140.予選の続き
そんなわけで予選も終わっ……てはいない。
まだ。
「さあ! 八組の予選も終わり、本戦に進む者が出そろいました! ですが! ですがまだ最後の機会があります! ファンタスティックチャンスがあります!」
言い直す理由なくない?
まあいいか。
司会のフォイルが言った通り、最後のチャンスがある。それは……
「これから行われるのは予選第二回戦! それぞれの組の参加者がコロシアムの中で一斉に戦い、最後の一人になることが出来れば……見事! 本戦に進むことが出来ます!」
うん、そう。
……ようするに、敗者復活戦。
惜しくも予選で三位以内に入れなかった者たちがそれぞれの組ごとにバトルロイヤルを行う。
それで最後まで残っていた者が勝ち……というシンプルな復活戦だ。
第一回戦とでも言うべき障害物競走は、警察等の選別も兼ねて体力なんかを見ることが出来るこの形式にしたわけだが、これだと体力や走力はないが、戦闘力はある者が漏れてしまう。
そのフォローのための敗者復活戦だ。
とはいっても……。
さすがに刃引きした武具を使うとはいえ、集団戦は危険。
思わぬ事故が発生してしまう恐れがある。
医療班や審判役も用意しているとはいえ、事故の可能性は極力減らしておきたい。
なのでいくつかちょっとしたルールを追加した。
「予選第二回戦参加者の皆さんには、それぞれこの布を身体のどこかに巻き付けてもらいます!」
そう言いながら、フォイルがとても目立つ真っ白な細い布を掲げる。
布っていうか……ハチマキだな。
アラクネたちに作ってもらった。
着想を得たのは……というかアイデアを流用させてもらったのは前世の騎馬戦。
創作物なんかでも騎馬戦でハチマキを奪うことでポイントになる、みたいな展開よく見たし。
俺もあやからせてもらった。
まあ別にポイントにはならないが。
「この布を奪取、破壊されたものはその場で脱落です! 脱落したのに戦い続けた者、布以外を何度も故意に狙った者などにはペナルティが課されますのでご注意ください!」
うん。
まあ、ルールを無視して意図的に相手を傷つけようとする住民なんて、うちの街には居ないと信じているが、まあ一応。
「では! 予選二回戦……早速開始していきます! 予選第一組の参加者は布を巻き、舞台上へ!」
フォイルの声に、予選第一組の参加者たちはコロシアムの舞台に上がる。
その顔にはとても気合が入っており……この最後のチャンスを掴もうという気概に満ち満ちている。
「素晴らしい気迫ですね、最初の予選の時にもあの気迫があったのなら少々苦戦したかもしれません」
「それでも負ける気は無いけどねー。でもぜったいめんどくなるからほんとごめんだけど」
その雰囲気に感想を漏らすのは、俺専用の観戦席にやってきているリネイアとシエル。
第六、七組の予選に参加するハイラとルシュと入れ替わりで来ていた。
皆曰く、俺の護衛を欠かすことは出来ないとのことだ。
……街の中なのに必要か? 護衛?
「必要です」
「必要だよー」
……そうか。
まあ、別に俺に不都合ある訳でもないし、好きにさせておこうか。
そんなことを考えていると、入場が終わった。
予選第一組の数十名ほどが、ある程度の距離を開けてにらみ合っている。
「皆さんもうファンタスティック気合十分といった感じですね! ファンタスティック! それでは最後にもう一度確認します! 巻き付けた布を奪われる、もしくは破壊された者! そして舞台から落下した者は敗北です! 素直に退場してください!」
舞台落下での敗北。
これも追加したルールの一つだな。
このルールが無いと、舞台端にいる者がかなり有利になってしまう。
最悪、端の壁を背にする、なんて戦略も取れてしまうしな。
「それでは――はじめぇっ!」
最後の注意を終えたフォイルが開始の掛け声をかけると同時。
眼下の舞台上で参加者たちが一気に動き始めた。
ガキンガキンガキンガキン、と。
武具同士がぶつかる音がコロシアム中に響いている。
響く度に観戦席から声が上がる。
「いやー壮観だねー」
豪華な椅子に座っている俺にしれっと寄りかかってきたシエルがそう声を漏らす。
「シエル」
「いーじゃんこれくらいー。頑張って勝ち取ったんだからさー。リネイアはほんと真面目なんだからー。そんなんじゃ代表様にも可愛げないって思われちゃうよー?」
「う、それは……」
いや、そんなことは思ったりしないが……って、今勝ち取ったって言ったか?
「……あ。……まあいっか、別にぜったい内緒とも言われてないしー」
俺の言葉にシエルはしまったと言うように少し顔を青くし……たかと思えば。
すぐに気を取り直し、そのままさらに強く俺に密着するようにもたれかかってきた。
……柔らかい感触を左半身に感じる。
……こほん。
気を取り直すようにしてシエルに質問する。
俺の護衛ってそんな……勝ち取らなきゃならないほどに倍率高いのか?
「まあそりゃねー。代表様の近くで控えることが出来るなんて皆垂涎の権利だし」
そんな垂涎するほどか……?
「ほどだよー」
「……はい。ほどです」
シエルの言葉に追随するように、リネイアもそう言って……ぎゅう、と、シエルとは反対方向から俺にしなだれかかってきた。
え? えぇ、と……リネイア? これは……?
「……お嫌でしたか?」
いや、嫌ではない、けど……。
「ならばこのままで……」
リネイアは頬を朱に染めながらも、しなだれかかった肉体を離そうとしない。
……柔らかい感触を右半身に感じる。
というか全身に感じる。
……嬉しいが。
ちょっと気恥ずかしいので。
眼下の光景に意識を向ける。
眼下――コロシアムの舞台上ではバトルロイヤルが一際激しさを増している。
「ファンタスティック! 三つ巴に四つ巴! かと思えば意識外からの急襲! 目の前の敵にだけ注意を向けているようではとうてい勝ち抜けぬ戦場! その戦場で唯一の勝者になろうと皆、ファンタスティックに戦い続けています!」
そんなフォイルの実況通り、皆目の前の相手を意識しながらも横や背後への注意を途切れさせない。
いや、途切れさせた者はもう脱落したと言うべきか。
今現在舞台の上に残っているのは二十名ほど。
全員が全員虎視眈々と相手の隙を狙っているようだ。
「いやー……あたし一回戦目で抜けて良かったー……あんなのやらされたら神経がすり減っちゃうよ」
「すり減るだけで負けはしないのでしょう? あなたのことですから」
「まねー」
二人とも……シエルは元からだがリネイアも振り切れたのか、もはやしなだれかかっているというより抱きついてきている、と言った方が正しいくらいの勢いで密着してきている。
ここまで来ると意識を逸らそうとしても逸らせない。
……開き直っていっそのこと受け入れてみる。
二人の身体に腕を回し、この豪華な椅子にふさわしいくらいふんぞり返ってみる。
「……っ! あ、ありがとうございます……」
「おーいいねー。代表様は普段謙虚すぎるほど謙虚なんだからさー、たまには少しくらい偉ぶっても良いと思うよー? ……まあそこが美点でもあるんだけど」
拒否はされなかった。
礼を言われ、シエルに至ってはもっとやれと仰せだ。
うん、まあ、それは努力するとして。
そのまま俺は観戦を続け……。
「決まったあ! ファンタスティック決着! 予選第二回戦第一組勝者はハイコボルト、ワチチ! 最後、華麗な回し蹴りでハイエルフを舞台外に落とし、ファンタスティックに勝利!」
第一組の勝者が決まった。
勝者はワチチ。
ルシュ直属のハイコボルト。
ルシュと一緒のタイミングで街にやってきた古参住民だ。
お見事。
俺は惜しみない拍手を送る。
すると、そんな俺を真似したのか、観客席も同じく拍手し始める。
結果、コロシアム中から万雷の拍手が降り注ぐ。
ワチチは恥ずかしげだが……とても嬉しそうだ。
さあ、この調子でどんどん行こう。




