162.豪雨の後
昨日投稿出来てなかったので二話投稿します
雨が降り始めてから少し時間が経ち。
およそ丸三日降り続いた雨がようやく降りやみ、分厚い雲がレースピアの上空から去った。
ふぅ……一日だけなら新鮮だったけど二日も三日も続くとちょっと憂鬱だったな……。
雲一つなくからりと晴れた空からさんさんと降り注ぐ日差しを全身に浴びながら、屋敷から出てきた俺はそう思う。
降り続いた雨のせいか、むわりという異世界に来てからはあまり感じていなかった蒸し暑さを感じ、ちょっと懐かしくなる。
さて、あんまりのんきにもしていられない。
まさか三日も勢いそのままに降り続けるとは思っていなかったからな。
備えはしたとはいえ付け焼刃。
何か問題が起きているかもしれない。
様子を見に行こう。
ぷるぷる……!
おや、一緒に外に出てきていたムイもぷるぷると震えている。
自分も行くと言っているみたいだな。
ムイも雨が降っている間外に出ていなかったからな。
外に出られないなりに皆でカラオケしたりとまあ満喫はしていたんだけど。
断る理由も無いので一緒に行く。
そのままムイを肩に乗せ、まず行くのは……。
「問題ありません。雨が降り止んだ後、外側の点検も行いましたが、多少汚れがあった程度です。それも今清掃させています」
最初に来た……というか戻ってきたのは屋敷。
まずはここから被害状況を確認する。
とはいっても被害は外壁が汚れた程度みたいだが。
「室内の方も、漏水などは確認できておりません」
家事妖精、キールが淡々と報告してくれる。
流石、皆で力を合わせて建てた屋敷と言うべきか、雨漏りなんてしなかったらしい。
良かった。
「では、私もこれより清掃に加わって参ります。ご主人様がお帰りになる時には綺麗に磨き上げておきますので」
ああ、ありがとう。
でもそんなに急ぎすぎなくても大丈夫だからな?
「……。」
無言で頭だけ下げられた。
どうやら家事妖精としては、使えている主人に汚れを見せるのは我慢ならないことらしい。
そう言うことなら頼むとだけ言って、次に向かう。
次に様子を見に行ったのは皆の居住区。
まずはシロたち。
ここも雨漏りとかは全くなかった。
けど、雨が降っている間も狩りに出ていたからか……室内が泥で汚れてしまっていたな。
一応足ふき用のマットとかもシロたちの家には用意していたんだが足りなくなったらしい。
シロがすがるような目でこっちを見てきたから、ムイに水と布を出してもらい出来る範囲で綺麗にしておいた。
残りは多分コボルトたちがやってくれると思うから今はこれで我慢してくれ。
「「「ウォンッ!!」」」
シロとリルと子供たちがまとめて身体を擦り付けてきた。
泥で汚れた家で生活するのそれなりに嫌だったらしい。
野生はどこに行った?
まあ綺麗好きなのはいいことか。
コボルト、エルフ、ドワーフ……その他もろもろの居住区。
こっちは全く問題なかった。
皆基本室内で過ごしていたようだしな。
家事妖精たちと同じように、皆外壁等の掃除をしていた。
邪魔にならないように軽く激励してちゃちゃっと回っていく。
そうやって回っている途中で俺は気付く。
ん? なんかここの土、乾いてないか?
気付いたのはウンディーネ区画とノーム区画。
気のせいかと思ったが、明らかに他の区画より土がぬかるんでいない。
「ん? あー土魔法でちょっと水はけ良くしたんすよ! 泥も……まあ嫌いではないっすけど、やっぱり土の方が良いんで!」
「水魔法で土から水をえいやってしたんだ~。土がドロドロだと水の中にたくさん入ってきちゃうから~」
ラウームとフィーネにそれぞれ聞いた結果、魔法で何とかしたという答えが返ってきた。
いやー……しれっと言ったけど凄いことやってるな。
ぬかるんだ地面から水気だけ取り除くって。
「え? ここ以外からも水をはけさせて欲しい? お安い御用っすよぉ!」
「もちろん~! あるじの頼みなら何でも~!」
居住区以外にも出来る範囲で水気を取り除いて欲しいと頼んだら二つ返事で了承してくれた。
ありがたい。
そして魔法での水気除去を頼んだ後も街中を見て回る。
これまでと同じように、どこも大した被害は無かったが……。
「うーん……ひっどいねー……」
「まさかここまで降るとは予想……いえ、こちらの想定不足ですね」
他の場所と違ってそれなりに被害が出てしまったのが見張り塔だ。
見張り塔は屋上から飛べる者が哨戒の為に飛び立つ関係上、屋根がない。
とはいっても雨を想定して、屋上には軽い傾斜を付けたり、屋上への出入り口はぴったり閉じるようにしてあったりと対策はしてあったのだが。
流石にかなりの豪雨が三日間降り続くとは想定してなかった。
傾斜でも誘導しきれなかった水が見張り塔の中に入り込んでしまい、漏水を起こしてしまった。
見張り塔の中はびちょびちょだ。
備え付けの寝具、調理道具、食料もべちゃべちゃになってしまっている。
「「「申し訳ありません……!」」」
豪雨の間見張り塔に詰めていた警備担当の者たちが、自分を殴らんばかりに悲痛な表情で俺に謝って来る。
いや、そう気にしないでくれ。
これは俺の想定不足が悪い。
むしろこっちが謝る方だ。
もしこれ以上雨が降り続いていたら、もっとひどいことになっていたかもしれないんだからな。
すまなかった。
「そんな! 代表様が謝ることなど……!」
「そうです! これほどの豪雨が降ることなど想定できなくても……!」
いや、それでも代表としては想定しておくべきだった。
すまない。
さて。
反省は大事だが、今は先に見張り塔の片づけをしてしまわないとな。
俺は皆に号令をかけて見張り塔の清掃を始める。
とりあえず、濡れてしまった寝具や調理道具は、一旦廃棄。
乾かせば使えるかもしれないが、後々になってカビが生えたりするかもしれない。
乾かした後に解体して燃料に使う。
食糧も同じだな。
もったいないが廃棄処分。
手を合わせてすまないと祈っておく。
そうしたら後は見張り塔内部の水を全部ふき取るだけだ。
ここはムイが活躍してくれた。
ムイに水を吸ってもらって外で出せばよかったからな。
そうして片づけた後、改めて生活用品や食料を運び込む。
見張り塔は常時稼働している建物だからな。
急いで片づけを済ませた。
皆が士気高く手伝ってくれたこともあって、一日もかからずに片づけは終わった。
「いやー大変だったー……」
「シエル。全くもう……」
運び入れたばかりの寝具にシエルがへなりと横になっている。
それを見てリネイアが苦言を呈しているが……まあ、片付け頑張ってくれたんだしあんまり厳しく言わないでやってくれ。
「ふぅ……代表様がそうおっしゃるのであれば」
「やったー……もう翼が湿気っちゃうくらい頑張ったんだから少しくらい楽にしてもいいよねー……」
そう言いながら許しを貰ったシエルがだらける。
本当にお疲れ様だ。
なんならこの前みたいにまた翼を手入れしようか……、
と、俺がそこまで言うと。
「あっ! 代表様ちょっと待っ……!」
「翼の手入れ? シエル、あなた……」
慌てたようにシエルが俺を止めようとするも……おそらく遅かったのか、俺の言葉を聞いたリネイアがシエルにじとぉ、とした目を向ける。
「あ、あはははー……あ! ちょっとやらなきゃいけないこと思い出した! ちょっと私はこれでー!」
普段の様子からは想像できないほど機敏にシエルは去って行った。
耳が赤くなっていたが……もしかしてリネイアに翼の手入れも自分でやらないのか、と呆れられたくなかったのか?
そうだったら悪いことをしてしまったか?
「……いえ、ただ単に恥ずかしくなっただけだと思います」
そう考えていた俺にリネイアがそう言ってくる。
どういうことだ?
「その……エンジェルにとって、翼はかなり大事な物でして……。相当親しい相手でなければ触らせもしませんし、手入れを任せるのは生涯の伴侶相手にだけです」
……え?
「まあ、つまり……自分が代表様に翼の手入れを任せたと知られるのが恥ずかしかったのでしょう」
俺の疑問に答えをくれるリネイア。
あー……そう、だったのか……。
知らされた事実に俺までちょっと気恥ずかしくなる。
というかどっちにしろそういうことだと言わなかったシエルも悪いが俺も悪いなこれは。
後で謝っておこう。
「……代表様」
そう内心で考えている俺に、自身も決意を固めた様子で声を掛けてくるリネイア。
うん? どうした?
「その、エンジェルほどではありませんが……デモンズも羽の手入れは親しい者にしか頼みません。ですので……ご、ご褒美に、私の羽も……手入れしていただきたく……!」
え、それって……?
「そのっ後でっ! 後でで構いませんのでっ! それではっ!」
言うが早いか、リネイアは翼を広げ俺の返事も聞かずに去って行った。
……うん。
……正直かなり気恥ずかしい。
気恥ずかしいが……勇気を出して言ってくれたんだ。
手入れ……頑張ろう。
そう決意を固めている俺の肩の上で、ムイが隅に置けないな色男、みたいな感じでぽよぽよ頬をついてくる。
やめてやめて。
更に気恥ずかしくなる。




