185.改良された食品
「いひひ……こんにちは……代表様……。それでいきなりなんだけど……何その姿勢……?」
色々と落ち着いて、俺がやることも大分落ち着いてきたある日。
俺は前々から考えていたことを依頼しようと、マイコニンの代表ニチャに来てもらっていた。
扉を開けて執務室に入ってきたニチャに対して、俺は机の上に肘をつき、組んだ腕に顎を乗せている姿勢。
なんか凄く圧迫感のある面接官みたいなポーズだ我ながら。
ニチャが困惑するのも無理はない。
……これは気にしないでくれ。
ちょっとテンションが抑えきれないだけだから。
「は、はぁ……?」
ニチャは困惑しながらも、とりあえず流すことにしたみたいだ。
さて、それじゃまずは……。
早速だが……”アレら”は持ってきてくれたか……?
「何でそんな持って回ったような言い方を……? まあ持ってきたけど……これでしょぉ?」
言いながらニチャが取り出したのは……醤油やみそを筆頭とした、マイコニンたちに作ってもらっていた発酵食品たち。
よしそれだ! ありがとう!
「うひゃあ!?」
凄く圧迫した雰囲気からいきなり大声出して詰め寄った俺にニチャはかなり驚く。
申し訳ない。
けれど抑えられなかった。
「びっくりしたぁ……。いつも食べてるんだからそんなに突っ込んでこなくても……」
胸に手を当て頬を赤らめながらそう言ってくるニチャ。
申し訳ない。
いつも食べていたとしてもどうしてもテンションが上がってしまうものなんだ。
だが確かにテンションが上がったとは言っても、流石に失礼だったな。
すまないニチャ。
「い、いいよぉ……別に嫌ではなかったしねぇ……」
頬を赤らめたままそう言ってくるニチャにそこはかとなく危機感を感じたので、話を変えて早速机の上に持ってきたものを並べてもらう。
「え? ……うん、分かったよぉ」
そうしてせっせせっせと机の上に並べてくれたものは。
醤油。
味噌。
みりん。
納豆。
酢。
料理酒。
日本酒。
俺がマイコニンたちに依頼して作ってもらっていた七つの発酵食品……?
ん? あれ? おかしいな。
八つ目があるんだが……。
容器に入れられ並べられた食品たちの最後。
紫色の液体の入った容器が、しれっと並べられていた。
これは……? いやこの色、もしかして……。
「? これはワインだよぉ? これも代表様に頼まれ……頼まれ……ん゛っ!」
言葉の途中。
いきなり何か重大な事に気が付いたの如く、ニチャは驚声を出してバッ! と俺から顔をそらす。
いや如くって言うかまんま重大な事に気が付いたなこれ。
えぇっとニチャ?
「な……何でしょう代表様……?」
いきなり敬語になるニチャ。
俺はワインを作ってくれとは頼んでなかったはずだよな……?
そう。
原料となるぶどうは取れ始めていたが、俺はお酒にするより普通に食べる方が好きな方だったので、ワインにするように頼んではいなかった。
まあそのうち頼もうとは思っていたけどな、お酒好きな住民も結構多いし。
だが現時点では頼んでいなかったし、工房も作っていなかったし、創造神器でワイン用の酵母とかも作っていなかった……はずだ。
そのはずなのに、今俺の目の前にはワインがある。
これはいったい?
「あのぉ……そのぉ……これはぁ……」
かなりしどろもどろになったニチャから聞き出したことによると。
どうやら春を越した夏前あたり。
他の種族と同じく少しずつではあるが、順調にその数を増やしていたマイコニンは、その時気づいたらしい。
人手が余ると。
俺が頼んでいた発酵食品の量産と改良にかなり多めに人員を割り振ってもそれなりの人数が余ってしまう。
それではどうするかと考えたところ……他にも作ろうと結論が出た。
他の種族の手伝いとかするんじゃダメだったのか? とは聞いたが、大した助けにはならないだろうし、多種族に自分から関わりに行くのはどうしても少し怖い、とのことだった。
うぅん……ちょっと気持ち分かっちゃうから何とも言えないな……。
それで、新たに何を作るか相談したところ、新たに街にやってきた者たちがワインの作り方を知っていた。
それならばということでワインを作ることにしたらしい。
そして夢中になってワインを作っていたら、いつのまにかこれも代表……俺に頼まれたものだったと錯覚し。
成果を持ってきてほしいと言われたからワインも持ってきてしまった、と。
そういうことだったみたいだ。
「うぅ、ごめんなさい……」
自分から床に正座しだしたニチャがそのまま頭を下げてくる。
その顔は青くなっており、心なしか部屋の湿度が上がった気がする。
いや、まあ、うん。
確かに勝手にやってたのはアレだが、別に悪いことやってたわけでもないんだし。
原料のブドウ勝手に使ってたとかなら問題だが……使ってないよな?
フォローの途中で思い至りニチャにそう聞いてみるが。
「使ってないよぉ……ちゃんと自分たちに与えられた分から使ったし、商会が出来てからはそこから買ってたからぁ……」
それなら良い。
というかそれなら本当に怒ること無いな。
「ほんとぉ……?」
ほんとほんと。
「それならよかったよぉ……ふぅ……一時はどうなることかとぉ……」
安心したようにほっとした顔で立ち上がるニチャ。
心なしか部屋の湿度も下がった気がする。
とにかく……自分たちに与えられた分だけでやってたんだからこっちが何か言うことはない。
というかむしろいいのか? 自分たちだけで頑張って作ってたワインを味見してしまっても。
今回発酵食品を持ってきてもらったのは、マイコニンたちに改良してもらったそれの味を確かめるためだ。
なので構わないのか、とニチャに聞いてみたところ。
「もちろんいいよぉ。頑張って作ったワイン……代表様に飲んでもらいたいからねぇ……」
全く躊躇するそぶりも見せずに彼女はそう言ってくる。
ニチャ……。
「それに……いひひっ! これで美味しいって言ってもらえたらぶどういっぱい貰えるかもだし……!」
ニチャ……。
まあうん。
別に味わうまでもなく融通しても構わないけど。
どうせそのうちこっちから頼もうとは思っていたことだし。
「ほんとぉ!? いひっ……ありがとう代表様っ……! でもそれはそれとして味わってみて欲しいな……自信作だからっ……!」
目を輝かせながらそう言ってくるニチャ。
まあそういうことならありがたく味わわせてもらおう。
と、言うわけで品評会が始まった。
いや、品評するの俺一人だから会というのか微妙だけど。
まあとにかくまずは、俺が改良を頼んでおいた発酵食品から。
醤油、味噌、みりん、酢、料理酒。
これらの調味料系は少しだけ小皿にとって一舐めしてみる。
うん……美味い!
俺は別にあまり舌に自信がある方じゃないが、それでも旨味が強くなっているように思う。
塩味や酸味も凄くはっきりしている。
実際に料理に使ってみたらもっと鮮明に分かるかもしれない。
早速使ってみたいな……。
そのままの勢いで次。
納豆。
いやぁ改めて感動する。
異世界で納豆が出来上がっていることに。
前世で納豆は結構人を選ぶ食材だったが、それは異世界でもそうだ。
俺はかなり頻繁に食べているが、食べない住民の方が多い。
まあその代わり……と言ってはなんだが、熱烈な愛好家が生まれていたりする。
主にマイコニン。
「だって美味しいよねぇ! このねばねば! 風味! 神様が作った食べ物だよぉ!」
いや作ってるのはニチャたちだけどな。
さっきとは逆で今度は興奮したニチャが俺に詰め寄ってきた。
分かる。
とても美味しい。
それにこの前、昆布出汁からそれっぽい納豆のたれを作ってみたから、食べる住民も増えるだろう。
「たれ!? 何それ代表様!?」
ニチャの興奮が留まるところを知らない。
俺はスッ……と隠し持っていたたれを取り出し、早速納豆にかけてかき混ぜ、ニチャとともに賞味する。
すると。
「いひっ……いひひひひひひひっ……!」
ニチャが壊れたラジオのように笑い声だけを上げ続ける納豆混ぜ機と化してしまった。
ちょっと不気味。
にしても素晴らしい、改良納豆。
旨味が強くなっているのはもちろんの事、触感も柔らかくもなく硬くもない絶妙なラインに変貌している。
素晴らしい。
「素晴らしいのはたれの方だよぉっ!」
うわっびっくりした。
いきなり復活したニチャが額がくっつかんばかりに顔を近づけそう言ってくる。
「この深い旨味! これが納豆と融合して納豆の味をさらに二段階ほど引き上げてる! なのに全然しつこくなくどれだけでも食べられる後味だよぉ!」
そのまま凄くまくし立ててくるニチャ。
いや確かに頑張って作ったがこれほど美味しいのはニチャたちがここまで美味しい納豆を作ってくれたからで──。
「いやいや確かに頑張ったけどここまで美味しいのは代表様のこのたれのおかげ──」
そんな感じで。
俺たちは二人して、そちらが、いえそちらの方が……、とお互いを誉め合うフェーズに入った。
そうして俺たちはお互いを絶賛しながら品評会を終え……。
……いや、ワインと日本酒!!




