145.準決勝……からの決勝?
第一回レースピア闘技祭、ベスト四。
ルシュ、ハイラ、ムイ、シロイ。
シロは出ていないが、同じフェンリルとして考えると、初期も初期からこの街に来た者たちが残った結果になったな。
ちょっと面白い。
エルフとドワーフは同時だがイアンもまあ直前までは残っていたし。
「さあそれでは! 闘技祭もいよいよ大詰め! 準決勝の第一試合は……ルシュ選手対ハイラ選手です!」
惜しくもシロイに負け、再び実況に舞い戻ったフォイルが拡音石を握りしめ声を上げる。
その言葉に呼応するように会場は沸き……そして歓声の中を二人が進み出でる。
「主様がご覧です。いい勝負にしましょう」
「はい、もちろんです」
手短に言葉を交わすと、実況の言葉を待つことなく二人は距離を離し、戦闘態勢を取る。
「おっと!? もうとっくに準備は出来ているということか! では早速始めましょう! 準決勝第一試合! はじめぇっ!」
その宣言と同時。
動いたのは両者。
ただし方向は真逆。
ルシュは前に、ハイラは後ろへ。
「おっとこれは! 闘技祭初! ルシュ殿が自分から仕掛けました!」
うん。
まあ当然だろう。フォイルも分かってて言ってるだろうが。
ルシュはこれまで相手に合わせる形で戦ってきたが……ハイラ相手にそれをやると遠距離から一方的に撃たれ続けるだけだ。
当然自分から仕掛け、距離を詰めなければならない。
「ルシュ選手に向かい形成される矢の雨! しかしルシュ選手……躱す躱す躱す! 当たらない!」
イアンが武器を破壊されたのを教訓としてか、ルシュは矢の雨を極力回避。
どうしても躱しきれない物しか防ぎはしない。
そのまま順調に距離を詰めていく。
そんなルシュに対してハイラは――何もしない。
いや何もしないは正しくない。
やってはいる。
イアンに見せた背後からバウンドしたみたく曲がって飛来する矢に、撃ち上げた後、ルシュに向かって降り注ぐ文字通り雨みたいな矢。
……普通に受け入れてるけどどう撃ったら矢がああ飛ぶんだ?
まあともかく。
そうやっていろいろな矢を撃ってはいるもののそれだけだ。
それらの矢すら凌ぎながら近づいてくるルシュに何も対策していない、ように見える。
そしてとうとう……。
「ここで! ルシュ選手がとうとうハイラ選手を間合いに捉えました!」
ルシュが矢の雨を突破。
ハイラの懐に入る。
「これはもう決着か――と、思いきやぁぁっ! ルシュ選手っ! 投げ飛ばされましたぁっ!」
「っ!?」
俺も驚いた。
間合いに入り、その二刀を振り下ろしたルシュ。
しかし懐に入られたハイラは弓を手放し、振り下ろして来たルシュの手首をつかむとそのまま投げ飛ばした。
「私とて懐に入られた弓手が脆いのは百も承知です。当然克服しています。代表様に教えていただいたジュージュツで」
え? 俺?
……教えたな、そう言えば。
昔弓を撃つところ見せてもらって……弓道から柔道連想して……授業で習ったことあったからうろ覚えで教えたはず……。
いやでも手首掴んで投げ飛ばすなんてあんな洗練された技教えた覚えないけど。
独学であそこまで磨き上げたの? 凄くないか?
「くっ……ず、ずるいですよ! あなただけ主様に!」
「チャンスを掴めなかった方が悪いのです!」
先ほどまでの展開から一転。
お互い至近距離での戦闘を始めたルシュとハイラ。
今度は間合いを保とうとするルシュと飛び込もうとするハイラの戦いになった。
そして最終的には……。
「私の勝ちですっ!」
「くっ……無念っ……」
勝ったのはルシュ。
間合いに踏み込み、投げ飛ばそうとしてきたハイラに対して、ルシュは自身も二刀を捨て、拳で応戦。
その拳撃は綺麗にハイラの顎に入り、ハイラはノックアウト。
「決着ーーーーっ! 紙一重の戦い、制したのはルシュ選手! 互いに武器を捨て合うほど均衡した素晴らしい戦いでした!」
そのフォイルの実況に、ルシュはハイラの顎を打ち抜いた右手を高く上げ勝利宣言。
会場は大いに沸いた。
そして次の試合。
「さあ! 次の試合はムイ選手対シロイ選手! 無足歩行対四足歩行! 一体どんな戦いになるのか! それでは……はじめぇっ!」
早速のフォイルの開始宣言に即座に動いたのはムイ。
これまでと同じように、その場から超スピードで跳ねて、シロイに突進……した瞬間。
「ウォンッ!」
シロイはその場から退避。
ムイの突進を躱す。
これまでのムイの対戦相手は、その突進のスピードから、躱せないと判断し受け止める方向へ舵を切っていた。
しかし、そこは流石フェンリル。
とてつもないスピードのムイの突進でも躱す自信があったのだろう。
全力での横っ飛びにより、見事、シロイはムイの突進を躱しきり、突進を躱されたムイはその勢いのまま場外へすっ飛んで……行かなかった。
パァンッ!!
そんな乾いた……拍手の音を何十倍にもしたような。
それこそ銃声のような音が鳴ると同時。
なんとムイが……空中で跳ね、方向転換した。
え? そんな二段ジャンプみたいなこと出来たの?
俺が驚いている間に、パパパパン、と、二段どころか何段も空中ジャンプを繰り返し、全く予想できない軌道でムイはシロイに再びのチャージ。
シロイは驚愕しながらもぎりぎりまでその軌道を見極め……今度も紙一重で回避に成功。
しかし……。
パァンッ!
回避するために全力で跳び、シロイの足が地上から離れた瞬間。
ムイはシロイの避けた方向へ向かって跳ねた。
そして――命中。
「決着ぅっ! 決まってみれば一瞬でした! 空中で跳ね続けるという絶技を披露してのけたムイ選手の勝利です!」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!?」」」
今みせたムイの絶技に観客から驚愕と興奮の声が上がる。
いや分かる。
俺も凄く驚いた。
ぷるぷるぷる……!
ムイは歓声にこたえてプルプル震えている。
そしてシロイは……。
「うぉ~~……ん……」
それはないだろ~……とでも言っているかのように悔し気に吠えている。
第二試合、勝者はムイ。
「さあ! ついにここまでやってきました――レースピア闘技祭! 決勝です!」
「「「「わああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!」」」」
フォイルの宣言にコロシアムが大歓声で揺れる。
長かった闘技祭のいよいよ最後の戦いだ。
いや本当に想定より全然長かった。
最初は一日で全部終わらせるつもりだったのに結局二日かかっちゃったし。
俺はそう、シロとシロイを同時に撫でながら考える。
なぜ撫でているかというと、これはつい先ほど、シロイがシロに引っ張られる形でやってきたからだ。
負けて消沈してるから撫でてやってくれ……といった感じでシロイを俺の前に引いてきたので、断る理由もなかったし素直に撫でている。
シロイは最初は、別に落ち込んでいませんけど? みたいな態度で撫でを拒否する構えだったが、いざ撫で始めると尻尾を俺に巻き付けてすり寄ってきた。
やはりかなり悔しかったらしい。
シロはそれを見届け、素直になるんだな、と一声鳴くと、そのまま俺の空いている手の下に入り込んできた。
自分も撫でろということらしい。
こちらも当然断る理由は無かったため撫でた。
二頭が席に座っている俺の足元に寄り添って喉を鳴らしているのはそういうわけだ。
ちなみに……ハイラたちが後ろに並んでいるのは何?
「代表様に撫でていただこうかと」
いや、流石にそれは……。
とまあ。
そんな話をしながら、準備が終わり決勝が始まるのを待っていると。
「っ!? 代表様、緊急事態です」
隧音石から何かの報告を聞いたであろうハイラが、顔色を変えて俺のもとに近づいてきた。
更にその瞬間。
ギィィィンッ!!
硬いものと硬いものがぶつかった音を何十倍にも大きくしたような轟音が街中に響く。
これは……いざという時の為に決めておいた即時伝達?
通常の報告に生じるタイムラグも惜しい時に使う緊急事態の報告。
一体何が?
疑問に思いながらも、ハイラに何が起きたのか報告を聞こうとすると。
「フハーッハッハッハッハッハッ! 素晴らしき戦いの気配を感じてやって来たぞ! さあ! 強者よ! 我に挑むがよい!」
……何アレ?




