193.マジックブレイカー
「何という素晴らしい出来ですにゃ……認識した瞬間、宝石職人としての魂が平伏を選択していましたにゃ……」
俺の作った宝装具を見て平伏していた皆を何とか落ち着かせた後。
とりあえず話を聞いたニャジッタが言ったことがこれだ。
どうやら……俺の作った宝装具に感動してああしたらしい。
「感動なんてものではありませんにゃ!!」
落ち着かせたはずなのにニャジッタのボルテージが急騰する。
「このつくりの精巧さ! 曲線の巧みさ! さらには宝石が最も魅力をたたえる角度! さらにはエンチャントも最高を超えた最高! これに感激を覚えない者は宝石職人ではありませんにゃ!」
そのまままくし立てて来るニャジッタ。
後ろでは、先ほどまでニャジッタと同様に平伏していた他のケットシー、ハイコボルト、ハイエルフ、ハイドワーフたち……要するに宝石職人の卵たちもうんうん、と頷いている。
それほどなのか……。
「はい、それほどです」
平伏から立ち上がった後、恭しい手つきで俺の宝装具を手に取り、じっくりと見分しながら、ルシュがそう言う。
「先ほどニャジッタさんも言いましたが、とても素晴らしい出来です。流石主様。エンチャントも……これだけ引き出すとは……。……ちょっと剣を持ってきてください」
じっくり見分していたルシュがその瞳を宝装具から外し、ハイコボルトの一人にそう指示する。
……何で剣?
というかニャジッタも言っていたが、エンチャントとは……。
いや、まあ分かりはする。
宝装具の説明でニャジッタは、宝石の力を引き出し何かしらの効果を持たせたもの、と言っていた。
つまりエンチャントとはこの宝石の力を引き出すことなんだろう。
が。
俺はエンチャントのやり方なんて知らない。
普通に作っただけだ。
なのにエンチャントされてるってことは……。
手元に出しっぱなしだった創造神器が心なしか誇らしげに光っている気がする。
うん。
まあそうだよな。
創造神器さんのおかげか。
俺は創造神器をまじまじ見ながら思う。
まさかエンチャントなんて、俺がやり方知らない技法ですら当然のようにやってくれるとは……こうしたいなって考えながら作るだけで……。
本当にいつもありがとう。
そんな風に感謝の念を送っていると、先ほどルシュに剣を持ってきてくれ、と頼まれていたハイコボルトが言葉通り剣を持ってきた。
俺が何気なくそちらに視線を送っていると、ルシュは一言二言そのハイコボルトに指示を出す。
その指示を聞いたハイコボルトはこくりと頷くと、鞘から剣を引き抜き頭上に構え──迷いなくルシュに振り下ろした!
ちょっ、何をっ……!?
俺は焦って咄嗟にルシュと剣の間に創造神器を割り込ませる……その直前。
ガイィィィンッ!!
と。
硬いものに硬いものを打ち付けたような音が響き。
ルシュめがけて振り下ろされていた剣は、弾かれたように振り上げられていた。
そのまま剣は後方に流れ、剣を振り下ろしたハイコボルトは尻もちをつく。
俺が間に挟んだ創造神器は所在無さげに揺らめいていた。
……えぇと、何が起きた……?
そんな俺の疑問に答えてくれたのは、剣を振り下ろされた当人、ルシュ。
「まずは……お守りいただきありがとうございます、主様。そして驚かせてしまい申し訳ありません。今のは主様がお作りになられたなられたこの宝装具。この逸品のエンチャントの強度を確かめようと思いまして」
紅潮した頬で、眉を申し訳なさげに傾けながらルシュが言う。
エンチャントの……強度?
「はい。この宝装具の効果は守りのエンチャントです。お作りになられた主様は当然お分かりになっていると思いますが」
いや全然分かってなかったが……。
「なるほど無想でこれほどのエンチャントを……。流石は主様です。ともかく、主様の宝装具の効果のほどを確かめるために、剣を振り下ろしてもらったのです。守りの効果を調べるなら攻撃してもらうのが一番手っ取り早いですから」
……なるほど、調査の為か。
俺はルシュの説明に頷いて理解を示す。
……でも別にルシュが持つ必要なくないか? 机にでも置いてそこに振り下ろしてもらえばよかったんじゃ?
「いえ、宝装具というのはやはり身に着けるものなのですから、身に着けて試してみませんと」
ふむ、そういうものか……?
「それに……」
それに?
「もし億が一、効果が発揮されなかった場合、机に置いて剣を振り下ろすのでは主様の宝装具が破損する恐れがありました。ですので私が持って試すことにしたのです。私であればギリギリで回避もできますから」
どうやらちゃんと考えてやっていたらしい。
じゃあ俺が咄嗟に創造神器挟まなくても大丈夫だったか。
余計なことしたな。
「いいえ、そんなことはありません。主様にお守り頂きとても嬉しかったです。……その……本来は私が主様をお守りする立場なのは分かっているのですが……それでもまた守ってもらいたいと……そう思える雄姿でした」
……そうか。
ちょっと顔が熱くなる。
創造神器をうちわに変えて顔を仰ぐ。
流石は創造神器。
すぐに涼しくなった。
……というか暴風すら起こせるうちわを室内で使うの我ながら不用意過ぎるな。
照れって怖い。
「……こほんっ。素晴らしい結果でしたにゃ! まさかマジックブレイカーの剣の一撃すら当然のように防ぐとは! 代表様、超一流の宝石職人としてもやっていけにゃすよ! どうですにゃ? 転身してみるのは」
そんな俺に、ニャジッタが声をかけて来る。
いやあ褒めてもらえるのは嬉しいが、レースピアの代表から転身する気は……って、マジックブレイカー? 何それ?
俺はニャジッタの言葉の中にあった知らない単語をそのまま聞き返す。
……いや、字面でちょっと予想出来たな。
「マジックブレイカーとはその名の通り、魔法を破壊する武器の総称ですにゃ!」
やっぱり。
ニャジッタ曰く。
マジックブレイカーというのは俺の想像するようなそれでいいらしい。
要するにアレだ、前世のアニメとか漫画とかでも見たような、放たれた魔法に対し振り下ろしたらそれを切り裂ける……とか。
魔方陣に対して振り下ろしたらその魔方陣を破壊できる……とか。
そういう感じのアレがマジックブレイカー。
そしてこのマジックブレイカーは宝装具に対しても有効らしく、例えば宝装具の守りの効果を貫いて対象を切る、などということも出来るらしい。
だが俺の宝装具がそんなマジックブレイカーの攻撃すらも防いだように、宝装具……というか魔法側の効果が強ければマジックブレイカーに破壊されることはないのだとか。
しかし、そんな芸当はマジックブレイカーより魔法側の方がかなり強くないと不可能なため、ニャジッタはかなり俺の宝装具を褒め称えに来ているわけだな。
というか何で宝装具のテストにそんなものを使ったんだ?
「申し訳ありません、知らなかったそうです」
剣を持ってきたハイコボルトから話を聞いたルシュがそう言う。
「どうやら剣を借りて来る際、好きに選んでいい、と言われ……それで選んだものがたまたまそれだったと」
なるほど、たまたまマジックブレイカーを選んでしまったというわけか。
それならしょうがない……。
……何でそんなマジックブレイカーとやらがここにあるんだ?
「それはもちろん作ったからですにゃ!」
俺の疑問に当然だ、といった顔でそう答えるニャジッタ。
「マジックブレイカーも広義では宝装具に入りますにゃ。鉱物を加工し効果をつける、というところは同じなので。まあ王道からは外れにゃすが……。まあとにかく、我々もマジックブレイカーを作る技術は持っていますにゃ。ですから宝石職人に興味を持ってくれたドワーフの皆さんと試作しましたのにゃ。それがこの……」
ニャジッタは剣を持っていたハイコボルトから受け取り、高く掲げて言う。
「マジックブレイニャー一号!! なのですにゃ!!」
……まあ、うん。
名前は自由だしな。




