187.キノコ料理
これは……もしかしてマツタケでは? ここにあるのはシメジ、これはシイタケ……。
街の中でフラフラしていたマイコニンたちを追ってたどり着いた先。
果ての森の鬱蒼としたエリアの少し開けた場所を歩き回りながら、俺はそう独り言ちる。
フラフラ街から出て行ったマイコニンたちが転がりながら笑い声をあげていたそこには俺の知識の中のものとほぼ同じ……ような気がする……キノコが生えていたからだ。
いや俺の知っているものとは結構大きさとか違うけど。
「いひひ……なるほどこれで……」
俺と同じように。
歩き回ってキノコを確認していたニチャもそんな独り言を漏らしていた。
なるほどって?
「いひ? あぁ……代表様には言ってなかったっけぇ……? 私たちマイコニンは……キノコが大好きなんだよぉ……」
へぇ……。
うん。
まあ、正直だろうなって感想。
マイコニンって茸人族とも言うし、イメージ通りだ。
「うんうん……それでねぇ……ここのキノコたち……すっごくジーメなんだよぉ……」
うん、なんて?
「いひっ……そう……ジーメ過ぎるよぉ……」
「こんなの漂わせられたらそりゃあ誘われちゃうってもんだよねえ……」
「ふひ……もちろん……」
……うーん?
まあ、よく分からないけどじめじめした良い感じの気配って事か? マイコニンにとって。
「それで街中からも誘われちゃったってわけだね……若いマイコニンにはよくあるよ……」
なるほど……そうだったのか。
つまりはいい匂いに誘われてついそこに足を向けちゃう……みたいな現象のマイコニン版って事だな。
何かの病とかそういうことじゃないみたいで安心した。
と、安心したところで。
俺の思考は次に移る。
心配事が無くなったところで……このキノコ、美味しいのか?
そう、知識にあるものと似たキノコならその味も似ているのかどうか気になるのが当然というもの。
少なくとも俺はそうだ。
「え? そりゃあ私たちにとっては美味しいけどぉ……代表様たちにとっては……そもそも食べられるかどうかぁ……」
「はい、少々危険かと」
周囲の警戒をしてくれていたハイラも会話に加わってくる。
「キノコは強い毒性を持っているものも多く、何より毒かどうか見ただけで判断するのがとても難しいです。我らエルフもかなり切羽詰まりでもしなければ基本的には食べません」
ふむ、まあそこは前世と同じだな。
前世でも素人判断で食べるとか危険中の危険だったし。
「私たちはどんなキノコでも食べられるけどねぇ……いひひ……」
……それはちょっと……いやかなり羨ましいかもしれない。
なんせ猛毒のベニテングタケとか味は凄く美味しいって聞くもんな。
食べたらあの世行きだけど。
まあともかくそれは問題ない。
毒性の有無は俺なら創造神器で見分けられる。
早速周囲に生えているキノコに向けてみるが……反応はない。
これらのキノコは毒を持っていないようだ。
そうと決まれば……。
「キノコの採取ですか? 分かりました、代表様がそうおっしゃられるのであれば」
「こっちも別にいいけどぉ……出来れば取りつくすのは……」
もちろん分かってる。
半分ほどは残す。
出来れば増やしたいからな。
「「(分かりました/分かったぁ)」」
そうして。
皆でキノコの収穫をしていると。
「あれは……。代表様、念のためお下がりください」
途中、何かに気づいたハイラが俺の傍に来たかと思うと、手で俺をかばうようにして陣取った。
ん? どうしたんだ?
ハイラのその行動にはてなを浮かべながら周囲を確認する俺。
だが何も分からない。
目に見えるものは鬱蒼とした森だけだし、耳に聞こえるものは擦れ合って音を立てる葉の音くらいだ。
だがハイラには別のものが見えて聞こえているようで。
「ボロスピッグが一頭とハイコボルトが一名こちらに近づいています。様子は……ボロスピッグが興奮しているようで、ハイコボルトの方は何とか落ち着かせようとしていますね」
うん? どういう状況だ?
そのまま少し待っていると、俺たちの居る開けた場所に本当にボロスピッグが一頭とハイコボルトが一人やってきた。
様子もハイラの言った通り、ボロスピッグはふんふんと鼻を鳴らして興奮していて、ハイコボルトはそれを落ち着かせようとしている。
そしてハイコボルトはハッとこちらに気づいた様子で声をかけてきた
「代表様っ!? すみませんこれはっ!」
焦った様子でぺこぺこと頭を下げてきたので、とりあえず落ち着かせて話を聞く。
その話によるとどうやら……少し前、急にボロスピッグが何頭か興奮しだしたらしい。
急なことに驚きながらも世話係たちはその大半を落ち着かせた。
しかし一頭のみどうしても落ち着かせることが出来ず……畜舎を脱走。
ここまでやってきたということらしい。
「本当にすみません! 罰はいかようにも……!」
いやそんな大げさな……大半は落ち着かせられたんだろう? ならむしろ褒めるべきことだろう。
「ですが……!」
あー……なら、うん、あれだ。
次はこういうこと起こさないように改善を頑張ってくれ。
「……分かりました! もう二度と! 脱走騒動など起こしません!」
いや、そこまで気合い入れすぎる必要は……まあいい。
とりあえず再発防止のためにもボロスピッグが何でここに来たのか調べないとな……。
そう思って俺はボロスピッグの方を見る。
するとボロスピッグは周囲の地面をふんふんと嗅ぎながらあっちへこっちへと動き回っていた。
うーん、何してるんだこれ?
と、俺が考えたところで天啓が走る。
……いろいろなキノコが生えている場所で……豚が地面を嗅ぎまわっている……。
これトリュフでは?
トリュフだった。
俺は手の中に存在する野球ボールほどの大きさの黒っぽい塊を眺めながらそう思う。
いやトリュフの実物見たこと無いから分かんないけど。
しかもトリュフってこんな大きいものじゃない気もするけど。
ふごふごっ!
だけどこれらを掘り当てたボロスピッグはとても嬉しそうな様子でトリュフを口に……は、せずに、至近距離で匂いを嗅いでいる。
食べるんじゃないんだ?
……え? これは食べるものではなく香りを楽しむもの? この豊かな香りが本体であって味はおまけ? ……そうなのか……。
何だろう、品性でボロスピッグに負けた気がする。
まあいい。
とりあえずこのボロスピッグにはエレガンスという名前を付けるとして。
俺は味も気になるので食べることにする。
俺はトリュフにとても興奮しているマイコニンたち、収穫したキノコを抱えてくれているハイラ、次は脱走騒動など起こさないぞと燃えているハイコボルト、それとエレガンスを引き連れ街に戻ることにした。
そうして。
戻ってきたので早速調理タイムだ。
まずはシイタケ。
これは素直に焼く。
天辺を下にして、網に乗せてじっくり。
傘からじゅわっとした液体が出てきたら食べごろ。
醤油を数滴たらして食べる。
「これはっ……美味い!」
「キノコがこれほど美味しいとは……!」
「まるで肉の旨味……!」
次、シメジ。
これはパスタにして食べる。
塩と醤油で炒めたシンプルなヤツ。
「シンプルなのにとても奥深いです」
「スルスルと入ります」
「ホッとする味だね」
そして次、マツタケ。
何も言うことがない。
王道の炊き込みご飯。
「おっ……美味しすぎるっ……こんなに美味しいなんてっ……!」
「これキノコなの? ほんとに? 私を騙してない?」
「美味い! 美味い!」
そしてトリュフ。
これもスライスしてパスタに。
「素晴らしい匂いです……」
「いつまでも嗅いでいられそう」
「食べるのがもったいない」
その日の食卓には大量のキノコ料理が並び、その全てが大好評だった。
シメジとシイタケは前世の物より美味しいと感じたし、マツタケに至ってはとてつもない美味だった。
トリュフも確かに味よりは匂いの方が素晴らしかったものの、味も美味しかった。
シメジもシイタケもマツタケもトリュフも皆また食べたいと口をそろえて言っていたな。
というわけで、満場一致でキノコ栽培という仕事がマイコニンに増えた。
頑張ってほしい。
「いひひ……いひひひ……確かに人手余り気味だったって言ったけどぉ……。……がんばろ……」




