167.入れ食い
パギンッ! パギンッ! と、硬いものが弾かれるような音がしている。
トゥーナがメテオシーグルの群れの下を指さして少し経った後、俺が乗っている船はトゥーナが指したまさにその場所に向かって移動していた。
とはいってももちろん先陣を切っているわけではない。
さすがに同乗したルシュたちが許さなかったからな。
周りにいた船たちが先に突入してメテオシーグルの数を減らしてからの突入になった。
俺は音速で落下してくるウミネコの下に行くなんて危ない、と言ったんだが。
あの程度を躱せない乗組員は乗っていません、と反論された。
えぇ……?
俺は心配していたものの、そこまで自信満々に言うなら……と、何かあったらすぐ助けに行こうと思いながら、様子を見ていたが……。
いやぁ、自信満々に言うだけのことはあった。
遠目に見ていたんだが、高速で落下してくるメテオシーグルを乗組員たちは当然のように躱している。
どうやって避けてるんだあれ?
「確かに速度は脅威ですが……あれは直線でしか飛んできません。突進の軌道を読めば横に一歩ずれるだけで回避できます」
そう疑問に思っていると、ルシュが俺にそう答えをくれる。
いや当然のように言ってるけど音速落下してくる鳥の軌道を読むって……。
「慣れれば出来ます」
……そうか。
凄いな。
思考を止めて素直に感心する。
それが出来てるから皆躱せてるんだしな。
にしても……落下したメテオシーグル、全然空に戻っていかないな。
俺が見ている先で、船に向かって落下したメテオシーグルはなぜか再び空に戻ることは無く……飛んでいる数をどんどん減らしていった。
どういうことだ?
「あれは……突き刺さってるからですね」
突き刺さってる? 何に?
「船にです。主様もご存知だと思いますが……これらの船は果ての森の硬い木材で作られています」
そうだな。
たまに失念するけどここの木材はかなり硬いうえに湿気にも火気にも結構強い。
船に使うのにももってこいだ。
「なのでいくらメテオシーグルでも貫けません。出来てほんの僅か突き刺さるだけ。そして突き刺さった結果抜けなくなり空中へ戻れなくなっているというわけですね」
……そうなのか。
それはちょっと間抜けというかなんというか……いや、音速での突進を受けてほんの少し突き刺さるぐらいで済む木材の方がおかしいなこれは。
と、そんな感じでルシュに説明を受けながら様子を見ていたら、かなりの数のメテオシーグルがその数を減らした。
これであれば十分護衛が可能とのことで俺の船もメテオシーグルの下へと舵を向けた。
その途中で俺は思いついたことがあり、創造神器を出現させ、形態を境界標に変えた。
杭みたいな形の結界を張れる形態だ。
そして船を囲うように結界を張ったんだが……。
その結果が今。
俺の予想通りパギンパギンとメテオシーグルが俺の乗っている船目掛け落下してきて……音速で結界に衝突し、弾かれて海に落下していく。
いやぁ……最初からこうやって突っ込めばよかったな。
「これは……凄まじいです。結界でメテオシーグルの突進を防ぐ……前にハイエンジェルが試していましたが、その時は多少減速する程度で貫かれてしまっていました。その結果が出てからは、結界を張るより避けた方が消耗も少ないし良い、と結論が出たのですが……」
ルシュが目を丸くして結界を眺めながら続ける。
「さすがは主様です。メテオシーグルの突進を防ぎながら結界は小揺るぎもしていません。素晴らしい結界です」
「ほんとですぅ。すっごく楽ですよぉ」
ルシュに引き続き、船に寄り添うように浮上して海面から顔を出しているトゥーナもそう俺に声を掛けてきた。
「こっちは落ちたのを拾うだけでいいんですからぁ~」
拾う?
俺が疑問に思うと。
バシャンッ! と、トゥーナが飛び上がり船の甲板へ着地。
その手には数羽のメテオシーグルが握られている。
「ほらぁ、落ちてきたのを絞めるだけでこんなにいっぱい取れましたぁ~大漁ですよぉ~!」
いや……それ鳥だけど。
いやでもどうだ……? ウミネコって美味しいのか……? でも鳥であることに変わりは無いしな……。
うん、まあ、鶏肉ゲット。
そうして。
メテオシーグルがこの海域の空から姿を消し、漁に入る前からそれなりの漁果……漁果? が確定した後。
俺たちは早速メテオシーグルたちが餌場にしていたその海域での漁を始めた。
他の船はマーメイドたちと協力して大きな網を海中に張っているみたいだ。
そんな中俺の船はというと。
ヒュッ……ポチャンッ……。
思い切りしならせた竿からかなりの勢いで飛んだ針が海面に着水する音がした。
というわけで。
俺は釣りに挑戦している。
ふぅ……。
とりあえず針を垂らして腰を下ろし、俺は待ちの構えに入る。
手に持っているのはこんなこともあろうかと作っておいた釣り竿。
竿は果ての森の木材から削り出し、糸はクトネーにに寄り合わせてもらった強靭な糸、針はイアンに鍛えてもらったミスリル製釣り針。
その素朴な見た目からは想像できないほどの高性能釣り竿だ。
クジラだって釣りあげられる。
……いや、クジラがかかったら釣り竿は壊れないかもしれないが俺が持たないな。
海に引きずり込まれてしまう。
まあ流石にそんな大物がかかることはそうそうないだろう。
そんなことを考えながら海面を眺めていると竿に反応。
まさかもうかかったのか? と思って引きが強くなった瞬間、一気に引っ張り上げる!
すると、釣り竿の先から現れたのは、黒い縞縞の体を持ち、とげとげの背びれを持った……俺の頭よりも軽く大きい魚。
え? 大きくないか? 流石にそんな重い手応えなかったんだが?
それにこの魚……もしかしてイシダイか? 俺が知ってるイシダイより断然デカいんだけど。
困惑が頭を満たすも、すぐに大物が釣れたという喜びが頭を満たす。
いやまあいいか、今は。
この釣り竿の性能が俺が思っているより高かったのかもしれない。
それより……イシダイだ、イシダイ! 本当にイシダイだったら大当たりだぞこの釣果!
いきなりの予想を超えた釣果に俺のボルテージは上がり、針から外したイシダイを水槽に入れ、そのまま再び海に竿を振る。
そうすると釣れるわ釣れるわ。
数分も待つことなくどんどん魚が食いついてくる。
とんでもない入れ食いだ。
イシダイだけじゃなく、真っ赤な方のタイ、それにサバ、アジ、タチウオ。
もちろん異世界産のそれっぽい魚だが……これまで食べてきた限り味はかなり同じだったからそう呼んじゃっていいだろう。
いやあ素晴らしい釣果。
自分が釣りの達人だと勘違いしてしまいそうなほどだ。
なるほど、これはトゥーナがあんなにワクワクした顔でメテオシーグルの下に行こうと言った理由が分かる。
こんなに獲れに獲れまくるなら誰だってあんな顔になるだろう。
俺は釣りの合間に他の船の様子も見る。
そっちは網で漁をしているが……遠めでも大漁なのが見て取れる。
引き上げられた網が激しくぴちぴちと跳ねている様子が見えるからだ。
いやあ凄いな。
入れ食い漁場とマーメイドによる水中追い込み漁。
この二つが揃うとあんな大量に獲れるんだな……。
船にもキャパがあるからすべては持って帰れないとはいえ、このペースを維持できるならたかが十隻で数千人分の食糧を賄うことだって夢じゃないだろう。
そんなことをつらつらと考えながら釣りをしていると、ザパンッ! という音と共に、海から飛び出して来たマーメイドが船上に着地。
トゥーナだ。
「代表様ぁ、お耳に入れたいことがぁ」
うん?
どうしたんだ、トゥーナ?
トゥーナにはこの辺りを周って俺が知っているような魚がいないか探してもらっていた。
何か見つかったのか?
「代表様がおっしゃっている魚かは分かりませんがぁ……」
ふむ、どんな魚だ?
「はいぃ……おっきな体の上が黒くて下が白くてぇ……」
ふむ。
「真ん中に青いラインが入っていてぇ」
ふむふむ。
「寝てる間もずっと泳いでいるお魚ですぅ」
それマグロでは?




