181.レースピア文化祭開始
「さあ! というわけで第二回! レースピア文化祭! ここに開催を宣言します!」
「「「わあぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!」」」
はい。
そういうわけで、暑さもどんどん落ち着いてきた頃。
レースピアの街で文化祭が開催された。
「今回も司会は私、狐人族、怪盗フォイルが担当させて頂きます! はじめましての方はお見知りおきを!」
場所は文化祭のために作られた特設会場。
開会宣言の後、フォイルは流れるように自己紹介に入る。
怪盗ってそんな高らかに名乗っちゃっていいのか? と思うが。
まあフォイルが良いならいいんだろう。
……というか最近は怪盗として働いてないだろうフォイルは。
美術館の管理人とでも名乗った方が良いんじゃないのか?
「怪盗の方がファンタスティックでしょう!?」
……まあ分からなくもない。
そういうわけで、快感の宣言が高らかに響き渡り、熱狂する会場。
暑さが落ち着いてきたというのに、再び夏に戻ったみたいだ。
「だいじょうぶ~? あるじ~? 水いる~?」
「いや、暑いというならボクが氷で冷やしても構わないよ。……だけど暑い時期を乗り切ったというのにまたこんなに暑くなるなんて……くっ、ボクに厳しい……!」
それは申し訳ない。
少し額を拭うような仕草をした俺に、暑いなら冷やそうかと声をかけてくれるフィーネとフィノウ。
フィノウは雪妖精だから熱に弱い。
一番暑い時期が去ってほっとしているところにイベントを企画してしまい申し訳ないと謝っておく。
「いやいや代表様が謝る必要はないよ!? 軽くぼやいただけだから!」
俺の言葉を聞いたフィノウがわたわたと体の前で手を振り慌てて弁明する。
「いやほんとほんと! それに、気候ならまだしも、こういう興奮から来る熱気は苦手ではあるけれど嫌いじゃないから!」
そうか、そう言ってくれるならまあ、よかった。
俺はフィーネがはいこれ、とぐいぐい押し付けてきた水をありがたく飲みながらフィノウにそう返答する。
……この水美味しいな。
「でしょ~? あるじのために頑張って作ったお水だからね~!」
俺の感想を聞いたフィーネが大喜びしている。
さて。
そんな雑談をしている俺がいる場所は、文化祭の会場の中央にドン、と建てられた特別席。
文化祭の会場は、中央にステージがあり、それを三百六十度全方位をすり鉢状の観客席が覆っているような形になっている。
ドームとかコロシアムとか……そういえばイメージしやすいか。
闘技祭に使った会場もこんな感じだった。
それで、この文化祭の中央のステージは回転するようになっている。
そうしないと周囲を囲む観客席に作品を見せられないからな。
それで、そのステージが一番最初に向いている方向を、便宜上正面と呼ぶが。
この正面の観客席の真ん中あたりに特別席はそびえたっている。
特別席の見た目は……何だろう、大木。
めちゃくちゃ太い幹の上部に枝ではなく板が乗っているような感じで、その板の上に今俺が座っている豪華な椅子や、他の代表陣が座る椅子、さらにはベッドや簡単なキッチンまでが備え付けてある。
凄く至れり尽くせり。
「へへっ! 頑張ったっすからね!」
「誠心誠意用意させて頂きました」
土台の大木を用意したラウームと、椅子やその他を用意したルシュが軽く胸を張っている。
正直見事だ。
ところでベッドはいるのか?
「はい。座っているのすら億劫になりました時はご遠慮なく使って頂ければ」
皆は座っているのに一人だけ寝転がって鑑賞って態度悪くないか? ……まあでもせっかく用意してくれたんだしな。
その厚意はありがたく受け取らせてもらおう。
と、話していたら。
「……と、まあ諸注意はこんな所です! では早速! 開会のあいさつも済んだところで、代表様からのご挨拶を賜りたいと思います!!」
聞いてないんだが???
「代表様! ご挨拶有難うございました!」
はぁ……何とか……なったか……?
フォイルに無茶振りされてから十分後くらい。
俺は自分の席に戻ってきて、あれでよかったのかと自問していた。
「ええ、素晴らしい挨拶だったと思います」
「そうだねー。皆盛り上がってたし」
まあ……それなら良かったが。
フォイルは俺に水を向けた後、転移魔法で俺を席からステージ中央まで移動させ、拡音石マイクを手渡してきた。
その早業に思考の追い付かなかった俺はついマイクを手に取ってしまい……うん。
挨拶することになった。
咄嗟だったけどたくさん作品を提出してくれてありがとうだとか、皆の作品を見るのも俺も楽しみだとか、そんなことを何とか絞り出した。
リネイアとシエルの言う通り、住民は皆盛り上がってくれたな。
優しい住民ばかりだから。
皆楽しんでくれたらいいが。
皆といえば。
リネイア、中継はしっかり出来ているのか?
「はい。抜かりなく」
「だいじょうぶ~ちゃんと映ってるよ~」
それならよかった。
中継とは。
あれだ、闘技祭でもやっていたやつだな。
上空に浮かべた巨大な水球にテレビみたいに映像を映す魔法。
今回あれを応用して、病院にも文化祭の映像を届けている。
出産間近なため病院から出られない者や、病院に詰めているスタッフのエルフの為だ。
自分たちだけ見られない……というのはさすがに不公平だからな。
にしてもそれなりに離れている病院にまで映像を届けることが出来るようになるなんて……凄いな。
「えへへ~結構慣れたからね~」
……慣れただけでこんな水を用いた放送とか出来るようになるのか?
良く分からないが流石だな……。
「代表様は分かってないけどとんでもないことやってるよねー……」
「まあ我らもやろうと思えば出来はしますが……」
「それめちゃくちゃ神経すり減らしたらって話でしょ? やろうと思いたくないんですけどー?」
「さあ! それでは代表様にもご挨拶頂いたところで、早速、有形部門の一つ目の作品をご紹介します!」
と。
俺の挨拶の後少しして、とうとう作品の紹介が始まった。
有形部門って言うのは文字通り形がある作品って事だな。
放送機で街全域に文化祭の告知をした結果、今回の文化祭には去年を上回る作品が集まった。
まあ人口が増えているんだから当然なんだが。
その中には去年と違い形のない作品もあった。
具体的には歌とか。
運営側としてはちょっと困ったが、これが私の芸術です! と胸を張って提出されては受け取らない訳にはいかない。
だから受理したんだが……。
そしたら、歌が良いならこれもいいのでは!? と、形を持たない作品を持ち込んで来る住人がかなり増えた。
その結果かなり多くの形を持たない作品が集まり……文化祭は有形部門と無形部門に分けることにしたわけだ。
まあ、芸術は自由だしな。
有形か無形かなんてどっちでもいい事だろう。
「そう! 形を持っていようが持っていまいが素晴らしいものは素晴らしい! というわけでまずはこちら……エントリーナンバー1! 木彫りの波の模型です!」
今しれっと思考読まれたか?
とにかくその紹介とともに被さっていた布がどけられ、出てきたのは直径にして一メートル、高さが二メートルほどの木の模型。
それは、逆巻くような波を木で表現した作品だった。
一番下、土台部分から太い波が出現し、上に行くにしたがって少しずつ細く、白く泡立って今にも再び海に打ち付けられそうなその瞬間を見事に木で表現している。
いや凄いな……。
俺はほう、とつい感心の声を出す。
このレースピア周辺の果ての木材はかなり硬い。
創造神器ならまだしも普通の木工用具で削ろうとすればかなり手間と時間がかかるだろう。
例えイアン達がミスリルで作る高性能木具であっても。
それなのに見事にここまでの作品に仕上げるとは……見事という他ない。
「ファンタスティック! 一作品目から素晴らしい作品です!」
あ、司会として自重していたファンタスティックが早速出たな。
まあ我慢し続けるとかできないと思っていたけど。
「皆さんのお気持ちは分かります! この素晴らしい作品をもっとじっくり……舐め回すように全方向から見たい! そうでしょう!? ご安心ください──その要望は叶います! ファンタスティックに!」
フォイルの言葉と同時。
ゴゴ……と、少し音がしたかと思えば、会場中央のステージがゆっくりと回転し始める。
おぉー! と、観客席からどよめきが漏れる。
うん。
先も言ったが中央のステージは回転するようになっている。
観客席に囲まれる形になっている以上、回転は必要だからな。
そんな感じでうんうん、と回転するステージを見守っていると。
ステージがゆっくりと一回転したところで、ズズ……とわずかに地面が揺れた気がした。
俺は、ん? と思ったが、別に振動が続くわけでもない。
気のせいか? と思った次の瞬間。
視界が動き出した。
え?
そう困惑する俺とともに、なんと特別席がステージとは反対方向に円状に回りだした。
……え? いや、え? 特別席も動くの?




