194.狙い通り
「いい名前だと思うんですにゃ……」
ケットシー商会の宝装具加工部屋。
そこで自身のネーミングに思ったような反応を得られなかったニャジッタがしょぼんと落ち込んでいる。
いやまあ、良い名前だと……うん。まぁそれは置いておいて。
「良い名前じゃないんですにゃ!?」
ガガーン、とショックを受けたように目を真っ白にするニャジッタ。
いや良くないなんてことは……なくて。
……そう。分かりやすさが良い。分かりやすさが。
そうやってしばらく他の者とも協力してニャジッタを慰めていると、大体十分ほどでニャジッタは落ち着いてくれた。
「お見苦しい所をお見せしましたにゃ……」
いやそんなことはない。
ところで……。
と、俺は話を変える。
ニャジッタにとっても触れられない方が良いだろう。
ともかくだ。
マジックブレイカー……長いからマジブレで良いか。
宝装具に興味を持ったハイドワーフたちと試作したって言ったよな?
「はいにゃ」
それなら言うほど……なんていうのか、そう、魔法とか宝装具の効果とかを無効化する力は弱かったんじゃないのか?
俺はそう聞く。
先ほどニャジッタはマジブレでも効果が破壊されなかったことから、俺の宝装具を凄いと言っていたが、単にマジブレが試作だったからそうなったんじゃないのか?
「いえ、それはありませんにゃ」
そう言いながらニャジッタがポムポムと両手を叩く。
……何だ今の音? もしかして肉球か? マジマジ見たことはなかったけどもしかしてケットシーの手のひらって肉球ついてるのか?
俺がそんなことを考えていると、ケットシーの一人が銀色に輝く指輪を持ってきた。
「これは我々が作ったミスリルリングですにゃ。見ていてくださいにゃ」
そう言うとニャジッタはマジブレ一号を微かな光を放っているそのリングに振り下ろした。
パキィン……という何かが割れたような音が響き、特に何の抵抗もなく、振り下ろされた剣はミスリルリングの隣に叩きつけられる。
今のは……。
「今、私は防御の効果を発揮したリングにマジックブレイニャー一号を振り下ろしましたにゃ。結果は御覧の通り。マジックブレイニャー一号は防御効果を当然のように破壊して振り下ろされましたにゃ。試作とはいえ鍛冶の達人ハイドワーフとともに作り上げたモノ。試作ですにゃが、素材の良さも有り一流のマジックブレイカーには仕上がっていますにゃ」
なるほどな……。
俺は防御の効果が破られ、心なしかくすんでいるように見えるミスリルリングをまじまじと見ながらそう言う。
「ですので代表様の装身具はとても素晴らしいのですにゃ! そんなマジックブレイニャー一号から当然のように所持者を守り、弾き返す! こんなこと一流……いえ超一流の宝装具でないと出来ませんにゃ! 先ほども言いましたが宝石職人に転向する気は……」
ないないないってば。
再びテンション高く詰め寄ってきたニャジッタを押し留めつつ再び言葉にする。
まあたまに趣味程度でやりはするだろうけどそれ一本に専念する気はない。
「残念ですにゃ……」
しゅん、と耳を垂らし明らかに残念そうにするニャジッタ。
かと思えば。
「いえ! 専念なさらないということは希少価値がつくということ! それはつまりこの宝装具の価値は天井知らずで上がっていくということにゃ~っ!」
なんかそんなことを言いながら一瞬で耳が復活した。
さっきからずっと言葉に「にゃ」が付いてるからうすうす分かってたがどうやらかなりテンションが上がっているらしい。
売り物にする気はないぞー。
その後。
正気に戻ったニャジッタは俺が宝装具を売る気はないという言葉に落ち込んだものの、これだけの宝装具を見られるならそれだけで得だとすぐに持ち直していた。
そして俺はというと。
再び宝装具を作り始めていた。
うーん、なるほど……奥が深いな……。
俺は手の中でダイヤの原石を転がしながらそんなことを思う。
いろいろと教えてもらい、自身で試してみても分かったが、宝装具というのは職人の想像力と腕がかなり出る。
何故かというと……組み合わせがかなりあるからだ。
ダイヤモンド、あるいはルビーやサファイアといった宝石。
宝装具はこれらの力を引き出し効果とするわけだが、どんな効果が出るかは宝石の種類によってある程度決まっている。
例えばルビーだったら熱系、サファイアだったら冷気系、みたいな。
俺がさっき作った宝装具にも使ったダイヤモンドはとても強力な防御系の効果だ。
で、この効果は宝石を組み合わせることで新たな効果にすることが出来る。
例えばルビーとダイヤで相手の攻撃を溶かす防御、とか。
そして効果を変える要素は宝石同士の組み合わせだけではなく、組み合わせる宝石同士の比率、効果の触媒となるアクセサリー部分の造形、そう言った要素でも効果は変わってくる。
十回中七回。
これが一流と呼ばれる宝石職人が狙った効果を出せる割合らしい。
場合によってはほんの一センチの違いで大きく効果が変わる事例すらあるらしいな。
だから高い創造性と加工の腕、両方が必要になってくる。
俺以外は。
「なんと……素晴らしいです主様。これで二十作品目ですが完全に狙った通りの効果を出せています」
宝装具を作り始めて二十個目。
ルシュの言葉に再びおおっ、とどよめきが広がる。
……うん。
創造神器が流石すぎる。
先ほど。
宝装具をべた褒めされた俺は、もっと宝装具を作ってみたくなり、色んな宝石を使って軽く作ってみたんだが。
これが百発百中。
俺が狙った通りの効果が、狙った通りの強さで出た。
思った通りに形作れるだけではなく効果すら考えた通りにできるとは……流石創造神器……。
俺は内心で慄く。
いやだって本当に凄い。
例えばさっき俺は、風で周囲を防御するような宝装具を作ろうと思ってエメラルドとダイヤモンドを使ってネックレスを作った。
ネックレスは俺の思った通り、着用者の周囲を風で囲って攻撃を防ぐ暴風壁を張ることが出来るものに仕上がったんだが……。
「この比率のこの組み合わせてどうして風の壁が?」
「これ私が作ったら透明な壁の周りにそよ風が吹いているものが出来そう」
「ダイヤモンドのココ何で最後ちょっと削ったんですか?」
「完全に真似したはずなのに防御効果のないただ風が吹き荒れるだけのものになりました!」
うん。
真似しようと思っても出来ない相当な逸品に仕上がったらしい。
最後にダイヤモンドなんで削ったかは俺にも分からない。
なんかそうした方が良い気がした。
「流石ですね代表様は……我々も負けていられません!」
そんな俺が宝装具で狙った効果を出し続けている姿を見て、どうやら宝石職人の卵たちの意気もかなり上がったらしい。
ふんすふんすと息を荒くし、ああでもないこうでもないと宝石の組み合わせを試しだした。
皆笑顔で宝装具に向かい合っている。
「ふふ……私もうかうかしていられませんね」
そしてルシュもその光景を見ながら宝石を手に取り、俺の隣で加工し始める。
楽しそうだな。
「はい。建築も同じですが……主様と一緒に何かを作る、というのはとても楽しいです。この街の住民ならば皆同じだと思います」
柔らかに微笑み、手元の宝石を弄りながらそう言ってくるルシュ。
その言葉と、微笑みに俺はまた少し照れてしまうが、俺も気持ちは同じだ。
一人で何かを作るのも楽しいし当然好きだが、皆で一緒にいろいろ作るのもとても楽しい。
……そろそろお暇しようかとも思ってたけど……もう少し作っていくか。
俺はそう考えると手元に再び宝石を用意して宝装具を作り始める。
その日は遅くまで皆で宝装具を作り続け、失敗作も含めかなりの数の宝装具を作り、結果として結構な宝石を消費した。
まあ宝石の使い道なんて今は他にほとんどないし別に構わないだろう。
足りなくなったら掘りに行けばいいしな。




