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「密迹――は、もう書き終わったんですか? 流石に早いですね」
「――――うむ!」
密迹が力強く頷く。 何だと訝しんでいると霧ヶ峰がウインドウを可視化。
そこにはびっしりと文字で埋め尽くされていた。
目を凝らすと内容は彼が遭遇したであろうプレイヤーの評価だ。
思った以上に細かく書かれており、プレイヤーネームを添えて長所と短所が記されており、密迹自身の雑感で締められていた。 雑感以外は徹底して客観的に記されており、評価の判断基準としては視野の広さを重視している印象を受ける。
――ってか早いなぁ。
思考入力なので出来ても不思議ではないが、ここまでしっかりとした文章にできるのは凄まじい。
碌に喋らないので大丈夫か?と思ったが、霧ヶ峰が全く気にしなていなかった理由には納得が行った。
ヨシナリとしては評価方式よりも、彼自身の戦い方に興味がある。
チャクラムの類かと思ったが、エーテルブレードだったようだ。
円の中心に持ち手があり、二方向にブレードが伸びるのだが、円が高速で回転する仕組みだった。
延長と回転で攻撃範囲を調節、同時に防御も行う攻防一体の武装だ。
――仕留めるにはどうすればいいのだろうか?
わざわざエーテルを採用している点から光学、物理の両面で対応する為だろう。
エーテルは両方の属性を備えている事で大抵の防御は突破できる。
ジェネレータ出力は無限ではない事もあって突破できる飽和攻撃か起点である武装を破壊すれば無効化は可能だ。
武装があれだけであるならば、だ。
見えている範囲で使ってなかった三度笠やデザインだけか不明の法衣と不確定な要素が多いので勝てるかの判断はまだ難しい。 突破の鍵はどれだけ相手の想定を上回れるかにかかっている。
――それに間合いの取り方が、ふわわさんとかモタシラさんと似た雰囲気があるんだよなぁ……。
見えている範囲ではブレードを振り回して敵機を磨り潰すだけのシンプルな立ち回りだったが、本気を出していないというよりは出す程ではなかったのだろう。
「うーん? 私も気になる子は居なかったかなー? あ、でもやってる子はちょっといたわねー?」
「あぁ、それに関してはこちらでも確認しています。 戦果があるのなら話は別ですが、アレを使って撃墜ゼロは論外ですね。 全員、弾くように言っておきました」
イソシンの言っているのはチートユーザーの事だろう。 ヨシナリの方でもそこそこの数確認した。
ホーコートの使っている代物よりも質が悪いのか動きが読み易過ぎて誘っているのかと勘繰ったぐらいだ。 霧ヶ峰の言う通り、チートを使ってあの程度なら無理して引き上げる必要性は感じないだろう。
視線をイソシンに向ける。
茶化すような物言いだが、評価自体はしっかりしていた点から見に徹していたのだろう。
可能であれば戦っている所も見ておきたかったが、今回の戦いでは霧ヶ峰の後ろで控えているだけでほとんど動いていなかった点からも彼女の本領を発揮するのは先になりそうだ。
回復特化の支援機という事で敵対するなら真っ先に潰しておきたい相手ではあるが、ヨシナリとしては戦い方が気になって仕方がない。
あのビルドでAランクを維持しているのだ、何かあるのは間違いないだろう。
回復という稀有な特性がある以上、集団戦では高い確率で採用されると見ている。
次回以降のユニオン対抗戦で当たった場合に備えて立ち回りぐらいは見ておきたかった。
――その辺りはこの先で見られるだろう。
なにせ昇格試験はまだまだあるのだ。 現状では母数の多い低層のプレイヤーという事もあって物量意外の脅威はないが、このまま行くと三軍以上の昇格待ちプレイヤーともなれば手強くなっていくとみて間違いない。
今回に関しては数が多い事もあって全体的な感想となったが数が減ればもっと細かく評価する必要が出てくるだろう。
感想戦をやりましょうといった雰囲気でもないのでヨシナリは脳内で振り返るが――
――うーん。 数が多かった以上の感想がないな。
敵の動きに関しては散々触れて来た通り、こちらの撃墜を狙っての包囲からの力押し。
俯瞰して見れば分かるのだが、波のように大半が真っすぐに突っ込み、残りは背後から仕留めようと虎視眈々だ。
対するこちら側はヨシナリ、タヂカラオが空中、密迹が地上、霧ヶ峰が全体指揮を執りつつ援護。
イソシンは回復役として後方で待機。 残りが半々で地上と空中での突出したメンバーのカバー。
内訳は地上が三人、空中が二人だ。 空中の二人はヨシナリに興味があったのか後ろから見ていただけで、地上のメンバーに関しては密迹に獲物を取られるのを嫌ってかやや前に出ていた。
巻き込まれない程度の距離を維持していたのは決して悪い判断ではないが、霧ヶ峰の指示からは外れているので余り良い判断とも言えない。
恐らくは密迹の取りこぼしを処理するつもりだったのだろうが、前に出過ぎたのも良くなかった。
基本的に密迹は攻撃範囲に入った機体を片端から切り刻んでいる事もあって巻き込まれないように近寄り過ぎる事が出来ない。 そんな理由で味方機は密迹の斜め後方で付いて行っていたのだが、回り込まれた結果、その攻撃圏内に追い込まれそうになったのだ。
それを嫌がって足を止めたのだが、結果的に撃墜される事に繋がった。
敵に関しては密迹の背後を取る過程で遭遇した敵機に対して弾をばら撒いたのだろう。
味方機は密迹と敵に挟まれる形になって逃げ場を失い撃破された。
空に逃げなかったのは霧ヶ峰の指示を無視している自覚があったからだろう。
地上に居る間は少し前に出過ぎたといい訳が利くとでも思ったのかもしれない。
一人ならおいおいと少し呆れる程度で済むかもしれないが三人全員は少し笑えなかった。
つまりこいつ等もチームワークよりも手柄を優先したのだからだ。
――そもそもシステム的に罠が多いんだよなぁ。
撃墜数に対して別途報酬が出る事もあって欲張るのも無理はないが、明らかに使える奴を選別するというタカミムスビの意図が透けて見えるシステムだった。
霧ヶ峰もそれを理解しているからヨシナリと密迹を前に出したのだろう。
本当の意味でチームワークを発揮させたいのならヨシナリと密迹を下げてもフォーメーションとしては成立したはずだ。 それを敢えてやらなかったのは味方をも試している事に他ならない。
――先が思いやられるなぁ。
この先を事を考えると気が重かった。
誤字報告いつもありがとうございます。
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