119.朝と消防署
朝、目が覚める。
今日も快適な目覚め。
ムイが身体の上に載っているが、程よくヒンヤリしていて気持ちがいい。
暑い時期はヒンヤリしているし、寒い時期はホカホカしているしで、正直最高と言わざるを得ない。
欠点としては……夜、俺の部屋に誰かが訪れる時はしれっと姿を消していることか。
その察知能力かなり欲しい。
……いや、全然嫌と言うわけじゃない、ほんと嫌と言うわけじゃないんだが……覚悟はしたい。
そんな益体もない思考を垂れ流しながらベッドから這い出し、顔を洗うべくムイを抱えて洗面台に行くために部屋のドアを開ける……と。
「お早うございます、ご主人様」
そんな言葉と共に俺の前で優雅にきれいなお辞儀を見せるメイド服姿の女性。
誰だ? と、固まって、一瞬後に答えが浮かぶ。
彼女は家事妖精のキール。
他の家事妖精と共に昨日から俺の屋敷のメイドを務めてくれている。
「お湯と顔ふき布、歯磨きも用意しておきました。こちらへどうぞ」
そう言ってキールは俺を洗面所に案内してくれる。
そしてそこに用意されていたお湯は熱すぎずぬる過ぎず快適な温度。
顔を拭く布……というかタオルはとてもふわふわ。
歯を磨けば、ちょうど口を漱ぎたいと思ったタイミングで水が入った器を差し出してくれた。
さらには、器に溜めた水で水浴びしていたムイを綺麗に拭き上げて再び俺の肩にそっと乗せる気遣いまで……。
……いやいるか? これ?
……まあ、ムイがぽよぽよ喜んでいるみたいだしいいか。
いや……凄く優秀……分かっていたけど……!
朝食の食卓に着きながら俺はそんなことを思う。
至れり尽くせりっていうのはこのことかもしれない。
行ったことは無いが、五つ星とかの高級ホテルみたいだと思った。
今だって席に着く際、キールが少しも音を立てずに椅子を引いていたしな。
迎え入れてすぐ最初にやってもらった掃除だって完璧だった。
時間が足りなかったため甘かったと聞いたが、俺ではどこが甘いのか正直分からなかったレベル。
姑ごっこできなかったもんな。
これほどの達人が十数人。
一気に来てくれるなんてラッキーだ。
そう幸運をかみしめつつ、席に着くと同時に運ばれてきた食事を口に入れ……入れ……うん。
フワフワしていた気分が覚める感じがした。
……いや悪くはない。決して不味くはないんだけど……何というか、物足りない。
口に入れた料理を咀嚼して飲み込みながら俺はそう考える。
いやまあ当然か。
この世界……料理技術があまり発展していない。
大体は焼く。
あって煮るくらいだ。
しかも火加減の調整とかそんなもの無い。
常に強火。
俺の屋敷のキッチンは一応火加減が調整できるようになってはいるが、言われないとそんなこと分からないか。
と、俺が微妙な顔をしているのを察したのか。
「……ご満足いただけなかったでしょうか?」
……いや。
うん。うーん……。
ちょっと気が引けるけど……でも毎日作ってもらうんなら……味に妥協はできない。言わせてもらおう。
正直、もっと美味しく出来ると思う。
「率直なご意見、ありがとうございます。そして、至らぬものを出してしまい誠に申し訳ありませんでした」
そう言って深々とお辞儀してくるキール。
いやほんと……言った俺が言うのもなんだがそう気にしないでくれ、って言っても難しいか?
「はい、家事妖精としてご主人様にご満足いただけないのは名折れですから」
職人のプライドってやつか……いやちょっと違うか?
まあいい、それなら……。
夜にでも時間を作ってうちの街の料理についていろいろ教えるからぜひ参加して欲しい。
それで……いろいろ学んだら、俺が満足できる美味しい料理を作って欲しい。
「はい。必ず」
うん。
楽しみにしている。
そんなわけで屋敷に家事妖精が居る感慨にある程度浸りつつも、今日の作業に勤しむ。
今日の作業は……公共施設の拡充。
今、街にある公共施設は、公衆トイレ、公衆浴場、病院……あと運動場とかもか? でもアレ一応ケンタウロスの為に作った施設だからな……まあいいか。
建ててからそれなりに経つ病院だが、その力をいかんなく発揮してくれている。
いや病院が力を発揮することを喜ぶのもなんだが。
うちの街もどんどん人口が増えて……まあ当然人口が増えれば、傷病人もやっぱり数が出てくる。
だが、あらかじめ病院を立てておいたお陰でそうした者たちも重症化することなく問題なく治せているらしい。
ハイラが教えてくれた。
……夜、ナース服を着て俺の部屋に来た時に。
いやまあとてもすごくよく似合っていたが。
話を戻して。
とにかく、公共施設はしっかりレースピアの街の助けになっているということ。
いやまあ当然の話だが。
だからさらに拡充させていこうって話だな。
いつかはやろうと前から思ってたし。
そのいつかを今にしたきっかけは……うん、ヤーファ。
「え? 私ー?」
「……一体何やったんだい? ヤーファ?」
「何もしてないよー!」
たまたま遭遇した、街を散策していたであろう火妖精ヤーファがそんなことを言って、一緒に……おそらくお目付け役として……居た雪妖精のフィノウにジト目を向けられている。
いや実際やった……というか言っただろ。
初対面の時。
いきなり開口一番自分は火事妖精だって。
「あー……あったね、そんなこと」
「はぁ……やってるじゃないか」
呆れて溜息をつくフィノウと、手を頭の後ろにまわしあっけらかんとそう言ってくるヤーファ。
いやそんなしみじみとされても全然昔の話じゃないんだが。
昨日の話なんだが。
「まあまあ。過ぎたことだよ」
それ普通こっちが言う台詞じゃないか?
いやまあ確かに過ぎたことだが。
「代表様。ヤーファはいつもこんな感じだから、あんまり真面目に向き合わない方がいいよ」
そうフィノウが俺にアドバイスをしてくれる。
それなりに長い付き合いだからか、その言葉にはかなり実感がこもって聞こえる。
……そうするか。
まあそんなわけで早速公共施設……消防署を作っていく。
「建てる場所はここで構いませんか? 主様?」
何かを建てるなら当然頼るのは建築チーム。
リーダーのルシュが俺に確認を取って来る。
ああ、ここで構わない。
最初の消防署を建てることに決めた場所は、俺の屋敷が経っている中央区画。
の、ウンディーネ区画寄りの場所だ。
ここに建てると決めた理由は二つ。
まず一つ目の理由は距離。
このレースピアの街は俺の屋敷……中央区画を中心に円状に広がっている。
ならば、街のどこで火事が起こったとしても、最短で駆け付けられるのは当然中央区画だ。
それゆえに最初の一件目は中央区画に建てるのがベスト。
二つ目の理由は水の確保。
最短で駆け付けたとしても、火事を消すには当然水が必要だ。
そしてレースピアの街で水と言えば……。
「あるじ~。消防署~? の近くまで水源引いてきたよぉ~」
そう。ウンディーネだ。
ありがとうフィーネ、助かった。
「いいよぉ~あるじの頼みだしぃ~」
そう言ってにへらと笑うフィーネ。
本当に助かる。
フィーネの水源を自由に引いて来られる力が無かったらそれこそウンディーネ区画に建てる他無かったからな。
そういうわけで……消火用の水を確保するために、ウンディーネ区画寄りに建てたわけだ。
他にも屋敷とかまで引いてる水源との兼ね合いもあるしな。
さて、これで建物と水は確保できた。
消防署の建物は建築チームがバリバリ作り始めたし、水源も俺が掘ったらすぐに湧き出てきてくれた。
流石フィーネだ。
後は消防署に属する消防隊員をどうするかだが……。
「……あるじ~?」
ん? どうしたフィーネ?
「あるじのやりたいことに水を差すつもりじゃないけどぉ~」
うん。
「私たちウンディーネが行って火を消すのじゃダメなのぉ~?」
…………。
いや。
全然いい。




