124.料理教室
ぐる……ぐる……。
鍋の中を注視しながら気を付けてかき混ぜる。
周りでは家事妖精たちが真剣な表情で俺の動きを見つめている。
ちょっと緊張。
消防署と警察署を作り終わった後。
まだまだ作りたい建物……というか作らなきゃならない建物はあるんだが、取り掛かる前にちょっとお休み。
建築続きでちょっと気疲れしたし、俺の前じゃ絶対出さないだろうが建築チームも疲れがたまっただろう。
なので次の建築に入る前にちょっと小休止だ。
そういうわけで俺が今いる場所は屋敷のキッチン。
家事妖精たちに料理を教えている。
……そしてここで味噌を溶かして再び煮るんだが、この際沸騰はさせないように。
沸騰する直前で煮るんだ。
「それはなぜでしょう?」
沸騰させると風味が飛ぶからだな。
だから煮るとは言ったが、温めるくらいの感覚で良い。
「なるほど。ありがとうございます」
質問してきたキールがメモを取るのを横目で見ながら、味噌を溶かし、温め終え……火から上げる。
今日の料理教室の品目は味噌汁。
具材はじゃがいも、にんじん、玉ねぎ。
それもう豚汁じゃないか? って気持ちはあるが、豚は入ってないので豚汁じゃない。
それにみそ汁の具なんて何入れても大体オッケーだしいいだろう。
個人的にはわかめと豆腐が至高だと思っている。
……豆腐作りたいな……。
「重ね重ね、ありがとうございます、ご主人様。ご主人様のおかげで我ら一同、あらたな料理を知ることが出来ました」
メモを取り終え、そう言って綺麗なお辞儀を披露してくるキール。
周りの家事妖精たちも一糸乱れることなくそれに追随する。
何回見てもこの連携力凄いと思う。
礼は必要ないさ。
俺が美味しいもの食べたいだけだしな。
「それでも、教えを頂いたことは事実なので」
まあ、それもそうか。
じゃあ……。
それじゃあこれから美味しい料理をいっぱい作って欲しい。
俺が教えたレシピに従うだけじゃなく、時には新しくチャレンジして美味を作り出してくれ。
「はい、もちろん」
そうこちらを力強く見つめながら断言してくるキール。
キールはさらに続ける。
「そして料理だけではありません。掃除、洗濯……ありとあらゆる家事でご主人様を満足させてご覧に入れます。それが家事妖精の矜持なので」
眼光が更に鋭くなる。
とんでもなく気合が入っているみたいだ。
あ、ああ……。
嬉しいけど無理はしないようにな……?
「お気遣いありがとうございます、ご主人様。それで、早速ですが。味噌汁……とおっしゃいましたか? お味を拝見しても?」
あ、うん……召し上がれ……。
俺が許可を出すと素早く……それでいて埃などはたてないように静かに家事妖精全員が俺が作った味噌汁鍋の周囲に集まる。
その手には小皿とスプーン。
何回か見たが、本当にいつ取り出してるのか分からない。
取り出すところ見抜かれたら家事妖精失格ってキールが言ってたが……別にそれぐらい良くないか? って思った。
「これは……こんなスープ飲んだことありません」
「あのポトフと言うスープも相当の美味でしたがこれも……」
「まだまだ我らの知らぬ料理が多くあるのですね世界には」
「この美味を知らずに完璧な家事をお約束する、と言っていたなんて……過去の自分が恥ずかしいっ!」
「そう自分を責めず。私もです。これから挽回いたしましょう」
味噌汁をそれぞれよそって口にしながら口々に感想を口にする家事妖精たち。
そうして一通り味わい終えると。
「では……ご主人様。申し訳ありませんが少々お時間を。教えていただいた味噌汁、作ってみます」
料理教室でレシピを教わった後にやることは、当然実践。
というわけでキールたちはそれぞれキッチンに散らばり、味噌汁を作り始めた。
屋敷にキッチンは大きいのでそれぞれが別々に作るスペースは十分にある。
全員がかりだと流石にちょっと狭いが。
いやー当初はこんな広いキッチン何に使うんだ? って思ったけど普通に使ってるな。
まさかこのキッチンにちょっと狭いなんて感想言抱く日が来るとは思わなかった。
さて、家事妖精たちがレシピの実践に入って少し時間が空いた。何をするか……と、考えたところで。
くぅ。
周囲には聞こえない程度の小さい音だが……俺の腹が空腹を訴える。
そうだな。
ちょうど時間も空いたことだし、キッチンに居ることだ。
何か作ろう。
そういうわけで用意した材料はこちら。
玉ねぎ。
兎肉。
白ご飯。
卵。
ケチャップ。
作るのは、せっかくケチャップ出来たんだしいつか作ろうと思っていた料理。
オムライス。
作り方は簡単。難しいのは最後だけだ。
まずは玉ねぎをみじん切りにし、兎肉を一口大に切る。
ちなみに兎肉は鶏肉の代わり。
切り終わったら、油を引いたフライパンで兎肉と玉ねぎを炒める。
火が通ったらそこに白ご飯を投入。
待望のケチャップも投入し混ぜる。
ケチャップの投入量は適当。
前世でもいつも感覚でやってた。
後は塩と胡椒を振ってチキンライスの完成。
う~んケチャップの焼けた良い匂い。
このままチキンライスを食べ尽くしたい衝動に駆られるが我慢。
オムライスに進化させる。
と言うわけで卵。
このキッチンにはフライパンもいっぱいあるので、チキンライスを作ったのとは別のフライパンに油を引いて溶いた卵投入。
流石にやりすぎかな? ってくらい混ぜる。
ガチャガチャと混ぜる。
卵焼きは序盤の失敗くらい簡単に取り戻させてくれる懐の深い料理なので。
そうして卵が固まったら最後。
唯一ここが難しい。
まず、固まり始めている卵をいい感じに折りたたんでオムレツみたいにする。
フライパンも傾けたりしていい感じに……いい感じに……出来た!
失敗してもそれはそれでいいが上手くできると嬉しい。
そしてさらに第二関門。
この折りたたんだ卵をチキンライスの中心に乗せる。
慎重に乗せないと、卵がずり落ちてしまって、チキンライス~オムレツを添えて~ に、なってしまう。
慎重に進め……無事成功。
卵は完全にチキンライスの上で静止。
後はこの卵にナイフを入れ……。
ふわぁ……。
ナイフを入れた線から湯気と共に半熟の卵が溢れ出し、チキンライス全体を覆う。
これにてオムライス完成だ。
さて、さっそく実食を……と、スプーンを取って来るために振り返った瞬間。
ビクゥッ!!
身体が跳ねた。
俺の背後には、キッチン中に散らばっていたはずの家事妖精たちが音も立てずに大集結していたからだ。
驚いて固まった俺にキールが声を掛けてくる。
「ご主人様。お見事な手際でした。それで早速なのですが……この料理は何というのでしょう?」
え……? オムライスだけど……?
ちょっとドキドキしている心臓を落ち着かせながらそう答える。
「オムライス……なるほど……」
キールは俺から聞いた名前をメモに書き込み、他の家事妖精たちもひそひそと話し出す。
「オムライス……凄くありませんでしたか?」
「凄かったです……。あの、ケチャップ……でしたか? を混ぜて焼くだけでも相当に美味しそうなのに……」
「さらにそこから卵を乗せるなんて……」
「しかも見ましたか? ナイフを通した瞬間卵がふわぁと広がって……神業ですよあれは……!」
いや別に慣れれば家事妖精たちなら出来ると思うが……。
家事妖精たちの感想は止まらない。
なんだろう。
隅っこでちゃちゃっと作ってパパっと食べようと思ってたのに、もう完全にそういう空気じゃない。
「ご主人様。こちらのオムライスなる料理、味を見てみても?」
そんな空気の中、メモを終えたキールが俺にそう言ってくる。
え? それはもちろん構わないが……自分で食べるために作ったから味付けが結構雑……。
「ご自分で食べる為に作った……それはつまり、自分好みの味付けで作った、ということでしょう? 私どもは主様のお好みの味を知りたいのです」
……まあ確かに。
自分で自分の嫌いな味とか作らないしな。
許可を出すとキール……だけじゃなく、全員が一糸乱れぬお辞儀をし、オムライスを食べだした。
え? いやでも確かに私どもって言ったなキールが。
そしてオムライスを食べ終え……。
「ありがとうございました。ご主人様の料理はとても美味だと再認識出来ました」
「「「「ありがとうございました」」」」
口を拭いながらそう言ってくるキールたち。
いや、まあ美味しく食べてもらえたんならそれでいいが……。
「それでは少々お待ちいただけますか? ご主人様。すぐにお作りしてまいります」
うん? ……何を?
そんな疑問を覚えながらも、言われた通り少し待った俺の前に出されたのは……。
「どうぞ」
オムライス。
それも俺が作ったものより色合いが綺麗な気がする。
スッ……と。
俺の目の前でキールがナイフを通すと、上に乗っていた卵は綺麗に溢れ出し……見事にチキンライス全体を覆う。
……いや凄いな!? これ初見で成功させるのか!?
「調理工程も途中から見ていましたので」
いやそれにしても凄い……。
感銘を受けつつも、せっかく作ってくれたものが冷めてもいけない。
早速キール製オムライスを口に運ぶ。
うん……美味い!
兎肉の旨味、玉ねぎの甘味、塩胡椒の塩味、ケチャップの酸味。
強いそれらが調和したとんでもなく美味いチキンライス。
更にそれを半熟の卵のまろやかさが優しく包んでいる。
食べる手が止まらない。
いや……本当に凄い。
うちの街で取れる素材がとても良いっていうのはあるがそれを見事にまとめ上げられている。
俺がさっき作ったオムライスより断然丁寧に作られている。
本当に美味しい。
「もったいないお言葉です」
そのまま食べる手は止まらずすぐに完食。
とても美味しかった。
俺が作るところを見ていたとはいえ……いきなりこれが作れるなんて本当に凄いな、キール。
「ありがとうございます。恐縮です。……次以降もご満足いただけると思います」
次?
そう疑問に思い、キールの背後を見ると、家事妖精たちが次々とオムライスを作っている。
ああ。
うん。
なるほど。
その後。
家事妖精たちが作ってくれたオムライスを全部食べた。
しばらく動けなかった。




