153.海水浴場
「ひぃぃん……私が悪かったですぅ……」
すんすんと鳴きながらトゥーナが目の前で仁王立ちをしている俺にそう言ってくる。
ここはレースピアの港の船着き場……の、橋の上。
トゥーナは今そこで魚型の下半身を器用に折り曲げ、綺麗な正座の姿勢になっている。
……自分で言っておいてなんだが、こんな綺麗に正座できるとは思ってなかった。
トゥーナが王族だって話にちょっと信ぴょう性が出る。
いや、ルフィンにも言われたし信じていないわけじゃないんだが……普段が普段なので。
まあそんなことはともかく。
流石に言わせてもらう。
一人二人ならともかく……いや全然ともかくではないが、数十人単位で受け入れるのに報告を忘れるのは流石にダメだ。
「ひぃ……その通りですぅ……」
……何か理由があったのか? 報告できない事情が。
心から反省していそうに見えるトゥーナに俺は態度を少し軟化させそう聞く。
「え? いえぇ……普通に忘れてましたぁ……」
正座追加で。
「ひぃぃぃぃ~~~~~~」
軟化させた俺が悪かったな、これは。
「ひぃ……ひぃ……干物になってしまうところでしたぁ……」
その後、ある程度……大体三十分ほどか? 正座させて注意した後、俺はトゥーナを解放。
しなしなになっていたトゥーナは海に戻ったが、泳ぐ気力も今は無いのか、波間をぷかぷかと浮かんでいる。
ラッコみたいだ。
「お疲れ様でございました、代表様!」
そこにやってきたのは、トゥーナの執事だったと名乗った初老の彼、ルフィン。
海から上半身だけを出しながら、器用にその上半身を折りたたみ、俺に一礼してくる。
あー……ルフィン、さん?
「ルフィンで構いません代表様。先ほどは言いそびれてしまいましたが……敬語も不要です」
そう、か? まあ、それじゃあお言葉に甘えて……。
俺はそう言ってこほんと一つ咳払いするとルフィンに問いを投げる。
あー……労ってもらえるのは嬉しいが、トゥーナは放っておいていいのか?
俺とルフィンが話し始めても反応することなくぷかぷかと波間に浮いているだけのトゥーナを横目で見ながらそう聞く。
……いや浮いているだけじゃないな。今尾ひれで小魚を打ち上げて飛ばしたな。
シャチみたいだ。
「ええ、はい。あの方はこの程度で屈しないので」
注意した後に聞きたくない言葉第一位かもしれないな、これ。
反省してないの?
「ああいえ! 言葉選びが良くありませんでした……反省はしております。ただ、ミスを引きずり続けて落ち込むことが無いということです」
ああ、まあポジティブだもんな、トゥーナは。
その気の弱さに似合わず。
外面こそビクビクとしたいかにも気弱って感じだが、その実態はかなり破天荒な人魚だ。
トゥーナは。
「そんなトゥーナ様をここまで追い込み反省させられる者はそうそうおりません。私の知る限り女王様くらいしか……。ゆえに我ら一同、心から感服しております」
どれだけ問題児だったんだトゥーナは。
……ルフィンや遠くにちらりと見えるマーメイドたちからやけにキラキラした目で見られているなと思ったら理由それか。
いや、まあ、嬉しくはあるんだけど……ちょっと複雑。
そんな感じで雑談しながら、聞いておきたいことがあったので聞いておく。
ルフィン。
ルフィンたちは移住してきたのは良いが、どこに住んでるんだ?
そう。
港は地上部分にはそれなりに空き家もあるが、水中住居はトゥーナ用の住居しか作っていない。
作ったという話があったら俺の耳に入っているだろうが、当然入っていない。
なので聞く。
「ああ、我々は近くの海底に空いた穴の中で夜を過ごしております。女はトゥーナ様の小宮殿に住まわせてもらっています」
……なるほど。
トゥーナの小宮殿と言うのは俺たちが作ったトゥーナの自宅のことだろう。
やけに豪華にするようリクエストがあったが、宮殿造るつもりで言って来てたのか、あれ。
まあ建てるの楽しかったし別にいいが。
まあともかくそれだと気もなかなか休まらないだろう。
少し待っててくれ、すぐにマーメイド用の水中住居を用意する。
俺がルフィンにそう言って、水中工事の人員を集めるためいったん街に戻ろうとすると。
「ふぅ~……カラカラカラリンだった体に水気が染み渡りましたよぉ……。代表様ぁ。ちょっと待ってくださいぃ」
ぷかぷか浮きながら小魚で遊んでいた? トゥーナがこっちにやって来る。
そして――。
「家もいいですけど……代表様ぁ。この前闘技祭に遊びに行った時に見たんですけどぉ。プール……でしたっけぇ? 街にだけあるの不公平だと思いますぅ。こっちにも作って欲しいですぅ」
開口一番プールをねだってきた。
いや……うん。
要望と言うことなら当然聞くけど……あれだけ注意された直後によくまあしれっと要望出せるな。
逆に感心した。
「トゥーナ様が申し訳ありません……」
ルフィンが深く頭を下げている。
そうして。
「ふむ……マーメイド用の水中住居……お任せください。経験はありますのですぐに作り上げます」
頼もしい。
一度街に戻った俺は、建築チームとハイウンディーネたちを連れ、再び港へ。
トゥーナの時のような水中住居を頼むと、頼もしく返事し、早速建築に入ってくれた。
よし、住居はこれで大丈夫だ。
そうしたら……。
俺はマーメイドたちの住居は建築チームに任せ、トゥーナの要望をかなえることにする。
とはいっても造るのはプールじゃない。
海辺と言ったらプールよりも……海水浴場だろう。
というわけで……俺は今、崖を削って細かくし、海との境界線に敷き詰めている。
要するに砂浜を作っている。
ガツッガツッ!
サクッサクッ……!
創造神器にかかれば、硬い岩の崖でもまるでパンを削っているかのように簡単に細かく砕いていくことが出来る。
というか数振りで岩が完全に砂状になるのどうなってるんだこれ?
相変わらずとんでもない性能をしている。感謝。
そうやって地上部分には俺が敷き詰め、水中の方はマーメイドたちに敷き詰めてもらう。
「あのぉ……ちょっとまだ尾ひれがジンジンしててぇ……」
働け。
「はいぃ……」
そうして砂を敷き詰め終わったらもうほぼ完成だな。
後は地上部分に港までつながる道と、休憩所とか更衣室とかを兼ねた海の家を建てることと……危険な水生生物とかが入ってこないように、遊泳許可エリアの外に網を張っておくこと。
これくらいか。
網の方はこれまたマーメイドに張ってもらえばいい。
というかそもそもマーメイドに海水浴場の監視お願いすればいいな。
マーメイドなら超優秀ライフセーバーにもなれるし。
まあでも念のため網は張っておこう。
というわけで長い網の作成を港の者たちに頼んで、俺は道と海の家を建てる。
まずは道。
とはいっても特筆することは何もない。
海水浴場はそれなりに港に近い場所に造ったし、創造神器にかかれば道なんてすぐにできる。
大して時間もかからずに完成。
海の家のことも考えて馬車二台すれ違えるくらいには幅も確保しておいた。
そして次に海の家。
こっちに取り掛かる頃には、マーメイドたちの住居を作りに行っていた建築チームも戻ってきてくれた。
流石かなり速い。
建築に入る前に軽く話を聞くが、水中住居は問題なく建築完了。
マーメイドたちからは素晴らしい住居だと大絶賛を受けたそうだ。
喜んでくれたなら良かったな。
そのまま建築チームと一緒になって海の家を作っていく。
さっきも言ったように休憩所や更衣室も兼ね……万一の時のことも考え保健室も作り、さらに海の家というからには食事処や遊具等の貸し出すスペースも必要だろう。
そんな感じでとりあえず思いつくものを片っ端片詰め込んでいった結果。
いやぁ……デカいな……。
俺の目の前に建っていたのは三階建ての海の家というより海の屋敷とでも言うべき施設。
うん。
ちょっとやりすぎたな。




