132.ウォータースライダー
しばらく流れるプールをぷかぷか周った後。
俺はシエル、リネイアと別れ、充溢した気力を持て余しながらメインディッシュに向かう。
そう、ウォータースライダーだ。
「あ! あるじ~! 来たね~!」
プールを掘って出た土を盛って作った高台の頂上。
ウォータースライダーの入口を設置したそこに居たフィーネが俺にそう声を掛けてくる。
その姿はいつもとは違った。
普段は少し半透明の透き通った姿に、無理を言って布を纏ってもらっているんだが……その布が水着になっている。
青いビキニタイプの水着。
涼しげでよく似合っている。
少し驚きはしたが、素直にそのことを伝えると。
「えへへ~! あるじに褒めてもらえて嬉し~! ありがと~!」
フィーネはぴょんぴょん跳ねながら感謝を伝えてくる。
そうすると……今は水着だから……うん。
目を逸らす。
「あるじ~?」
不思議そうにフィーネが覗き込んで来るが、ちょっと目を逸らす。
予想していないところから不意にやって来る衝撃はインパクトが大きい。
何がとは言わないけど。
まあとりあえず不思議がられながらもちょっと落ち着いて……。
ふぅ。
それで、ウォータースライダーは大丈夫だったか?
俺はフィーネにそう聞く。
……ちょっと漠然とし過ぎてるか?
聞きたかったのは安全面のことだ。
魔法で落下対策をするとは言え……街の住民は結構頑丈なものが多いとはいえ……危険は危険だしな。
「わかんな~い」
分からない? なぜ?
「だってまだ誰も来ていないからね~」
フィーネが言うことには。
プール開きを行ってからそれなりに時間が経ったが……まだ誰もウォータースライダーには来ていないと。
だが、その分しっかりどのあたりが危険そうか、どのあたりに水球を配置すれば無事に受け止められそうか、しっかいシミュレーション出来た、とのことらしい。
ふむ……? ただ泳ぐだけならまだしも、ウォータースライダーは……何に使う物か分からなかったため寄り付かなかったとかそんな感じか?
まあ確かにうちの街遊具の類……滑り台とか無いからな、運動場はあるけど。
滑って遊ぶっていう概念が分からなければウォータースライダーも分からないかそりゃあ。
だけどまあ問題ない。
俺が滑ればいい。
実際に滑って遊んでいるところを見せればみんな理解できるだろう。
ウォータースライダーがとても楽しい、ということに。
そうと決まれば早速滑ってみよう。
いいか? フィーネ?
「もちろんいいよあるじ~! ……あ、でもそうだ~! あるじ~、一つお願いがあるんだけど~……」
ん? なんだ?
「わたしもあるじと一緒に滑りたいな~って!」
一緒に? それはもちろん構わないが……。
「ほんと~?! ありがとあるじ~! ……えへへ~あるじがすっごく楽しそうにしてたからわたしも一緒に滑りたくなったんだ~」
俺が許可を出すと、ぱあっと花が咲くように笑い、そのままニコニコしながらそう言ってくるフィーネ。
要するにこれはアレだな。
楽しそうにしている人を見ると自分もそれで遊びたくなる現象。
分かる。
というかそんな傍から見てわかるくらいはしゃいでたのか俺。
ちょっと恥ずかしい。
まあでもウォータースライダーだしな。
仕方ない。
例え大人でも楽しいものは楽しい。
そういうわけで、早速フィーネと一緒に滑ることにしたんだが。
フィーネがいる場所が。
「? どうしたの~?」
うん。
スライダーの滑り口に座っている俺の膝の上。
何でそこに?
「何でって~? 一緒に滑るんでしょ~? あ、それとも後ろからギュッてした方が良かった~?」
いや、それはちょっと危ないから……。
……って、そりゃそうだ。
一緒に滑るんだったら前か後ろにくっつく形になる。
あんまりにも楽しみ過ぎて全然思考まわってなかった。
本当に。
前から抱き合う形でくっついたフィーネの身体はぷよぷよしていてひんやりしている。
ムイが人間大になったらこんな感触になるのかな? って感じの感触。
それが身体中に広がっている。
正直心地いい。
暑い時期は抱き枕にしたい。
「あるじがそうしたいんならいいよ~?」
フィーネはそう言ってくれるが。
うん。
流石にやめておこう。
「え~? いいのにな~……」
これ以上話していたら話がまとまってしまいかねないので、戸惑いやその他もろもろを心に仕舞い、ウォータースライダーを滑り出す。
「わぁ~! 速い速~い! すっごく楽し~!」
俺の膝の上でフィーネが完成を上げる。
腕を振り上げとても楽しそうだ。
もちろん楽しそうなのはフィーネだけじゃない。
俺もだ。
いや本当に凄い。
スムーズにかなりのスピードで滑れる。
右に左に振られ、プール全体を見ながらかなりの勢いで滑りそして……。
ざばぁん!
「きゃ~!」
二人一緒にスライダーの終点へ着水。
大きな水しぶきを上げる。
俺はフィーネを抱えたままプールサイドへ泳いでいく。
いや本当に素晴らしかった。
滑ったばかりだけどもう一回滑りたい。
俺が前世で経験したことのあるウォータースライダーよりも速く、それでいて結局飛び出すことは無かった。
とてもいいウォータースライダーだ。
終点のプールも足が着くが、勢いよく飛び込んでもそこに体をぶつけたりはしなかった絶妙な深さ。
作った自分を褒める。
というか滑ってから疑問に思うのもなんだが、かなりスピードが出た原因はウォータースライダーの下部分にかなり勢いよく水が流れていたからだな。前世のそれみたいに。
うちの街にはポンプとか無いから、泣く泣く諦めてスライダー全体を濡らすことにしたはずだが……何で水流れてたんだ?
「ん~? あるじが水流したかったな~って言ってたから流したんだ~」
やはりと言うべきか。
やったのはフィーネ。
俺がぼやいているのを聞いて、水を流してくれたらしい。
話を聞くに水魔法を使って。
やっぱり便利だな魔法は。
「……余計なことだったかな~?」
フィーネがシュンとする。
俺は余計なんてことは全くないと伝える。
フィーネのその気遣いのおかげで凄く楽しかった。
心からありがとう。
これからも流し続けてもらえるとありがたい。
「えへへ~ならよかった~もちろん~」
そんな会話をしながらプールサイドにたどり着き、上がる。
さて、一回だけじゃ満足しきれないしまだまだ滑ろう。
そう思って再び高台を登ろうとすると。
「主様、先ほどフィーネとその……抱き合っていましたよね? よろしければ私も……」
「代表様と一緒に滑らせていただきたいです」
「あたしもあたしも~」
「……すみません、私も……」
プールサイドに上がった俺のもとへやってきたのはルシュ、ハイラ、シエル、リネイア。
先ほどフィーネと一緒に滑ったのを見て、自分とも一緒に滑って欲しいと言ってきた。
まあ気恥ずかしさはあるが断る理由はない。
たくさん滑りたかったし、時には二人、三人と一緒に固まって滑る。
一人で滑るのももちろん楽しいが……誰かと滑るのも楽しいものだな。
「ありがとうございます、主様。主様と滑ることが出来てとても楽しかったです」
「はい、何度でも滑りたくなってしまいます」
「いやーいいものだねー毎日やりたい」
「毎日はダメですよシエル。……ですがたまになら……はい、私も……」
皆も楽しんでくれたようだな。
良かった良かった。
俺がウォータースライダーで楽しんでいるのも見てか、他に来ていた者たちもかなりウォータースライダーにやってきている。
俺の前に行列が出来ているほどだ。
……って、ん?
俺の前に?
「ここに来れば代表様と遊べると聞いて」
「私も代表様と滑りたいです」
「お願いします」
……うん。
別にそういうアレじゃないんだが……。
こうまできらきらとした目で見られたら断れない。
俺は腹をくくった。
その後。
行列の並んでいた者たちに、流石に一回限定だと条件を付け、全員と滑った。
そしてさらにその後、自分たちをのけ者にするなと乱入してきたムイやシロ、リル達とも滑った。
めちゃくちゃな回数滑ることにはなったが……なんだかんだ楽しかったな。
作った甲斐があったな、プール。




