112.硬貨と宝石
そういうわけで。
紙幣作りにシエルも巻き込まれることになったが、まあそれはいいとして。
紙幣の原型はこれで完成した。
後はこれに千やら五千やら数字を書くだけで紙幣は完成する。
……ちょっと他にもデザイン的な感じで何か描きたいな、とも思ったが。
流石に手作業で一枚一枚に描いていくのは地獄すぎる。
俺がやってくれ、と言ったらやってくれるだろうが、流石にそんなことは言えない。
なので初期の紙幣は紙に数字が書いてあるだけのシンプルなものにする。
リネイアに聞いたら、契約魔法の刻み方によって、他の色にも光石を反応させられるようにできるとのことだったので、書き換え対策はそれですればいいだろう。
でもその内印刷技術欲しいなあ。
そんなことを考えながら、次に向かう。
シエルは仕事が増えたことに落ち込みながらもしっかり着いてきてくれた。
……文句は言えどきっちり仕事はこなすからリネイアも雑に仕事振るんだろうなあ……。
次に来たのはここ、ドワーフ区画。
「おお、代表殿。何用ですかな?」
鍛冶に励んでいたのであろうイアンが迎えてくれた。
忙しいだろうし早速用件を伝える。
「……ふむ、なるほど。銅を使って硬貨を……しかも全て全く同じ大きさ、形で……」
ああ、そうだ。
……難しいか?
流石にちょっと難しいかもしれない。
同じ大きさ、形はまあハイドワーフたちなら簡単だろうが、それが手に何枚もおさまるほどの小ささで、となると流石に……。
「まあ簡単ですぞ」
簡単だった。
「進化する前ならいざ知らず、進化したわしらならば、言った通り簡単なことです」
そう言い切って胸をどんと叩くイアン。
頼もしい。
「ところで……硬貨というからには、偽金を許さぬために精緻な装飾等を施すものでは? 代表殿に言われたように……装飾も何もないただの薄い円形を量産するだけでよいので?」
ああ、装飾の部分はコボルトたちに頼む。
順調に増えててマンパワーもあるしな。
ドワーフも増えてはいるが、作る物も人口増加に伴って増えているから忙しいだろ?
港用の物も作ってもらってるし。銛とか。
「なるほど……お気遣いありがとうございますじゃ。そういうことであれば了解いたしました。では、出来上がった硬貨はコボルト区画に運べば?」
ああ、そうしてくれ。
コボルトたちと……輸送用にケンタウロスたちにも話を通しておく。
「了解ですじゃ」
そうして。
紙幣と硬貨作りの話を通し、商会本部建設現場に戻ってきた俺。
そんな俺の前にはもうかなり形が出来てきている商会本部の姿が。
さすがはレースピアの誇る建築チーム。
「主様、お帰りなさいませ。建設は順調に進んでおります」
俺が戻ってきたことに気が付いたルシュが即座に近づいてきて報告してくれる。
「にゃふぅ~♪ 私たちの城がどんどん出来ていきますよぉ~♪」
自分たちの商会の本部が建設されていくところを見て、悦に浸っていたっぽいニャジットもやってきた。
……いや悦に浸っているのニャジットだけじゃないな。
ところどころでケットシーたちがごろごろ転がったり、尻尾ぶんぶん振り回したりしてる。
……まあ建築チームに迷惑はかけていないみたいだしいいか。
俺は早速、貨幣のことをニャジットに伝える。
「にゃるほど~……紙幣はデモンズの方々が……硬貨はドワーフとコボルトの方々が……素晴らしいです~♪」
目をキラキラ輝かせて手をもみもみすりすりと高速ですり合わせるニャジット。
商会をやりたいというだけあって、お金の話には無条件でテンションが上がるようだ。
後はルシュにも話を通して……。
「……なるほど、かしこまりました。ケンタウロスの方々にはこちらから話しておきます」
ああ、ありがとう。
とりあえずこれで貨幣造りは一段落したか?
後は貨幣を住民にどう配るかだが……これもおいおい決めていこう。
とりあえず最初は一律で配って……徐々に仕事に報酬という形で付与すればいい。
……というか今考えたら、今街にある仕事って全部公務……公共事業の類か?
俺……街の運営側がお願いしてるんだから。
だとしたら報酬の額とか全部こっちで決めなきゃいけないわけで……。
うん。
貨幣がまとまった数出来るのまだ先だろうし、後々考えよう。
「おや~……? どうしました? 代表サマ……少々浮かないご様子ですが、みるみるうちに出来上がりつつある我らが城に何か不安材料でも……?」
と、今後のことを考えてちょっとブルーになった俺にニャジットが声を掛けてくる。
いや……そういうわけじゃないんだが。
ちょっと先のこと考えて気が滅入ったっていうか……。
「にゃふふぅ♪ そうでしたかぁ~♪ 不安材料が無かったのなら良かったですぅ~♪ 後のことは後で考えればよろしいですよぉ~♪ 何なら私もご協力いたしますしぃ~♪」
と、そう言ってくれるニャジット。
まあ、それもそうだな。
その時になったら相談にも乗ってもらおう。
「にゃふっ……!? なんだか尻尾に寒気が……? ま、まあ気のせいでしょう……」
まあともかく、そういうのは後でまた考えることにして。
今はこっちだな。
ルシュ、建設は順調だって言っていたが、加工所の方も?
「はい、そちらも万全です。……もうある程度は形も出来ていますしご覧になりますか?」
いいのか? じゃあ頼む。
と、いうわけでやってきたのは加工所。
ニャジットも一緒だ。
「にゃふぅっ! ここもしっかり出来ておりますね……! 私どもが出した要望通り……素晴らしいです……!」
うちの建築チームは優秀だからな。
さて、ここで一体何を加工するのかというと……宝石だ。
「商会をやりたいと思っています~。あとできることと言えば……宝石加工を少々」
やりたいことや出来ることを聞いた際のニャジットの台詞。
そういうわけで商会内に用意したのがこのスペース……宝石加工所だ。
入口からいくつもの扉を経由してたどり着く先、商会本部の奥まった場所に作ってある。
無いとは思うが盗難等の対策だな。
そこは大きな部屋に、仕切りの付いたいくつもの机が並んでいる。
今は置いていないが、完成したら机それぞれに宝石加工用のいろいろな道具……ノミとかハンマーが備え付けられる予定だ。
そしてこの部屋に入って来た方向とは逆側に、とても物々しい……鉄の扉。
ここが稼働したら、加工用の宝石は全部ここに入る予定。
俺はここまではしなくてもいいのでは? と言ったのだが、ニャジットが信用してもらうためにも対策は必須だと言って要望に盛り込んでいた。
商会が完成したら、デモンズが契約魔法を刻み、宝石加工所の職員にしか開けられなくなる予定だ。
まあその契約魔法セキュリティが用意される予定なのはここだけじゃないけど。
「まだ完全には完成しておりませんが……どうでしょう? 主様」
俺からは特に言うことないな……あるとすれば流石だ、か。
「ありがとうございます」
さて……ここも完成したら、他の住人も雇うんだよな?
そう。
ケットシーたちはジュエラーに興味を持った他種族たちも雇って、一緒にやっていきたいと言ったのだ。
「はい~♪ こちらとしてもそうした方が街に貢献できると思いましたし、そもそも商会も宝石職人もどちらも……となると流石に人手が足りないので……」
と、そう言うニャジッタ。
まあ、確かに三十人程度で両方回すとなると厳しいか。
ケットシーたちが増えるのを待って、それから宝石加工を始めればいいのでは? と思ったものの、受け入れてもらっておいてそんな不義理は出来ないらしい。
義理堅いな……と思ったら、そっちの方が結果的に得をするものだから、と言われた。
そういうものか。
まあ、そんなわけで。
商会が完成すればケットシーたちの手引きにより、産出しては倉庫に溜まっていっていた宝石たちの消費先も見つかることになる。
完成して、実際に宝石加工所も稼働するのを楽しみにしておこう。
そう思いながら俺は再び軽くトリップし出したニャジッタを見守るのだった。
「にゃふ……にゃふふぅ~~……♪」




