197.時計作り
「失礼します、代表様。本日の住民の増減の報告を……。……えぇと、何を為されているのでしょう?」
「えー何々? 代表様がまた何かやってるの? いったい何を……。……それ何? お祈り?」
屋敷の作業室。
キラキラときらめく透明な鉱石を前にした俺が、手を座禅の形に組んで瞑想している姿を見て、俺を訪ねてきたリネイアとシエルが頭にはてなを浮かべる。
うん。
何やってるんだろうね。
「時計……ですか?」
ああ、そう。
あれから少し経ち、リネイアたちの報告も聞いた後の雑談で俺は何をやっていたかをリネイアたちに話す。
「へぇー……正確な時間を測る……ねぇ。確かにあれば便利そうだけど……。あ、いや待って、やっぱダメ。さぼりが出来なくなっちゃう!」
「今でもやらせませんよ?」
そう。
いろいろと作ってきた俺が今回作ろうと思ったのは時計だ。
前回。
俺は焼き芋を作る際に時間を測るとき、時計が無かったので太陽の動きで代用した。
だがあの時もし雲などで太陽が隠れてしまったら、焼き芋のベストタイミングを逃してしまったかもしれない。
なので時計を作ろうと思い至ったわけだ。
「なるほどねー」
さっきのさぼり発言は本気ではなかったのか、飄々とした顔でシエルがうんうんと頷く。
「でも別にそんなに必要でもなくない? 日が出ているうちは動いて日が沈んだら帰ればいいし。それに料理に使うんなら……あれ、なんて言ったっけ……砂時計! あれを何度も使えばいいんじゃないのー?」
シエルの言う通り。
俺は今料理なんかで短い時間を測るときには砂時計を使っている。
進化したハイドワーフたちにかかれば湾曲したガラスも作ることが出来るからな。
まあ正確な秒数を測っているわけでもないなんちゃって砂時計だけど。
シエルの言う通り一時間なんかを測る場合でも数十回砂時計を回せばいいだけだし、なんなら人が入るサイズの、砂が落ちるのに一時間かかる特大砂時計を作ったって良い。
だから別に時計を改めて作る必要はない。
別に作らなくてもレースピアの街は回ってるからな。
……だけど……まあ……うん。
正直俺が作りたい。
カチカチと時を刻む時計見たい。
「ふーん?」
「なるほど、構わないでしょう。代表様の御心はすべてに優先します。何かお手伝いできることがあれば何なりとお申し付けを」
ほへー、と口を開けているシエルと対照的に、眼鏡をクイッ、と上げ俺にそう言ってくるリネイア。
いや流石にすべてには優先させなくていいが……。
「いえ、させるべきです」
……そうか。
ちょっと目に熱が入り過ぎていて怖い。
なので話を逸らす。
そういうわけで時計を作ろうとしていたわけなんだが……作り方が分からない。
そう。
俺の貧弱な知識の中にも、一応ありはする。
大雑把だが……時を刻む方法。
鍵は今俺の目の前にもある水晶。
水晶は前世でも時計なんかに使われている鉱石だ。
何故かというと、電気を流すと一定の振動を起こすから。
この一定の振動を利用することで安定して時を刻むことが可能になるって訳だな。
そしてこの水晶、レースピアでも算出している。
第五層で金なんかと一緒に掘れる。
産出量自体は大したことないが。
というわけで、俺はその水晶をもらってきて意気揚々と時計を作ろうとしたわけだ。
そしてそこで気づいた。
流す電気はどこから持ってくるんだ? と──。
そうして先ほどの……水晶の前で手を組んで、どうしたもんかとうんうん悩んでいた場面に繋がる訳だ。
「なるほどー。何やってるのかと思ったら悩んでたのかー」
そうだ。
我ながらちょっと見切り発車過ぎたな。
けらけらと笑いながらそう言ってくるシエルに俺も言葉を返す。
やれやれ、と肩をすくめながら。
するとそんな俺にリネイアも声をかけて来る。
「お悩みになるのであれば、そうなる前にお声がけください。どんな力でもお貸しします」
そう言ってリネイアはふむ、と顎に手を当てると。
「電気……というのは浅学ゆえ存じ上げておりませんが、雷に類するものでしょうか? それであれば魔法で用意いたしましょう」
俺にそう言ってくる。
まあ確かに雷も同じ電気だが……雷魔法? そんなもの使えるのか?
俺は耳を疑い聞き返す。
雷を起こす魔法があるとかこっち来て聞いたこと無いぞ。
「ええ、あります。とてつもない魔力を消費する上、使用難度もとてつもなく高い。それゆえに使用者は現れず……歴史の中に消えていった魔法。そう言った魔法が世界には数多くあり、我らデモンズはそれを記録しているのです」
ほう、なるほどな……。
デモンズ、悪魔族は紙の作り方も記録していたり、かなり博識な種族なイメージがある。
それは魔法にも適用されるらしい。
……いやエンジェル……天使族にも同じようなイメージ持ってるんだけどな。
一番よく関わるのがシエルだから……。
「? どしたのー?」
作業室の椅子にとすっと座って背もたれに体を預けているシエルが、俺が彼女の方をちらりと見たことに気づいてそう言ってくる。
いや……何でもない。
まあ、アレだ。
普段はのんびりしているのが目立つが、やるときはやってくれるしな。
収穫の時も大分助かったし。
「ともかく。雷魔法の使用はかつての私達ではどうあがいても不可能だったでしょうが、進化した私達ならば十分に使用は可能です。なので代表様が必要とされるのであればいくらでも使わせて頂きますが……」
こちらもシエルの方をちらりと見てそう言ってくるリネイア。
ふむ……。
「……あれ? 今しれっと私達って言った? 私もやるの?」
気持ちは嬉しいが雷は規模が大きすぎる。
水晶が壊れかねない。
必要なのは振動するためのほんの少しの電気で良いんだ。
「ねぇちょっと? 冗談だよね? あの魔法ってとんでもなく神経削るやつだよね確か?」
「ふむ……であればさらに契約魔法を上掛けして規模と威力を極限まで削りましょう。そうすれば消費魔力も少なくて済みますし」
「えっ、自分からさらに難度あげるの!? しかもリネイアが契約魔法使うってことは、雷魔法の維持制御の大半こっちって事じゃん! 考えるだけでいやなんだけど!」
……なるほどそれなら……やってみる価値はありそうだ。
一回試しにやって貰って良いか?
「ええ、お任せください。……ほら、やりますよシエル」
「やっぱり私も一緒にやるのーっ!? やだーーっ!」
そういうことになった。
シエルは……うん、ごめん。
頼む。
そんなわけで。
屋敷に被害が出ないよう外に出て雷魔法を試してみることにした俺たち。
シエルはなんだかんだとぶつぶつ言っているが、特に逃げるようなこともなくしっかり付き合ってくれている。
口ではなんだかんだ言うが本当に付き合いが良い。
「あーもーそういうの良いから! ちゃちゃっとやって終わらせちゃお!」
ちょっと照れたのか、頬に少し赤みが走っているシエルがそう言う。
リネイアもその意見に同意なのか、本を取り出しぶつぶつと唱え始め、それを見たシエルも同じように何事かを唱えだす。
そしてそのまま少し経ち、シエルの額に汗がたらりと浮いたかと思うと。
パチッ……!
そんな静電気のような音と同時、俺たちの前に置かれている水晶に光の糸が落ちた。
瞬きをしたら見逃してしまうだろう一瞬。
俺の目にはギザギザの光の軌跡が刻まれた。
そして、おそらく超極細の雷だろうそれが落ちた水晶は、ブゥゥン……と、腹の奥に響くような音を立てながら振動し始めた。
成功だ。
「はぁっ、良かったー。これだけ頑張って失敗したらどうしようかと思った」
「代表様のお役に立ててよかったです」
うん。
二人ともありがとう。
俺は振動を続ける水晶を見ながら二人にお礼を言う。
本当に助かった。
……さて。
それで、なんだが。
俺は目の前で……凄く細かくぶるぶると震えている水晶を見て思う。
この速さの振動から、どうやって一秒を割り出せばいいんだ?




