157.お仕事と学校
海水浴場で思い切り遊んでリフレッシュした俺はレースピアの街に戻りバリバリ働いていた。
しっかり遊んだらしっかり働く。
逆もまた然り。
……まあ、働かずに悠々自適に暮らす生活に憧れが無いと言ったら嘘になるが。
でも異世界で働くのってゲームみたいでかなり楽しいしな。
「ふぅむ……残念ですがまだたどり着きませんな」
そうか……。
俺が来ているのは街の裏手の超大型鉱山。
俺が第七地層と呼んでいる、拡音石なんかが取れる地層の更に先を目指して掘り進めていたんだが、残念ながらその先はまだ発見できなかった。
う~ん、この先……第八地層あるんだろうか?
「今のところは何とも言えませんなあ……」
まあそうだよな……。
「ただ……」
ん?
「この先、第八地層があるにせよ無いにせよ、これ以上掘り進めるのであれば、トロッコや坑道などもっと整備した方がよろしいかと存じますぞ」
……それもそうだな。
俺は周囲の様子を見まわして、イアンにそう答える。
俺が掘り進んできたこの坑道は、それなりの広さは取ってはいるが……まあ、それなりどまりだ。
ドワーフが大勢で掘り拡げている採掘場所ほどでは無い。
さらにここまで来るともうかなり深い。
トロッコで走ってもかなり時間がかかるうえに、鉱石を乗せて帰ろうと思ったらさらに時間がかかる。
不思議なことにちゃんと警戒しながら進んでいるのに、空気……酸素の不足を感じたことは無い。
異世界の鉱山だからなんだろうか?
まあともかく。
この先まだまだ掘り進んで、鉱石も運搬することを考えると……別の出入り口やら、坑道の整備やらトロッコの改造やら……その辺りを先にやっておいた方がいいだろう。
というわけでまあ、少しずつ掘り進めはするが、本格的に掘るのはそれらの課題を片付けてからにする。
そうイアンとも合意し、今はとりあえず産出している鉱石の採掘に注力してもらうことにする。
どれだけ掘ってもいまだに鉱床の再生が止まらないしな。
本当に常識外れの鉱山だ。
と、鉱山の掘り進みはゆっくりやっていくことにして俺は屋敷に帰って来る。
すると。
「申し訳ありません、代表様。いくつか確認していただきたいことがございまして」
リネイアが書類の束をもってやって来る。
うん。
レースピアは住人の増加も止まらず、その分いろいろと書類仕事も増えている。
学校、警察署、消防署、プールに海水浴場まで作ったからな、最近。
大半は秘書の皆がやってくれているが、当然俺が代表として目を通さないといけないものもある。
書類仕事とか全然経験なかったし、今も正直あんまり出来ているとは思えないが、まあ皆が助けてくれるので何とかなっている。
「ご謙遜を。しっかりと出来ているではありませんか」
本当か? じゃあ皆がやっている分も俺がやってしまおうか……なんて。
「……。」
……うん、やめとくか。
こちらをただ笑顔で見つめているリネイアを見て、俺はそう思い直す。
餅は餅屋だ。
何でも出しゃばればいいってものじゃない。
改めてそう学びながら、書類の確認を進めていった。
「はい、それではこの問題が分かる方は挙手を。……はい、ではそこのコボルトの方。……正解です」
「よしっ!」
「おぉ~、ワシ分からんかった」
「分かるために来ているんでしょう?」
「繰り上げ……繰り下がり……掛けて……割って……」
書類の確認を終えた後に、俺がやってきたのは学校。
警察や消防なんかと同じく無事に稼働を始めていたので視察に来た。
本当はもっと早く見に来るつもりだったがいろいろと忙しかったから……。
まあ、海水浴場とかいきなり作り始めたのとかは自業自得だが。
「……どうでしょう? 代表様?」
少し難し目の計算問題を出して、皆に解かせている内に、先ほどまで前に立って教師をやっていたハイラが話しかけてきた。
いやあ……まだ少し見ただけだがしっかりした授業って印象だ。
俺は心からの感想を伝える。
本当に前世の授業風景と比べてみてもあんまり大差ないと思える。
いや、授業を受けている生徒に耳とか尻尾とか生えているところは大差だけど。
皆の前に堂々と立って授業をするハイラもとても様になっていた。
女教師とか凄く似合いそうだ。
「ありがとうございます、代表様。しっかり計画を立てた甲斐がありました」
俺の言葉に少し耳を赤くしつつ、そう返してくるハイラ。
俺の秘書もやって、エルフたちの代表としても動いて……最近は警察の訓練もしつつ、授業の計画も作る? さらっと言ったがかなり大量の仕事をやっている。
本当に流石だな、ハイラは。
だけどまあ……ちょっと心配になるので、休める時は休んで欲しいと伝えておく。
ちょうどプールとか海水浴場とか休暇にちょうどいい場所造ったしな。
「お気遣いありがとうございます。……その、その時はもしよければ、代表様と一緒に……」
俺と? もちろん構わないが……。
「ありがとうございます。その言葉お忘れなく」
あ、ああ……。
少し圧強めに念を押されてちょっとびっくりした。
その後。
なんだかとてつもなくやる気を出したハイラは凄くきびきびと授業を進めていった。
俺も授業の様子を見学していたが……うん。
全然わからなかった。
いや、違うんだ。
数学……というか算数か?
計算系は良いんだ。
単純な加減乗除や大きい数字の計算。
今やってるのは初等教育みたいなもんだから全然分かる。
分からないのは言語。
「この言葉は──。意味は”欲しい”です」
ハイラが前方に張った大きな紙に文字を書きながらそう教えているが……。
うん、やっぱり上手く理解できない。
多分これあれだな……特典としてもらった翻訳がちょっと悪さしてる。
翻訳で聞こえる言葉とその意味、そして教えてくれている意味が上手くつながらない感覚。
まあそうじゃなくても見たことも聞いたこともない言語で習得は難しいだろうが。
授業を受けているほかの住民はそんなこともなく、とても気合にあふれた様子で授業を受け、しっかり読み書きを学べているようだ。
大人になってからの言語習得って難しいと聞きかじったことがあるが……凄いな、ほんと。
頭が下がる。
俺は……これからも翻訳に頼らせてもらおう、うん。
そうして読み書き計算の授業が終わった後は、いったん休憩。
まあここで帰るものも居るが……。
休憩はまあ昼休みみたいなものだな。
食堂では軽食が提供され、体育館や運動場、プールも解放されるのでそこで自由に息抜きしてもいい。
とはいっても学校のプールは街に作った本格的なやつとは違ってあくまで授業用の簡素なやつだから、泳ぐというより浸かって涼をとる目的で使われていた。
体育館や運動場で思い切り動いて、火照ったらプールに浸かる……みたいな流れ。
俺もちょっとやってみたいかも、こういう学校生活。
そして、休憩が終わった後は再び授業。
今度は基本的な読み書き計算の授業ではなく……魔法の授業だ。
「それではここに手をついて……はい、そうです。そうしたら目を閉じ、集中してみてください」
「うぅん……うぅぅ~~~~~~ん……」
今度も講師はハイラ。
全員に受けてもらっている読み書き計算の授業とは違って、こっちは希望者のみが受けられる授業だ。
教師の数が足りないからな。
申し訳ないが、今は少数に絞らせてもらってる。
さて、見学している俺の目の前ではコボルトの生徒が魔球儀に手を触れ、何かを感じ取ろうとしている。
その顔はとても真剣で……かと思えば今、ぱっと明るくなった。
どうやら感覚を掴んだらしい。
そうやって授業は進んでいき、なんと希望した生徒たちは一回の授業で魔力の感覚とやらを掴めたようだ。
ちなみに俺も受けさせてもらったんだが、全然何もつかめなかった。
身体から何かが湧き上がるような感覚って言われても。
創造神器を出せば魔力を感じ取ることは出来るが……俺単体でその感覚を感じることも、ましてや魔力を操ることも普通にできなかった。
「……まあ、代表様には私どもがいますので。魔法が必要になりましたらいつでもお声がけくだされば」
ハイラがあわあわしながら慰めてくれた。
うん。
ありがとう。
魔力関係はこれからも創造神器頼みになるな。
特典を付けてくれた神様には感謝の念しかない。
祈りを捧げておく。




