137.闘技祭の開始
「始まりました第一回レースピア闘技祭! 司会は私、フォイルが担当します!」
俺の挨拶の後。
司会を買って出たフォイルが拡音石を使ってそう宣言する。
その言葉は前回フォイルが司会をやった発表会よりもなんというかクリアに聞こえる。
「冬の間にイアンさんたちに手伝っていただき拡音石を改良しましたから!」
心を読むな。
「おっと失礼しました! 各所から疑問が上がっているような気がしましたので! ……それではみなさんの疑問も消えたところで早速行きましょう! まず行われるのはレースピア闘技祭……”予選”です!!」
フォイルの言葉に会場が盛り上がる。
会場は俺たちが今いるここ。
新しい区画を使って建てられた巨大コロシアム。
戦うための舞台だけで半径百メートルくらいある。
短期間で一切妥協なくこれだけのものを作り上げる建築チームには流石の一言だが……。
ここまで大きく作る必要あったか?
「ありました」
答えたのは、俺の隣に控えていたルシュ。
このコロシアム、観客席ももちろんあるんだが……その中でも一番高く、一番広い場所。
そこに俺専用の観戦席が作られていた。
最初の開会宣言もここからやった。
そして俺は今そこに備え付けられためちゃくちゃ大きい椅子に座り、会場を見下ろしている。
「住民の皆さんの強さや参加人数を考えれば、これでもまだ小さい方でしょう。……申し訳ありません。もっと時間があればさらに素晴らしいコロシアム、素晴らしい観戦席をご用意できたのですが」
そう言って眉尻を下げるルシュ。
いや今の状態でも、どこの王族が座る席? みたいな観戦席なんだが。
座っているだけでもちょっとそわそわしてるんだが。
闘技祭開始前、コロシアムに入った時は唖然とした。
コロシアムの大きさに驚きつつも、どこか適当な場所に座るか……なんて考えてたら、やってきたルシュにここに通されたからな。
ここなんだ? って聞いたら主様の観戦席ですって返されるし。
まあ、厚意で作ってくれたんだし……何とか慣れることにして。
ルシュが語った理由は二つ。
この内参加人数の方は分かる。
なんせこの闘技祭……街の住人のほぼすべてが参加している。
うん。ほぼすべて。
数字にするなら九十五パーセントくらい。
……俺も最初に聞いたときは耳を疑った。
三回ぐらい強制してないよな? と聞いた。
だけど本当に街の住民は皆自分の意志で参加を決めたらしい。
しかも残りの五パーセントほどが不参加の理由は、出たくないからではなく、運営の方に回って俺の手伝いをしたいからだと言う。
出たいか出たくないかで言えば出たいと言っていた。
久しぶりにワールドショックを感じる。
いやまあ魔物なんてのがいる異世界だ、そりゃあ戦闘は身近だろうし、文字通りの生命線だろうが……みんな戦いにかける熱量が凄いな。
「いえ、自分の力がどの程度のモノか試したいというのはもちろんありますが。それと同じくらい代表様にいいところを見せたいので」
ルシュとは逆側に控えていたハイラがそう言ってくる。
いや……うん。
そう真っ直ぐ言われるとちょっと照れる。
ともかく。
参加人数が多いから、という理由はよく分かるが……強さというのは?
「代表様。代表様に進化という奇跡を与えていただいた我々の力はかなりのモノだと自負しています。代表様ほどではありませんが」
え?
いや、俺の力は創造神器におんぶにだっこだから……
「ですので、舞台は広く取っておいた方が良いと判断しました。それにフリストルさん……ケンタウロスには、舞台が狭いのは不利に働くでしょうから」
ハイラの言葉を継ぐようにルシュも答える。
……言われてから気付いたけど確かにそうだな。
ケンタウロスだけじゃない。
体格の大きい種族にとっては狭い舞台は不利だろう。
なるほど、しっかり考えての大きさだったわけか。
俺が分かってなかったな、これは。
ありがとう。
「「もったいないお言葉です」」
……ん? 舞台を広く作ったことにちゃんと理由があるのなら、この豪華絢爛な観戦席にも他に何か理由が……。
「いえ。ありません。主様が観戦なさるのであればこの程度の絢爛さは当然必要だからです。それ以外の理由など必要ありません」
あ……そう……。
なんてそんな会話をしている間にも、闘技祭は滞りなく進んでいた。
「それでは早速第一組……スタートです!」
フォイルの号令と共に、舞台に上がっていた数十名ほどが一斉に走り出し、このコロシアムを後にする。
これが予選だ。
先にも言ったが今回の第一回闘技祭、参加人数が俺の予想を超えて多かった。
少なかったら普通にトーナメント形式でやるつもりだったんだが……。
流石にここまで多いとそんなことも言っていられない。
コロシアムがいくつもあるとかだったらそれでもいいが一つしかないしな。
いずれはそういう超大規模トーナメント戦とか開いてもいいかもだが……今は無理。
というわけで予選を開いて数を絞ることにした。
予選の内容は……まあ簡単に言えば障害物競走。
コロシアムを出発して、街中を走り廻り、各チェックポイントでお題を消化。
そしてまたコロシアムに帰って来る。
これを全八組行い、上位三名が予選を通過する、という内容だ。
今回の闘技祭は、警察や消防隊員の選抜も兼ねている。
なので体力なんかも見る為に、予選は走るタイプにした。
けどそれだとケンタウロスあたりが超有利なのでお題でバランスを取った感じだな。
あとちなみに。
これだと体力はないが、強い者を取りこぼすのでは? という指摘には、敗者復活の枠を用意することで対抗した。
これはその時になったら説明しよう。
と、考えながら早速第一組が全員コロシアムから出て行ったのを見届けると、俺は視線を上に向ける。
そこには、上空にあって分かりづらいが半径百メートルほどはある巨大な水球が浮かんでおり……それにはたった今出て行った第一組の先頭集団が映っていた。
いやぁ……やっぱり凄いな、魔法って。
それを見上げながら俺はそんな感想を抱く。
この水球はフィーネたちが水魔石を用いて発動しているもの。
闘技祭の準備期間中俺が……。
街中を走り廻るのは良いが、これだと観戦がしづらいな……止めた方がいいか……? 中継が出来ればなあ……。
なんて漏らしたところ。
「? 中継ってな~に~?」
それをフィーネが聞きつけ俺に中継とは何か根掘り葉掘り聞いてきた。
別に断る理由もなかったし素直に話したところ。
「……なるほど~! 分かった、あるじ、楽しみにしてて~!」
そんな言葉を残し、ぴゅー! っとそんな音が聞こえるくらい素早く俺の視界から消えていった。
そしてしばらくすると。
「あるじ~お待たせ~!」
「お待たせー!」
「二人とも……こほんっ! 代表様、少しお時間よろしいでしょうか?」
フィーネはリネイアとシエルを伴って帰ってきた。
そうしてそこで見せられたのがこの……映像投影魔法? とでも言うべき魔法。
大本である水球から小さい水球……子機が分離し、その子機が映した映像を大本水球……親機に投影する。
まんまカメラとテレビみたいな魔法だな。
いや、確かに中継という概念を詳しく話したが……三人がかりとはいえ異世界で再現出来るとは思ってなかった。
流石だ。
「「それほどでも~」」
「お褒め頂き、ありがとうございます」
とまあ、準備期間中にそんなことがあり。
魔法による中継が可能になったことで、俺は予選を障害物競走に正式決定した訳だ。
さて、そんなわけで。
俺は今寝転がる形で水球を見上げている。
俺が座っていた豪華な椅子、何とリクライニング機能まで付いていたからだ。
至れり尽くせりだなほんと。
そんな俺の目線の先、水球に映った予選第一組の先頭を爆走しているのはフリストル。
種族の代表陣も当然と言うべきか全員参加している。
ルシュとハイラは予選まだ先だから俺の傍に控えているが。
と、そんなところで早速動きが出た。
「速い速い! 何というファンタスティックな速さ! ケンタウロス代表、フリストル殿! 早速第一の関門に到着! その内容は……鬼ごっこ!!」
うん。
自分で提案しといてなんだけど通ると思わなかったな。




