177.赤子用の道具
その後。
しばらくの間ルシュだけではなく、他の者も寝室に襲来するようになった。
皆触発されたらしい。
まあともかく、そういうわけでレースピアの街にはベビーブームが訪れた。
コボルトたちだけではなく、エルフ、ドワーフたちも。
同じような時期に来たんだからウンディーネやノームも続かないのか、と俺は思ったものの。
「前にも言ったけど~わたしたちは水場に発生するものだから~」
「自分らも似たような感じっすね。精霊は基本そうっす!」
……そういえばそうだったな。
確かに前に聞いた気がする。
「……でも~。あるじ相手なら違う結果になるかもね~?」
「……っすねっ……!」
何だかデジャブ。
危機を感じた俺は、速やかに撤退──。
「ふふ~いいでしょ~?」
「おっ……おこがましいかもっすけど……頑張るっすから!」
出来なかった。
俺は押し切られた。
触発されたものはここにも居たようだ。
いや、まあ、正直……嬉しいか嬉しくないかで言ったら断然嬉しいけど。
うん。
頑張ろう、いろいろと。
そんなこんなで出産ラッシュは続き、俺は昼も夜も奮闘しながら少し時は経ち。
ピークはある程度は落ち着いてきた。
ふぅ……大変だったな……。
俺はぷにぷにとムイを触らせてもらい、そんなことを思いながら英気を回復する。
いや、嬉しいことだし、肉体的にはあまり疲れてないんだが……少し気疲れはした。
最初、俺はレースピア初の出産となったハイコボルトたちの様子を見に行ったんだが、その結果、自分たちも見に来て欲しいと願う者たちが大量発生した。
いやまあ、要望を出されたわけじゃないけど。
なんというか期待感と言うか希望の眼差しと言うか……そういうのを感じたので様子を見に行くことに。
連日病院に通って祝福の言葉を送って……帰ってきたら夜の逢瀬が待っていてとそんな感じでちょっと……ほんのちょっとだけ癒しを求めたくなった。
なので最近夜毎晩のようにどこかに行っていたムイを捕まえてぷにぷにしている。
ついでに顔をうずめてムイ吸いしている。
とても気持ちいい。
ムイはふよふよと震えながら仕方がないな、という感じで受け入れてくれている。
ありがたい。
ふぅ~……さて。
ムイをぷよって気力が満タンを超えた俺は、暇が出来たらやろうと思っていた作業に取り掛かる。
何かというと……ベビー用品づくりだ。
シャッ……シャッ……シャッ……。
屋敷の作業室。
今そこでは木材が削られる音が響いている。
音の発生源は当然俺。
今現在俺は創造神器を用いて、無心で木を削っていた。
作ろうとしているものはベビー用品といえばで真っ先に思い付いた一品。
ベビーカーだ。
……にしても、我ながらちょっと抜けてたな。
木材を削り続けながら俺はそう思う。
病院やら学校やら浅いプールやら。
街に子供が産まれた後のことを見越していろいろ建てたりしていたのに、ベビー用品に考えが及んでいなかったとか。
まあ、今からでも十分間に合うだろう。
俺が見本を作ったらハイコボルトたちが量産してくれるだろうし。
と、軽く反省しながらも手は動かし、ベビーカーは完成。
見た目としては……なんだろう、木製の大きめのかごに、上に覆いと下にいくつかの支柱が追加されているみたいな、そんな形。
そして支柱には当然車輪がついている。
万が一にもバランスを崩すことの無いようかなり大きめのものだ。
さらに車輪はかなり分厚いゴムで覆ってある。
上部の覆いで日光をシャットアウトし、ゴム車輪で振動もシャットアウトする……。
我ながらかなりいい出来だ。
赤子が乗るとなると、どれだけ過保護に作ってもいいくらいだからな。
ぷるぷるぷるっ……!
ムイが興味を示したので、試運転に付き合ってもらう。
かご部分にムイをぽよんと納め、そのまま作業室の中を押して回る。
スーーーー……。
とてもスムーズに進む。
車輪ががたつくということもない。
ムイに聞いてみるが、振動などは全然来ていないみたいだ。
よし、ここまではOK。
だが……ベビーカーは室内だけで使うものではない。
というか基本的に屋外で使うだろう。
というわけでそのままムイを乗せたまま屋敷の庭へ。
まずは歩き回ってみる。
ぷるぷる……。
どうやら室内と違って少し振動が来るようだ。
だが大した振動ではないみたいだな。
ムイの身体はさざ波のように揺れているだけだ。
さて、次は走ってみる。
ベビーカーを押しながら走る者なんていないと思うが、何事も例外というものはある。
レースピアの街には大きい段差や坂は存在しないが、何かの拍子でどこかから下り落ちることも考えられるからな。
というわけでベビーカーを押しながら全力ダッシュ!
ぷるぷるぷるぷる……!
勢いの良いダッシュにムイのテンションも上がる。
ベビーカーの中で激しく震えている!
……ふぅ。どうだった?
数分ほどベビーカーを押しながら走り、ムイに感想を聞く。
ムイは楽しかったというように震える。
それならよかった。
……いやそうじゃなくて。
ムイの楽しそうな姿にほっこりして初志を忘れかけたが、テストのために走り回ったんだ。
赤子乗せても大丈夫そうか?
俺の問いにムイはぶよんっ! と、力強く返事してくれた。
ばっちりだったみたいだな。
よし。ありがとう。
付き合ってくれたムイにお礼を言って再び室内へ。
ベビーカーは完成したがもっと作りたいものあるしな。
というわけで戻ってきた俺は次に着手する。
次に作るのは抱っこ紐。
紐とは言うが基本布だ。
アラクネ製の丈夫な布、これを赤子にフィットするように形を整え、その布を身体にきっちり巻き付けられるように紐を追加する。
抱っこ紐とは言うがどちらかといえば開放感のあるリュックといった方が良いかもしれない。
これは万が一にも赤子が落ちたりしないよう頑丈に作るが、作り自体は簡単だ。
すぐに作り終わる。
ぽよっぽよっ……。
再びムイにテストしてもらうが問題ない。
次。
次はあれだな、ベビーベッド。
ベビーベッドとは普通のベッドよりかなり小さく、周りに木の囲いがついているため、目を離しても赤子が落ちたりしない親の味方ベッドだ。
そして俺が作るのは普通のベビーベッドではない。
前世にもあった……上部に回転する玩具がついているタイプのベビーベッドだ。
というわけで作っていく。
まずはベッド部分から。
だけどまあここはそう難しくもないしすぐに出来上がる。
俺も工作にはだいぶ慣れたしな。
というわけでベッドの大枠を作り終わって次。
このベッドの上に回転する玩具を取り付ける。
ベッドで寝ている赤子が見てキャッキャとはしゃぐ奴だな。
骨組みはは木材で作る。
木材をかなり細長い傘のような形に削り出して、その傘の骨の先端部分に紐を括り付ける。
あとはこの紐の先にアラクネの布で作ったミニぐるみを吊るして完成。
ミニぐるみは布製だから万一落ちても安心だ。
さて、ここまでは順調に作れたが問題はここからだな。
前世ではこの赤子の上で回る玩具は電気で動いていた。
しかし当然今のレースピアに電力なんてない。
別に動かなくても良いと言えば良いが……せっかくなら動かしたい……。
どうしたものか……。
「魔法で動かせばいいのでは?」
量産の為、俺のもとへ試作品を取りに来たルシュがそう意見をくれた。
魔法で動かす? 確かにそれも有りだが……それだと結局人力だからずっと付きっ切りで回し続けることになるだろ? それもいいけど……俺は出来る事なら、目を離している間も回り続けることで親の負担を減らせるようなベビーベッドにしたいんだ。
そう。
魔法を使うとはいえ結局は人力頼りになるなら、あまり親の負担は減らせないだろう。
俺がルシュにそう言うと。
「ならば魔石を使えばいいのでは? リネイアあたりに頼めば、魔石を入れるだけで回り続ける機構も作ることが出来るかと」
……なるほど! その手があったか!
俺は早速リネイアに出来るかどうか聞いてみる。
「その程度ならば簡単です。……出来ました」
本人の簡単という言葉通り、何と数秒で魔石を入れると回りだす機構をリネイアは作ってくれた。
さすがリネイアだ……仕事が出来る……!
「恐縮です」
本当に助かった。ありがとう。
リネイアの助けも借り、ベビーベッドも完成。
更にはこれらの試作品をひな型にルシュたちハイコボルトがベビーグッズの量産を始めてくれた。
俺が抜けてたせいで遅くなってしまったが、ほどなく産まれている赤子のもとへ届くことになるだろう。
他にもちょっと作りたいものはあるが……それらはまあ、暇が出来た時に作ってケットシー商会に並べてもらうか。




