144.第三回戦
「さあ! それでは第二回戦を勝ち抜いたファンタスティックな強者たちによる第三回戦が! 今! 開始します! 最初に舞台に現れたのは! 同族対決を制したコボルト代表・ルシュ選手! 対するは、そのファンタスティックな糸捌きでここまで勝ち上がってきたアラクネ代表! クトネー選手です!」
熱気も冷めやらぬ中始まった第三回戦。
フォイルの紹介に二人は舞台に上がった。
「フリストル殿にも激励されましたし。勝たせていただきます」
「ふふ。貴女の強さはよく分かっております。しかし勝たせていただきますわ……!」
互いに中央まで歩み寄り和やかに会話。
「両者とも、気合ファンタスティックと言ったところか! それでは、準備は良いでしょうか?! いいですね?!」
それを見たフォイルが実況で煽り、二人はこれ以上言うことは無い、と言うように、少し距離を開けて向かい合う。
そして――。
「それでは……はじめぇっ!」
フォイルの宣言と共に試合開始。
まずは両者とも……動かない。
「おぉっと! ここまで受けに徹してきたルシュ選手は分かりますが、クトネー選手も不動! これは作戦でしょうか? それとも単に踏み込めないだけ!?」
そのフォイルの実況にもクトネーは反応しない。
目の前のルシュから目を離さず、意識を集中させているように見える。
……いや、よく見たら……微かに、指が動いている……ような?
遠いからよく見えない。
「いえ、代表様のお気づきは正しいです」
ハイラ。
「クトネーは、自身の周囲に糸を張り巡らせていますね。私ならばここからでも見えます」
そのハイラの言葉に、俺は目を凝らしてクトネーの周辺を見るが……まあ当然見えない。
ここから舞台上の糸が見えるハイラが凄い。
「ありがとうございます。……クトネーは真正面から挑んでも勝算は薄いと考えたのでしょう。ゆえにこれまでの試合から、ルシュが即座には仕掛けてこないと踏んで、この戦術で行くことに決めた」
「……クトネー選手も……ルシュ選手もまだ動きません! ルシュ選手も何のつもりか分からずうかつに動けないのでしょうか!」
フォイルが実況し続ける。
自分たちと同じように、ルシュも何が狙いか分からず様子を見ているのか、と。
「ああは言っていますが……フォイルもルシュもクトネーの狙いには気づいています」
え? そうなの?
「はい。ルシュは私ほど目は良くありませんが、嗅覚が優れていますし、フォイルは観察眼、という意味なら私並みに目が良いので」
まあ、それは分かるけど、ならどうして……。
「フォイルは単に司会――実況だからでしょう。フォイルもおそらくルシュが気付いていることに気付いていますが……万が一気付いていなかった場合。ルシュに肩入れする行為になりますから」
ああ、なるほど。
そりゃあ戦っている両者にも実況は聞こえるんだもんな。
そこで相手が気付いていないかもしれない作戦を口に出すなんてご法度か。
「はい。もう起こったことなら良いのでしょうが、クトネーはまだ準備段階なので。……そして、ルシュの方が動かない理由は……」
理由は?
「代表様にご覧いただいているからですね」
え? 俺?
「ええ。ここは代表様にご覧いただく闘技祭。相手が全力を出す前に叩き潰すのは流石に無粋だとそう考えたのでしょう」
……ふむ、そういうことか。
でも、それでもし負けたら……。
「油断として謗られるでしょうね。まあ、しかい負けなければいいので」
……まあ確かにそうだが。
と、俺がハイラとそんな会話をしている内に、どうやらクトネーの準備が終わったようだ。
「ふふ。お待ちいただきありがとうございますわ。おかげで準備が整いました。どうぞどこからでもお好きなように」
そう言ってクトネーは、着ていたバトルドレスの裾を持ち上げ優雅に一礼。
そのまま両手を広げ……微笑む。
「おぉっとこれは! まさか今の膠着状態の間に何か仕掛けたのか! 自信満々、といった様子で挑発! この挑発に対しルシュ殿はどうする! 何かあるのは明白! 踏み込むか踏み込まないか、悩――まない! ルシュ選手! 正面からクトネー選手に向かって行く!」
フォイルの実況通り、ルシュが選択したのは真っ向勝負。
ハイラの予想通り、クトネーに全力を出させてそれを真正面から粉砕するつもりなんだろう。
というかフォイルも分かってるくせに”何か仕掛けたのか!”なんてしれっと実況してるな。
実況が上手い。
そして、ルシュが真正面からクトネーに突っ込んだ……と、思いきや、いきなり横っ飛び。
着地したかと思えば前にローリング。
そして体をひねりながらジャンプ。
これって……。
「代表様のご想像通りです。仕掛けられた糸がルシュに殺到しています。全て避けていますが」
やっぱりか。
ハイラが控えていてくれてよかったな。
居なかったら何をやっているのか頭にはてなを浮かべていたはずだ。
そしてそのまま、ルシュは踊るように前左右と動くが後退は決してすることなく……クトネーのもとへ到達。
たどり着かれたクトネーは潔く両手を上げ降参した。
「決着です!! クトネー殿が幾重にも仕掛けた糸を全て! 全て掻い潜り、ルシュ選手見事勝利! レースピア最古参としての実力を見せつけました!」
「「「わぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!!」」」
フォイルの決着宣言に沸くコロシアム。
「む。……確かにルシュは最古参といえる住民ですが……私も十分古参といえると思われますが……」
俺の横で対抗心を出すハイラ。
まあそんなわけで勝者はルシュだ。
そして次の試合。
「古参としての実力を見せつけます」
「お主が古参ならばわしも古参じゃあ……?」
対戦カードはハイラ対イアン。
本人も言ってるがハイラとイアンは同じタイミングで来たので古参対決だな。
ハイラの獲物は弓。
イアンの獲物は斧。
距離を取りたいハイラと距離を詰めたいイアンの戦いになるだろう。
試合開始。
「これはっ! なんとこれはっ! 凄まじい凄まじい凄まじい! まるで矢の雨! ハイラ選手何という連射力! しかしイアン殿も負けていません! 矢の雨をその斧で防ぎながら徐々に近づいていく!」
最初の俺の予想通り。
戦いは近づきたいイアンと近付けせたくないハイラのせめぎあいになった。
ハイラが大量の矢を放ちながらも、イアンはそれを防ぎながら前進し……って、今明らかにおかしい曲がり方してイアンの背中に矢が飛んで行ったぞ。
イアンも当然のように凌いだし。
凄まじいなこの二人……。
そしてそんな戦いの結果は。
「勝者は……ハイラ選手! 見事古参対決を制しました!」
「正直紙一重でした」
「かぁっ……! もう少しだったのにのうっ……!」
勝ったのはハイラ。
決まり手は武器破壊。
どうやらあの矢の雨の中、ハイラはイアンが防御に使っていた斧の一点に矢を当て続けていたらしく……。
イアンがもう少しでハイラに到達する……といったところで、バキンと音を立てて斧は割れた。
そして武器を失ったイアンは降参。
「闘技祭用に刃引きした物とは言え自身の鍛えた武器を破壊されてはの……鍛冶師として負けを認めざるを得ん」
これは試合が終わり戻ってきたイアンの台詞だな。
潔い。
……いや負けを認めるときは潔かったな、参加者は皆。
そして次。
ムイ対フィーネ。
この試合は……あっさり決まった。
「決まりましたぁ! 突進一閃! ムイ選手の体当たりでフィーネ選手場外!」
「うぅ~! 防げると思ったのにぃ~!」
ぷるぷるぷるぷるっ……!
うん。
これまで通りムイの体当たりで決着。
今回フィーネは水魔法でいくつもの水のクッションを自分とムイの間に展開していた。
……が。
なんとムイは助走すらしないその場からの体当たりで、その水のクッションを当然のように全突破。
貫通してフィーネの身体を場外に吹っ飛ばした。
「くぅ~! あるじにもっとカッコいいところ見せたかったのにぃ~!」
ぽよぽよ……。
次、第三回戦最後。
シロの子供……シロイ対フォイル。
フォイルは今回も今までと同じように実況しながら戦うのかと思ったら……。
「はーい臨時実況のシエルでーす。今回フォイルに代わって実況しまーす」
実況の席に座っていたのはシエル。
俺がそっちを見ると、向こうもこっちを見てウインクしてくる。
「フォイルも流石にフェンリル相手では実況しながら戦う余裕なんてない、と。シエルに依頼に来ていました」
リネイアがそう教えてくれる。
なるほどな……。
俺が納得していると試合開始。
開始と同時にフォイルの姿は掻き消える。
「おーっとこれはフォイル選手の十八番神隠しー。こうなってしまったらよほどのことが無ければ見つけられません。かのフェンリルの嗅覚をもってしてもたやすく見つけることが出来ないー」
……ちょっと気が抜けるな。
まあ、だがシエルの実況通りではある。
あのフォイルの姿を隠す魔法……神隠しって言うんだな、今知った……は、俺の知る限りムイしか破れていない。
シロイが動かないことからも見つけられていないことは明白。
さあどうするのか……と俺が見守っていたら。
シロイは動き出し。
そして。
「決着ー。勝者はシロイ選手ー。フォイル選手残念ながら敗れましたー」
うん。
シロイが勝った。
あっさり。
……シロイがやったことは。
舞台上を駆け回り周囲を無差別に攻撃することだった。
「いやあ……ファンタスティック! 位置が分からずとも舞台上のどこかには居るのだから、舞台上全てを攻撃すればいい! 単純な発想ながら実際にそれをやれてしまう能力! 実にファンタスティック! それをやられればこちらは為すすべない!」
敗北しながらも拍手を送っているフォイルが言っている通り。
スペック差で押し切っての勝利だったな。
これはこれで見事。
素晴らしい。
「ウォンッ!」
と、そんな感じで第三回戦も終わり。
ベスト四が出そろった。




