170.夏の終わりと様子見
いろいろあって結局大騒ぎすることになったマグロパーティーも無事終わり。
……いや本当にいろいろあったな……なぜ我を誘わん! と、空を飛んで来襲したリーアが俺に文句言って来たり、フリストルたちケンタウロスによって結構な量の酒が輸送されて皆で飲みまくったり……その結果酔っぱらって、軽く暴れて港に被害を出した者……特にリーア……が現れたり。
まあ壊れた場所は建築チームたちが迅速に直してくれたから、まあ無事終わったと言っていいだろう。
人に怪我は無かったしな。
「あのー……であれば我も、もうこの正座とやらをしなくてよいのでは……? もう足の感覚が……」
ダメ。
とまあそんなこんなで。
レースピアの街に戻ってきた俺は、気温がだいぶ落ち着いてきているのを感じていた。
もう夏も終わりか。
ちょっと寂しい。
今年の夏はプール作ったり海水浴場作ったりといろいろやったからな……。
大雨の被害とかもあったけど。
そうやってちょっとしんみりしていると頬にぷにょんとした感覚。
ムイだ。
そのぷよぷよした体を俺の顔に擦り付けている。
元気づけてくれているのかな?
ありがとう。
さて。
心配かけてばっかりでもいけないので動くことにしよう。
時間は待ってはくれない。
「おや? どうなさいました? 代表様」
というわけで俺がやってきたのは収穫の時期も迫ってきた畑の一角。
そこではハイラが手元の紙にいろいろ書き込みながら、エルフたちの報告を聞いていた。
ああ、ちょっと様子を見に来ただけだ。
続けてくれていい。
「いえ、ちょうど一段落ついたところなので。……ではあなた達は持ち場に戻ってください。収穫ももう間近です。一層丁寧に励むように」
「「「はい!!」」」
ハイラの一声にバッ! と蜘蛛の子を散らすように四方に去っていくエルフたち。
うーん統制が取れている。
「お待たせいたしました、代表様。お供いたします」
いや全然待ってないし、勝手に見て回るから別に構わないが……。
「いえ。代表様をお一人で回らせるなどできませんから」
うん。
まあそう言ってくれるのは嬉しいが。
「それとも……」
うん?
「代表様は、私が供をすること……お嫌、でしたか?」
トン……と、俺に近づいてきて上目遣いでそう言ってくるハイラ。
その目はわずかに潤んでいるようにも見え……俺は断る術を持たなかった。
……それじゃあよろしく頼む。
「はい、お任せを……!」
ほんのわずか朱が指した笑顔で俺にそう礼を言ってくるハイラ。
ハイラは感情が表にあまり出ないクール系だから、これはかなり喜んでいるのであろう。
まあそこまで喜んでもらえるなら……まあ、いいか。
にしても、ハイラほどの美人が上目遣いでおねだりとか……常用されたらイエスマンになりそう。
俺の鋼の意思、鋼メッキの豆腐だし。
ぽみゅっ! ぽみゅっ!
なんか俺の肩を占領しているムイも隅に置けないな、的なパンチを頬に浴びせてくる。
痛くは無いがちょっと恥ずかしくなるからやめてくれ。
そのままムイを肩に乗せ、逆側にハイラを伴って畑を見て回る。
いやぁ……広くなったなあ。
視界のかなり向こうまで広がる広大な畑、そこに青々とたくましく育っている作物たちを見ながら俺はそう思う。
最初に作ったせいぜいが数十メートルそこらの畑と比べたらめちゃくちゃ大きくなった。
……まあ一辺数十メートルクラスの畑は別にせいぜいじゃないんだが。
だが今見ているこの光景と比べたら小さいと思ってしまうな。
住人が増えたらこのままでは足りなくなる、と収穫の度にガンガン畑を広げていったからな。
広げた当初はこれだけあれば大丈夫だろうと思ったのに、次の収穫の時にはこれじゃあ足りないなあ、と毎回そうなるんだから不思議だ。
「かなりのペースで住民が増えておりますから」
そうだな。
今この瞬間も住民はガンガン増えている。
俺も正確な数は把握してない。
戸籍とかを随時作ってるリネイア辺りに聞けばわかるだろうが。
だけどまあ、おそらく今の時点だと千人にちょっと届かないくらいかな?
「私も正確には把握しておりませんがおおよそその程度かと」
それだけの人数の食事を賄わなきゃなんだから大きくもなるか。
しかもまだまだ増えていくんだしな。
俺も一応手が空いたときは手入れにやって来てはいるが、いろいろやることもあってハイラたちに世話はかなり任せてしまっている。
「いいえ、代表様はお忙しいので当然のことです。どうぞ憂いなく我らにお任せください。この先も」
ハイラも俺の秘書、警察のあれこれでかなり忙しいはずなんだが……そう言ってくれる。
本当にいつも助かってる。
ありがとう。
「……もったいないお言葉です」
そんな会話をしながら、作物畑を抜け……やってきたのは薬草畑。
ここはハイラたちエルフのみが管理を行っている畑だな。
いろいろと扱い方間違えたら危険な植物もあるから。
俺も前に一度見に来たことがあるが……なんかエルフイーターとか居た気がする。
「もちろん今も居ますよ。良い薬の原料になりますから」
……以前も聞いたが本当に大丈夫なんだよな?
いやまあこれまで何か事故が起こったって報告は聞いていないし大丈夫なんだろうが。
「はい、もちろんです。以前も言いましたが管理さえしっかりしておけば危険はありませんから」
そのハイラの言葉に一旦は安堵しつつ、薬草畑を見ていく。
まず最初に目に着いたのは野草畑。
おそらく食用の野草だろうと思われる植物が栽培されている。
見たことある物もあるが、見たことない品種も増えているな。
「調査団が持ち帰ってきた野草を区別して植えた分ですね」
そう言えばいろいろと帰還の度に持ち帰って来ていたな。
海の発見とかに意識を持っていかれてたけど、ハイラたちの方に持って行くようにって指示出してた気がする。
一応チラッとは見たがあまりはっきりとは見なかったな……って、あそこに植えられているのつくしじゃないか? そしてあっちはふきのとうでは? え? こんなのまで持って帰って来てたのか?
「あちらはついこの前持ち帰ってこられたものですね。代表様の畑の素晴らしさのおかげですくすくと成長してくれました」
そうなのか……。
ふむ……正直野草はノーマークだった。
他にも美味しい食材いっぱいあるからな。
だけどまあ、今度収穫が終わったら山菜料理にチャレンジするのもいいかもしれない。
炊き込みご飯……天ぷら……お浸し……。
楽しみだ。
「ふふ、代表様に料理していただけるなんて。これは収穫の時までしっかり手入れを頑張らないといけませんね」
俺の言葉にハイラも気合いが入ったみたいだ。
そう言えばこの野草は今までどんな風に使っていたんだ? 俺は食べた記憶ないんだが。
「基本は私共の保存食に使っておりました」
エルフの?
「はい。薬草と一緒に煎じて混ぜ、練り込んで丸めることでいざという時の保存食になります。この街には必要ないかもしれませんが、一応倉庫にもいくらか備蓄しております」
しっかり活用してくれていたのか……ありがとう。
なんだか少し興味が出たな。
今度ちょっと頂いてみようか……。
「……正直。お勧めいたしません。栄養だけを求めて……味は二の次ですので」
結構渋そうな顔をするハイラ。
ハイラがここまで言うほどか。
むしろどんな味なのか興味が増えたが……まあ、忠告には素直に従っておこう。
そのまま薬草畑を進み、奥の方までやってきた。
ヤツ……エルフイーターが鎮座している。
その周りには色違いのエルフイーターらしき植物が数体ほど集まっている。
色違いが居るのは知っているが、なんだか見たことない色な気がする。
はてあれは……?
「はい、アラクネイーター、ケンタウロスイーター、マイコニンイーターです」
……増えてる!!
「そうですね、イーター種は周囲に存在する種族に応じて次世代の品種が変わる特性がありますので」
いやなんだその絶対にお前らを喰ってやるからな、みたいな生態。
何がこいつらをそうまでさせたんだ。
「それは分かりませんが……おや?」
会話の途中で疑問の声を上げたハイラ。
その視線の先には……なんだか透き通った青い色を持ったイーターが居た。
それは少しずつこっちに近づいて来て……。
……?
近づいて来て……何もしない。
てっきり襲い掛かってくるかと思って創造神器を準備したんだが……。
「ふむ……この種は私も見たことがありません。一体、何イーターなのか……」
俺を庇うように前に出ていたハイラも、襲ってこないことを確認した後、一体何なのかと首をひねっている。
そうして俺とハイラが揃って首をひねっていると。
ぷよぷよ……。
シュルッガシッ!
バクンッ!
そいつは俺の肩の上で楽しそうに震えていたムイを蔓で掴み、一瞬の早業でバクンと食べた。
ムイーーーーーーーーっ!!?
その後。
俺は創造神器を急いで振るい、仮称・スライムイーターを討伐。
ムイを救いだした。
討伐した後で不味かったかとハイラに聞いたが、ハイラはこちらこそ管理不足だったと謝罪してきたので、まあ、お互い様ということにしておいた。
ちなみにムイはとても楽しげに震えていた。
食べられるという経験が新鮮だったらしい。
全く……こっちはハラハラだったというのに……。
まあそんなわけで、最後にアクシデントがあったが、のんびりと畑の様子を見て回った。
もうすぐ来る収穫の時が更に楽しみになった。




