175.収穫と管理
収穫の時来たれり。
と、言うわけで。
豚肉料理を作ったり、ボロスピッグに感謝してなでさすったり、他の家畜の世話もしたり。
そんなことをやっていたらいつのまにかボロスピッグの尻尾が再生していて驚いたり。
いや流石にほんの三日ほどで再生したのにはビビった。
俺だけじゃなく皆唖然としていたからどうやら結構あり得ないことだったらしい。
当のボロスピッグは「私、何かやってしまいました?」みたいな顔してたけど。
まあともかく。
そんなこんなで日々を過ごしていたら、ノーム達からも完全に機が熟したよと連絡があった。
というわけで収穫の時が訪れている。
サクッサクッ……!
ふぅ……収穫はいつまでたっても楽にはならないな……。
俺は斧で綺麗な金色になって穂先を垂らしている稲を刈り取りながらそう思う。
我ながら斧で収穫って……と毎度思っているが、いろいろ試した結果、俺は普通の農具を使うより創造神器を使った方がやりやすいし疲れなかった。
まあ今となってはもう慣れたものだ、斧での収穫も。
周りの者たちと比べても遜色ない……どころか上回るスピードで収穫を進めていく。
にしても今さっきも言ったが本当に楽にはならない。
人口はどんどん増え、当然収穫の人手も増えているのにな。
いやまあ人口増えた分畑も増やしているから当然なんだけど。
そんなことを考えながら刈り取りを進めていく。
口には出さない。
だって俺なんかより大変な者たちがいっぱいいるからだ。
「今狩り取った分は五番……え? 五番はもう満杯? それじゃあ八番に……え、八番も満杯? ……それじゃあ十三番にお願いします!」
「えぇとこれはここに記載して……数は……あああ今計算してるから作物増やさないでください!」
「あれはあっちでこれはこっちでそれは……どこに運べばいいんだっけー!?」
そう。
大変な者たちとはエンジェルやデモンズを筆頭とした管理班だ。
彼ら彼女らは収穫した作物をそれぞれの倉庫に収めたり帳簿に記載したり……、文字通り管理してくれているのだが、畑を……作物を増やした煽りをもろに受けている。
「ひー! 大変すぎなーい!?」
「シエル。口より手を動かしてください」
「実りなんて多ければ多いほど良いと思っていたけどこれは……にゃーっ!」
うん。
前回よりさらに大変になってしまっているから代表陣からもちょっと弱音が出ている。
原因は……人手不足だ。
先ほど俺は、収穫は楽にならないな、と言ったが。
その実、楽にならない代わりにキツくもなってない。
作物の収穫量の増加と収穫の人手の増加を比べて……そこからまあちょっとした人手の減少を加えてトントンといったところ。
だが管理班はそうではない。
収穫量が増えるにつれて仕事はどんどん増えて行っている。
俺たち収穫班と違って大幅なマイナス。
理由は人手が増えないから。
いや正確に言えば増えてはいる。
増えてはいるんだが……収穫量の増加に追いつけていない。
まあ理由は単純で……能力不足。
収穫はこう言っちゃなんだが難しい作業ではない。根気の要る作業ではあるが。
多少やり方は覚える必要はあるがそれだってあまり難しくない。
分からなくなったら他に聞いたっていいしな。
だけど作物の管理となると話は違う。
倉庫への移送、収穫量の記載、ある程度の消費期限の策定、報告書の作成……一気にやることが煩雑になる。
レースピアの街に移住してくる住民は読み書き計算が出来る者がそう多くない。
よって収穫作業の人手は増えるんだが、管理作業の人手は増えず、管理班にかなり負担がかかる結果になってしまっている。
これでもニャジッタ達ケットシーや、少なかったが移住してきた住民の中に居た簡単な計算が出来る者が加わってくれて少しは楽になったんだが……正直焼け石に水感がある。
まあだが今回だけ……いや最悪冬前の今年最後の収穫までだけなんとかこらえて欲しい。
もう少し時間さえあれば改善の見込みがあるから。
「分かってるー! その代わり冬に入ったらもうあたし動かないからー!」
「そうなったら無理やり引っ張り出しますよ」
「ひー、リネイアの鬼ー!」
「悪魔です」
「ニャタシたちも大丈夫ですにゃ! これだけの宝の山……いえ作物を前にしたらやらないなんて選択はありませんにゃ!」
ちょっと無理やりにでもテンション上げて自分を鼓舞している感があるな、皆。
だがとてもありがたい。
申し訳ないがお願いする。
収穫終わったら俺も手伝うから。
というわけで、俺は収穫作業を進めていく。
斧で根元から稲を刈りに刈っていく。
刈られた稲は他の者がまとめて干場に持って行ってくれるから俺は刈ることだけに集中すればいい。
こうやって無心で刈っていると、昔稲刈り体験で勢い余って自分の足首まで傷つけてしまったことを思いだす。
創造神器でそれやるとシャレにならないから無心になりながらも細心の注意は込めて行こう。
そんな感じで集中してこなしたからか、米の収穫は割とすぐに終わった。
すぐといっても丸一日かかったけど。
米はもうレースピアの主食になっているからな。
相当量作っている。
そして他の作物の収穫も進める。
じゃがいも、玉ねぎ、にんじん、きゃべつ……etcetc。
量もだが種類もかなり増えたな。
レースピアに移住してくる住民たちが種を持っていたり、街の裏手の超大鉱山からいまだに種が出てきたりで順調に増えて行ってるからな。
俺でもそろそろ畑の作物全種類答えろって言われたらミスしそうだ。
いやする。
言われたらあああったな。って思い出すんだが。
まあその辺はリネイアたちはしっかり把握しているだろうし、リストも作ってくれているし問題は無いが。
今回の目玉としては……まず、スパイス類か。
いやといってもそう推測しているだけなんだが。
今俺の目の前にあるのは赤かったり白かったりする葉と、オレンジだったり緑だったりする小さい実を実らせた植物群。
この前見に来た時より鮮やかに色づいてしっかりと実っている。
いやぁ……本当にスパイスだったらいいな。
まだ夏の盛りのころ。
例にもれず初見の種は実験畑でまず育ててみることにしているんだが、そこでこれはまさかスパイスなんじゃないか? ってことに気が付いた。
とはいっても俺はスパイスには詳しくないから確信なんて持てていないけど。
すり潰して汁に溶いてみたらなんか少しそれっぽい味になったってだけだし。
だけどまあ、数を増やしてこれからいろいろ研究して行けばいずれ確信も持てるかもしれない。
楽しみにしながら俺は丁寧に葉や種を収穫する。
そして目玉は他にもある。
やってきたのは果物のエリア。
今回もりんごや梨なんかが豊作で……その一角に新たに増えた果物がある。
数十本が房となって、木からダイナミックにつり下がっている真っ黄色の細長い果物……バナナだ。
こっちも素晴らしい熟し具合だ。
前回様子を見に来た時はまだ青かったのが完全に黄色に変わっている。
というかバナナってまだ青い内に収穫してから黄色く熟させるんじゃなかったっけ?
いやでもノームたちが収穫はこのタイミングだって言ってたしな……。
まあちょっと疑問には思うが、とりあえず収穫する。
実際に食べてみれば分かるだろう。
というわけで俺ははしごを取って来てもらってバナナの木にしっかりかける。
本来、というか前世のバナナの木は大して高くない。
いや高いやつもあるけど。
多少身長があれば手を伸ばすだけでバナナの収穫が出来るレベル。
だってバナナの木って実際は木じゃなくてでかい草だからな。
だけどこの異世界のバナナは草ではなくしっかりとした木だ。
幹をしっかり調べたから間違いない。
故にバナナも高いところに成っているためはしごが必要だ。
というわけで俺は早速かけてもらった梯子に登り……。
「いえ、登るのも収穫するのもこちらでやりますので。代表様はどうぞ楽にしていてくださいませ」
え? いや俺がや――。
「あれほどの高さから落ちるとなると必ず受け止める気ではいるとはいえ少々危険なので」
心配しなくても俺には創造神器が――。
「どうぞ安んじてお任せください」
……はい。
俺は押し切られた。
と、まあそんな感じで皆の助けもあって収穫作業は万事順調に進んだ。
今回も多くの実りを得られて、皆に、自然に、そして創造神器に感謝だ。
本当にありがとう。
「ひー記載漏れー! これどこー!?」
「ニャアアッ! 確か二十六番倉庫のハズですにゃっ! それより新しく収穫できたバナナとやらは一体どこに!?」
「それは半数は三十番倉庫に、もう半分は代表様の屋敷に運んでおいてください。さて、次は――」
……さて、それじゃあ管理作業の方手伝うか。




