107.新たな四種族
「にゃふぅ~♪ 代表サマぁ~♪ これからも末永くよろしくお願いいたしますぅ~♪」
「こちらもよろしくお願いしたい。後悔はさせません。決して」
「こち、らも、よろ、しく」
「この私がよろしくしてあげても良いわ! ……な、何とか言いなさいよぉ……!」
……新たな住人が増えるのを楽しみにしていようとは言ったが、こんな立て続けに来るとは思ってなかった。
トゥーナを迎え入れ、住居も作り、試しに漁も手伝ってもらい。
現時点での受け入れ作業はこれくらいで十分かと考え、街に戻った俺は、リネイアから早速報告を受けた。
……新たな種族が三種族も一気に?
「はい。どうやらその内の一種族が残り二種族を護衛として雇って来訪したようです。三種族とも移住を希望しています」
リネイアからの報告は、新たな種族が三種族も一気に来たというもの。
まあ話を聞くに、護衛として雇ってきたというなら別に不思議はないか……。
その数はちょっと不思議だが。
数人単位じゃないんだろう?
「はい、合計しておおよそ五十人ほどかと」
一気にそんな数で来るのはちょっと不思議と言えば不思議。
だがまあとりあえず話を聞いてみればいいか。
と、俺がそう考えたところで。
コンコンッ!
と、執務室のドアを叩く音が響く。
入室の許可を出すと入ってきたのはハイラ。
「代表様、新たな種族が街に来訪いたしました」
うん? ああ、たった今リネイアに聞いて――。
「いえ。……そちらではなく。関所とは別口でやってきた者たちです」
……別口?
と、そんな感じで二人からの報告を受け、それぞれ代表を執務室に呼んでもらったのが今だ。
俺は自分から出向こうと思ったんだが……。
「代表様はここでどっしりお構えください」
「向こう側が挨拶に出向くべきです」
そう説得を受けて居室で待ち構えることになった。
いや、でもやっぱり迎えた方が……と、抵抗はしたんだが。
「「どうぞこちらでお待ちいただければ」」
……うん。
無駄だった。
まあそういうわけで代表の四人を迎え入れたんだが……。
彼ら彼女らは開口一番、これからもよろしくしたいと発言。
それぞれ移住したいという気持ちを前面に押し出している。
……まあ、とにかくまずは落ち着いてくれ。
まだ自己紹介もしていないんだし。
俺がそう言うと、俺から見て一番左、最初にめちゃくちゃ猫なで声で話しかけてきた……頭頂部に猫耳の生えた女性が、ハッとしたように話しかけてきた。
「これはニャタクシとしたことが! 失礼しました……ニャタクシはニャジット。見ての通り猫人族……ケットシーです!」
うん、まあ……正直そうだろうなって。
ニャジットと名乗った彼女は人間とほぼ同じ姿をしているものの……その頭と背後には猫耳としっぽが生えていた。
かなり上等そうに見える服にもちゃんと尻尾穴が空いている。
ルシュと同じ感じだな。
ちょっと撫でたくなる。
……いや初対面で撫でに行くのは失礼すぎるからやらないが。
「そしてこちらが……」
俺がそんなことを考えていると、ニャジットがそのまま自分の真横に立っていた彼? に水を向ける。
「初めまして。先ほどは失礼いたした。鰐人族……アリゲイターのスロールと言う。以後よろしくお頼みする」
そう、かなり硬い言葉遣いで自己紹介してきた彼は……うん、凄くワニ。
めちゃくちゃワニ。
性別が分からなかったのは鰐人間だったからだ。
二足歩行のワニが人間に近くなったらこんな姿になるんじゃないか? って感じ。
ニャジットの下手したら五割り増しくらいある大きな身体にはしっかり鎧を着こみ、口には大きな牙が並んでいる……が、その口には……なんだ? 多分鉄か何かで出来たマウスピース? のような何かをはめている。
あれが何かは分からないが用途はまあうっすらわかる。
あれはおそらく……。
「む、これが気になりなさるか。これは我らが他種族と共に過ごすに当たって、着用することに決めている口枷。これがある限り我らは大きく口を開けることは出来ぬというわけです」
やっぱりな。
明らかに口を封じる造りだし。
今も着けてるってことは、街で過ごす間は着けたままに……?
「はい。その方がお互いに安心できるかと」
なるほどな。
早速そっちから歩み寄ってくれているというわけか。
ありがとう。
「いえいえ」
「そして次に彼の隣に居るのが……」
話が一段落したと判断したのか、ニャジットが更にスロールの隣に手を向ける。
手を向けられた者は……うん、こっちも正直性別が分からない。
なんせこっちも……二足歩行の亀だ。
「私、は、亀人族、タートラー、の、ター、ヴィー」
……ええと?
自身を亀人族……タートラーと名乗った彼は……うん、発声が、凄く遅……いや、のんびりだった。
名前はターヴィーでいいんだよな?
「はい、その通りです~」
と、このまま話させてたら時間がかなりかかると判断したのだろう。
ニャジットが割って入ってきた。
ターヴィーはうんうん頷きながら少しほっとしているようだ。
「ターヴィー、いえスロールもですが、彼らは力も強く、心得もあるので護衛や守備兵としても活躍できます! 亀人族は、まあ、少し? 少しだけのんびりしてますが……その分何でもしますので!」
「っ!?」 ブンッ……ブンッ……ブンッ……!
本当か? なんかすごくゆっくり首を振ってるけど……?
「はい! もちろんです! こちらはそれくらいの覚悟で来た、ということです!」
いや、まあ、そう意気込んでくれるのは嬉しい? が……。
うん、まあ、嫌なことはやらせないから安心してくれ。
「っ!」
そう言うと目に見えてほっとするターヴィー。
「おぉ……ご寛大なのですね! ありがとうございます!」
そう言ってスッ……と綺麗なお辞儀をするニャジット。
「……では、紹介は以上になりま――」
と、頭を上げたニャジットが言いかけた時。
「ちょっとちょっとちょっと!? 私も紹介しなさいよ!」
ニャジットとは反対方向の端。
ターヴィーの横で腕を組んで踏ん反りがえっていた彼女が目をむきながらシャウトした。
……かなり声量があった。
ちょっと耳に来たかも。
「あ、そうなの……? それはごめんなさ……じゃなくて!」
大声を上げた彼女は一瞬シュンとしたかと思うと、威勢をすぐに取り戻しニャジットに詰め寄った。
「あなた! ニャジットと言ったかしら!? 何で私を紹介しないの! この並びなら次は当然私でしょ!? 待ってたのに!」
そう食って掛かる彼女。
だがニャジットは……。
「え……えぇ……? そう言われても……初対面ですよね……?」
大困りだ。
スロールとターヴィーもおろおろしている。
えぇと。
「代表様」
混乱した俺にこっそり話しかけてきたのは、後ろで控えていたハイラ。
……そういえば関所と別口でやってきた者たちがいるって言っていたか。
もしかして彼女が……。
「はい、彼女がその別口でやってきた者たちの代表です」
やっぱりか。
「はい、彼女の背中を見てください」
背中?
とはいっても彼女は特に特徴が無い。
普通の人間と同じような姿。
黄色い前髪が大きく二本垂れ下がっているくらいか特徴は。
……ん? いやでもなにか違和感がある。
彼女の背中がなんだかぼやけているような……んん?
まるで軽い蜃気楼のような……輪郭がぼやけているような、そんな気がして、目を細めて注視してみる。
すると。
……あっ!
「お気づきになりましたか」
ああ、よく見ると……彼女の背中、透明な羽が生えている!
そう、よーく目を凝らせば、彼女の背中にガラス並みに透明な羽が生えているのが見えた。
あの形状的に……そして黄色い髪が二本触角みたいに垂れさがっているところを見る限り……。
と、俺がそこまで考えると、ニャジットに食って掛かっていた彼女は埒が明かないと考えたのか、こちらに近づいてきて向き直る。
そして胸を張り、片手の手のひらをこちらに向けて……こう、宣言した。
「ここがこれからの私の縄張りね! さあ! この蜂人族の女王、エイリスに跪きなさい!」




