172.アーマードゴートと羊
「メ゛ェー! メ゛ェェーーッ!!」
その後。
俺は悪戦苦闘しつつ、柵に激しく引っかかった角を何とか取り外すことが出来た。
鎧山羊がとても嬉しそうな鳴き声を上げている。
どころかこちらにぺこぺこと頭を下げている。
器用だな。
「ふふはは! 良い良い、気にするな気にするな!」
リーアが腕を組んで胸を張ってそんなことを言っているが……。
いやリーアは戦力外だったけどな……。
俺はその姿を生暖かく見つめながらそう思う。
先ほど。
リーアに手伝ってもらって鎧山羊の角を柵から外そうとした俺だが。
すぐに気づくことになった。
居ない方が良いと。
なんせリーアと来たら不器用すぎて全然外せないし、どころか力を入れ過ぎて角に軽くヒビを入れたし、挙句の果てにはもう角など折ってしまおうと言いだすし。
鎧山羊がめちゃくちゃ絶望したような表情で見てたぞ。
「仕方ないじゃろう、人型などこれまであまり使ってこなかったんじゃ。細かい作業などする必要も無かったしのぉ……」
ついっと俺から目を逸らしながらそう言ってくるリーア。
そう言う割には箸とかその辺りの食器、わりとすぐ使えるようになっていたような……。
「使えねばあれだけ美味しい食事が食べられぬではないか」
……うん。
まあ、美味しい食事は偉大ってことだな。
ともかくリーアが戦力外だったので、まあしょうがないから一人で頑張るか、と思っていた所。
助けが来てくれた。
「主様、角をくまなく確認しましたがどこにも傷などはありませんでした。無事に外れた、と言ってよろしいかと」
ああ、ありがとう、ルシュ。
そう、来てくれたのはルシュだ。
俺が決意を固めたまさにその時、およそ十人ほどでやってきたルシュたちと鉢合わせした。
ルシュたちは自分たちが作った建物であるこの畜舎の確認と、動物たちの世話の為に訪れたみたいだ。
俺は渡りに船とばかりに手伝いを頼んだらルシュは快く了承。
連れていた者たちにテキパキと指示を出した後、鎧山羊の角を外すのを手伝ってくれた。
というかどっちかというと俺が手伝いだったな。
いや手伝いどころかにぎやかしだったかもしれない。
なんせ元から手先が器用なコボルト、その進化系のクイーンがルシュだ。
俺がどこから外したものかと逡巡していた所も当然のようにするっと外していた。
流石だ。
「もったいないお言葉です」
と、まあそう言うわけでなんとか鎧山羊の角は柵から外すことが出来た。
これに懲りたらもう柵に突進なんてするなよ。
「メ゛ェェ~~……!」
おそらく了承の返事を残し、鎧山羊は鎧山羊の元へ戻っていった。
ふぅ……とりあえず何とかなったか。
突然の角柵絡まりハプニングにちょっと焦ったが、ルシュのおかげで何とかなった。
そして落ち着いたところで、俺は再び鎧山羊たちを見る。
うん、やっぱり……体格がデカくて角がたくましくはあるが、山羊に見える。
ということは……ミルクが取れるのか?
「はい。アーマードゴートのミルクはとても美味しく滋養強壮効果もあり、もし市場に出れば相当の値が付くそうです」
俺の疑問に答えてくれたのはルシュ。
……アーマードゴート? アーマードゴートっていうのか名前?
「そうです。角が身体を覆うように発達しており、下手な鎧よりも硬い。それゆえにその突進で武器防具を破壊される者も多く……アーマードゴートのミルクを狙うならせめてミスリル装備を付けろ……なんて言葉もあるのだとか」
へぇ……そうなのか。
そんな突進ですら壊せない果ての森の木って本当に凄いな……創造神器ならばっさばっさと切れるからあんまり意識したことなかったが……。
「まーともかくこれが貢物その一じゃ! 牛や鶏飼っとるんじゃから嬉しかろう?」
腕組み胸張りポーズを続けたままリーアがそう言う。
まあ、正直嬉しい。
山羊乳は牛乳とまた違った味わいがあるし、牛乳とはまた違ったチーズを作ることもできる。
今までは他の発酵食品で手いっぱいだったから遠慮してたけど、マイコニンたちも手がすき始めただろうし、いい機会だからチーズの作成も頼もうか。
そうしたらその内チーズの食べ比べとかできるかもしれない。
「おお! それは……楽しみじゃの! その時は我も呼ぶのじゃぞ!」
想像したのかちょっと口元を緩ませながらそう言ってくるリーア。
分かった分かった、その時は呼ぶから。
「絶対じゃぞ! ……っと、いかんいかん。一つ目で満足されては。貢物はまだ二つある。お主、次はこっちじゃ」
と、頭をぶんぶんと振って、リーアが次に案内してくれると言うので着いていくことにする。
ああだけど鎧山羊……アーマードゴートだったか? の世話は……。
「ご心配なく。アーマードゴートも含め、今回来たものたちも牛や鶏たちと同じく我らにお任せを」
ルシュがハイコボルトたちに指示を出しながらそう言ってくれる。
だけど牛や鶏と違ってあんな突進してくるんだから危ないんじゃ……。
「その程度に対応できない者は世話係にはしないので大丈夫です」
ああ……そう。
どうやら進化してそれなりに鍛えた者たちであればあのくらいの突進難なく対応できるらしい。
傍目から見ても結構速かったが……凄いな。
俺は創造神器なしじゃ対応できる気しないぞ。
軽く自動車みたいなスピードを出していた鎧山羊を思い出して俺はそう思う。
けどまあ任せてっていうなら素直に任せて行こうか。
俺はその場の者たちによろしく頼むと声を掛ける。
「「「はい! お任せください!!」」」
あ、ああ……よろしく……。
そして鎧山羊たちの山羊舎を出て次にやってきたのはその隣の建物。
中に入るとそこにいたのは……。
「めぇぇぇ~~……」
今度は羊……か?
俺の目に映ったのは羊のような生き物。
鎧山羊と違ってそれほど大きくは無いし、角が生えていたりもしない。
だが……。
すっごい……モコモコだな……?
そう、俺が見ている先に居たのはとんでもない毛量を持った羊。
体躯はせいぜい俺の膝上程度であんまり大きくなさそうに見えるのに、毛だけ俺の身長くらいの高さまで生えあがっている。
これもし中身もあるんだったらこぶがめちゃくちゃ縦に長いラクダみたいなシルエットになるな……毛を刈ったら……。
俺がそんなことを考えていると。
「どうじゃお主! これが貢物その二! ゴー……ゴーリュ……。……羊じゃ!」
再び名前をド忘れしたと思しきリーアがそう声を掛けてくる。
いや、羊で通じるから別にいいけれども。
「ただの羊ではありません! ゴールデンシープですわ!」
と、そこへ口を挟んでくる者が現れる。
そちらを向くとそこにはアラクネ代表……クトネーの姿があった。
クトネー? 何でここに?
「ご機嫌麗しゅう、代表様。 ゴールデンシープが来たと小耳にはさみましたので、真実かどうか確かめに来たのですわ」
なるほど。
この羊……ゴールデンシープか? を、見に来たらしい。
でも何でゴールデン? 普通に毛の色は白だが……。
俺は見間違えたか? と思ってまじまじと見てみるも色は変わらない。
俺が知る羊の色と同じ……真っ白だ。
「ああ、なぜかというと、言い伝えですわ」
言い伝え?
「ええ。……昔昔、ゴールデンシープは天上の楽園に住んでいたそうです。そこには豊かな食べ物や外敵の存在しない環境があり……ゴールデンシープは金色に輝いていたと。そこからその名前がついたと言われております」
へえ……そんな言い伝えが。
でもそれなら何で今のゴールデンシープは白く?
「それは天上の楽園から転がり落ちてしまったせいだと言われております。快適で何物にも脅かされることのなかった楽園から、不運にも地上に転がり落ちてしまい、劣悪になった環境と外敵への恐怖で真っ白になってしまったと」
なるほど……だから真っ白に……。
「ほーう? そんな言い伝えがあるんじゃな……」
クトネーに言い伝えを聞いている俺の横でリーアもほうほうと頷いている。
リーアも知らなかったのか?
「知らなかったのう……昔は金だったのは知っておるが、いつの間にか白くなっておったし別に理由なんぞ気にしなかったからの」
まあドラゴン……しかも龍王からしたらこんなものなのか?
「しかしそれでもゴールデンシープの毛はとても良い布になります。私がここに来たのもそれが目当てですわ。ゴールデンシープの毛と私共の糸を合わせたらどれだけの布が織れるのか……今から楽しみですわ!」
目をキラキラと輝かせながら勢い込んでそう言ってくるクトネー。
その様子からは本当に楽しみにしているのが伝わってくる。
そんな話をしていると、新たにハイコボルトが羊舎に入ってきて、こちらに気付くと一礼。
そしてその手に持った桶を羊……ゴールデンシープたちのもとへ持って行った。
先のルシュの言葉通り、世話は任せて大丈夫みたいだな。
ゴールデンシープたちも嬉しそうに桶の中のエサを食べている。
そうして見ていると俺は気付いた。
一番最初にエサを食べ始めた個体。
なんか……光ってない? 金色に。




