189.エンジン
「「「代表様、ご覧ください!」」」
俺の目の前で目をキラキラと輝かせながらそう言ってくるハイコボルト、ハイドワーフ、ハイデモンズの小集団。
その言葉に、彼らの前に鎮座しているものに目を向けると、そこにあったのはトロッコ。
しかし……そのトロッコは俺たちが前まで使っていたものよりかなりごつくなっていた。
これは?
「はい! これらが我らの努力の結晶……魔導トロッコです!」
魔導トロッコ?
ある秋の日。
俺はいつものように坑道を掘り進めるため、巨大鉱山に向かっていた。
そして坑道に入る前、とあるハイコボルトに呼び止められた。
この巨大鉱山の近くに来る者は基本ドワーフとノームだけだ。
いや一応鉱石の運搬のためにケンタウロスも来るか。
まあともかくコボルトが居るのは珍しかったので、気になった俺はホイホイと着いていったわけだが……いや別に住民の頼みなら別に気にならなくても着いていくけどな。
まあともかく。
俺は着いていった先で、目を輝かせた三人に魔導トロッコとやらを見せられたわけだ。
えー……それで魔導トロッコって……?
字面でちょっと予想は着いたが、素直にそう聞いてみる。
すると。
「よくぞお聞きくださいました!!!」
俺をここまで連れてきたそのハイコボルトが大きく声を上げ、バッ! とそんな音すら聞こえるほどの勢いで詰め寄ってくる。
ちょっとびっくりした。
「魔導トロッコとはその名の通り魔力を用いて動くトロッコです!」
まあそうだろうな……。
むしろその名前でそうじゃなかったらどうしようかと。
「これは今までのトロッコとは一線を画すものなのですじゃ!」
ハイコボルトと同じく、ハイドワーフも詰め寄ってきてそう口に出す。
「この魔導トロッコを導入することにより、採掘効率はこれまでよりグンと跳ね上がるでしょう!!」
ハイデモンズも来た。
あー……うん。
分かったからちょっと落ち着いて……。
その後。
俺は十分ほどかけ、三人の興奮を鎮静させて話を聞いた。
それによると。
ふむ? 魔石さえあれば押さずとも進む……?
「「「はい、その通りです!」」」
どうやらこのトロッコは俺の思った通り、人力不要で進むトロッコらしい。
現在。
このレースピアに存在するトロッコは全て人力を必要とするトロッコだ。
下り坂だったら押さずとも動くが……上り坂や平坦な道はどうしても押すか引くかしなければならない。
レースピアにはエンジンとかそんなもの無いからな。
いずれは作りたいと思っていたんだが、流石に素人の俺じゃ難しく後々に回し続けていた。
だがこの魔導トロッコは、その無かったはずのエンジンが取り付けられたトロッコなのだとか。
あえて言うなら魔導エンジンとでも言うべきそれは、燃料として投入された魔石から魔力を抽出。
その魔力を用いてエンジン内部でピストン運動を起こし、それを回転エネルギーに変換する。
らしい。
「契機となったのは代表様のお言葉です!」
俺の?
少し落ち着いたとはいえまだまだテンションの高いハイコボルトがそう言ってくる。
「はい! あれは春のこと。代表様は我らに英知を授けて下さいました」
「エンジンなる物の存在と大まかな構造! あの時より我らの探求が始まったのですじゃ……!」
……そんなこと教えたか? 俺?
覚えがないんだが……。
本当に覚えがない。
エンジンのこと教えるとかそんなことしたんなら覚えているはずだが……。
「あの時代表様は酔っておられたようですからね。記憶が薄れていてもおかしくないかと」
何やってんだ俺!
酔って記憶を飛ばしていたという事実に俺は頭の中で悪態をつく。
酒はほどほどにしよう、ほんとに。
まあともかく……それで作り始めたと?
「はい、あの時一緒に聞いていた他の二人と協力して。手先が器用な私が設計と組み上げを担当し」
「儂が十分な強度を持った部品を作り」
「私が魔力を燃料とするための術式を刻みました」
……なるほど。
それぞれの得意分野を活かし、協力して作り上げたって訳か。
種族の垣根を超えて協力し、一つの成果を作り上げる。
ちょっとジンと来るな。
「まあ道中何度か手が出かけるほどの喧嘩起こしましたけど……」
「あれはお主の要求が高いのが悪いんじゃろうが!」
「ほんの米粒サイズの所に魔方陣を刻めと言われた時はグラッと動きましたね。拳が」
ジンが引っ込んだな。
「まあいろいろありましたが! 無事に完成したわけです! なので代表様にご覧いただきたく!」
うん。
正直かなり興味がある。
早速動いている所を見せてもらおう。
と、いうわけでやってきたのは、坑道の入り口から少し離れたところに作ってあるトロッコ置き場。
どっちかって言うなら車庫って言った方が良いか? まあいい。
とにかくここにはトロッコを試作していた時の名残で直線やらカーブやら上り下りやら、いろんな線路が引いてある。
いずれ使うかもしれないと思って撤去はしてなかったからな。
思ったより早く使う機会が来てよかった。
さて、そういうわけでまずは直線の線路に魔導トロッコを乗せる。
通常のトロッコよりごつく車体が大きいため、ちゃんと線路に乗るのかと一瞬思ったが、問題なく乗った。
車体を大きくしても、車輪の間隔はしっかり維持して作ったらしい。
まあそりゃそうか。
「よし、それでは魔石を入れますぞ……!」
車体と線路の最終確認を終えたハイドワーフがそう言い、車体後方に存在する魔導エンジン、その蓋を開け、中に魔石を投入した。
それを受けた魔導トロッコは早速線路を進み出……さない。
……? どうした? 何か不具合が?
一向に動く気配を見せない魔導トロッコの様子に俺がそう聞くと。
「いいえ、これで設計通りです。魔石を入れた瞬間動くのでは予期しないタイミングで動くことがあり得ます。例えばまだ乗っていないのに先に魔石を投入してしまった場合など。それを避けるため、魔石を入れ、その上で操作しなければ動き出しはしません」
……なるほど。
よく考えられている。
確かに魔石を入れた瞬間動き始めるのでは危険でもある。
無いと思うが、線路上に人が居る時。
その時に魔石を入れるだけで動いてしまったら事故待ったなしだからな。
素晴らしい設計だ。
「ありがとうございます!」
……それで、魔石を入れただけじゃ動かないのは分かったが、それじゃあここからどうやったら動くんだ?
「ここですじゃ」
俺がそう問うと、エンジンの上部、先ほど魔石を入れる際に開けた蓋の真横を示される。
そこには淡く光を放つ魔法陣が存在した。
「魔石を入れるとこの魔方陣に光が灯ります。この状態でこれを操作すると……」
そう言いながら、ハイコボルトとハイドワーフの二人を乗せ、横からハイデモンズがその魔方陣を操作する。
すると。
ギギッ……!
そんな音を立てながら……魔導トロッコは進み出した。
最初こそ少しゆっくりだったもののすぐに速度に乗り、おおよそ百メートルほどの直線線路を十秒ほどで走り切った。
……ところでアレ止まるのってどうやるんだ?
「心配はいりません。しっかり止まるよう操作も出来ま……」
と。
トロッコの発車操作を終えた後、俺の横に控えていたハイデモンズが俺の問いに答えた瞬間。
ガシャガシャァンッ!!
そんな音と共に、俺の目線の先百メートルほど向こうの線路の終端にたどり着いたトロッコが勢いを殺しきれないまま車止めに引っかかって、前転して転がっていった。
わー……トロッコの前転なんて初めて見た……。
……じゃない!
救護救護!
病院に連絡してくれ!
俺はトロッコの事故現場へとダッシュした。




