118.再会と家事
その後。
意気投合しているようだから……と、イアンにヴィーラントの案内を頼んだところ。
「もちろん任せてくだされ! ここまで鍛冶のことを分かっているものなら、こちらからお頼みしたいくらいですぞ!」
と、二つ返事で快諾してくれた。
「あたしも是非こっちのドワーフに案内してもらいてぇ! ……ああいや! 代表様に案内してもらうのが嫌って訳じゃなくて……!」
ヴィーラントも乗り気だ。
あと、慌てて弁明しながら俺の後ろをチラチラ見てる。
後ろには……ハイラとリネイア。
うん。
そう慌てなくても分かってるから。
俺は全然気にしていないから。
気持ち大きめの声でそう言っておく。
ヴィーラントは、ホッと息を吐いた。
「それならよかった……ともかく、代表様。ここまで案内してくれてありがとな! 感謝してる! 本当に!」
そしてお礼を言ってくるヴィーラント。
本当に気にしなくていい、当然のことだ。
それより、良かったな。
案内が終わったらイアンに鍛冶を見せてもらうと良い。
「? それは当然、ここまでのつるはしを作る者の鍛冶、当然見せて欲しいと思っていたが……何で?」
何でも何も……ヴィーラントが見たいって言っていただろ?
キングドワーフの鍛冶。
「キング……ドワーフ? ……誰が……?」
もちろんイアンが。
俺がそう言うと、頭の上にはてなをいくつも浮かべていたヴィーラントは、俺とイアンに交互に目を向け、そして……。
ドゴォッ!
思い切り地面に倒れ込んだ。
「!? ど……そうした嬢ちゃんっ!? しっかりするんじゃっ、いきなり何が……」
イアンが慌てながらもヴィーラントを助け起こそうとする。
俺も駆け寄るが……助け起こされてるヴィーラントの顔は……うん。
とても安らかそうだった。
恐らく、興奮がキャパを越えて溢れ出したのだろう。
とりあえずイアンに問題ないことと、起きたら鍛冶場の案内をよろしく頼むと念押ししておく。
「あ、ああ……了解いたしましたぞ……任せてくだされ……」
まだ少し混乱しているようだったが、イアンはしっかりと請け負ってくれた。
よし。
よろしく頼む。
そして。
ヴィーラントのことをイアンに頼んだ俺たちはその後、屋敷に足を向けた。
もちろん俺の屋敷。
目的は……。
「あー! ほんとにいたフィノウ! こんなところに来てたなら言ってよ!」
「うわっヤーファ! なぜここに!?」
一つはヤーファをフィノウと会わせるため。
会いたいって要望だったしな。
……フィノウはなんだか会いたくなかった? っぽいけど。
「いや、会いたくないって訳じゃないよ、ただちょっと苦手で……」
ヤーファにくっつかれつつも、俺にそう言ってくるフィノウ。
苦手? そうなのか?
まあ確かに、いきなり火事妖精なんて名乗ったりするいたずら好き? なところもあるが……フィノウは結構人付き合い上手な方だと思ってたから意外だった。
「うん、まあ、ヤーファの性格自体はいいんだけど……性質が……」
性質?
「ああ、ほら。見てみてくれ」
そう言われてヤーファにくっつかれているフィノウを注視すると。
ドロォ……。
その体は溶けだしていた。
……うわわ! 溶けてる!
氷氷!
「分かってもらえたかな? ヤーファは火の妖精だろう? だからくっつかれると溶けてしまうんだ」
気取った様子でそう語るのは持ってきてもらった氷で形を取り戻したフィノウ。
いやさっきまでドロドロに溶けてたのによくそんな顔できるな?
まあ溶けるのなんてもう慣れっこってことなんだろうな。
短い付き合いでも分かるくらいちょこちょこ溶けてるし。
そう語るフィノウの後ろで再び抱きつく機会を伺っているのはヤーファ。
フィノウが溶けようがお構いなしらしい。
これは確かに苦手というのも頷ける。
「えー? 確かに私が溶かしてることもよくあるけどー……」
そこ素直に認めるんだ。
「でもそれも半分くらいで、残り半分はフィノウが自力で溶けてるでしょー?」
自力で溶けてるってなかなかすごい言葉だな。
確かにやってるけど。
「それに溶けてもなんだかんだすぐ復活するんだし良くない?」
「私が溶けてから戻るのが早くなったのはヤーファのせいだけどね?」
軽くじとつきながらヤーファにそう言うフィノウ。
だがそのまなざしとは裏腹に、纏う雰囲気はそうとげついていない。
軽いじゃれつきみたいな感じ?
本人……本妖精? が言う通り、少し苦手なだけであって不仲とかそう言うことではないらしい。
少しほっとする。
仲なんて良いに越したことないからな。
同じ街で暮らすなら特に。
まあ、それなら街の案内任せてもいいか……?
というかヤーファはここに住むってことで良いのか?
「? 言ってなかったっけー? もちろーん! フィノウもいるしここに住みたーい!」
「え゛。……いや、ボクが口を挟めることじゃないけど……本気かい? ……はぁ~……しょうがないなあ……分かった、頼まれるよ」
「わーい! よろしくー!」
ヤーファは元気よく喜びまわり、フィノウはちょっと困った顔をしながらも、すぐに折れた。
結構仲いいんじゃないのか? やっぱり。
まあそういうわけでヤーファをフィノウに頼み……ああそういえばヤーファの住居は……。
「フィノウと同じ部屋でー!」
「えっ!? ちょっまっ! 待ちなって!」
フィノウと同室だと言い残し走り去っていったヤーファを追いかけて行ったフィノウ。
うん。
まあフィノウに任せようか。
うちの屋敷でもノーム達に作ってもらってる妖精用住居でも問題なく部屋数はあるし。
さて、次は……。
ぺこり……。
俺の前で深々と頭を下げている家事妖精のキール。
……と、更にその後ろに並んでいる、キールと同じメイド服を着た女性たち。
え?
いつの間に来た?
「彼女らは私と同じ家事妖精たちです。先ほど呼んでおきました」
いや、他の家事妖精を呼ぶって話は聞いていたけど……いつの間に……。
「お気になさらず」
いや結構気にするんだが……まあいいか。
妖精とか精霊とかそう言ったたぐいのモノにはあんまり常識が通用しないと俺も結構学んできた。
まあとにかく増えたってことは……早速?
「はい、早速家事に入らせていただきます。まずはこの屋敷全体の清掃から。……許可を頂けますか? ご主人様」
もちろん構わない。
頼む。
そう言うや否や、キールが話している間も一礼の姿勢を崩さなかった家事妖精たちが一斉にゆっくりと頭を上げ、そのまま優雅に屋敷の各所に散らばっていった。
凄い動きだった。
優雅にゆっくり動いているように見えるのに、実際はかなりのスピードが出ていた。
普通に時速数十キロとか出てたんじゃないのかアレ?
「素晴らしい動きですね、狩りにも使えそうです」
「もしあれが代表様に向かった場合……ちょっとヒヤッとします。代表様は必ず守り抜きますが」
護衛の二人もあの動きにはかなり驚いたようだ。
その後。
「ご主人様。清掃が完了いたしました。……急いで仕上げたので少々甘いですが……お叱りは甘んじて受けます」
そう言いながら、キールたちは戻ってきた。
そのキールが言うところの甘い清掃とやらを見てみるが……甘くなんてなくないか?
よく姑とかがやるような、棚をつぅ~、と指でなぞって埃をふぅ~、と息で飛ばすあの動作をしてみようと思ったが……普通に埃なんて全然つかなくて出来なかった。
これで甘いなら本気清掃の時とかどうなるんだ? 全面ピカピカになるんじゃないか?
いや……本当に凄い。
これからぜひよろしく頼む。
家事妖精たちの仕事ぶりを見た俺は、彼女らにそう声を掛ける。
彼女らは手を前に組んだまま微動だにしていないが……心なしか嬉しそうだ。
「ありがとうございます。過分なお言葉です。では……これからこのお屋敷に居つかせてもらっても?」
ああ、もちろん構わない。
これからもよろしく頼む。
「「「ありがとうございます」」」
声も動きも一糸乱れぬ一礼。
いや連携力も凄い。
この連携力で掃除もテキパキとこなしたのだろう。
今日見せてもらったのは清掃だけだが、明日からは他にもさらに洗濯や料理……など。
色々任せていけるだろう。
とても助かる。




