と言えば髑髏だろうって安易な考えで作った俺が言うのもなんだが、もっと考えて選んだ方が……。
「ん? あれぇ?」
と。
俺がそんなことをリネイアに言おうとした瞬間、ささと水晶製の翼のモニュメントを確保したシエルがそんな声を出した。
うん? どうしたシエル?
俺はシエルに問いかける。
すると。
「ん、いやー……今何となく翼を振るわせようと思って魔力流したんだけど……なんか振動がすっごく遅くて……」
振動が、遅い?
その言葉に俺はシエルの持っている水晶の翼に目を向ける。
すると確かに……。
ヴッ……ヴッ……ヴッ……ヴッ……。
シエルの持っている水晶は、先ほどまでのように小刻みに激しく震えるのではなく、規則正しく一定間隔ごとに震えていた。
そう、まるで心臓の脈動みたいに。
……あれ、というか、これ……一秒ごとに一振動してないか?
してた。
一旦シエルに水晶を返してもらって調べたら、俺の体感ではあるが、一秒ごとに一振動していた。
そしてまさかと思い、シエルが選んだ水晶だけではなく、俺が削った水晶全てに魔力を流してみたところ、全て秒刻みで振動していた。
これは……やはり……。
俺はこうなった原因と思われる手に持ったそれ……創造神器に目を向ける。
創造神器で物を作るとき、頭で思い描いた通りに創造神器は動いてくれる。
そして、水晶はカットの仕方で振動数が変わると聞いた覚えがある。
つまり……俺が頭の中で、「一秒に一振動とかだったら数えるの楽なのになあ……」なんて考えながら手を動かしていたため、創造神器はそうなるように水晶をカットさせてくれたのだと思われる。
いや、本当に凄すぎないか!?
俺はまさかこんな曖昧な考えでも読み取ってくれるという事実に目を白黒させる。
凄い凄いとは思っていたがまさかこれほどとは……。
創造神器の力はいつも俺の想像の先を行く。
だが……ありがたい。
とても。
創造神器さんのおかげで、振動を数えることが出来ない、という悩みは解決した。
これで時計が作れる!
テンションの上がった俺は、その勢いのままに、大きな振り子時計を作り上げた。
水晶部の振動を増幅させ、その増幅させた振動を振り子に伝達。
そしてその振り子が振られる度に、秒針が一メモリ動く、という仕掛けだ。
とてつもなく精密な作業を要求されたが、創造神器さんが全て何とかしてくれた。
いつもいつもありがとうございます。
「うわっ……すっごっ……! 流石代表様……!」
「ええ、とても素晴らしい。いつまでも見ていられそうです」
作り上げられたその振り子時計にシエルとリネイアもそんな感想を漏らす。
その目線は時計に吸い込まれているようだ。
我ながら良い出来だ。
創造神器さんのおかげ九割だけど。
再び創造神器に感謝の念を捧げる。
そしておかげと言えば、時計を完成させられたのはリネイアとシエルのおかげでもある。
ありがとう。
「そんな、お礼など必要ありませんよ。代表様のお力になるのは当然の事です」
「そーそー。それにお礼なら貰ったしねー」
目を丸くし、とんでもない、といった顔をしているリネイアと、水晶の翼を掲げたシエルがそう言う。
それでもありがとう。
助かった。
俺はそう言って、時計作りの試行錯誤は終わりを告げた──
「じゃ、終わったんなら一緒にお風呂入ろ代表様ー」
ん、だが。
「シエル!?」
えぇと、シエル……?
リネイアと俺から驚きと困惑の声が出る。
「? なに驚いてるの? ほら見てよこれー。さっき外でゴロゴロ転がったからいろいろ汚れちゃってるでしょ?」
翼を広げてそう言ってくるシエル。
確かにその翼と体は少し汚れているが……。
あの後、何も言ってこなかったから気にしてないのかと。
というかシエルが自分で汚れたんだよな?
「そりゃ気になるよ女の子なんだから! 代表様の邪魔にならないよう言ってなかっただけ! いいでしょー? いろいろ手伝ったんだからー」
するりと俺の腕に絡みついてきながらそう言ってくるシエル。
ぎゅ、と腕にシエルの身体が押し付けられる。
「シ、シエル。代表様のご迷惑でしょう。離れなさい」
それを見て少しずり落ちていた眼鏡をクイッと上げつつそう言ってくるリネイア。
その頬はわずかに赤みを帯びている。
「リネイアはお堅いねー……あ、それじゃあリネイアも一緒に入ろー? それで万事解決でしょー」
すると、そう言われたシエルはリネイアの手を引っ張り、俺への抱き着きに巻き込んだ。
「きゃっ……!?」
シエルだけじゃなくリネイアの身体も押し付けられる。
体中に柔らかい感触が広がる。
「ねー一緒に入っちゃお? リネイアだってさあ……入りたいでしょ? 代表様と一緒にお風呂……」
「それ、は……」
「いーじゃんあたしに巻き込まれただけなんだから……流されちゃお……」
リネイアを天使のささやきが襲う。
こういうのって普通ささやくの悪魔の方じゃないのか。
俺の思考がそんな関係ない所に飛んでいるうちに、どうやらリネイアはそのささやきに屈したらしく……。
「だ、代表様……共に、湯を頂いてもよろしいでしょうか……?」
「んふふー、もちろんよろしいよねー? あたしたち頑張ってお手伝いしたもんねー?」
シエルとリネイア二人がかりの上目遣いが俺を襲った。
……俺は流された。
これは断れない。
シエルとリネイアを連れ、浴場に向かい、そして……。
その日は長風呂した。




