165.港の様子見
「おお、これは代表殿! よくぞいらっしゃられた!」
ああ構わない、そのまま続けてくれ。
レースピア港の倉庫。
その一つで作業していたスロールが俺に気付き、声を掛けてくる。
俺はそれにこちらを構う必要はない、と声を掛け、そのまま倉庫の中を見て回る。
現在。
俺はレースピアの港に来ていた。
いやまあ海水浴場と海の屋敷とかで遊ぶためにちょくちょくやって来てはいるんだが、今回の目的はそれとは別だ。
「ハッハッハ! 構うなと申されても、代表殿相手ではそれは出来ぬというモノ。お構いいたしますぞ! 此度は何の御用で?」
俺に声を掛けられたスロールは大柄な自身の身の丈……大体二メートル四方くらいの大きさの箱をひょいと他の鰐人族……アリゲイターに手渡し、俺にそう言ってきた。
本人はひょいと軽い感じでやっていたが、実際にはドシンッ! という感じだった。
流石のパワーだ。
それはともかく。
今回来た理由は……。
「……ほう、なるほど。この前の大雨の影響が残っていないか見に来たと。ついでにこの先の対策も備えに来た? なるほどなるほど!」
そう。
今回来た理由は街の方でもやった影響の確認と対策の備えのため。
港は全然大丈夫だったって聞いたし、豪雨が去った後も被害の報告は無かったから大丈夫だとは分かってはいるが……まあ念のため。
「フッ……ありがとうございます、代表殿! その心遣い、嬉しく思います。ではどうぞ心行くまでご覧ください。見ての通り、港はほぼ影響を受けずに済んでおります」
うん。
俺はスロールの言葉を聞きながら倉庫を見回すが……言葉通り、被害を受けた様子はない。
破損等が無いのは当然として、浸水した様子も見られない。
ここに来るまでも港の様子を見てきたがどこもそんな感じだった。
まあ、豪雨が過ぎ去ったすぐ後どころか、豪雨の中でも海産物が輸送されてきていたから本当に問題は無いんだろうとは思っていたが。
海産物を納める倉庫が浸水なんてしていたら、そんなこと不可能だったろうし。
ちなみに俺はフリストルたちに、こんな大雨の中無理して輸送を行う必要はない、大人しく室内で待機していていい。と言ったんだが、フリストルたちは、この程度の雨俺たちにとっちゃなんてことはない、それに港の安否確認も兼ねてやるべきだ、と主張し輸送を強行していた。
まあ、正直ありがたかったが、負担になるだろうとは思ったので、輸送と安否確認を行ってくれた者には温かい食事と風呂を用意した。
そのおかげもあったのか、体調を崩すケンタウロスは出なかった。
と、そんなこともあったので分かってはいたがやはり港に大した被害は出ていないようだ。
報告では多少の物損……豪雨の中で出入りしてたら風で扉が痛んだ……とか、軽傷……大雨でテンションが上がって街中を走り回って滑って転んで頭を打った……とか。
それくらいの被害しかなかったと聞いている。
「はは……いやはやお恥ずかしい」
軽傷した者として報告の中にその名前があったスロールが頭をポリポリと掻いている。
「あれほどの雨は正直経験がなく……水と共に生きる種としてつい高揚を抑えきれず……」
……まあ、気持ちは分かる。
俺だって大雨の中、外に出て走って跳んで遊びまわりたいって気持ちがないかと言えば嘘になる。
「でしょう!? ハハハ! 代表殿も分かっておられますな!」
グイッと。
近づいてきてそう呵々大笑するスロール。
そのまま軽く談笑しながら、俺はスロールに聞く。
にしても、聞いてはいるが実際どんな感じだったんだ? 結界は?
レースピアの街でも見張り塔が漏水してしまった豪雨。
それを受けて大した被害が出なかったのには理由がある。
いやまあ、高い波が打ち寄せることとかも想定して港の居住区を作ったこともそれなりの要因にはなっているだろうが、理由としては三番目だろう。
理由の一、二番目は結界と魔法だ。
結界、それは天使族の秘儀。
いや創造神器でも使えるけど。
とにかく、天使族だけが使えるそれは、魔物の侵入を防ぐ空間を作り出すものだが……応用も効く。
例えば、強烈な雨風を軽減したり、と言った。
漁に出た時に急な嵐に見舞われた時のため、港の方にもそれなりのエンジェルに常駐してもらっているが……その者たちが今回は助けになってくれた。
豪雨が降り始めて少しした後。
港に常駐してくれているエンジェルたちは一丸となって、港を覆う規模の結界を発動。
相当の風雨を軽減してくれたのだという。
「いやぁ、素晴らしいという一言に尽きますな! 何も知らなければ奇跡が起こったと言われても信じてしまったかもしれませぬ。薄い光の幕が港を覆い、明らかに強いと分かる雨と風が穏やかになるのです。まさに絶技。天使の方々には大いに感謝を伝えました。おかげで倉庫も止まらずに済みましたしな」
そうか。
まあ、そこは休んでもらっても構わなかったが……。
「何をおっしゃいます! 代表殿らが求める海産物を届ける仕事! あの程度の風雨であればやめる理由にはなりませぬ!」
うん、まあ、その気持ちは嬉しい。
実際ありがたかったしな。
「もったいなきお言葉。それに、マーメイドやウンディーネの方々も力を尽くしてくださっていましたので、全く休む必要はありませんでしたぞ」
そこまで言うほどか。
被害が出なかった理由二番目。
ウンディーネとマーメイドの水魔法。
結界で風雨は軽減できてもここは港町。
空が荒れれば海も荒れ、当然、高波が打ち寄せる。
いくら風雨すら大幅に弱める結界とはいっても、とてつもない水量が一気に押し寄せる高波は正直かなり厳しいらしい。
だが……結界で防ぐのが難しいならば別の手段で防げばいい。
マーメイドとウンディーネは交代制で水魔法を使い、港周辺の海を掌握。
海水を操り、港に高波が来るのを防いでいた。
港だけじゃなく海水浴場の方も高すぎる波は来ないようにしていたというのだから驚きだ。
進化した水の精霊ハイウンディーネ、そして海中の種族マーメイド。
凄まじいな。
「いやはや全く。頼もしいことこの上ない!」
スロールもその光景には相当に驚かされたみたいだな。
俺は報告で聞いただけだが、スロールは実際に見ていたんだ。
受けた衝撃は俺以上だろう。
……俺も見てみたかったなー正直!
「ハハハ! 大半が防がれているとはいえ、大荒れの海辺に近づくことは代表殿の周りが許しますまい!」
まあ確かにな……。
いや、心配してくれてるってことだし嬉しいんだけどな。
「もちろんその心配している者の中には俺も入ります。代表殿がどうしても! というのであれば、この身を賭してお守りいたしますが……危険に近づかれないに越したことはありませぬ」
俺を真っ直ぐ見ながらそう言ってくるスロール。
まあ、そうだな。
残念ながら……なんていうのはちょっとアレだが。
皆、俺の身を案じてくれているんだし、君子危うきに近寄らずを実践するか。
「君子……? まあともかく、それがよろしいかと」
と、まあそんな感じで。
スロールと談笑しつつ、倉庫だけじゃなく、居住区、桟橋、船、さらには海の屋敷も見て回ったが、どこも被害はほぼなかった。
報告で聞いてはいたがやっぱり自分の目で確かめたいって気持ちもあったからな。
そうやって状況を確認した後は、こっちでも災害対策をやっていった。
とはいっても結界と魔法という二重の対策があるんだから、さらなる対策の必要なんてほぼないだろうと思ったが……。
まあ備えはあって無駄になるものでもない。
もしかしたら嵐が来た時にエンジェルとマーメイドが揃って体調不良になる、なんてことがあるかもしれない。
まず無いと思うけど。
というかもしあったら街の方からハイウンディーネを派遣すると思うけど。俺が。
まあともかくそんな考えでいろいろと対策を施していく。
例えば、居住区のドアを風に負けないように改造したり。
岩を削り出して作ったなんちゃって消波ブロックを沿岸に沈めたり。
(マーメイドたちにこれ何? みたいな目で見られた)
倉庫にいざという時用の土嚢を作ったり。
そんな感じでとりあえず思いついた対策はやっておいた。
これに結界と水魔法も合わせればよほどのことがない限り……いやよほどのことがあっても大丈夫だろう。
俺はそう考え、ふう、と、頭の汗をぬぐった。




