179.放送機
さて。
フォイルが縄で縛られながらも直談判してきたこともあって、俺は今年も文化祭をやることに決めた。
もちろん出産する者たちにも大いに配慮したうえで。
そうと決まったらまずやるべきことは……告知だ。
と、いうわけで。
俺は今、ドワーフ区画の鍜治場にやってきている。
「鍜治場の使用許可? もちろん構いませんぞ。代表殿の街なのですから許可を取らずとも好きに使ってくだされば」
流石にそういうわけにもいかないだろう。
管理しているのはイアン達だしな。
ありがたく使わせてもらう。
やってきた俺の鍜治場を使わせてほしいという要望に二つ返事で答えてくれたのはドワーフの代表、イアン。
その言葉に甘え、俺は早速鍜治場の一つを使わせてもらう。
さて。
何で告知をすると決意しておいて鍜治場に来ているかというと。
告知の為に各地を回ることにして、そのためにまずはドワーフ区画に来たから……ではない。
俺が直々に街を回って告知をするとか手間がかかり過ぎる。流石に。
なのでドワーフ区画に来たのは別の理由。
その理由とは……。
「にしても、隧音石と拡音石をそれぞれ溶き固めて純度を高め、街の各所に配置して街の隅々まで声を届ける……。さすが代表殿。素晴らしい発想ですじゃ」
そう。
鍜治場に来たのは告知のための道具を作るため。
その道具とは、隧音石と拡音石を使った放送機だ。
隧音石と拡音石。
これは街の裏の超巨大鉱山、その第七地層から産出する鉱石だ。
この二つはそれぞれ、隧音石は他の隧音石に音を送ることが出来、拡音石は、拡声器のように音を大きくすることが出来る。
この二つを組み合わせることで、俺は前世でいう所の放送機材を作ることが出来るのでは? と考えた。
今までは別に直近で必要というわけでもなかったので後回しにしていたんだが、今回街全体に告知する必要が出てきて、折角だからということで作ることにした。
一度作っておけば後々楽にもなるだろうし。
そういうわけで鍜治場にやってきたわけだ。
というわけで早速。
ゴォォッ!
俺はイアン達に炉に火を入れてもらう。
炉の内部で炎が踊り狂い、外にまで熱気が広がる。
久しぶりに至近距離で感じる熱気に早速汗ばんでくるな。
さて、それじゃあ早速精錬のため炉に鉱石を……。
入れる前に。
俺は創造神器を出現させ、うちわに形態変化。
そしてそれを構えると、炉に向けて……一気に振り下ろす!
ゴォォォォォォォォォォッ!!
創造神器の風を受けた炎は炉の中でさらに激しく燃え猛る!
その熱気はまるで目の前にマグマが出現したかのようだ。
目の前でマグマの熱気浴びた経験なんてないけど。
さて、これほどの熱気。
イアンならともかく俺はこれだけの熱気を浴びながら作業するのはさすがに不可能だ。
絶対途中で倒れる。
「いえここまでの熱ともなれば儂でも耐えきれず倒れますぞ……」
え? そうなの?
「はい、作れてつるはしが五、六本といったところですな」
普通に耐えられているんじゃないのかそれは?
まあ、イアンからしたらその程度の作業しかできないことは耐えられてないってことなのか? 鍛冶に一途と言うかなんと言うか……。
そんなことを考えながら、俺は創造神器を境界標に変え、周囲に熱気を防ぐ結界を張る。
流石は創造神器だ。
張った瞬間、肌が焼けるかもしれない、とすら思っていた周囲の熱気が一気に消え、暑くもなく寒くもない過ごしやすい気温になった。
イアンも結界の効力にかなり興奮している。
「素晴らしいですな! 結界というのは……! これなら本来耐えられない温度でも作業できますぞ! エンジェル殿たちに鍛冶手伝い頼みますかな……?」
まあ、エンジェルたちにもいろいろ仕事があるからほどほどにな……。
そう声をかけて俺は早速精錬作業に入る。
とはいっても難しいことは何もない。
ドワーフの鍜治場にあるこの炉は、作ってから度々ドワーフたちが手を入れ、さらには他の住民たちも協力して改造した結果、今ではかなり高性能な……超魔導炉とでも言うべきものに仕上がっている。
実際、創造神器で風を起こして思い切り温度を上げてもびくともしていないからな。
だから鉱石を入れるだけで、ほぼ素人の俺でも問題なく精錬が出来る。
というわけで早速俺は二つの石を炉に放り込む。
すると、そう時間がかかることなく……青く輝くどろどろに熱された液体が炉の排出口から流れ出てくる。
俺はそこに真四角の容器をセットしてしばらく待つ。
すると完全に排出され切った溶液は冷えて完全に固まる。
後はそれを少し磨いてやれば……完成だ。
放送機の片割れ。
青く輝く隧音石が出来上がった。
「ほう……これは素晴らしい色ですな。流石代表殿」
イアンが俺の手に持たれたその青く輝く立方体を見ながらそう言ってくる。
だけどこの結果はイアン達が作り上げた炉の性能が高いからだ。
「そう言って頂けるのはとても光栄ですぞ。……しかし、先ほど代表殿は隧音石と……サファイアを炉に入れておりましたな。だからこそ深く青づいているのでしょうが……なぜお入れに?」
そう。
先ほど俺は隧音石だけではなく……これも巨大鉱山から産出するサファイアも一緒に投入していた。
その理由は……。
オンオフの切り替えをするためだ。
「切り替え?」
その通り。
放送機を作るに当たって、俺はオンオフ機能は絶対に付けようと思っていた。
なぜなら……放送機がもし常に使用可能状態であれば。
人の声だったり環境音だったり。
そういった周囲の音が拡散され続けることになる。
そうなれば、騒音被害がとてつもないことになってしまうだろう。
よりにもよって赤子が増え始めた今、そんなことになったらもう悲惨なんてもんじゃない。
なのでオンオフ切替は必ず出来るようにしようと思っていた。
まあ、出来なかったら最悪、使っていないときは分厚い箱かなんかに格納しようかと思っていたけど。
手間がかかるけどしょうがなし。
そういうわけで精錬する際にサファイアと混ぜた。
この世界の宝石は魔力と親和性が高い。
ケットシーたちが魔石と宝石を組み合わせるアクセサリーの技術を持っていたようにな。
この親和性の高さを利用することで、魔力を通したときにオンになり、通していないときにはオフになる。
そういう風にできないかと考えたのだ。
「なるほど……それで混ぜたのですな」
ああ。
さて、あとは目論見通りいっているかだが……。
俺は同じように隧音石をもう一つ精錬し、まずは魔力など通していない状態で使ってみる。
結果は。
「ふむ、聞こえませんでしたな。耳を澄ませてみましたが全くこれっぽっちも音が出て来ませんでしたぞ」
まあ一応成功か?
離れて耳をそばだててもらったが、全く聞こえなかったようだ。
ここまでは良し。
後は魔力を通したらちゃんとオンになれば完全に成功だが……。
「……聞こえた! 聞こえましたぞ代表殿!」
魔石を使い魔力を流してみると……しっかりオンになったようだ。
離れてもらったイアンの所まで俺のささやき声が届いている。
魔力を流すことでオンオフを切り替えられる隧音機……見事に完成だ。
だがここで終わりではない。
隧音機は音を離れた地点に送るための物。
放送と言うんだったらその音を大きくして拡散しなければならない。
というわけで放送機のもう片割れ、拡音石を精錬していく。
隧音石の方にはサファイアを混ぜたがこちらにはルビーを混ぜる。
両方青色にしたら見分けづらいからな。
というわけでちゃっちゃと精錬して、拡音器完成。
真っ赤な色が鮮やかだ。
さて、完成したなら早速テストだ。
俺と離れたところ、鍜治場の外に、それぞれ青の隧音機と赤の拡音機を設置し、もう片方の隧音機は俺が持って鍜治場の中へ。
魔力を流し話しかけると……。
あーあーマイクのテスト中……。
──あーあーマイクのテスト中……。
聞こえた。
外から聞こえたのは紛れもなく俺の声。
ちゃんとそれなりの大きさになって聞こえてきた。
「代表殿、聞こえたと思いますが成功しましたぞ!」
外から戻ってきたイアンも勢い込んでそう言ってくれる。
よし。
隧音機と拡音機……二つ合わさった放送機、これにて完成だ!




