196.土中焼き
「ふむ……これで良いのか?」
俺の目の前でメラメラと燃えている火。
それを付けてくれたイフリータ代表のイグニータが俺にそう言ってくる。
「それでこの火を強くなり過ぎないように維持すればいいんだね」
そんなイグニータの横で空気を送り、火の勢いを調節してくれているのが風の精霊、シルフの代表ユウフ。
「わぁ~楽しみ~」
そしてわくわくとした顔で火の根本を眺めているのが水の精霊、ウンディーネ代表のフィーネだ。
皆突然だったのに来てくれてありがとう。
サツマイモを収穫し屋敷に戻ってきた俺は、急な呼び出しだったにもかかわらず二つ返事で集まってくれた三人にお礼を言う。
「ハッハッハッ! 構わんさ!」
「癪だけどそういうこと。気にしなくていいよ」
「うん~あるじの頼みならいつだって来るよ~」
「そうっすよ! 当然っす!」
集まってくれた三人と、ついでにラウームも俺にそう言ってくる。
ありがたい。
現在俺は屋敷の庭……結構離れてるけど庭で良いのかな? ……まあ、いいか……別に何かを建てる予定もない場所だし……で、火を起こし、それを消えないよう維持してもらっている。
何のためか? もちろん焼き芋の為だ。
「いやー新種のイモを早速頭が料理してくれるって言うんっすから楽しみっすねー!」
「そうだな! 楽しみで燃えてきたぞ!」
「別に気合が燃える分にはいいけど火の勢いまで強めないでよ? 焦げたらお前のせいだから」
「その時は私が消火してあげるね~!」
精霊たちは火を見ながらわいわいとそんなことを話している。
土の中に埋めてるからよほどのことが無いと焦げないと思うが……。
いや、火の精霊族ともなれば土の上からでも焦げさせられるのか?
まあ加減はユウフに頑張ってもらおう。
うん。
今言ったが今現在サツマイモは土の中で焼いている。
普通にかまどで焼く手もあったが……やっぱり秋に焼き芋をするんだったらこのやり方で行きたい。
やり方は簡単だ。
まずはサツマイモを綺麗に水洗いする。
サツマイモには土汚れが付いているからな。
しっかりと落とす。
そうしたらサツマイモを紙で包み、二~三十センチほど掘った穴に入れる。
あとはその穴に土をかぶせて、上で火を起こしたら、あとは待つだけだ。
お手軽。
「あとは待つだけって言ったっすけど、どれくらい待つんすか?」
火の前で楽しみそうにぴょんぴょん跳ねていたラウームがそう言ってくる。
時間かー……大体一、二時間……なんだけど、そういえばこの世界時計とか無いな。
まあ体感で……太陽があの辺まで動いたら……かな。
「ほへー、結構かかるんっすね!」
「一気に焼いてしまうわけにはいかんのか?」
「だから焦げるって……」
「お昼寝したらすぐだね~」
まあちょっと長いって気持ちは分かる。
でもゆっくり火を通すことで焼き芋は美味しくなるんだ。
というわけでイグニータは火を強めるのはやめてくれ。
弱火で十分の料理を強火で三分で作っちゃいけないんだ。
「ふむ……よく分からんが分かったぞ!」
「どっちだよ」
イグニータは納得してくれたようで、火の前に座り込み静観の構えになってくれた。
まあ、もし強火になってもここにはユウフとフィーネもいるし何とかなると思うが。
「にしても、こんなに多く埋めたのはそれだけ時間がかかるからだったんっすね!」
周りをぐるりと見まわしながらラウームは言う。
現在俺たちの周囲には十か所ほど焚火があり、その全てで煌々と火がゆらめいている。
焼き芋を作っていると聞かなければ何かの儀式でもやってるのか? と思う光景だ。
「炎を並べることによる儀式炎魔法か? 進化した俺ならば一人でもできるぞ。代表殿が望みというのであれば披露しても良いが……」
儀式魔法とかあるのかこの世界……。
だが遠慮しておく。
ちょっと見たい気持ちは正直あるが、流石に街の中で大規模な火を起こすのはNGだ。
「そうか。見たくなったらいつでも言ってくれ!」
「儀式炎魔法って……ここであんなもん使ったら街中焼け野原になってもおかしくないよ?」
「その時は私が消火するね~!」
うん。
遠慮したい気持ちが一層強まった。
本当にやらないでくれ。街中では。
そんな雑談もしながら火を見守っていると、時間はあっという間に過ぎていき、すぐに太陽は俺が指定した場所までやってきた。
ので、とりあえずイグニータに火を消してもらい、一カ所だけ掘り返して焼き芋の焼き加減を確かめてみる。
サクッ……!
焦げて少し黒ずんでいる土を創造神器で一掘りで掘り返し、中に埋めていたサツマイモを掘り返す。
幾重にも巻いておいた紙の外側はカラカラになっており、これだけ見ればしっかり火が通っているように見える。
さて、実際のところはどうか……。
俺は紙を取り除き、わくわくとした気持ちでサツマイモを二つに割る。
すると。
ほわぁ……。
中から出てきたのは真っ白い蒸気。
それは尽きることなく、サツマイモの黄金色に輝く断面から細くあふれ出し続けている。
そしてそれと同時に俺の鼻に届くのは控えめな……それでいて豊かで柔らかな甘い匂い。
その匂いを嗅いだ瞬間俺は確信する。
完全に、火が通っていると。
確信を得た俺はほぼ無意識にその黄金色の断面にかぶりついていた。
その瞬間俺の舌に広がったのは、優しく、そして芳醇な甘さ。
俺が良く作る甘味や、はちみつなんかともまた違う、優しい……ほっとする甘さ。
いくらでも食べられそうだ、と思う、そんな甘さだ。
うん……美味い!
焼き芋をしっかり味わい、飲み下した俺の口からそんな言葉があふれ出る。
いや本当に美味しい。
前世でも焼き芋を食べたことはあったが、こっちの方が段違いで美味い。
レースピアに出来る作物は皆すさまじく品質が良いが、このサツマイモも例外ではない。
「……そんなに美味しいっすか? じ、自分も気になるっす!」
「ああ、俺もだ! 代表殿一つ貰っても構わないか?」
「僕にもくれるかな?」
「私も~味わってみたいかも~……」
そんな俺を見て精霊代表たちがそう言ってくる。
そして。
「私も気になるー代表様ちょうだーい?」
「いひひ……お芋……美味しそう……」
「見るだけでファンタスティックだと分かります……! ぜひ私にも!」
大量の火を並べている光景に興味を惹かれ集まってきていた者たちもそう言ってくる。
うん。
こうなると思っていたから大量に埋めて焼き芋を作っていたんだ。
と、いうわけで。
片っ端からガンガン掘り起こして焼き芋をその場の皆に配った。
「美味っしいっす! はふっ! いくらでも食べられるっす!」
「ああ! 美味い! なるほどゆっくり火を通したらこうなるのか!」
「実にファンタスティック!」
「あー……美味しいー……ふー……これ食べながらゆっくり過ごしたいー……」
「いひ……いひひひっ……! アツアツゥ……」
「うん、いいね、これ。あいつの火も役に立つじゃん」
「ぷは~! もう一杯~!」
結果、大好評。
皆美味しい美味しいと言いながら焼き芋をハフついている。
ちなみにフィーネは焼き芋をすりおろして水と混ぜた、なんちゃって焼き芋スムージーを味わっているので、ゴクついている。
うんうん、作った甲斐があった。
毎度のことだがこんなに美味しそうに食べてもらえるなら作り甲斐があるな。
そう思いながら俺も焼き芋をパクつく。
秋の日に突然起こった焼き芋パーティーはその後もかなり盛り上がり、参加した住民皆の総意でサツマイモを増産していくことが決まった。
まあ焼く以外にもご飯に混ぜて炊いたり、茹でて汁物に入れても美味しいしな。
それに焼酎だって作れる。
今からは流石に収穫が冬に間に合わないから無理だが……春になったらたくさん植えよう。
俺は焼き芋を食べながらそう決意するのであった。




