183.レースピア文化祭二日目
「さあ! それではレースピア文化祭、二日目! 無形部門を開始します!」
「「「わぁぁぁぁーーーーーっ!!」」」
明けて翌日。
盛況に終わった一日目から住民のテンションは落ちることなく、レースピア文化祭は二日目に入った。
いやまあ、皆のテンションが高いのは前日夜、俺もテンション上がってお酒とか料理とかいろいろ作って提供したのもあるかも。
まあ活気があるのはいいことだろう。
「それでは早速参りましょう! エントリーナンバー1!」
会場の熱気に負けず劣らず高揚しているフォイルはそう言うと、バッ! と、開始の宣言をする前からステージを覆っていた布を払う。
そこにあったのは……というか居たのは……。
「トゥーナ様率いる歌唱隊による”合唱”です!」
フォイルの言葉通り、ステージ上に取り付けられた巨大な水槽の中に居たのはマーメイドたち。
トゥーナを先頭として規則正しく並んでいる。
そしてトゥーナが腕を上げたかと思うと、マーメイドたちは綺麗にそろって一礼。
そして……。
「~~~~♪」
歌いだした。
「ありがとうファンタスティックございました! 実にファンタスティック素晴らしい歌でした! ファンタスティック!」
およそ十分後。
かなり言葉遣いがおかしくなっているフォイルが歌唱を披露してくれたマーメイドたちに礼を言う。
その言葉と同時に万雷の拍手がステージに送られている。
いや、素晴らしかった。
俺も惜しみのない拍手を送る。
本当に凄かった。
確かに俺の中でマーメイドは歌が上手いというイメージがあるが、そのイメージを損なわない……いやむしろ上回る歌唱だった。
何といえばいいか……透き通ったように、心に染みわたってくるいつまでも聞いていたいと思うような歌声。
船乗りが誘われる……なんて話も納得できる。
「あのぉ……歌で誘うのはセイレーンであってマーメイドではないんですけどぉ……」
拍手が止んだ後。
特別席に戻ってきたトゥーナがそう言ってくる。
ステージは今水槽が片付けられているな。
というか異世界にもあるのかそういう話。
「ありますよぉ、そのおかげでマーメイドは誤解されて大変なんですからぁ!」
珍しくトゥーナが語気強くぷりぷりと怒っている。
セイレーン? と間違えられるのはかなり腹に据えかねるらしい。
「もちろんですよぉ! セイレーンは私たちと違ってれっきな魔物ですぅ! それを海に居て人と姿形が似ているからのは同じだからって一緒くたにしてぇ……! こっちは誘って海に引きずり込んだりなんかしないのにぃ……!」
うん。
まあ色々とあったらしいマーメイドにも。
ていうか歌で誘って海に引きずり込む魔物も居るんだな……クソデカサメ魔物といいこの世界の海怖いな……。
俺はそんなことを思いつつ、どうどうとトゥーナを落ち着かせる。
そうやって落ち着かせていると、水槽の撤去は終わり、観客たちやフォイルもテンションが下がった……とまでは言わないが、熱狂からは冷めたようだ。
「さあ! いきなり素晴らしい歌唱でしたが発表はまだまだ続きます! 次の発表は……”物語”です!」
そうフォイルが言うと同時、幾人かのデモンズがステージの上に上がる。
そして拡音石マイクを使って……朗読を始めた。
「……そしてネイドはこう言った。それはニュウーチョだろう、と!」
──ドッ……!
幾つかの朗読発表が始まった後。
さまざまな物語に観客たちは時に涙ぐんだり、時には今のように大笑いしたりしていた。
うーん、だけど残念ながら……俺は乗り切れなかったかもしれない。
この世界の知識全然ないからな。
今のもどこが笑いどころだったのかよく分からない。
「ですよねぇ……地上の方は今のどこが面白かったんでしょうぅ……? ……あっ! いえっ! これは悪口ではなくてですねぇ!?」
「ご安心を、分かっています。……ところで今のはニュウーチョとキーンムの関係を知っていればさらに面白くなるお話でして……お話いたしますと……」
特別席にはトゥーナを筆頭に、よく理解できていない勢と、リネイアを筆頭に理解できている勢が混在していた。
理解できている側が今のはこうだったんだ、と解説している。
……俺にも来た。
「代表様、僭越ながら解説させて頂きますと──」
うん。
こういうのは楽しむのにもある程度教養がいるな。
「クッ……次はもっと万人に分かりやすい物語にします!」
「次は代表様もドッカンドッカン笑わせて見せますから!」
これは後から俺が少し困惑していたと知った発表者たちの言葉。
うん。
楽しみにしている。
頑張ってほしい。
「さあ! それでは次に参ります! 次は、家事妖精たちによる”料理”です!」
それは無形判定で良いのか?
俺の疑問と同時に出てきたのは数人の家事妖精たち。
その後ろには十人ほどのハイコボルトたちが大きい荷物を抱えて着いてきている。
そして家事妖精たちが一礼すると、ハイコボルトたちは抱えていた荷物を降ろし、何かを組み上げだす。
そのまま見ていると、なんとあっという間にステージ上にキッチンが出来上がった。
「皆様も疑問に思われているかもしれません! 無形部門とはその名の通り形を持たない物が発表される部門ではないのか、と! しかし……料理というものは形を持ちません!」
凄いこと言いだしたな。
「確かに皿の上に盛り付けられているそれは形を持っているかのように見せるかもしれませんが……食すればそれは食した者の血肉へと形を変えます! さらには食しなくても時間が経つだけで腐敗物へと姿を変えます! これらから分かるように、料理というものは形を持っていないのです!」
うん? うーん……。
確かに……そう、か?
「さらには彼女らはただ料理を出すだけではなく、その調理工程、技術も披露します! これを形を持たない芸術といわずして何と言いましょう! それでは刮目してご覧ください!」
まあうんそれなら……。
素晴らしい調理技術を指してまるで芸術だ、とかは普通に言うしな。
そういうことなら料理も無形部門に出しちゃっていいんだろう。
俺がそう考えていると、家事妖精たちは早速、ステージ上に組み上げられたキッチンを使い料理を始めた。
その中には、さっきまで俺の給仕をしていたキールも混ざっている。
いつの間に?
そして家事妖精たちは巨大な鍋を二人がかりで持ち上げて振り、中の食材を宙に舞わせたり、ゴオッと会場の上まで上がるような大きい炎を上げたりとパフォーマンス性のある調理を繰り広げる。
その規模の火柱上げるんだったら事前に言って欲しかったな。
ついフィーネにいざというときは頼むと頼んでしまった。
何事もなかったから良いが。
そうしているとそう時間はかからずに料理は完成。
美味しそうな匂いが会場中に広がる。
じゅるり……と、どこからともなくよだれを飲むような音が聞こえた。
「さあ! 見事に完成いたしました! それでは、実食と行きましょう!」
え? 食べるの?
「もちろんです! 料理は食べられるためにありますし、食べられなければ芸術ではありません!」
流石にそんなことないと思うが。
「それではどうぞ! 私も頂きます!」
これさてはフォイルが食べたいだけだな?
その後。
とても美味しかった家事妖精たちの創作料理はあっという間になくなった。
中にはちょっと……うん……少し……万人の口には合わない類のものもあったけど。
失敗は成功の母だ。
次美味しい料理を作ればいい。
だからそう涙目で落ち込まなくてもいい。
なんなら俺も料理教えるから。
「うぅ……ありがとうございます、代表様……。でも仕えるべき主に料理を教わるなんてそれはそれで家事妖精のプライドが粉砕骨折します……」
あー……。
まあ、じゃあ教えない方がいい、か……?
「いえそれは教えてくださいどんな料理でも構いませんし私のプライドなんて安いものなのでもっと美味しい料理の作り方知りたいです!」
近い近い近い。
食い気味で来たな。
と、まあそんな感じで。
今年の文化祭も大盛り上がりで過ぎていった。
フィーネに中継してもらった病院でも好評だったって聞いたし、開いてよかったな。




