116.妖精たち
えー……それで弁明は?
「はい……すみませんでした……家事妖精、鍛冶妖精って来たから私も火事妖精って名乗りたくて……」
俺の目の前で正座している赤い髪をした妖精がそう話す。
彼女はついさっき自身を火事妖精と名乗りながら登場した妖精だ。
よほど帰りたくないのか、俺がお帰り下さいと言ったら即座に冗談だと謝ってきたし、今も大人しく正座して弁明している。
……つまり、ただのおふざけのつもりだったと?
「そうだよぉ~ほんとはただの火の妖精なのぉ~お慈悲~」
……う~ん。
火の妖精ではあるのか……。
まあ、本気で火事を起こす妖精って訳じゃなくただのおふざけだったんなら……。
いや結構シャレになってないけどな。
花畑で火事なんて……それもこんな俺よりも大きいような花で埋め尽くされた花畑で火事が起きようものなら、とんでもない火災になるだろうし。
街にもかなり被害が出るだろう。
木材で作ってある建物も多いしな。
特に地面から生やした木を直接住居に使っているノーム達は大損害を被ると思われる。
……レースピアの街が火に包まれる光景を幻視してしまった。
後で念のため消防署も立てておこうかな……?
消火訓練とかもやったほうがいいか……?
そんなことを考えつつ、しっかり反省しているようなので、本当に気を付けてくれ、と念を押して解放する。
と、それを見計らったのか、最初に出て来た二人の妖精……出てきた際の言葉を信じるなら、家事妖精と鍛冶妖精の二人がハイラたちに連れられる形でやってきた。
他のとてもちっこい妖精たちは……花畑の中で遊んでるな。
「先ほどもご挨拶しましたが改めまして……家事妖精のキールです。以後よろしくお願い申し上げます、ご主人様」
「鍛冶妖精のヴィーラントだ! 今この姉さんたちに聞いたが、ここではハイドワーフたちが鍛冶をしてるんだって!? 早速案内してくれねぇか!? いや、くれませんか!?」
鼻息荒く俺に詰め寄って来る鍛冶妖精・ヴィーラント。
彼女の身体は小柄で俺の腹くらいまでしかないが、圧がかなり強い。ぐいぐい来てる
このままだと俺の身体を登って直談判してきそう……といったところで、ハイラとリネイアが彼女の肩を掴んで止めてくれる。
まるで剥がし役みたいだ。
ありがとう。
「いえ、護衛として当然のことなので」
さて……ヴィーラント、この後案内するから今はとりあえず落ち着いて……。
「これが落ち着いていられるか! ハイドワーフの家事だぞ!? しかも話を聞くことにはキングドワーフまでいるって話じゃないかそんなもん落ち着けって方が無理――」
……あれ? ここはとりあえず落ち着いてくれる所じゃないのか?
さらにテンション高く話し始めたんだが……。
え? どうすればいいんだこれ?
「……代表様、少しお待ちいただいても? 少々”説得”をしたく」
俺が困っていると、リネイアからそう助け舟が出された。
凄くありがたいんだが……なんかデジャヴ。
まあ、正直ちょっとたじたじだったので素直に任せる。
俺が許可を出すと、リネイアはヴィーラントの脇の下に手を差し入れ、そのまま持ち上げて物陰……というか花の陰へ。
「あん? 何するんだ姉さん、あたしはこの胸に生まれた熱意をまだまだ全然伝え足りな――」
そして数分後。
「代表様、先ほどまでの無礼、誠に失礼いたしました。そちらの都合のいい時で構いませんので、鍛冶場への案内をお願いしたい所存です」
デジャヴ的中。
すっごく礼儀正しくなった。
……エイリスの時も聞いたけど……大丈夫なんだよな?
「はい。それはもう」
それはもう?
いや、まあエイリスだってそのうち戻ったんだし、こっちもそのうち元に戻るだろう、おそらく。
ちなみにそのエイリスは、別の花の陰に身を隠しながら、ヴィーラントを見てガクガク震えている。
ハイラとリネイアの”教育”は結構トラウマになっているらしい。
ついでに花畑の中で遊んでいた妖精たちもガクブル震えている。
さっきまで少し騒がしかったのが、完全にシーンとしている。
えーと……とりあえずヴィーラントは後で鍛冶場に連れていくとして……。
そっちの……家事妖精のキール、だったか?
「はい、ご主人様」
さっきはヴィーラントに詰め寄られてたからスルーしちゃってたけど……ご主人様って俺のことか?
「はい、それはもちろん」
それはもちろん?
「家事妖精は家事をしてこそ。なのでご主人様の家事をすることに決めました」
はぁ……?
いきなりそんなこと言われても。
何が何だかよく分からない、押しかけメイドみたいなものか?
「おおむねその理解でよろしいかと」
困惑している俺にハイラがそう言ってくれる。
「先ほど、代表様が火事妖精を反省させているときに少し話を聞きましたが……」
うん。
まあおふざけでそう言っただけだったけど。
「彼女はこの地から強大な家事オーラを感じ、それにつられてやってきたと」
うん。
早速だけど強大な家事オーラって何?
「分かりかねます。……そして、私どもの口から、代表様は大きなお屋敷に住まれているという情報を聞くや否や、家事妖精として仕える、と」
うん。
なるほど。
……なるほど?
うーん、おかしいな?
説明を受けたはずなのに、全然理解が進んでいないぞ……?
「ともかく、私はご主人様にお仕えいたします。それだけ分かっていただければ」
……ふむ。
まあとにかく俺の屋敷でメイドとして雇われたいってことか要するに。
この申し出……正直ありがたい。
キールと名乗った彼女がどの程度家事が出来るのかは分からないが……まあ家事妖精というからには相当できるんじゃないか?
俺の屋敷は今のところ、家事は住んでいる者が持ち回りで担当してくれている。
ルシュ、ハイラ、リネイア、シエル……その他もろもろ。
ちなみに俺はこんなことに時間を割かせるわけにはいきません、と言われ、除かれている。
昔ちょっとだけ手伝ったこともあったが、自分たちの働きにご満足いただけませんでしたか……って、ちょっと悲しそうな顔されてからはノータッチ。
かろうじて料理だけはちょこちょこ作っている。
それが家事専門でやってくれる者が来るなら大助かりだ。
住人も増えて皆やることが増えてきていたしな。
というか今思えばもっと早く募集するべきだったな。
……まあいい。
えぇとキール。
「はい、ご主人様」
……ちょっと慣れない。
こほんっ! キールの申し出、こっちとしてはありがたいんだが……俺の屋敷は結構広くてな、流石にキール一人じゃ……。
「ご安心ください、ご主人様。分かっております」
え?
「屋敷の大きさは先ほどハイラ様にお聞きしました。問題はありません。家事妖精は私一人ではありませんから。他の家事妖精もこれほどの家事オーラを感じれば喜んで働かせてくださいと言うはずです」
うん。
家事オーラってやつのことはほんとよく分からないが。
とにかく他の家事妖精を連れて来てカバーすると。
「はい、その通りです」
うーん、それなら万事解決か?
さっきも言ったが家事妖精が来てくれるのは正直とてもありがたいしな。
それじゃあ……よろしく頼む。
「かしこまりました。安んじて、お任せください」
……よし。
じゃあキールは後で屋敷に帰る時に一緒に来てもらおう。
それじゃあ最後……。
火事……じゃなかった火の妖精。
「ほへ?」
そう言えばさっきは名前も聞けてなかったな。
教えてもらっていいか?
「あー名乗る前にお帰り下さいって言われたっけ、さっき……。それじゃあ……こほんっ! あたしは火の妖精のヤーファ! よろしくねー」
ちょっと落ち込んだかと思ったらすぐに切り替えて挨拶してくる火の妖精……ヤーファ。
さっき弁明してた時のしょぼくれていた様子は全く見られない。
うん、まあ元気なのは良いことか。
それで……うちに何をしに来たんだ?
「? 特に何も?」
はい?
「他の二人も……あーキールは例外か。でもヴィーラントは特に何の理由もなく来てたでしょ?」
え? ハイドワーフの鍛冶を見に来たって本人が……。
「あれは来てみてから見つけた目的でしょー? あたしたち妖精は気まぐれなんだよ。あの子達も理由なく来て理由なく遊んでるでしょ? だから来てみたくなったから来た、以上の理由は無いよ?」
そう言って、花畑の小さい妖精の方に目を向けるヤーファ。
……なるほど。
思い返せば雪の妖精、フィノウもそんな感じだったか?
フロストフラワーにつられてほいほいやって来て……。
「え?! フィノウいるの?! この春見かけないなーって思ってたらこんなところに! ずるーい教えてくれたらいいのにー!」
フィノウと知り合いなのか?
「うんうん! 今どこに居るの?」
今? 今は多分港に……夜になったら屋敷に帰ってきてると思うが。
「それじゃああとで屋敷に連れて行って!」
まあ、キールも後で案内するし、いいか。
「わーい、ありがとー!」
そんな感じで。
レースピアの街に新たな妖精がやって来て、受け入れることになった。
またいろいろ作らなきゃな。




