104.人魚と移住
「あ、ありがとうございますぅ……」
とりあえず。
暫定人魚の彼女に話を聞くため、何度も食べないと伝えてまずは落ち着いてもらう。
衰弱……は、していないみたいなので、港の海との境に軽く一人用の入り江? を創造神器で作りそこに落ち着いてもらった。
別に地上でも動けはするっぽかったが、まあ海に浸かっていた方がおそらく落ち着くだろうと考えてのことだ。
俺の考えは合っていたようで、彼女はそこにおっかなびっくり入ると、涙を浮かべぶるぶると震えていた身体を弛緩させ、ほわぁ。と、ため息を吐く。
とりあえず話を聞けるくらいには落ち着いてくれたように見える。
というわけで……早速話を聞く。
まずはやっぱり一番気になっていること。
えー……君は人魚で良いのか?
「え? はいぃ、そうですぅ……こほんっ、はじめましてぇ。人魚族……マーメイドのトゥーナと言いますぅ」
これはご丁寧に。
ここの代表の築だ。
彼女……トゥーナはまだ少しびくついてはいるが、ハッキリと答えてくれた。
海に浸かれたことがだいぶ効いているみたいだ。
……というか、なんでそもそも陸に? それも結構海から離れたところに来ていたぞ。
しかも、入江作るために海の方に向かった時に気付いたが、最初にいた場所周辺以外が水で濡れた様子はなかったし。
「ああ、それは……飛んできていました」
俺の疑問に答えてくれたのは、少し後ろで控えていたルシュ。
……答えてくれたのは良いんだが、その答えがちょっと理解できない。
飛んで? ……人魚だよな? 翼とか無いし。
「はい、ですが、こう……。海から勢いよく……魚が跳ねるように飛び出してきて……」
軽く数十メートル海から離れてたあの位置まで?
「はい」
それはそれは……凄い、と言うべきか?
海から勢いよく飛び出して着地が数十メートル先、というのは……海の中で相当な速度を出していたと思われる。
下手したら時速百キロとか超えるんじゃないか?
そんな速度で飛び出しておいてよく無事だったな……。
「はい、何とか受け止められましたので」
「その節はありがとうございましたぁ……」
話を聞くと。
船班に指示を出していたルシュは、海から飛び出してかなりの勢いでこちらに飛んできた物を最初は魔物だと思い、迎撃するために着地点を見極めて駆け出した。
だがその途中、どうみても魔物ではないことに気付き、着地点にスライディング。
ギリギリで受け止めた……と、そういうことらしい。
「本当に助かりましたぁ……あのまま叩きつけられてたらどうなっていたことか……」
トゥーナは地面ですり下ろされた自分を想像でもしたのか、顔を青くする。
ところで何でそんな速度で飛び出したんだ?
「それは……そのぉ……ちょっと……出来心でぇ……」
出来心で? そんな速度出して? 飛び出したの?
「はいぃ……」
……うん。
気弱そうに見えて……なんていうか、その……だいぶ後先考えない性格らしい。
……本当によく無事だったな。
とにかく。
無事だったから良いとして。……いや良くはないな。気をつけてもらうとして。
次はトゥーナがこれからどうするのかを聞いておきた――
「あのっ! それなんですけどぉ……!」
……食い気味で来たな。
えぇと……それで?
「良ければこの港にぃ……住まわせてもらえたらなってぇ……!」
語気は弱めだが、しっかり俺の目を見てそう言ってくるトゥーナ。
ふむ……うちは移住者大歓迎でやってるから構わないと言えば構わないが……理由は?
「この港辺りの海……とっても居心地がよくてぇ……! 貝さんもとっても美味しかったし……! ちょっと舞い上がって飛び出しちゃうくらいぃ……! だからぁ……おねがいしますぅっ!」
そう言って再びぺたぁっと体を横たえ懇願してくるトゥーナ。
いやそんなことされなくても来る者は基本受け入れるスタイルでやってるからうちは……。
ああでも。
あー一応聞いておきたいんだがウチの街に害をなすとかそういうつもりはないよな?
関所から来る者にも聞いていることだ。
まあ人が多くなれば諍いが起きることはあるだろうが、それでも仲良くやっていくことを心掛けてほしい。
「もちろんありませんっ! 害どころか……住まわせてもらえるならお役に立ちますぅ……!」
横たえた身体をバッと起こしてトゥーナは断言してくる。
腕の力だけでこっちに少しにじり寄ってきてて、少し圧が強い。
ちょっと身を引きながらも俺はトゥーナに問う。
役に立つって……具体的には?
「はいぃっ! 見た限りここって、お魚さん獲っているんですよねぇ? それなら海の中から手伝えますしぃ、海底から貝さんだって獲ってきますよぉ!」
トゥーナが言ったのは漁業の手伝い。
魚を獲る手伝いっていうのは要するに追い込み漁か? 海の中から網の中に魚を追い立ててくれる。
それと海底から貝も獲ってきてくれると……こっちは素潜り漁か? 海女さんとかがやってる。
正直かなりありがたい申し出だ。
ただ……。
えー……トゥーナ。
「はいぃ?」
こっちとしては大変ありがたいんだが……その。
大丈夫なのか? こっちは食べるために魚を獲ってるんだが……その、いいのか? 人魚的に。
俺はちょっと気が進まないながらもそう聞く。
これでここに住みたいがために、こう言っているだけでほんとは不本意だったらどうしよう、と思いながら。
そしてトゥーナの答えは。
「……? もちろんかまいませんけどぉ……」
何でそんなことを聞くのか分からない、みたいな反応だった。
嘘をついている様子もない。
……本当にいいのか? だってほら……人魚ってちょっと……魚に似て? るだろ?
「あぁ……そういうことでしたかぁ……」
念のためもう一度聞くと、トゥーナは得心いったという感じで頷き、こう続けた。
「本当に気にしませんよぉ? 人間さんだって同じ脚があるのに獣さんを食べるでしょうぅ? それとおなじですよぉ」
……なるほど。
本当に気にしていないようだ。
まあ確かに魚だって他の魚食べたりするしな。
そういう感覚なのかもしれない。
さて、それなら懸念点は無いな。
本当にありがたいことだし喜んで受け入れよう。
「本当ですかぁ!? ありがとうございますぅ!」
はははいやいや、来る者は拒まないって言ったしな。
……ところで、海底から貝とかも獲ってこれるって聞いたが……他にも獲ってきてほしいものあったら獲ってきてもらえたり?
「はいぃ? それはもちろんかまいませんよぉ! 言ってもらえれば何でも――」
そうかそうかそれじゃあ獲ってきてほしいものがあるんだがホタテとアワビとウニとエビとカニとあああとコンブとワカメも欲しいんだがああでも見た目が分からないかとにかく俺が今から説明するやつと似たものが居たらとりあえず獲って来て――
「ひゃぁぁぁぁぁ~~~~~~~っ!?」
……まあ、うん。
新しい海産物が獲れるとなったらテンション上がっちゃうのもしょうがない、よな?
とまあ、そんなこんながあって。
トゥーナを受け入れることに決めたわけだが、問題が一つある。
住処が無いことだ。
なので作ろう。と、そういう話になったわけだが。
「やっぱりぃ……陸上じゃなくて水中に作って欲しいですぅ……」
申し訳なさそうに言ってくるトゥーナ。
やはりというべきか、俺のイメージ通り人魚は水中で暮らす種族らしい。
陸上で普通に呼吸して喋ってたから、ひょっとしたらとも思ったが。
「すみません……人魚は陸上でも呼吸や会話は出来ますがぁ……自由には動けないのでぇ……」
まあ、下半身魚だもんな。
当然か。
さて、そういうことなので、トゥーナの住処も水中に作らなければならないわけだ。
流石に厳しいか……と、思うかもしれないがそんなことは全くない。
「この辺りの水抜けばいいの~?」
ああ、頼む。フィーネ。
そう、水中住居と言えばフィーネたちウンディーネだ。
かつて、水魔法により水を抜いている間に水中住居を完成させたのはよーく記憶に残っている。
そういうわけで今度もフィーネに協力してもらい、港から少し離れたところ、海底にトゥーナ用の住処を作っていく。
ちなみに少し離れたところなのは、もしかしたらこの先も人魚が増えるかもしれないと考え、拡張しやすいように、と考えたためだ。
海だから大丈夫か? とも俺は思ったが、フィーネは問題なく水を抜いてくれた。
海面に穴が空き、しっかりと空気が通る。
早速皆で穴を降り、海底に住処を作っていく。
念のため、皆命綱をしっかり巻いた状態でだ。
フィーネのことは信じているが、万が一が無いとも限らない。
そして手早くガツンガツンと創造神器を打ちつけ、海底の崖を削る感じで住居を作っていく。
壁を掘って住居スペースを作っていく、みたいなイメージ。
地形を利用した家ってやつだな。
建築は順調に進んでいくが……。
「あ、玄関はもっと広く……そんな感じですぅ~」
「寝室と広間は分けてくださいぃ~」
「椅子はもっと豪華に……天井ももっと高くお願いしますぅ~」
穴と海の境目から上半身だけをこちらに突き出しているトゥーナが、申し訳なさそうに次々と注文をつけてくる。
その結果……工事の規模が大体三倍くらいになった。
いや、まあ……いいけどな?
でも、何というか、いや、うん……気弱なのにだいぶふてぶてしい性格してるな、意外と。




