174.豚料理
「やってきたのう……この時が!」
何でそんな果し合い風?
ボロスピッグにありがたく尻尾を譲ってもらった後。
俺たちはそのまま、尻尾を担いで屋敷のキッチンに戻ってきていた。
「ふむ……ここで良いか?」
ああ、その台の上に置いてくれ。
ゆっくりな。
ドン……! と静かに、だけど重量感のある音を響かせながら巨大な尻尾が調理台の一つの上に置かれる。
いやあ、さっきも思ったがデカい尻尾だ。
中身をくりぬけば、俺が十人くらいは詰め込めるんじゃないか、と思うほどのデカさ。
先ほど。
ボロスピッグに譲ってもらったはいいものの、この大きさの尻尾をどうやって運ぼうかと頭を悩ませていたら、そこで名乗りを上げてくれたのがリーア。
いや名乗りを上げたというかひょいと持ち上げたんだけど。
しかも片手で。
俺が唖然としていると、本人……いや本龍は運ばんのか? ときょとん顔。
その姿にやっぱり龍って凄いんだな……と、改めて感じつつありがたくキッチンまで運んでもらった。
そして今調理台の一つにおいてもらったというわけだな。
ここまで運んでくれてありがとうリーア。
「なんのなんの! 元はと言えば我が持ってきた貢物じゃからな! じゃが? まあ? 礼をしたいというなら? 受け取ってやらん事も無いというか? ついでに? 味見にも付き合っても良いというか?」
キラキラした目をボロスピッグの尻尾に釘付けにしながらそう言ってくるリーア。
あー……うん。
それじゃ悪いんだけど試作の味見に付き合ってくれ。
「うむ!! お主の頼みならばしょうがないのぉ!!」
激音。
めちゃくちゃ勢い込んでそう声を上げるリーア。
ほんと……以前は知らないがこの街に来てからはすっかり腹ペコドラゴンになっているな。
「ご主人様、料理をお作りになるのであれば私もお手伝いいたします」
一緒にキッチンに戻ってきていた家事妖精のキールも俺にそう声を掛けてくる。
正直俺より断然手際が良いのでとても助かる。
「その代わり、というのもなんなのですが」
ん?
「ご主人様がこれから作る料理の作り方を教えていただければ、と」
お、おお……。
キールの後ろにメラメラと燃える火を幻視する。
目力が強い。
その熱意にちょっと押されながらも早速調理を開始する。
さて、まず最初にやることは当然尻尾の解体……なんだが。
「お任せください」
キールがパンパンと手を叩くと後ろに数人の家事妖精たちがどこからともなく集結。
そして全員が尻尾に取り付いたかと思うと、みるみるうちに解体が進んでいき……。
たった数分で調理台の上にでん、と鎮座していた尻尾は様々な部位に切り分けられ、ブロック肉として並べられていた。
骨、皮、端材なんかもしっかり分別されて置かれている。
いや……見事な手際だ。
つい見入ってしまった。
「「「ありがとうございます」」」
よし。
家事妖精たちのおかげで肉を切り分けることが出来た。
骨や皮なんかは後で使うかもだから保存するように頼んでおいて……。
まずは……やっぱりとんかつかな。
まずはロース肉……と思われる部位のブロック肉をかなり厚めに切り分ける。
あんまり厚すぎても熱を入れるのが大変なので、良い感じに調整して。
そして良い感じに切り分けたロース肉を綿棒でゴンゴンと叩いていく。
柔らかくなーれ! 柔らかくなーれ!
そして数十回ほど叩いたらその肉を卵液にまんべんなくつけて、その上からさらにまんべんなくパン粉を付けていく。
ここまでやったら熱した油の中に肉を投入。
俺はじゅわわわわ……と美味しそうな音を立てながら揚がっていくとんかつを見守る……痛っ!
油が跳ねて飛んできた。
これだから揚げ物は。
わたわたと家事妖精たちが大慌てで心配して駆け寄ってくれるが、ちょっと跳ねただけだから大丈夫だ。
だから薬草畑の薬草丸ごと取ってこないと! って大急ぎで出て行った家事妖精は連れ戻しておいてくれ。
うん。
気持ちは嬉しい。
そうして油跳ね防止器具、その内イアンに作ってもらうか……と考えつつ見守ること五分ほど。
油に投入したとんかつはきつね色に色づき、とんかつから出る泡も大分少なくなった。
このタイミングでとんかつを油の中でくるりと裏返しさらに一、二分待つ。
待ち終わったら油から上げ、細長くカット。
ソースをかけて千切りにしたキャベツと合わせれば……完成だ。
ほかほかと湯気を上げ、白く引き締まった断面ときつね色の衣が美しい……レースピアとんかつ。
「美味い! 美味い!」
「これは……とても美味です」
「はい。外側のカリカリとした食感がとても素晴らしいです」
「中のお肉の肉汁が溢れ出す感じも良いですよ」
早速試食してもらった皆からは大好評。
よし、どんどん行こう。
次に作ったのは味噌焼きと生姜焼き。
いやまだ生姜は無いから味噌焼きと醤油焼きか?
こっちは作るの簡単だな。
さっきとんかつを作る前に、それぞれ味噌、みりん、料理酒と、醤油、みりん、料理酒で作った調味液に付け込んでおいた豚肉を細切りにした玉ねぎと一緒に焼く。
これだけで完成。
シンプル。
今日は適当でいいやの味方。
「美味い! 美味い!」
「こちらも素晴らしいです」
「すげぇやわらけぇ! 簡単に噛み切れる!」
「いひ……美味しぃ……相変わらず……私たちが作ったもので料理がこうも美味しくなるなんて……やる気出る……」
まあ、いつものごとく。
美味しそうな匂いを振りまいてしまっているので、周囲に居た住民たちが集まってきていた。
まあこんなこともあろうかと多めに作ってあるし、感想をたくさんもらえるのは良いことだ。
それとニチャは後で頼みがあるからよろしく。
「んん……?」
よし次。
次に作ったのは豚汁。
豚を使う汁ものといったらこれだろう。
こっちも簡単だな。
じゃがいも、にんじん、玉ねぎ等を一口大に切って豚肉と一緒に炒める。
火が入ったらそこに具材が浸るほどの水を入れて沸騰させて灰汁を取る。
そうしたら味噌を溶き入れて味付けして完成だ。
「ズズッ……美味い!」
「暖かくてほっとします」
「寒い日に食べたいな~」
「確かに冬の食べ物としてもいいかもしれません。身体の中から温まります」
それぞれほう……と息を吐きながら感想を言ってくる皆。
というか思ったよりも集まってきてるな、人数。
そして次に作ったのはピカタ。
簡単に言うと薄く切った豚肉に卵を纏わせて焼いた料理だ。
本当は回鍋肉あたり作ろうかと思ったんだが、醤の類が無かったと思い至って諦めた。
……八宝菜なら作れるか? 今度暇があったらチャレンジしてみよう。
そう言うわけでピカタを作る。
ピカタは牛肉とか鶏肉で作る方が有名かもだが、豚肉で作ってもめちゃくちゃ美味しいと思ってる。
まず、薄めに切った豚肉に小麦粉を軽く振りかけた後、卵にくぐらせる。
そしてまんべんなく卵液を纏ったのを確認したら、油を馴染ませたフライパンで両面しっかり焼く。
卵液が余ったならフライパンの端っこでついでに焼いちゃっても良し。
これで出来上がりだ。
「美味い! 美味い!」
「これは……噛んだ瞬間中から肉汁が溢れ出てきて……!」
「なるほど卵を纏わせて焼くことで肉汁を中に閉じ込めているのですか。素晴らしいです」
「ご飯にも合います。進みます」
さっきから思ってたがリーアは美味いしか言わないロボットになってるな。
まあ美味しそうに食べてもらえるのは良いけど。
キール含む家事妖精たちは俺が作りながら教えたレシピも合わせてああでもないこうでもないといろいろアレンジも話し合いながら食べている。
家事妖精たちのアレンジレシピを食べる日が今から楽しみだな。
そうして料理を作っていたら、相当な数が集まってしまい、結局軽い宴を開くことになった。
まあ料理を作り始めた時点でうすうすこうなるんじゃないかと思ってたけど。
まあそんな感じで豚料理を大量に並べどんちゃん騒ぎに入る。
皆が楽しそうにしているならそれが一番だろう。
というわけで俺も作った料理をおかずにご飯をモリモリ食べる。
うん。
我ながらとても美味しい。
というか毎回言ってる気がするけど素材が良すぎる。
ホントに。
そうやってパクパクやってる俺の元へ歩み寄ってくる者が居た。
やってきたのは……リーアだ。
「いやぁ、美味かった! お主の作るものはどれも美味いのお! 我もそれなりに生きておるがこれほど美味いものは食べたことが無いのじゃ!」
いや流石にちょっと大げさじゃないか? でもまあ褒めてもらえるのは嬉しい。
ありがとう。
「大げさなものか。これだけでこの街に住み始めて良かったと思っているところじゃ。いやーあの祭でお主に負けて良かったのお!」
闘技祭へのあの乱入はこっちとしては肝を冷やしたんだけどな……。
「まあ……許せ。確かに最初こそ迷惑をかけたがそれ以降は街の助けになっておるじゃろう? 空を飛んで物を運んだり、山羊や羊や豚を持って来たり」
まあ、確かに助かっている。
とても。
……というか聞くの忘れてたけどあの動物たちどこから連れてきたんだ?
俺は結構なビジュアルのインパクトについつい頭から抜けていた疑問をリーアにぶつける。
「ぬ? どこからとは……その辺からじゃが」
はい? その辺?
「その辺はその辺じゃ。適当にふらっと飛んで見つけたから取ってきたのじゃ」
なんだそのめちゃくちゃアバウトな方法。
俺はてっきり群れが存在している場所を知っていて、そこから何体か捕まえてきたのかと思っていたんだが……。
……いや待て。
もしかして誰かが管理している牧場とかから取ってきたんじゃないだろうな?
牧場の柵の中に居たのをその辺に居たと言ってさらっていくドラゴン……普通にあり得る。
「我をなんだと思っておるんじゃ……心配せずとも周囲に人の建物など無かった。完全に野生じゃ。取ってきた動物たちは。安心せい」
そう、なのか? それなら良かった……。
俺はほっと胸をなでおろす。
「さて、それじゃあ心配がなくなったところで……どうじゃった?」
どう、とは?
「これらの貢物に満足したか? ということじゃ。まあ、様子を見ていたら分かるがの」
ああ、それはもちろん――。
満足した。
心からそう言える。
山羊や羊の乳に豚肉。
それに黄金の羊毛。
良いものが増えた。
本当にリーアには感謝している。
ありがとう。
「良い良い、貢物だと言ったじゃろう。堂々と受け取ればよいのじゃ。じゃが……」
ん?
「満足してくれたというのならば……な? これでもう我に正座をさせぬと約定してくれるな……?」
あー、いや、うん、まあ。
俺の脳裏にリーアが酔っ払って壊した港の風景がよみがえる。
……リーアがよほどのことをやらかさなかったらね……。
リーアのその言葉に、俺は目を逸らしながらそう言うのが限界だった。




