115.蜂人族と花畑
「来たわね! ついに! 私のところに!」
おお……凄い。
元に戻ってる。
港にアリゲイターとタートラーの居住区を作った後。
街に戻ってきた俺は、蜂人族……ビープルの居住区へやってきていた。
もちろんこれまでの三種族と同じ、彼ら彼女らのやりたいことを聞いて、そのための設備なんかを作るためだが……。
「……ちょっと! 私が出迎えてるのになんでそんなに反応が薄いの! ……うぅ……何とか言いなさいよ……」
出迎えてくれたエイリスがいきなり沈みだした。
いや、自分の意志に反して丁寧語が出るくらいに教育? されてたのにしっかり戻ってることにちょっと感動してただけなんだが……。
「? 当然でしょ? この私があんな獣や蝙蝠なんかの圧力に屈し続けるわけ……!?」
そこまで行ったエイリスの視線が俺の背後に吸い込まれる。
そこにいたのは……。
「「……。」」
うん。
リネイアとハイラ。
どうやら俺の陰に隠れていて見えなかったらしい。
もしくは俺にだけ集中してて他が目に入ってなかったのか。
とにかくエイリスは言葉の途中で固まり、サァー、と音が聞こえてきそうなほど見事に血の気が引いている。
「獣……ですか。別にそう呼ぶのは構いませんが、代表様に対する言葉遣いは矯正しなければなりませんね」
「はい、蝙蝠と言われたことはどうでもいいですが、しっかり身に染みさせておかなければなりません。……というわけで、申し訳ありません代表様。少々お時間を頂きます」
あ、ああ……いや、別に俺は気にしていな……。
「「少々お時間いただきますね?」」
……うん。
すまない、エイリス。
ちょっと止められなかった。
「ご安心ください、代表様。前回の轍は踏みません。しっかりと代表様の護衛を務められる程度にしか離れませんので」
「どうぞ安心してお待ちいただければと」
いや、別にそこは心配していないんだが……。
ガシィッ!
「えっ!? あっ、ちょっ……! 助けっ……!」
……ほんと申し訳ない、エイリス。
無理。
「この度は、ご来訪誠にありがとうございます……。歓喜の念が絶えません……」
エイリスが物陰に引っ張って行かれて少し経った後。
再び俺の前に連れてこられたエイリスは凄く礼儀正しくなっていた。
うん、デジャヴ。
「この前よりも上手く教育できたと自負しております」
「代表様をお待たせしてはならないと思うと前回以上の力が出せました」
うぅん……聞く分には凄くいいセリフなんだが。
まあ、前回も翌日には元に戻り始めてたし、今回もそのうち戻るだろう。
おそらく。
そういうわけでやっていこう、とりあえず。
サクッサクッサクッ……!
そういうわけで、俺は今クワを振るっている。
畑を作るため?
まあちょっと合ってるが、厳密には違う。
ただの畑ではなく……花畑を作るためだ。
「やりたいこと? もちろん蜜集めに決まっているじゃない!」
ちょっと前。
他の三種族は、エイリスが教育を喰らっている間にやりたいことやらなんやら聞いていたものの、当然教育を喰らっていたエイリスには聞けていなかった。
ので、個別にエイリスに聞いたところ……そんな返答が帰ってきた。
それで今、こうやって花畑を作っているわけだな。
サクサクとクワを振るってガンガン花畑を作っていく。
俺は花畑の土台を作る担当。
こうやって作った土壌に、ビープルたちが思い思いに持ってきた花を植えて花畑の完成って感じだ。
蜜の取りやすい花とか好みの花とかそういうのがあり、花の選定はビープルに任せた方が良さそうなので、そうした感じだ。
そういうわけで……うん、サクッと完成。
「わぁ……すっごい……こんな早くできるなんて……!」
早速教育の効果が抜け始めているエイリスが、目の前に咲いている色とりどりの花たちを見ながらそうこぼす。
かなり驚いている様子だが……驚いているのはこっちも同じだ。
なんせこの花畑……凄いデカい。
俺の間の前にあったのは、一本一本が軽く俺の二倍はあろう背丈の花で埋め尽くされた花畑。
地上からはその全容を把握することは出来ない。
いや、まあ、作っている最中からちょっと違和感はあった。
例えば、ビープルたちが花と花の間をかなり開けて種を蒔いていたり。
例えば、ビープルたちが、蜜を取るのは次の春からだね、なんて雑談をしているのを小耳にはさんだり。
例えば、直径数十センチくらいの芽がぼこっと生えて来たり。
いやこの時点ではまさか? って思ったけど。
そんな感じでちょっと疑念を抱きながらも見守っていたら、すくすくすくすくすくと育ち、ここまで大きくなったわけだ。
……エイリスが早く育ったことにしか驚いてないあたり大きさはこれで正常なのか。
いやまあ確かに人間大の蜂人族が花から蜜を取ろうと思えば、これだけ大きい花が必要にもなるのか。
まあともかく。
エイリス、どうだ? 花畑の出来栄えは?
「もちろん最高っ……ですよっ! これ以上ないわっ……です!」
まだちょっと影響あるけどエイリスが目を輝かせながらそう言ってくる。
ふぅ……ビープルたちにも欲するものを用意してあげられたな。
一応これで新しく来た四種族ともしっかり受け入れることが出来た。
ほっとする。
そうやって俺が胸をなでおろしていると。
ガサガサっ……!
花畑からそんな音が。
早速ビープルたちが花畑に分け入って蜜を集めているのかな?
と、俺はそう思ったんだが。
「え? 私たちは花畑の上を飛んで蜜を集めるから中に入るなんてことしないわ……しませんわ」
まだちょっと教育の影響あるっぽいエイリスがそう言う。
羽が生えてるんだからそれはそうか。
わざわざ分け入る必要ないもんな。
じゃあ何が……?
護衛をしてくれていたハイラとリネイアが自然に俺の前に出て、かさかさと揺れる花畑を一同で見守る。
揺れはどんどん大きくなり、そこから顔を出したのは……。
「ここ、どこー?」
背中に小さい羽の生えた……子供だった。
その子供は周りをきょろきょろ見回しながらふわふわ浮いている。
その姿を見た俺は身体を弛緩させるが……なんで子供?
「ああ……妖精だったのね。もう、ちょっと驚いちゃったじゃない」
妖精? 妖精ってフィノウと同じ?
俺はそう、妖精というワードを漏らしたエイリスに問いかける。
「え? ええ……そう、です。そういえばこの街にもいたわね……私も見かけたわ……。たまにあるのよ……んです、こういうことは」
ちょっと正直聞き取りづらかったがエイリスによると。
妖精というのは花畑を遊び場にしており……自分たちが蜜集めに精を出す花畑にもちょこちょこ遊びに来るからこういうことには結構慣れていると。
その内消えることもあれば、住み着くこともあり。
気まぐれだから基本放っておくと。
だけど妖精が居る花畑の蜜は不思議と甘さが増すので出来ればいて欲しいのだとか。
なるほど……ビープルは蜜集めで花畑に長くいる関係上、妖精とよく関わっているんだな……。
と、そこでさらに花畑からガサガサと音が。
また妖精が来たのか?
「凄いわね……出来たばっかりなのにこんなに来るなんて。何かそういうフェロモンでも出てるのかしら……?」
そんなことを言っているエイリスを尻目に……妖精たちがどんどん湧いてきた。
いや多い多い。
次から次に出てくる。
「わー」
「いけー」
「ここすごいー」
そんな言葉を発しながらどんどん出てくる。
だけど全員見た目同じような子供の風体で……なんか幼体っぽいか?
そう思っていたら、見るからに他とは違う風体の者が。
「どうも、初めまして。家事妖精のキールと申します」
ん? ああ……よろしく……?
花畑の中から現れるや否やこちらにあいさつしてきたのは家事妖精と名乗った個体。
こっちが困惑していると、さらに花畑が揺れ……。
「どうも。鍛冶妖精のヴィーラントだ。よろしくたのまぁ」
え?ああ、うん。
畳みかけるようにもう一体、他とは違う妖精が現れた。
俺の困惑が加速する。
そんな中さらに花畑は揺れ……。
「あ、どうも。私火事妖精の……」
お帰り下さい。
「待って待って冗談だからーっ!」




