154.海の屋敷内見
「わぁ……! すっごいですぅ……!」
つい、興が乗って立派にし過ぎた海の家……いや海の屋敷。
完成したから、と見に来たトゥーナが歓声を上げている。
今俺たちがいるのは海の屋敷の中央ホール。
周りではハイコボルトたちやアリゲイター、タートラーたちが資材や家具を運び入れている。
トゥーナが居るのはそんな中央ホールのこれまた中央付近に備え付けられた大きな噴水の中。
まあ噴水というより泉とか水場と言った方がいいか。
この泉は海の屋敷の中にあるが、いくつもの水路で外の海と繋がっている。
トゥーナ達マーメイドが気軽に来れるようにな。
ちゃんと泉の中にはなだらかな……寝転がれるスペースもいくつも用意しているから、この泉はマーメイドたちの憩いの場になるはずだ。
さらに、水路は外の海に続いているだけじゃない。
この海の屋敷内部にもつながっている。
「こんな感じでしょうかぁ……」
そんな声と共にトゥーナが泉の水を空中に伸ばし……そのまま二階部分の水路と繋げる。
これがトゥーナと一緒に居る理由。
マーメイドもウンディーネたちと同じで……水魔法が使える。
なので、この海の屋敷の水路は階ごとに独立させている。
繋いじゃうと水が全部一階に落ちてきてしまうので。
その独立した水路同士を問題なくつなげるかどうか、トゥーナにテストしてもらっているわけだ。
俺がそんなことを考えている間に、トゥーナは自分が作ったその空中水路を通り、海の屋敷の二階に上がった。
「代表様ぁ~! 大丈夫ですよぉ~!」
ありがとう。
俺は上からこちらに手を振って来るトゥーナにそう返す。
ふぅ……とりあえずはオーケーか。
「いやぁ~……とっても凄いですねぇ~……!」
再び空中水路を使い一階の泉に戻ってきたトゥーナがそう言いながら目を輝かせている。
そんなに喜んでもらえるなら作った甲斐があった。
「はいぃ! それはもうぅ! 地上に造ると聞いたので私たちには関係ないかな、と思っていたんですが……関係大ありでしたぁ!」
まあ確かに、マーメイドは地上で長時間は過ごせないしな。
「はいぃ! でもここは本当に凄いですぅ! 海からそのまま水路を通って入ってこられる上に、全体に水路が張り巡らされていて、水魔法でつなげばどこにだって行けますぅ!」
まあ、そのどこにでも行けるかどうかを調べる為に今トゥーナに手伝ってもらって周ってるんだけどな。
「こういうことならいくらでも手伝いますよぉ!」
さっきからトゥーナのテンションが大分高い。
どうやら地上の施設の中を自由に行き来できるというのでかなり興奮しているようだ。
そんなトゥーナを連れてまずは海の屋敷の一階部分を周っていくことにする。
まずは更衣室。
「ほへぇ~……」
口を開けて呆けているトゥーナを尻目に内部を確認する。
更衣室の中はいくつもの棚が並び、カーテンが備え付けられた簡易着替えスペースや、簡易シャワースペースもある。
当然水路も繋がっていて、水中にも棚を設置して……はない。
そんなことしたら水の流れで着替えが流れて行ってしまうからな、棚は地上のものを一緒に使ってもらう形。
当然、男女で分けているが……棚に鍵などはついていない。
流石にそこまで手間はかけられなかった。
まあうちの治安の良さなら無くても平気だろう。
ところでトゥーナはいつまで驚いてるんだ?
何かそんなに珍しかったか?
「いえぇ……地上の人たちってこんな狭いところで着替えるんだって思ってぇ……」
……狭い? かなり広くゆったりめに造ったんだが?
「いえ狭いですよぉ。今の五倍はあっても良かったんじゃないですかぁ?」
……そう言えば王族だったな。
まあ普通はこれくらいで十分なんだよ。
「そうですかぁ? 代表様がそう言うのならぁ」
納得したみたいだな。
それじゃ次。
休憩室。
ここは泳ぎ疲れたり、ゆったり過ごしたい時に使う場所として作った。
構造としては半分屋内半分屋外。
中央ホールの方から続く廊下の扉を開けると、ホールほどではないが大きな部屋、屋内部分につく。
その部屋には海の方向に向けて、大きなガラスを設置。
その横に扉がついており、そこから出るとデッキがあり、今現在そこには上部に大きな布を張る作業をしている。
「わぁ~! 凄いですぅ~! 地上からこんな風に海を眺めたことなんてありませんから新鮮ですよぉ……!」
例のごとく。
扉とは別に設けられた水路入り口から入ってきたトゥーナがそう感想を漏らす。
まあ地上に長く居られないならこういう風なオーシャンビューを眺めることもそうそうないだろう。
俺でも感動しているしな、この開放感と絶景。
素晴らしい。
「はぁ~……ここはいい場所ですねぇ~……! おや? 代表様、外の人たちは何をやっているんですかぁ? あんなに大きな布を上に張って……」
ああ、あれは日陰を作るものだな。
俺はトゥーナの疑問にデッキの方を見ながらそう返す。
デッキ……というよりこの休憩室は長時間のんびり過ごすことを想定しているからな。
直射日光が降り続ける中ではさすがに暑いだろう。
というわけでアラクネたちに大きい布を用意してもらった。
原理は全く分からないがどうやらかなり遮光性が高い布らしく……暑さもかなり軽減してくれるみたいだ。
ありがたい。
「ということは……あの布の下ならマーメイドも長い時間ゴロゴロしていられるんですかぁ!?」
いや、デッキにも水路は繋げてあるし水の中なら別に布無しでゴロゴロしても……。
「いえ代表様ぁ、海ならともかくこのくらいの水量だったらすぐに熱くなってしまいますよぉ。すぐに茹で上がっちゃいますぅ」
……それはそうだな。
というか、人魚が茹で上がるとか言うとちょっと生々しいな……。
「いやぁ素晴らしいですぅ! 完成したら思い切りゴロゴロしますよぉ!」
休憩室はマーメイドにも大好評のようだ。
作った甲斐があった。
それじゃあ次に行こう。
次は食事処。
海の家ならやっぱりこれは必須だろう。
とはいっても……俺が想像していたものよりもかなり大掛かりなものになっている。
大きく作ってある入口を通って中に入ると、そこは百人単位で収容できるのでは? と思えるほどの食堂スペース。
しかもこれは地上部分だけの話だ。
全身を水に浸しつつ、料理は地上に置いて食べる……半地上型とでも言うべきマーメイド用の食事スペースも含めればさらに広い。
ぶっちゃけこの海の屋敷の一階部分の半分はこの食事処が占めている。
「おぉ~ここもなかなかですねぇ~……」
ここにもまた当然備え付けてある水路を通って入ってきたトゥーナ。
早速半地上型の食事スペースまで行って、使い心地を確かめている。
どんな感じだ?
「はいぃ、凄く良いと思いますぅ。こんな風に地上で食事することは想像もしていませんでしたが……すっごく便利だと思いますぅ」
そうか。
それなら良かった。
マーメイド用の食事スペース……ここのアイデアはこの前、闘技祭に参加しに来たトゥーナから着想を得たものだ。
空中に浮かせた水球から顔と腕だけを出して食べていたあの姿から、水に浸かったまま食べられるこのアイデアを思い付いた。
「代表様……そこまで私達のことを……ありがとうございますぅ! とっても嬉しいですぅ!」
感激したのか、顔を赤くして感謝してくるトゥーナ。
喜んでもらえて嬉しいが……。
だけどもし、何か使いづらいこととかあったら言ってくれ。
出来る限り改善したいと思う。
やはりこういうのは実際に使ってみないと気付かないこともあるからな。
「ん~……それならぁ……代表様、何か作っていただけませんかぁ? 実際に使ってみたいですぅ」
俺の言葉にトゥーナはそう提案してくる。
確かにそれももっともだな。
使ってみないと使い心地なんて分からない。
さて、そうと決まれば……。
俺は食事スペースとは反対側にある場所、キッチンへと向かう。
そこにあるのは……鉄板。
そう、祭で使ったやつだ。
しばらくは街では使わないだろうとこっちに持ち込んだ。
やはり海の家といえば鉄板だからな。
そして当然、各種調味料と食材ももう持ち込んでいる。
早速火を入れ、鉄板で焼きそばを作っていく。
祭で焼きまくったからだいぶ慣れた。
ジュウゥゥゥ――――……と、焼きそばが焼ける音とソースの匂いが広がる。
「わぁぁ~~……!」
トゥーナが目を輝かせながら見つめてくる。
この前の祭でもかなり食べてたし気に入ったのか?
そうこうしている内に焼きそばは完成。
普通のプレーンなやつだ。
海近いんだしその内、海鮮焼きそばとか作りたいな。
そんなことを思いながら、トゥーナに焼きそばを渡し、せっかくだし自分の分も作るか……なんて思いながら、ふと食事処の入口の方を見ると。
「「「……。」」」
やってきていた。
作業していた者たちやマーメイドたちが。
うん。
まあ、ソースの匂いまき散らしたらそうもなるか。
俺は再びめちゃくちゃ焼きそばを焼くことになった。
まあ、昼休憩ってことで。
ところで、マーメイド用の食事スペースに何か不満点なんかあったか?
「もちろん無いですよぉ~。思った通り完璧でしたぁ~」
”思った通り”?
……まさか……あの提案はただ焼きそばが食べたかっただけか?
「そっ! ……そんなことは、ありませんよぉ?」
せめてこっち見て言ってくれ。




