182.レースピア文化祭一日目
ズズ……ズズ……。
いや……まさか動くとはな……。
俺は今ゆっくりと動いている大木、その上部に誂えられている特別席に座ったままそんなことを思う。
俺は内心でかなり驚いているんだが……周りは驚いた様子がない。
知っていたのか?
「私はもちろん知っておりました、現場責任者なので」
「私も受理しましたので」
「同じく同じくー」
……どうやら知らなかったのは俺だけらしい。
「いやーすんませんっす頭! 頭を驚かせたくて自分が出来れば黙っていてくださいって頼んだんっす! まさか全員了承してくれるとは……!」
「不都合はないかと思いましたので」
「それに驚かせてぇ、喜ばしてぇって気持ちは分かるしな!」
「本当にありがとうっす!」
ガバッ! と、頭が地面に着かんばかりに勢いよくお辞儀するラウーム。
ということは……まあだろうとは思ったがラウームが動かしているのか、これ。
「はい! そうっす!」
再び、ガバアッと勢いよく顔を上げ、こちらに詰め寄ってくるラウーム。
その元気いっぱいな仕草は何となくこちらに懐いてくる愛らしい犬を思い起こさせる。
「ウオォン……」
特別席に寝転がっていたシロが顔を上げて、そういうのは自分のポジションじゃないか? みたいな声を上げている。
お前は狼だろう。
どちらかといえば凛々しいとかカッコイイ枠じゃないか?
「オォン……!」
それはそれであり……みたいな声出して、顔を下げるシロ。
だがその体は俺の近くに寄ってきて、尻尾を俺に巻き付けている。
ありだがそれはそれとして可愛がっては貰いたいらしい。
俺はシロと、いつのまにか俺の頭に乗ってきていたムイを撫でながらラウームの話を聞く。
……いやほんとムイはどっから来た?
「自分も他の者たちも、進化して結構経って……だいぶ慣れてきたんす! だから頭が前に言っていた根を使って歩く木を生やせるようになったんっすよ!」
言ったかそんなこと? ……言った気がするな。
俺は両手を忙しく動かしながら記憶を探るが確かに言った気がする。
それどころか空飛ぶ木とか海に潜る木とかの話もした気がする。
「そっちはまだ難しいっすけど……」
そっちもやる気だったのか。
「まあ自分らならそのうち出来るっすよ! そういうわけでまずは地を歩く木を生やしたんす! 操作も練習したんで大分上手くなったっすよ! ほとんど揺れてないこと感じてもらえてるっすよね!」
確かにラウームの言う通り。
根を動かして歩く形で動いているはずなのにほぼ揺れを感じない。
感じるのはせいぜい、今ちょっとトラックが遠くを通ったか? 程度の揺れだ。
「……練習した甲斐があったっす……!」
ぐっとガッツポーズをしてそう言うラウーム。
「こほんっ! 頭の……それから他の方の鑑賞の邪魔にはならないっすから! どうぞ心行くまでご覧くださいっす!」
そしてラウームはそう続けた。
ふむ、そう言うなら鑑賞を続けさせてもらおう。
動く席から何かを鑑賞する、なんて経験新鮮でとてもワクワクしているからな。
「では、次の発表に移ります! 次の発表はこちら! 五連ゆりかご!」
ラウームの言葉に甘え鑑賞に戻ったんだが、いきなりインパクト強いの出てきたな……。
ステージを見つめる俺の目線の先に出てきたのは、木でできたゆりかごを五つ斜めに……逆ピラミッド型のように繋がれた物。
何だアレ?
「ふふ、これは芸術作品でありながらも実用性も持ち合わせた逸品です! ご覧ください! ここに赤子の形と重さを再現した木人形を五体用意いたしました!」
その言葉とともに、いつの間にか手に持っていた大きい布を自身を周囲から隠すように大きく振り回すフォイル。
その布が振られ終わると、その足元には五体の人形が鎮座していた。
フォイルは手品師としても一流でやっていけるんじゃないか?
「それではこの人形を、それぞれゆりかごに寝かせてみます! すると……!」
フォイルが手際よくそれぞれのゆりかごに木人形を入れる。
その瞬間……。
ゆらっ……! ゆらっ……ゆらぁ……!
五連ゆりかごは動き出した。
ゆらゆらと一切止まらずに揺れ続けている。
「と、このように! この五連ゆりかごはそれぞれの赤子の重量で揺れ続けるゆりかごなのです!」
なるほど。
見た目のインパクトは強いけど、確かに実用的……実用的か? まあ実用的なゆりかごだ。
だけどこれ倒れそうで怖くないか?
「ご安心を! こちら倒れることの無いよう設計されておりまして、それでも不安な方向けにつかえ棒も用意されております! 揺れは小さくなりますが、これを使えば倒れることは絶対にありません!」
俺が言うまでもなくちゃんと対策されていたようだ。
倒れないんだったら子供を多く生むコボルト辺りにはとても好まれるのかもしれない。
「ふふ、もし欲しいという方が居たら、この後ケットシー商店をのぞいてみるのもいいかもしれませんね、それでは次に参ります!」
「次はこちら! シャードーンの骨剥製です!」
その言葉とともに布が取り払われ観客の目にさらされたのは、体長十メートルはあろうかという……おそらくサメの骨。
「シャードーン……皆様も聞いたことくらいはあるでしょう。海中に生息する超大型の魔物! 出会ったのなら全てを諦めろとまで言われている海の悪夢!」
え? この世界の海ってそんなのいるの?
何も考えずに海水浴場とか作っていたんだけど……。
「ご安心を、代表殿」
戦々恐々として今からでも海水浴場閉鎖した方が? とか考えていた俺に、アリゲイター代表、スロールが声をかけてくる。
「シャードーンは確かに海中の脅威ですが、生息域は限られています。具体的に言うと、相当の深さがある海域にしかいません。よって港周辺に来ることはほぼあり得ないかと」
そうなのか?
「はい。この骨だってかなり遠くまで出たときに見つけたものです」
あの骨スロールが見つけたのか!?
「いえ、見つけたのはトゥーナ殿です。私はターヴィーとともに組み上げただけですね」
「はいぃ、私が見つけましたぁ……」
特別席に水槽を持ち込んでその中でぷかぷかしていたトゥーナも会話に入ってくる。
「ちょっと色々探していたら偶然見つけましてぇ、文化祭のことは聞いていましたのでちょうどいいかと思ってこれを材料にしたらいいんじゃないかって提案したんですぅ」
「何を作ろうかと迷っていたところでしたのでとてもありがたかったです。ターヴィーも感謝しておりました」
「いえいえぇ」
ぺこりと頭を下げるスロールとぷかぷか浮いたまま当然のように礼を受け取るトゥーナ。
この辺の態度見てるとトゥーナが人魚の王族だって思い出すな。
まあともかく、港周辺は安全だって言うならよかった。
ほっとしながら俺は鑑賞に戻る。
このシャードーンの骨剥製……というか骨格標本か? には観客もみな度肝を抜かれたらしく、とてもざわざわしている。
「ふふ、観客の皆様の衝撃が伝わってきます! ですがまだまだ作品は控えております! 次は──」
そうしてそのまま文化祭は続き。
「ファンタスティック! まさにその言葉しかありません! どの作品も等しく素晴らしかった! 観客の皆様もそうお思いでしょうか!」
わぁぁぁーーーっ! と、フォイルの言葉に盛り上がる会場。
うん。
俺もそう思う。
「それではここで有形部門の発表は終了となります。続いての無形部門の発表は……明日となります! 皆様! 楽しみにお待ちください!」
うん。
作品数が増えて、有形部門と無形部門に分かれもしたレースピア文化祭は……二日開催になった。
そうしないと全部紹介しきれなかったからな。
……このまま人口増えていったらさらに開催日増えるかもな。
そこまで人が増えたら嬉しいのは確かだが……そうなったらどうするかも考えておこう。




