117.住居と案内
「話は終わった?」
とりあえずキール、ヴィーラント、ヤーファとの話が一段落し、落ち着いたタイミングでエイリスがそう俺に声を掛けて来た。
まあ終わっては無いけど……一旦落ち着きはしたな。
何かあったのか?
「いや、あったのかっていうか……妖精たちが来てなあなあになっちゃったけど……蜜集めちゃっていい? もうこんな甘い匂い嗅いでたら我慢出来なくて……」
……ああ。
そう言えばそうだ。
妖精たちが来てちょっと頭から抜けてた。
そもそもこの花畑はそのため……ビープルたちにはちみつを作ってもらうために作ったんだった。
とてもそわそわした様子で俺に許可を求めて来たエイリス。
よほど昂ってるのか、ハイラとリネイアに再矯正された口調も完全に戻っている。
この我の強さは正直凄いと思う。
そしてそんなエイリスの後ろには、これまたとてもそわそわした様子のビープルたちが列をなしている。
皆エイリスと同じで、もう待ちきれない! といった様子だ。
あー……これは俺が悪かったな。
悪かったエイリス、こっちは気にしなくていいから存分に蜜を集めてくれ。
ビープルの皆の働きに期待する。
「っ! ええっ! 存分に期待しておきなさい! 私たちの蜜を味わえば、あなたはこの街を私たちに献上し、そして私たちの足元で私たちを崇めながら暮らすことになるわ! 楽しみにしておくことね! さあ! 皆行くわよ!」
そう言い残し、エイリスはビープルたちを引き連れ、花畑の中へ飛び去って行った。
あそこまで豪語するはちみつ……一体どれだけ美味しいのか。
正直楽しみだ。
だが……。
「「……。」」
口調が元に戻ったからなのか……あなたたちは私たちを崇めながら暮らす、なんてことを俺に口走ったからなのか……いや多分後者だな。
ハイラとリネイアが後ろに炎が幻視できるような笑顔で佇んでいる。
おかしいな、火の妖精は二人の横に居るヤーファのはずだが。
そのヤーファは二人の後ろに幻視できる炎にビビって俺の後ろに隠れだした。
いや、ヤーファは火の精霊なんだから火を怖がったら駄目なんじゃ……何? 現実の火ならまだしもこういうのは専門外? 誰でも怖いに決まってる? ……確かにな……。
まあそんな感じで蜜集めに向かったビープルを見送り……次の行動に移る。
次は早速ヴィーラントを鍛冶場へ連れて行く……前に。
とりあえず妖精たちの住居を作りたい。
住居なんて早めに作っておくに越したことないからな。
そういうわけだから……ハイラ、リネイア、気持ちは分かるが機嫌を直してもらって……。
「……機嫌を損ねてなどおりません。ご心配なく、代表様」
「……その通りです、後で解決しておきますので」
何を?
とは怖くて聞けなかった。
まあエイリスには頑張ってもらおう。
そんなわけで。
えー……それじゃキール、妖精たちってどこに住む……。
「もちろん私はご主人様の屋敷に住み込みいたします」
うん。
いやそうじゃなくて。
普通の妖精ってどういう感じの住居に住むのか聞きたくて……。
「失礼いたしました。ご主人様のおっしゃる普通の妖精があちらの……幼体の妖精を指すのであれば、あの子達は花の中などに住みます。あの子達からすれば、この花畑はさながら立派な住宅街でしょう」
なるほど……。
というかあのちっこい妖精たちやっぱり幼体だったのか……。
妖精の生態は結構摩訶不思議だということを再認識した。
まあともかく。
この花畑がそのまま住宅街ならあの小さい妖精たちの住居はこれでいいだろう。
じゃあ普通じゃない妖精……具体的にキールたちみたいな人間大くらいに大きい妖精は?
「それぞれまちまちな場合もありますが……家事妖精がお屋敷に住むように……、基本的には植物、木などを住処にする場合が多いですね」
木を住処に?
なるほど……ノーム達みたいな感じか。
ノーム達も自分たちで木を生やしてそれを住居にしているからな。
「ノームが居られるのですか? ではノームに木を生やしてもらえればそれを住居とすることが出来ます」
ふむ……よし分かった。
それじゃあラウームを呼んで……花畑の周囲にスペース取って妖精たちが住む用の木を生やしてもらおう。
問題は妖精がどれくらい来るかだが……。
「他の家事妖精もいくらか呼び寄せますし……そうなれば興味を持ってそれなりに集まって来始めるかと」
そうなるか……それならノームには多めにツリーハウスを生やしてもらって……でも数が増えてくるとスペースが足りなくなるよな……どうするか……。
……いや、別にここにこだわらなくても良いな。
妖精は花畑から出てこれるんだから……他の場所にも花畑を作ればいい。
ビープルの助けを借りれば簡単だし、もしビープルが増えればはちみつの生産量も上げられる。
後でエイリスにも相談するとして……今はとりあえずラウームたちにツリーハウスを作ってもらうか。
リネイア、ラウームたちを呼んできてもらっていいか?
「かしこまりました」
「了解っす! ここにぶち建てちゃえばいいんすね!」
話が早い。
リネイアに呼んできてもらったラウームは、この辺りに建てて欲しいと聞くや否や、そう言って早速連れてきた他のハイノーム達と協力し、ツリーハウスを建て始めた。
いや、ありがたいけど何のためとか聞かなくていいのか?
「頭がやることっすから!」
そう言い切って作業に戻るラウーム。
うん。
少し……いやかなり面はゆいが……嬉しい。
その信頼にこれからも報いていきたいな、と思う。
さて、とにかくこれで住居は確保できるだろう。
これから先、妖精が増えても安心だ。
というわけで……待たせてしまったが、ヴィーラントを鍛冶場に連れて行く。
「うほおおおおお」
これ、ヴィーラントを鍛冶場に連れて来た時の第一声。
俺は、ラウームにツリーハウスの建築を任せ、後で案内するといった約束通り、ヴィーラントを連れてドワーフ区画の鍛冶場へ。
ちなみにヴィーラントだけじゃなく、他の者も一緒。
キールはお供します、と一言だけ発して俺の斜め後ろに陣取った。
ヤーファはここの火がどんなものか見たいと言って着いてくることに。
後、ハイラとリネイアは護衛役として当然着いてきた。
「すさまじいっ……すさまじいぞこれはっ! 見よあの振り下ろされる槌を踊り狂う炎を! ここはまさに鍛冶の聖域! 炎に認められぬモノ入ること能わず!」
鍛冶場の光景にとんでもない衝撃を受けたのか、矯正されて丁寧になっていた言葉遣いも元に戻り……いや戻ってないなこれ、おかしくなってるな。
と、そこへ。
「おや、代表殿。何用で?」
やってきたのはイアン。
その肩には、おそらく今しがた打ったのであろうつるはしを抱えている。
つるはしは、一応もう十分な量は打ってあるものの、さらなる改良を目指して実験作としてちょこちょこ作っているのだ。
ああ、イアン。
ちょっと新しく来た者たちに案内を――
「おぉぉっ!? そのつるはしっ! よく見せてっ! ……なっ……何という作っ……! この尖り! 輝き! 洗練された機能美っ……! 鉄がっ……鉄が喜んでいるっ……!」
「お……おぉ……? どうしたんじゃ、嬢ちゃん? そんなに興奮して……。それにこれは鉄じゃなくミスリルで出来たつるはし……」
「ミスッ!! リルッ!!」
「ぬおぉぉっ!?」
ガバアッ! と、鉄ではなくミスリルだと訂正したイアンに思い切り詰め寄るヴィーラント。
そのままイアンを質問責めにしている。
いやあ……テンション上がってるなあ……。
イアンもたじたじだ……。
……いやたじたじだったのは最初だけだな。
今はもうイアンの方もかなり話に熱が入っている。
「はっはっはっ! 代表殿! ヴィーラント殿は新しい住人なのですな? でしたらわしらは喜んで歓迎いたしますぞ!」
「おぉっ! 鍛冶の腕だけじゃなく器も広いたぁ! 本当に大したもんだ! あんた!」
「「はっはっはっはっ!!」」
なんかすごい意気投合してる。
口調も元に戻ってるし。
まあ……いいことか?




