184.火柱騒動
レースピア文化祭も無事終わり、気温もかなり落ち着いたとある秋の日。
俺は過ごしやすくなったレースピアの街で……。
「そのぉ……ほら、アレじゃ! 確かにやったことは事実ではあるが……そう! いろいろ貢いでもうこういうことはさせないって約束を……!」
リーア。
「な……なんじゃ?」
正座。
「……のじゃあ……」
リーアを正座させていた。
発端は今日の昼。
屋敷の近くで巨大な火柱が上がったことだ。
……いや発端じゃないなコレ。
全てだな。
まあともかく。
いきなり街の中に巨大な火柱が上がる光景を屋敷から目撃した俺は、その光景に一瞬放心し……そして火の粉が周りの雑草に着火したのを見て即座に我に返った。
俺は屋敷の者たちに、消防隊を出動させるように要請すると、急いで火柱の上がった方へ急行。
消防隊が来るまでなんとか被害を食い止めようと、創造神器のうちわで何とか火の進行を抑えようとした。
そんな努力をしていると……なんと数分もせずに消防隊は到着。
消防隊たちは水魔法をスプリンクラーのように拡散させ、まるで局地的な雨のようにし、周囲につき始めていた火を消火した。
その光景に、俺はホッと一息吐いたがすぐに再び息を飲む。
なぜならそんな消火活動の中にあっても、最初に上がった火柱は消えていなかったから。
何で消えないんだ? というかこの火柱、出現してから今までずっと消えてないじゃないか……おかしくないか?
消火が進み大分冷静になった頭で俺はそんなことを思う。
すると。
「なんじゃなんじゃ。雲も無いのに急に雨とはどうなっておる」
火柱の向こうからそんな声が聞こえ……。
「……うん? お主? それに他の者も……どうした、そんなに慌てた顔をして」
火柱が消えたと思ったら、中からリーアがそんな事を言いながらきょとんとした顔で出てきた。
そうして今に至る。
「いや……そのじゃな。確かに何も言わずにやったのは悪かったが、結果的に大して焦げてもないし正座はもう……」
継続で。
「ぬぅぅん……」
ずーん、と、頭と尻尾を下げ明らかに落ち込む様子を見せるリーア。
いやそんな落ち込まれても街を火の海にされかけたのは事実だからな。
しっかり反省して欲しい。
……まあ、こういう時の為に消防隊を作ったんだし、さすがに街全体が火の海にはならなかったと思うが。
それで言うなら消防隊の活躍は凄かった。
場所が結構近かったとはいえ、要請してから数分もかからずに現場に到着して消火活動に入っていたからな。
素晴らしかった。
そんなことを考えていると。
「あるじ~。この辺りの火は完全に消えたよ~」
消防隊の責任者として来ていたフィーネが俺にそう声をかけてくる。
最初に任せたときはちょっと大丈夫かとも思ったがしっかりやれているみたいだな。
ありがとうフィーネ。
俺もそう言葉を返しつつフィーネの方に向き直る。
すると見えた光景はところどころ黒く焦げてしまっているが、大した範囲は燃えていない大地の様子。
消火が早かったからこの程度の被害で済んだな。
重ねてありがとうフィーネ。
きちんと訓練を重ねてくれていたおかげだ。
「ぜんぜん~。あるじの助けになれたならよかった~」
ふわふわと俺にそう言ってくるフィーネにもう一度礼を言い、俺はさて。と、リーアの方に向き直る。
それでリーア……何でこんなことを?
「? 何で? 見れば分かるじゃろう?」
リーアはきょとんとした顔をする。
……うん。
まあ正直……火柱が消えた後に見えたモノのおかげでちょっとは分かっているが、念のためリーアの口から聞いておきたい。
「まあ、お主が聞きたいならば構わんが……何でやったかと問われれば肉を焼くため、じゃな!」
やっぱりか。
俺は目の前に見えているもの……解体もされず丸ごと丸太に括り付けられ、焦げてしまっている二頭鹿の姿を見ながらそう言った。
「この前文化祭でやっとったじゃろ……? あの大きな火で大量の肉を焼く料理。あれなら我にも出来るんじゃないかと思ったのじゃ……」
正座を続けているリーアがそう口に出す。
大きい火とは言うがあんな天に迫るかのような火柱じゃなかったし、そもそもちゃんと大型の鍋使ってやってたし、というか肉だけじゃなく野菜もちゃんと切って処理してから焼いていたし、ちょっと聞くだけでも大分突っ込みどころあるんだが。
「まあそんな些細な問題どうとでもなるじゃろ」
ならないから料理技術があるんだけどな……。
「そういうわけでちょっと火を起こしてアレを焼いたわけじゃ……焦げた上に周りに燃え移るとは思わなかったが……」
そのままそう続けるリーア。
いやあんな火柱起こしておいて周りに燃え移らない訳ないだろうまったく……。
今回の件はリーアが考え無しに火を使った結果起きたある意味事故だったらしい。
言っといてなんだが普通こういうことやるの子供じゃないか?
まあ意図しての事ではないし、悪気もなかったみたいだし……結果論ではあるが大して被害は出ていないので、この辺にしておくか。
今後は相談なしに今後はやらないようにと厳重注意してリーアを解放する。
「あ、ありがたい……でも……しびれたのじゃぁ……」
解放はしたが。
どうやらもう足はしびれてしまっていたらしく、リーアはうつぶせに倒れ込んでしばらくモゾモゾとしていた。
さて。
急に火柱が上がったり消火活動が行われたり、大して被害が出てないと思ったらその後心配した住人たちが屋敷に押し寄せ無事だということを説明するのにかなり手間取ったりと色々あったが、まあとりあえずは落ち着いたので。
同じく落ち着いたリーアに料理を教えていくことにする。
「急に連れてこられたかと思えば……なぜじゃ?」
教えておかないとまたやられたら困るから。
「我に対する信用ないのか?」
あんまり。
「のじゃ!?」
いや当たり前だろう。
今のところ俺のリーアのイメージ体の大きい子供って感じだぞ。
「ぐぬぅ……! いいのじゃ、ならばそのイメージを覆してみせよう……!」
理由はちょっとアレだがやる気は出したみたいだな。
そういうわけで早速作っていく。
とりあえずいきなり難しいことやっても身に付くわけないから、食材を切って焼くだけのシンプルなヤツから行こう。
俺は早速屋敷に運び入れておいたリーアが焦がした二頭鹿を解体し、内部の焦げていない部分の肉を切り出す。
食材を無駄にしないためだ。
にしても思ったより芯の方まで炭化してたな……。
「我の炎じゃからな! 当然じゃ!」
ドーン、と胸を張るリーア。
……まあ、確かに火力は凄かったな、ほんと。
そのまま切り出した肉を一口大に切り、焼く。
「ふむ? お主や他の者がいつもやっておるようにいろいろしなくて良いのか……?」
最初だからな。
これくらいシンプルで良い。
というか俺も最初はこんなもんだったし。
「そういうものかの……」
そう言いつつリーアは俺に倣いおっかなびっくり肉を焼いていく。
菜箸を使わず素手で鍋の中の肉をひっくり返し始めたのは驚いたが……。
「そんなもの使うよりこうした方が早いじゃろ」
まあ、リーアはドラゴンで頑丈なのは分かるが、次からは菜箸使ってくれ。
衛生面も心配になるし。
「エーセーメン……? まあよく分からんがお主がそう言うのであれば構わぬ」
頼む。
そんな話をしていると料理はすぐに完成。
先ほど正座を味わったからか、リーアは俺が言ったことしかしないのでとてもスムーズに進んだ。
作業の節々を見ている限りちょっと……うん、ちょっと細かい作業になれていない感じだったので、難しい料理を作るのはもしかしたら難しいかもしれないが、シンプルなものなら十分作れるだろう。
「美味い! 美味いのじゃ! 焼いて塩と胡椒とやらをかけただけでこれほど……美味い!」
早速自分が焼いた肉を食べているリーアはご機嫌だ。
分かる。
自分で作った料理って何故か美味しいんだよな。
ふぅ。
色々と焦らされる一日だったが、こんな笑顔を最後に見られたなら……まあ、良い一日だったな。




