128.実習室と視察漏れ?
ポウ……ガコンッ……!
そんな音とともに、表面に魔方陣の浮かんだ重厚感ある扉が開く。
教室や職員室を視察する時もかなりワクワクしていたが……それ以上のワクワクを胸に抱え、俺は魔法実習室へ入室する。
そこは真四角なシンプルな教室とは違う球状の部屋。
窓は無い、しかし、天井には光石が埋め込まれているので十分に明るい。
そして球の底に当たる部分には巨大な魔石。
その魔石を囲むように、金属の輪っかが浮遊し、周囲を巡っている。
なんだろう……中心に魔石がある巨大な天球儀とでも言えばいいか。
見てるだけでもちょっと楽しい。
そしてその魔球儀? をさらに囲むようにして、机が備え付けられている。
部屋が球状なので、段々で五列ほど。
体格の違う生徒に対応する為、通常の教室には机を備え付けはしなかったが……こっちの方は別。
何故かというと、理由はいくつかあるが一番の理由は安全面。
この部屋、魔法実習室はその名の通り魔法を練習するために使う。
読み書き計算等の基本的な教育を終えた後の住民の内、希望した者に魔法を教えるためにも使う予定だが、本来はその後……子供たちに魔法を教えることを想定して作った部屋だ。
基礎しかやらない予定とはいえ、魔法を実習させるのは子供で、しかも室内。
安全面はとてつもなく考慮してしかるべきだ。
なので、魔法実習室にはシエル謹製の結界が張ってある。
部屋自体が球状なのも、中心に巨大な魔石が据えてあるのもそのため。
机を備え付けにしてあるのも、机に結界強化用の文字を刻んでいるからだ。
いちいち机の出し入れをやっていたら結界の強度も落ちてしまう。
シエルがそう言っていた。
そんなわけで魔法実習室の机は備え付けになっているんだが、そうすると、当然体格の違う種族はどうしたらいいかという問題が出てくる。
だがまあこれは大丈夫だ。
魔法実習室の机は一律同じ大きさではなく、所によって大きくなったり小さくなったり、長くなったり短くなったりしている。
適した机と椅子を運び込むタイプの教室より柔軟性は低いが、これで教室と同じように様々な種族に対応できる。
そのまま魔法実習室をぐるりと歩き回って見て回る。
前世では当然あり得なかったファンタジーな学校施設に興味津々といった様子で歩き回ったんだが、やはり特に興味を引かれたのは……。
中央の魔石。
机の間を縫うように進んでいた足を中央に向ける。
近くで見るとやはり大きい。
中心に浮遊する魔石もそれなりに大きいが、それ以上に周囲を巡る金属の輪が。
この魔球儀とも言うべき中央のこれは、魔力をコントロールするための魔道具らしい。
リネイア率いるデモンズたちが作成してくれた。
中央の大きな魔石はケルベディアーから産出した物。
そして周囲の輪っかは、ハイドワーフたちが金に魔力を通した魔金で作り上げた物だ。
魔石の魔力を金環が増幅、制御し、さまざまなことを可能にするらしい。
これが出来上がった当初のリネイアは珍しく興奮していたため、完全には把握していないが……これがあることで、もし部屋の中で生徒が魔力の暴走なんかを起こしたとしてもそれを即座に中和、鎮静化させることすら出来るらしい。
さらには増幅した魔力を様々な属性に変え、周囲に打ち出すことが出来るのだとか。
もしこれを小型化できれば、適正にかかわらずどんな魔法でも使えるようになるかもしれないと語っていた。
その理想自体は素晴らしいと思うが、だからと言って攻撃機能つける必要は……いや、でも、デモンズたちが作り上げた傑作だしな。
それにそれなりに貴重な魔石使ってるし……あと金もたくさん……となれば用心するに越したことは無いか……?
まあそんな感じで複数作ることは可能だろうが、貴重品であることに変わりはないので、一応攻撃機能をつけることには納得しておく。
使わなければいいだけの話だしな。
そして、魔法実習室をある程度見て回って……俺はかなり満足した。
別に使われているわけでもない部屋を見て回るだけのことだが……前世では存在しないファンタジーな実験室だったからな。
かなり楽しかった。
欲を言うなら実際に使われているところも見てみたいと思う。
「主様なら一声かければいくらでも見ることが出来るかと」
そう言ってくれるルシュ。
いや流石に邪魔じゃないか?
「いえ。主様がおっしゃるのであれば生徒も教師も嫌とは言わない……いえ、むしろ見て欲しいというでしょう」
そうかな?
「そうです」
そうか。
まあ、それはまた魔法実習室が使われ出してから考えるとして。
今は視察を続けよう。
実習室は当然魔法実習室だけではない。
当然他にもいろいろ作ってある。
音楽室。
「こちらにも防音用の結界が張ってあります。色んな楽器やカラオケゴーレムも持ち込んでいますので。……シエルがゴロゴロ転がりまわっていました」
……うん。
ごめん。
教師や生徒のそれぞれの時間割の調整なんて大変な仕事やってもらっているのに、さらに校舎の部屋にも結界を張ってもらう仕事まで。
俺も結界自体は張れるが、創造神器をその場に置いておかないとダメだからな……。
自分が居ない場所に結界を張り続けるとかこういうのには向かない。
後でしっかり労っておこう。
美術室。
フォイルが作って欲しい!!! と、だいぶごり押ししてきた。
まあ最初から作るつもりではあったが。
「彫刻用のノミやハンマーはもう備えておりますが紙はまだ……。絵画用の物は今少し時間を頂きたいそうです」
まあ普通の紙はあるが、画用紙とかキャンパスはまた違う物だしな。
本格的に使い始めるのはまだ先だろうしゆっくりでいいと伝えておいてくれ。
「はい」
図画工作室。
モノづくり用の実習室。
おそらくコボルトたちで溢れかえることになるだろうと推測される。
「それは……いえ、確かに……そうなるかもしれません……」
コボルトたちはモノづくり好きだもんな。
冬、あんまり外に出られない時期は凄い量の小物とか家具作って過ごしてるし。
「お恥ずかしい……」
家庭科室。
俺が結構押して作った。
……いや、俺が声を上げた瞬間、皆賛同したから押しては無いけど。
やはり美味しい料理を作れる人材なんてものはどれだけいても良い……。
「ですが私は主様の作る料理が一番美味しいと思います」
……ありがとう。
照れる。
そんな感じで見て回り、視察は一通り完了した。
ふぅ……凄いな、建築チームは……。
どこもしっかり綺麗な仕上がりだった。
計六階層の巨大な建物、初挑戦にもかかわらずしっかり仕上げてくるのは本当に流石だ。
「ありがとうございます。もったいないお言葉です。皆も喜ぶと思います」
ぶんぶんぶんぶんぶんっ!
俺の褒め言葉に言葉はクールに、尻尾はホットに返事してくるルシュ。
いやホントに流石と言わざるを得ない。
マナコンクリ使った六階層の建物なんてほぼビルみたいなものだ。
魔法をふんだんに使い、飛びながらの建築や、アラクネクレーンも使ったとはいえ本当に素晴らしい。
そんなことを考えながら、視察を終えた校舎を後にしようとすると。
「お待ちください、主様。まだ視察していない場所が一つございます」
ルシュが俺にそう声を掛けてきた。
? 全部回ったと思うが抜けてたか?
「はい。ですのでどうぞこちらへ」
先導を始めたルシュに素直に着いていく。
抜けてたんならしっかり見とかないといけないしな。
そのままルシュに着いていくと、ルシュはどんどん上の階へ。
二人で最上階に到達した。
……なんというか、ちょっとデジャブを感じる。
そう思っていると、ルシュはなんだかかなり豪華な扉の前で立ち止まった。
「こちらです」
その声とともに開かれた先にあったのは……とんでもなく広い部屋。
デジャブが加速する。
俺は恐る恐るルシュに問いを投げる。
えー……この部屋は……?
「主様のお部屋です」
やっぱりか。




