160.開店
その後。
少々困惑しつつもニャジッタは女王蜜を取り扱う場合必ず俺を通すと約束してくれた。
今ビープルスペースに並べてある奴は、まあ今の段階じゃ買える者はいないだろうし大丈夫だろう。
……百人単位で集まって全員で紙幣持ち寄れば行けるか?
でもそれやったところで指の先程度の量しかない蜜をその人数で割るとか無理だしな。
そんな心配する必要もないだろう。
というわけで、オープン直前の商会の見学も終わり……。
「「「いらっしゃいませお客さにゃー!」」」
商会は正式にオープンした。
「はい、ありがとうございますにゃー」
オープン直後。
様子を見に来た俺の前にあったのは、まさに大盛況という言葉がぴったり当てはまるような商会の姿。
次から次に商会に住民たちが入っていって、買い物を楽しんでいる。
一番人気なのは……フードエリアだな。
家事妖精の何人かを派遣してやってもらっているんだが……かなり忙しそうだ。
「ひぃ~! まさかこんなに忙しくなるとは思っていませんでしたっ……! 適当にこなして空いた時間にいろいろ見て回ろうと思っていたのにぃっ……!」
「少し頭を回せば理解できたでしょ? この街の住民たちは美味しい料理に目がなくなってきてるんだから。私たちも含めて。とんでもなく忙しくなることなんて目に見えてたよ」
「くぅっ……だから皆手を挙げなかったんですかっ……! ラッキーと思って嬉々として手を挙げた私が愚かでしたっ……とんだはずれですよっ……!」
調理スペースの中をあわただしく動き回っている家事妖精たちが愚痴を吐いている。
吐きながらも動きは全く止まらないのは見事だが……流石にキャパオーバー気味か?
流石に大変そうだし俺も手伝うことにしよう。
「っ!? ご主人様!? おっ、お気持ちは嬉しいのですがご主人様に手伝っていただくほどでは……!」
気にしないでくれ、俺が手伝いたいから手伝うんだ。
「……ありがとうございます、ご主人様!」
「ご主人様と一緒に働けるなんて……っ! 外れどころか大当たりでしたっ!」
流石に大当たりとまで言われるとちょっと照れる。
そうして。
俺はフードエリアを手伝うことにしたんだが……。
そうしたら。
「次はフライドポテト二、焼きそば三、たこ焼き一、お願いします!」
「スープを五杯、パンも補充お願いします!」
なんかさらに忙しくなった。
どうやら……来ている住民たちが俺がフードエリアを手伝っているという情報を入手したらしく。
大挙して押し寄せているようだ。
何で?
「仕方ありませんよ。代表様の料理であれば食べたいと思うのが自然の摂理です」
「そうですよ! 私だって逆の立場なら食べたいと思います!」
一緒にてんてこ舞いしている家事妖精たちもそう言ってくる。
いやでも……祭の時とかいろんな機会に振る舞っているぞ?
「それとこれとは話が別ですよ!」
「その通りです。ご主人様の料理を頂けるのであればそのチャンスを逃すような住民は街におりません」
そうなのか? まあ来てるってことはそうなのか……。
そんな感じで調理スペースの中を走り回っていたのだが、まあ当然と言うべきか……食材が切れた。
こんな勢いで来るとか想像してなかったからな。
というか俺が手伝いに来なかったらこんな忙しくならなかったってことだよな。
すまない。
「いえいえ頭をお上げくださいご主人様! 本当に助かりましたよ! 早く終わったおかげで自由時間出来ましたし!」
「はぁ……全く。……ご主人様。この子の言う通りです。頭を下げられる必要は全くありません。むしろ頭を下げるのはこちらの方です。お手数をおかけしてしまい申し訳ありませんでした。……しかし、お手伝いいただき、とても嬉しかったです。ありがとうございました」
「あっ、ありがとうございましたぁ!」
頭を上げた俺に、共に頭を下げてくる家事妖精たち。
まあ、そう言ってもらえるならこっちとしてもありがたい。
謝る必要はない、お互いありがとうで済ませよう。
そう言って、売り切れ御免になったフードエリアを後にする。
「ふふっ! せっかく早く終わったんだしここはご主人様に付き従って……!」
「抜け駆けはダメに決まっているでしょう、行きますよ」
「えっ、そんな~っ! あ~れ~……」
そして次にやってきたのは服エリア。
アラクネたちの情熱により一エリアとして独立したエリアだ。
「あら……! いらっしゃいまし、代表様!」
様子を見にやって来た俺に気付き声を掛けてきたのはアラクネの代表クトネー。
その両手や背中に多くの服を抱え、エリアの中を動き回っていたが……持っていた服を全て糸で他のアラクネたちに託し、俺の元へやってきた。
ああ、お疲れ様。
様子を見に来たんだが……いいのか? 俺の方に来てしまって?
結構慌ただしく動き回っていたから心配になってそう聞く。
「もちろん構いませんわ。代表様にご挨拶をするのが何よりも優先されることですもの。皆も……というかお客の皆さまも分かってくださいますわ」
そう言って周りに目を配るクトネー。
俺もそれに従うように見てみると、こっちに来たクトネーに他のアラクネも客として来ている住民も文句を言う様子も無い。
「それで……今回は代表様も私共の服を買いに来てくださったのですわね!? ええええ分かっておりますとも! ではこちらへいらっしゃいくださいまし! こんなこともあろうかと、ご用意しておりますの!」
え? いや違……ただ様子を見に来ただけで……ちょっ……引っ張る力強っ……!
そうして大体一時間後。
久方ぶりにアラクネたちの着せ替え人形にされた俺は、十数着に及ぶ服をお土産として渡され解放された。
買いに来た、なんて建前で引きこんだくせに全部無償で。
代表様からお代を貰うなんてとんでもありませんわ! なんて言って。
絶対最初から作った服を着せたかっただけだろう……とは思うも、着る服のレパートリーが増えたしまあいいか、と思い直す。
そんなことを考えながら俺がやってきたのは特産品コーナー。
一番人気だったフードエリアが売り切れ御免した影響もあってか、ここもかなりにぎわっているみたいだ。
コボルトがドワーフの調理道具を見て、こういう細工もあるのか、と目を輝かせていたり、エルフが菌床ごと持ち込まれているマイコニンの栽培したキノコを見てこんな栽培方法が、と衝撃を受けている。
うん。
いい雰囲気だな。
素直にそう思う。
意外とうちの街でも異種族と交流するのはあんまり……といった住民もいたからな。
ここで興味を持ってくれたのなら、予想外の成功といえるな。
さて、マイコニンのスペースもだが……昨日は何も無かったスペースにも今日はしっかりと商品が持ち込まれている。
肉、魚、キノコ、発酵食品。
当日朝に納品すると言っていたが、それでも結構すぐに悪くなり始めるだろう、どうするんだ? と思っていたが。
「はいはい、買った人はこっちに来て氷を貰っていってね。ボクの氷はそうそう溶けないから安心して持って行ってくれ」
それぞれのスペースの近くに大量の氷を積み上げ、そう声を掛けているのは雪妖精のフィノウ。
なるほどな。
港からの魚の輸送も手伝ってもらっているフィノウにかかれば一日二日や一週間、果ては数カ月ぐらいぐらい生鮮食品を腐らせないことくらい出来るだろう。
「いや流石に数カ月単位の保存は難しいからね!? ボクでも!」
出来ないとは言わないのか……。
と、まあそんな感じでケットシー商会の開店初日の様子を見に来たが……全然心配することは無かった。
住民の皆はそれぞれ自分で値札を読み、計算し、スムーズに会計を済ませていた。
問題らしい問題も、計算に多少時間がかかってもたついていたことくらいだ。
それだって、あんまり長くなりそうならケットシーたちが助け船を出していたしな。
これなら心配はいらないだろう。
まだしばらくは貨幣は小規模な流通にとどめるが、その内どんどん流通規模を増やしていこう。
そうすればケットシーたちの商会だけではなく……もっといろいろな店も建てることになるだろう。
今から楽しみだ。




