141.予選終了と宴
「ファンタスティック! 今ここに! 全ての予選が終了いたしました!!」
どんどん行った結果。
予選第二回戦はつつがなく終了した。
予選第二回戦を勝ち抜いたのは八人。
一組につき一人の勝ち抜きだからな。
内訳は……まずハイコボルトのワチチ。
それと、ハイエルフが二人、ハイドワーフも二人、ハイノームが一人、ハイウンディーネが一人、そしてパード。
パードは凄かったな……最初の第一回戦ではシロの子供たちに負けていたんだが、今回の敗者復活では舞台上でうまく立ち回ってシロの子供たちを落としていた。
まあ勝てるだろう、敵になるなら恐らくお互いだろう、そんなことを考えていただろう、第八組の敗者復活に出ていた二頭は、しっぽを垂れ下げながらシロのもとへ向かって行った。
おそらく怒られると思われる。
まあ人……狼の教育事情には突っ込まない。
よほどのことが無ければ。
勝ち残ったパードに心からの拍手を送っておく。
そんなわけで予選は全部終了し、いよいよ本戦へ……行きたかったのだが。
「皆さま……ファンタスティックお疲れさまでした! では――明日の本戦へ向け! どうか英気をお養いください!」
うん。
日を跨ぐことになってしまった。
闘技祭。
……これは正直俺の見通しが甘かった。
まさか予選が全部終わった段階でもう日が落ち始めているとは。
しょうがないので闘技祭は二日に分け、今日は予選だけで終わることにする。
そういうわけで……。
「それでは、乾杯!」
「「「「「かんぱーい!!!」」」」」
俺の宣言に勢いのいい言葉と、勢いの良いガコンッ! という杯同士をぶつける音が響く。
予選が終わり、夜。
場所はコロシアムの舞台上。
そこは今、大量のテーブルや椅子が持ち込まれ、宴会会場と化していた。
大量の料理と飲み物……お酒も用意し、持ち込んでいる。
「おーっほっほっほ! 勝利の美酒は美味しいですわね~!」
「くっそ! 明日はこうはいかねぇからな!」
「スロールさん、ターヴィーさんどうぞどうぞ! 協力してくれたおかげでしっかり本戦まで来れました! ありがとうございます! にゃふふ~!」
「ハハハ構わない。こちらにも益があったことだ」
「そ、う」
うん。
皆今日の予選のことや明日の本戦のことを話しながら楽しく飲み食いしてくれているようだ。
良かった。
俺はそう思いながら……運び込んできた鉄板に火を入れる。
ハイドワーフたちに特注して作ってもらった大きく分厚い鉄板。
その大きさゆえ、火を入れても熱くなるまで時間がかかるが……そこはイグニータにフォローしてもらうことでカバー。
「ふぅむ、これでいいのか?」
ああ、ありがとう。
さすがは進化を果たした火の精霊。
鉄板はあっという間に熱を持った。
ここまでくれば後は通常の火で十分だ。
助かった。
「ハハハ代表殿の頼みであればなんのなんの! 困ったらいつでも何でも言ってくれて構わんとも!」
そう豪快に笑いながら言ってくれるイグニータ。
それを見送って、早速鉄板を使っていく。
取り出しましたるは適当に一口大に切ったキャベツと肉。
そしてこの日の為に幾度も失敗を重ねながら作っておいた小麦粉で打った麺。
今から作るのは……そう、焼きそばだ。
火を入れた鉄板にキャベツ、肉、麺を投入。
キャベツ、肉、麺はそれぞれ少し離した場所で炒める。
炒める道具はもちろんヘラ。
これも特注。
ジュゥゥゥゥーーーーッ!
肉の焼ける音と匂いが鉄板の上で踊る。
そのままある程度火が入ったら、麺、キャベツ、肉をひとまとめにしてさらに炒める。
この時点でもかなり美味しそうな匂いがしているが……ここからさらに爆発させる。
取り出すのは……ソース。
これも今日の為に作っておいた。
材料は、トマト、玉ねぎ、デーツ、醤油、酢、砂糖、塩、その他もろもろ……。
デーツが採れるようになった時点で絶対に作ろうと思ってた。
だが、原料すらうろ覚えだったのでかなり試行錯誤しながら作ることになり……まあそれでも結構こんな感じかな? って味まで近づけることが出来た。
正直材料の出来が最高に良いのが大きかったな。
まあ、そういうわけで。
炒め合わせた肉とキャベツ、麺になんちゃってソースを投入。
ジュワワワワワワワワッ!
鉄板からソースの跳ねる音が鳴り、そしてぶわっ! と、ソースのあの食欲を誘う香りが周囲に広がっていく。
周囲で飲み食いしながら歓談していた住民たちがその口と手を止めこっちを凝視してくる。
それを視界の端でとらえながらも目線は鉄板から離さない。
ジュワワワと跳ねるソースに手早く焼きそばを絡めていく。
そうして完全に絡めて、ソースが少し焦げたところで。
ヘラで焼きそばを掬い、保温用の鉄板に移す。
これで完成だ。
焼きそばが完成し、ふいー、と額の汗をぬぐい鉄板から顔を上げた瞬間。
「「「……。」」」
……。
俺の目に映ったのは、皿を手に無言で一列に並んだ住人たちの姿。
先頭に居るのはルシュ。
無言のままに皿を差し出し頭を下げてきている。
うん、まあ……いいか。
最初に作った焼きそばは自分で食べる気だったが……別にいくらでも作ればいいだけの話だからな。
差し出されている皿に適当に焼きそばを盛る。
ルシュは深く礼をして横へずれる。
すると二人目……ハイラが前に来て再び頭を下げながら皿を前へ。
いや、何で無言? いいけど。
そんな儀式めいた焼きそばの提供を終え……。
「とても素晴らしく美味しかったです主様。美味しさが美味しくて美味しくなっていました」
「ルシュの言う通りです代表様。美味しさが素晴らしく美味しくなっていました」
……大丈夫か?
最初に作った焼きそばを提供した後。
当然ながら列に対して量が足りなかったので、さらに焼きそばを作ることになり。
食べ終わり手伝いに来てくれたハイラとルシュが語った焼きそばの感想がコレ。
何だ? 混乱の状態異常? 別に変なモノは入れてないと思うんだが。
「いえ……すみません、本当に、とても美味しかったものですから……」
「はい、少し……いえかなり言葉が上手く出てこなく……」
ああ、そこまで美味しく味わってもらったって言うなら嬉しい。
焼きそばをせわしなく焼きながら俺はそう答える。
キャベツと豚肉は切ってもらっているとはいえ、焼くのは俺がやってるからそこそこ忙しい。
最初に並んでいた列はとっくにはけたが、匂いにつられてかどんどん並ぶ者が増えて……。
なんかもう宴会に参加してる全住民が並びに来てるみたいな勢いだ。
列が凄いことになっている。
キール含む家事妖精たちに頼んで料理も大量に用意してもらったんだけどな。
「確かに彼女たちの料理も美味しいですが……」
「代表様の料理となればこうなるのも必然かと」
そこまで?
「はい、そこまでです」
うぉっ!? ……ビックリした……。キール? どうした?
焼きそばを炒め続けている俺の背後にいつの間にか忍び寄ってきていたのは、今、話にも出た家事妖精のキール。
「お気になさらず。家事妖精として、まだ知らぬ料理を学びに来ただけです。……それに、仕える主に料理の腕で負けている、というのは家事妖精的に複雑なので」
……なるほど?
まあ、敵情視察みたいな感じか。
いや敵じゃないけど。
「もちろん私はいついかなる状況でもご主人様の味方です。なので……お手伝いします」
何がなのでなのかはちょっとよく分からないが、人手が増えるのはありがたい。
レシピも知りたいっていうし、教えて一緒に作ってもらう。
そうして。
ルシュ、ハイラ、キール。
そしてその後も続々と手伝いに来てくれた家事妖精たちの助けも借り。
なんとか列は捌き切ることが出来た。
材料全部使いきっちゃったが。
……そして俺は結局焼きそばを食べられなかった。
まあ、自分の分はいつか個人的に作ればいいや。
そうやって自分を誤魔化しながら、闘技祭一日目の夜は過ぎていった。




