155.内見二階以上
その後。
集まった全員に焼きそばを振る舞った後。
俺は海の屋敷の中央ホールに戻ってきていた。
「はぁ~……とっても美味しかったですぅ~……!」
一緒に戻ってきたトゥーナはお腹をさすりながらそう言っている。
しれっと三回ぐらい並び直してたな。
「えへへぇ……お、美味しかったのでぇ……」
……まあいい。
それじゃあ一階は終わったから二階も見ていこう。
というわけで、再びトゥーナには泉から魔法で水路を繋げてもらい二階に上がってもらった。
二回目だがどうだった?
「変わりなかったですぅ。問題ありません」
ふむ。
本当に問題なく繋げるみたいだな。
二階の水路もスムーズに移動できているし、これなら大丈夫だろう。
まあ、懸念点があるとすれば、二階以上の水路は独立しているからすぐに淀んだり汚れたりするだろうことか。
だけどそれはこまめに水魔法で水の入れ替えをやってもらえばいいことだ。
マーメイドか……手が足りなければ街からウンディーネを呼んでお願いしよう。
「その程度ならマーメイドたちでやりますよぉ。お任せくださいぃ」
いいのか?
「もちろんですぅ! これほどの場所を使わせてもらえるんですから当然ですよぉ!」
そうか……ありがとう。
そのまま清掃や管理の話もトゥーナとしつつ、二階の部屋を周る。
まず最初に来たのは医務室。
「おぉ~……なんだか嗅ぎなれない香りがしますぅ……」
水路がちゃんとつながっているか確認しながら医務室に入ったトゥーナは、開口一番そう言った。
鼻がすんすん動いている。
……まあ、水中じゃ匂いを感じるとかそういうの無いもんな。
海上に上がったとしても嗅ぐのは潮の香りくらいだろうし。
「そんなことありませんよぉ~? 私たちマーメイドは水の香りを嗅ぐことが出来ますから」
そうなのか?
「はいぃ。言葉にして伝えるのは難しいですがいろいろな匂いがありますよぉ。ここみたいな香りはあんまりありませんけどぉ」
引き続きすんすんと鼻を鳴らしながらそう言ってくるトゥーナ。
俺たちがやったら鼻に水が入って悶絶して終わりだろうが……さすがマーメイドは凄いな。
……にしても、医務室の匂いは街から運んできた薬草なんかの香りなんだが……全くじゃなくてあんまりってことは、海の中にもこんな匂いがあるってことか?
ということはもしかしたら……海の中に生える薬草とかもあるかもしれないな。
いずれマーメイドたちに調べてもらうのもいいかもしれない。
さて、それはそれとして今はこっちだな。
思考を切り替えて医務室のチェックをする。
医務室は、一階の食事処ほどじゃないがそれなりのスペースを確保してある。
いざというときにスペースが足りないよりはマシだと思ったからだ。
そしてその広いスペースに置かれているのは、薬草を置いておくためのラックや、包帯なんかをしまっておくための棚、調合道具や机、そして整然と並べてあるベッド。
このベッドは当然、地上種族のけが人のための物だが……当然マーメイド用の病床もある。
整然と並んだベッドとは反対側、水路でその間を分けるように、それはある。
形としては……超なだらかな浴槽?
半身浴用の浴槽みたいな浅いくぼみみたいな感じだ。
最悪意識が無いマーメイドも水路を引っ張って寝かせられるように、水路とは直結している。
「休憩室も良かったですけどここも寝心地良いですねぇ……」
俺が言うまでもなくトゥーナは、マーメイド用のベッドに寝転がって感想をくれる。
水で満たしているとはいえ、結構硬いからな。
海藻でも敷こうと思ったが……。
「必要ありませんよぉ……これくらいならぁ……ふあぁ……」
眠りそうになってないか? いやまあさっきたくさん食べたからな、気持ちは分かるが……。
「だいじょ……だいじょぶですぅ……すぅ……すぅ……」
寝たな。
「すいませんでしたぁ……!」
その後、俺が医務室をチェックする間……まあ大体三十分くらい……完全に眠りに落ちていたトゥーナが水の中で正座しながら謝って来る。
いやまあ構わない。
それだけマーメイド用の病床は快適だったってことだからな。
ある意味では自分の身をもってテストしたと言える。
「あ、ありがとうございますぅ……」
ホッとしたように胸をなでおろすトゥーナ。
そんなトゥーナを連れ次にやってきたのは貸出スペース。
海に必要なあれこれを貸し出すスペースだ。
とはいってもボートだとか浮き輪だとか……そういうのはまだ作れてない。
なら何を貸し出すのかというと……水着。
「……すっごくいっぱいありますねぇ!」
周りを見渡してトゥーナがそう感心する。
遊具なんかの貸出スペースとして作ったはずのそこはもう完全に水着販売店と化していた。
いやあくまでも貸し出す場所なんだが。
プールが出来たこともあり、火が付いていたアラクネたちはかなりの量の水着を作っていた。
それらの一部をこの為にもらい受けてきた形だな。
これで一部って言うのに驚いてるが。
軽く百着くらいないかこれ?
「マーメイド用もあるんですねぇ。人魚型の木像なんて初めて見ましたよぉ」
その声にそっちを見ると確かにあった。
下半身が魚になっているマネキンが何体も鎮座している。
トゥーナが見ているのはその内の一体。
貝を胸に張り付けただけに見える人魚マネキンだ。
いや……これは水着って言わないだろ……。
「良いと思いますけどねぇ……」
流石に目のやり場に困る。
代表権限でそのマネキンは片づけておく。
ともかく……見て回っているがここも問題は無い。
あえて言うなら、更衣室が一階だからちょっと遠いことぐらいか。
だけどもともと最初は遊具貸し出し用で作り始めたところだからな、申し訳ないが我慢してもらおう。
というわけで次。
倉庫。
ここはあんまり見るべきところは無いかな。
遊具なんかをしまっておくための倉庫として作ったんだけどその遊具がまだ無いし。
軽く見て回って次。
休憩スペース。
ぶっちゃけ全階にある。
いくらあってもいいからな。
ここも作り自体は一階と同じようなもの。
混んでいたらこっちに来てもいいって感じだな。
さて、二階も見終わったし、次がいよいよ最後の三階だ。
トゥーナ、一応二階からそのまま上がる場合と一階から一気に上がる場合と両方試しておいてくれるか? 念のため。
「はいぃ、了解しましたぁ」
そんな感じで三階へ。
ここは一階と二階に比べたら広くはない。
屋上も兼ねた広い観覧デッキが広がっているだけだからな。
三階はもう全部休憩スペースだ。
今も住民たちによって椅子や机、寝転がれるチェアなんかが運び込まれている。
ちゃんとマーメイドたち用の寝そべりスポットもあり、これまでと同じようにトゥーナに寝転がってもらって確認してもらう。
「これまで通りとっても快適ですぅ。さっき眠ったのにまた眠くなってきちゃいましたぁ……」
まあ、確認はここで終わりだし眠ってしまっても良いといえば良いが……。
「いえぇ、流石にこれ以上醜態は晒せませんよぉ……」
凄く気持ちよさそうで醜態とは感じなかったけどな。
「うぅ……いじめないでくださいぃ……」
心から言ってるんだが……まあ、トゥーナがそう言うならこれ以上言うのはやめておこう。
さて、トゥーナにも言った通り、海の屋敷の確認はこれで終わり。
流石はうちの誇る建築チーム。
水中種族……マーメイドと地上種族が一緒に憩える施設なんて完全に初の試みだったろうに問題は全然無かった。
さっきは焼きそばをご馳走したが……今度はお好み焼きでも差し入れるか。
「私もぉ! 私も手伝いましたよぉ!」
ああ、分かってる分かってる。
トゥーナの分ももちろん作るから。
「やりましたぁ! それじゃあたこ焼きも作っていただけませんかぁ!? タコは取ってきますのでぇ! 今からぁ!」
さっき少しうとうとしていたのが嘘みたいにアグレッシブにテンションを上げているトゥーナ。
祭で振る舞った粉物三種の神器が相当気に入ったみたいだな。
いや気に入ってない住民居なかったけど。
そんな感じでお好み焼きを焼いて差し入れたいたら、どこから聞きつけたのか住民がどんどん集まり……粉物パーティーになってしまった。
まあ、完成祝いと考えればいいか。
海の屋敷に運び込んでいた食材全部使う羽目になってしまったが、楽しかった。




