164.ハンバーガー
うーん……なんか……ジャンクなものが食べたい。
とある日。
プールで遊んだ後、焼きそばを食べながら俺はそんなことを思う。
焼きそばも悪くない、むしろ良い。
思い切り泳いだ後に食べる焼きそばってとんでもなく美味いからな。
けど俺が今求めているジャンクさは、こういうのじゃなくてポテトとかバーガーみたいなやつなんだよな……。
焼きそばを食べ終わっても、ジャンク欲が薄まることは無い。
こういうのが急に食べたくなる現象って何なんだろうな?
まあともかく。
フライドポテトならちょこちょこ食べている。
レースピアの作物は美味しいから、細く切って揚げて塩を振りかけるだけで凄く美味しいから良く食べている。
街の女性陣は、俺が結構太りやすくなってしまうかもって言ってからは少し敬遠しているが。
でも今のジャンク欲はポテトだけでは抑えられそうにないんだよな……。
こうなったら……。
作るか……ハンバーガー。
と、いうわけで。
普段着に着替えた俺は早速屋敷の厨房にやってきていた。
プルプル……。
「ウォン」
お供はムイとシロ。
シロはプールから帰ってくるときにたまたま会い、ムイは厨房に着いたときにふと肩を見たらいつの間にか居た。
いつ肩に乗った?
ぷるぷる……!
まあいいか、ムイが神出鬼没なことなんていつものことだ。
そう思い直して、厨房の掃除を行っていた家事妖精たちに断ってスペースを開けてもらう。
さて……と。
ハンバーガーを作るに当たって最低限必要なのはバンズとパティ。
他にもピクルスとかいろいろあるけどその辺は手間がかかるので次の機会に回そう。
思いついて即厨房に来たので準備とか特にしてない。
というわけでまずはバンズから。
これは……とりあえずふわふわの丸いパンを焼いて上下に割ればいいか。
詳しいバンズの作り方とかは残念ながら知らない。
その内マイコニンたちに研究してもらおう。
いきなり妥協したけどバンズはこれで良いとして。
お次はパティ。
パンを焼いている間に作っていく。
とはいってもこっちは簡単だな。
肉をミンチにして、丸く成型して焼く。
それだけ。
ハンバーグと違うところは、玉ねぎとかの野菜とか、パン粉や卵といったつなぎを極力入れないこと。
つまりほぼ肉だけで作るってことだな。
俺は早速兎肉をミンチに……しようと思ったら。
シロに服を食まれて止められた。
うん? どうしたんだシロ?
俺がそう聞くと、シロは兎肉ではなく鹿肉の方を身体で指す。
鹿肉? 鹿肉を使えと? そっちはそこそこ貴重ではあるんだが……まあ、でもそこそこだしな。
シロの誘導に従って、兎肉に代わり鹿肉をミンチにする。
ミンチにする道具とかはないので手作業。
だが、レースピア自慢のミスリル包丁の切れ味にかかれば結構楽だ。
そうやってミンチにし終わったら、塩、胡椒を混ぜ素早くこねていく。
朝起きた時にムイをこねこねするみたいな感じだ。
そしてこね終わったら丸く成型。
この時、形は二種類にする。
ハンバーグみたいな楕円型の形と、熱さ一、二センチほどのフリスビー型。
そうして成型し終わったら、いよいよパティを焼いていく。
祭でも使った鉄板に火を入れ、十分に熱を持ったらパティを投入。
二種類のパティを両方焼いていく。
フリスビー型の厚みがないパティはそのまま焼くが、楕円形の方はここからひと手間。
取り出すのはこんなこともあろうかと作っておいたバーガープレス!
見た目は、丸いヘラに持ち手がついているみたいな調理器具。
鍋の蓋を鉄製にして、パティサイズに縮めた物と言えば分かりやすいかもしれない。
いや俺が持っているこれはミスリル製だけど。
まあともかく。
バーガープレスは読んで字のごとくバーガーをプレスする調理器具だ。
楕円型に成型したパティをこれで思い切り……押しつぶす!
ギュゥゥッ! ジュゥゥゥゥーーーー……ッ!
鉄板とバーガープレスに挟まれ、丸く潰れたパティから肉の焼ける音が大きく響く。
パティの形を二つ作ったのはこのためだ。
片方は成型段階から薄く作ったもの、もう片方は焼くときに思い切り潰したもの。
食べ比べしてみたかったからわざわざこうした。
ジュゥゥゥーー……。
う~ん、いい匂いだ。
音だけじゃない。
肉の焼ける食欲を誘う香りが厨房中に広がる。
さっきまで調理台に鎮座していたムイが俺の肩に乗って激しくプルプル震え、シロもムイとは逆側の肩から顔を出してキラキラ輝く目で鉄板を見つめている。
まあ待て待て。
食べたくなる気持ちは分かるが、肉にはしっかり火を通さないと……。
そう言ってシロの顔を押して引っ込ませようとしていると気づく。
シロとムイどころか、厨房に居た家事妖精たちもチラチラとこっちを見ている。
……いや、厨房の外からもなんだか視線を感じるな。
なんか翼とか耳とか尻尾とかが視界を横切ってくる。
うん。
多めに作ることにするか。
そうして。
パティはしっかり中まで火を通し、バンズもふわふわに焼き上げた。
後はこのふわふわバンズを上下に切り分け……間にパティをセット。
これで完成……レースピアバーガー!
「とても食欲をそそる匂いがします」
「ハンバーグをパンにはさんで食うのか? 美味そうだな!」
「いひひ……香りに誘われふらふらやって来ちゃった……」
「ほう! 何じゃこれは! ……何じゃこれは!?」
なんか思ったよりもいっぱい来てたな。
完成したハンバーガーをさらに盛り付け……というか乗せていると、周りにわらわらと住民たちが集まってくる。
興味津々といった目つきだ、皆。
まあ、多めに作ったし……一人一個は無理だが、四等分くらいに切れば皆に行き渡るだろう。
そういうわけで切っていく……シロが凄く悲しげな顔で見てきたけど。
ほら。
この後おかわり作るから。
だから最初は皆で均等に分けて食べよう。な。
シロを撫でつつ機嫌を取って全員にバーガーを行き渡らせる。
そして早速……バーガーにかぶりつく!
最初に感じたのはふわふわでありながらも弾力ある感触、次いで噛み応えのある肉肉しい感触。
そして次の瞬間、肉汁が口の中に溢れ出して来る。
うん……美味い!
ハンバーグも美味しかったがこっちも美味しい。
レースピアのとてつもなく美味い塩と胡椒、それと肉の強い旨味。
それがパンに染み込んで、噛めば噛むほどに口の中が旨味で満たされていく。
その旨味をごくりと飲み込み、俺は次に、バーガープレスで押しつぶし焼きしたバーガーの方をいただく。
もぐっ……かりっ……。
こっちも素晴らしい。
パティは押しつぶしたことでカリカリになっていて、先ほどのバーガーより噛み応えがある。
さらに旨味も凝縮されているような……そんな感じがする。
どっちが美味しいかは正直好みだな。
それくらい両方美味い。
「うっ……美味すぎる! これ、オルトディアーか!? あの鹿がこんなに美味く!?」
「相変わらず、主様の作る料理は最高の美味です」
「とても美味しいのですが……使える主に料理の腕で負けているのは家事妖精としてのプライドがっ……」
「ん~……美味しい~……お肉じゃなくてキノコ挟んでもきっと美味しいよぉ~……」
「キノコも良いけど野菜挟んでもいいんじゃないか? このままでも美味いけどよ!」
集まった皆からも大好評だ。
一部ちょっと落ち込んでる者も居るけど。
にしても野菜とかキノコか……よくいきなりその発想が出たな。
ハンバーガーはバンズとパティだけのシンプルな構成でも美味いが、ここからいくらでも具を追加してさらなる美味しさを目指すことが出来る拡張性が一番の特徴といってもいい。
というわけで。
まずはバーガーにシンプルにレタスとトマトを挟んでみる。
「美っ味ぇ! さっきのも美味かったがそこに更にシャキシャキ感と酸味が合わさって……」
「後味がさっぱりしていくらでも入りそうです」
「美味い! 美味い!」
次。
マヨネーズとケチャップを混ぜたオーロラソース。
そして醤油をソースと混ぜたなんちゃって照り焼きソースをパティに塗る。
「美味いっ! 体に活力がみなぎりそうですぞっ!」
「ファンタスティック!」
「美味い! 美味い!」
いつの間にか厨房にさらに人が増えている。
そしてさらに。
パティの代わりにキノコを挟んだもの。
代わりに魚のフライを挟んだもの。
あるいは目玉焼きを挟んだもの。
それらを作る。
「いひひっ……! やっぱりキノコ挟んでも美味しいっ……! 代表様凄いっ……!」
「おっ……これはこれでー……イケるイケるー」
「美味い! 美味い!」
リーアさっきから美味いとしか言ってないな。
語彙どうした?
そんなこんなでレースピアバーガーは住民たちの間で大好評を獲得。
大人気になり、その後大量のバーガーとフライドポテトを用意したジャンクパーティーを開くことになった。
いろいろな種類のバーガーを作ったりするのは大変だったが、ジャンク欲は完全に満たされたのでとても満足した。
機会があればまたやりたい。




