126.教師役
というわけで。
街の住民総出で建築に携わった結果驚くようなスピードで学校……いやもはや学区? が出来上がっていく。
これなら本格的に暑くなる前には終わるだろう。
と、学校の完成が見えてきたこのタイミングで。
「何でしょう代表様。……なるほど。教師と生徒の件ですね」
そう。
学校を建てても、そこに通う者、教える者が居なければ学校は成り立たない。
というわけでこっちも進めていく。
「建設前に代表様にご相談いただきまして、調べを進めておりましたが……基本的な読み書き計算程度ならばデモンズとエンジェル、ケットシーは全員、エルフの皆さんは九割ほどが可能でした」
なるほど。
図書館に蔵書を運び入れていたリネイアを捕まえ、相談。
そう答えを貰う。
実は、学校を作ると決めて皆に相談したとき。
あの時に一応このことも相談していた。
別に急いでるわけでもないし、学校を建設し終わってからでも良かったのだが、まあ気付いたからには効率的に進めようということで。
相談した結果、種族単位で基礎的な教育がなされているデモンズ、エンジェル、ケットシー、エルフの四種族の代表が、実際出来る者がどれくらい居るのか正確に調べておきます、と提案してきたので、素直に任せた。
そしてその結果を今聞いているんだが……デモンズ、エンジェルは全員。
基本的な読み書き計算だけとはいえ流石だな。
エルフは九割。
まあ、教育なんて嫌いだというものはどこにだって居るだろうし、それ以外のことにのめり込む者もいると聞いた。
エルフは数もかなり増えてきているし全然かまわないだろう。
ふむ……。
一応数は足りているか? それなら。
読み書き計算は、理想としては住民全員が出来るようにしたいので、生徒数は街の住民の数とほぼ同じ。
だが、教師の数もこれだけいれば単純計算では大丈夫だろう。
まあ、問題としては教師役になる者たちが教師に専念できるわけではないということか?
デモンズとエンジェルは街の事務仕事をしてもらっているし、ケットシーはこれから忙しくなる商会を任せる予定、エルフたちも畑や警備などいろいろ仕事をしてもらっている。
いずれは教師専門として働く者も出てくるかもしれないが……少なくとも今はいない。
しかしこれは実際問題にならない。
なぜなら……教師役と同じく、生徒になる者たちも生徒に専念できないからな。
街の住民は皆なんだかんだで働いている。
当然教育だけに時間を使えるわけじゃない。
なので、教師の数の問題は出ない。
初めのうちは。
いずれは教師にも生徒にもそれぞれ専念できるようにしたい。
前世の教育機関みたいに。
これからはうちの街にも子供がどんどん増えていくしな。
その時の教師役をしっかり確保する、という意味合いでも基礎的な教育は全員に受けてもらいたい。
その中から学ぶことや教えることに魅力に気が付く者も出てくるかもしれないし。
……ああ、それと。
個人的に学力ある組の四人には俺からちょっと聞いてみたんだが、それぞれ理由があって教師役の就任は見送ることになった。
まずルシュ。
「主様のお傍にお付きしていたいので」
……うん。
少し照れる。
こうは言っていたが見送った理由は多忙だからだな。
俺の秘書としていろいろやってくれている上に、ハイコボルトたちや建築チームのリーダーとして、街の建設を一手に担っている。
これ以上負担をかけるのはさすがに出来ない。
次にフィーネ。
「ん~? 教える……って、どうやるの~?」
これがフィーネの言。
フィーネを見送った理由は、こっちもそれなりに忙しいのと、ちょっとのんびりしすぎかと思ったから。
あとあんまり教えるのに向いて……いや、教師という役には上手く嵌らなかった。
トゥーナ。
「そのぉ……一応陸には上がれますがあまり長時間はぁ……。海中に作ってもらえるならぁ……」
うん。
まあそうなるな。
人魚に陸で教師してくれとか無茶ぶりにもほどがある。
仮にやるとしたら……大きい水槽用意してそこに入ってもらって授業する形になるか?
まあどうやるにせよかなり負担がかかるだろうし見送り。
……にしても海中に学校か……いつか作ってみたいな……。
エイリス。
「教える? 何で私がそんなこと……いえ! いいわね! この私の忠実なしもべになるようにしてあげればいいんでしょう!?」
うん。
却下で。
と、まあそんなわけでこの四人は教師役への就任見送り。
あとどこから聞きつけたのか、エイリスはリネイアとハイラの教育を受けることになった。
「ちょっ……なんでぇ!」
南無。
それと。
完全に抜けていたんだがもう一人。
「やれやれ……ファンタスティック悲しいと言わざるを得ませんね? 代表様に教育も受けていない蛮人と思われるとは……」
いや思ってない思ってない。
そう。
もう一人とは怪盗フォイル。
図書館に本を寄贈してくれる、と言ってくれた際にいろいろと聞いてみたら、相当出来る側だった。
いや、怪盗なんてやっているんだから、知識は豊富だろうと思ってはいたが……うん、正直ド忘れしていた。
本当に申し訳ない。
フォイルは笑って許してくれて、教師役も承ると言ってくれた。
ありがたい。
特に美術品の知識はとんでもなくあるし、初めの方の基礎教育が終わった後も教師をやって欲しいまである。
とまあこんな感じで、一応教師役は十分用意できた。
どうしても教師が足りないようなら俺もちょっと手伝おうかと考えたのだが……。
「ご遠慮ください」
うん。
今みたいなことをリネイアだけじゃなく皆に言われた。
理由は……。
「お手間をかけたくないというのもありますが……代表様が教師を為されるとあってはとんでもない混乱が起こり、生徒が皆代表様のもとへ向かいますので」
……ということらしい。
いや流石にそこまではならないんじゃないか? とは思うけど。
「なります」
なるらしい。
……まあ、こっちに気を使って言ってくれているんだし、大人しくその進言を受け入れさせてもらおう。
と言うかそもそも俺は特典の翻訳で読み話しが出来ているわけで……文字分かってるわけじゃないからな。
まあ計算なら十分教えられるけど。
そんなわけで俺は不参加。
さて、教師の選定が終わったら次は生徒なんだが。
こっちもリネイアたちに任せている。
というかおそらく今もシエルがそのために飛び回っているはず。
「はい。報告を受けています。順調に進んでいるようです」
リネイアがそう答えてくれる。
今、シエルはそれぞれ種族の代表の間を飛び回って、予定の調整をしてくれている。
生徒……読み書き計算の基本的な教育を受けるのはこの街の全員。
だが先にも言ったようにそれぞれ仕事もあるので教育を受けることに専念するわけではない。
なので、それぞれ日や時間を分けて受けることになる。
例えばコボルトのAグループはこの日の午前、Bグループはこの日の午後。
と、言った感じに。
この辺りの日や時間、グループの数、その間のそれぞれの仕事の代役、と言ったもろもろを調整しているわけだな。
最初リネイアにやれと言われていた時は悲鳴を上げていたが、しっかり真面目にやってくれているようだ。
……うん。
言うだけなら簡単だがいろいろかなり大変な作業のはずだ。
シエルもだが……そう言ったもろもろを最終的にまとめるリネイアも。
今度甘いものでも差し入れるか……。
「代表様の補佐はやりたくてやっているので……礼など不要です。しかし、頂けるのであれば代表様の情けを……」
そう言ってくれるリネイア。
……なんだかちょっと場がおかしな方向になってきた。
えー……それはまあ前向きに検討するということで。
生徒たちの調整はそのまま頼む!
俺はちょっと建築の手伝いに行ってくるから!
そう言い残して俺は戦略的撤退をした。




